資料6 |
1.概要
「精子・卵子・胚の提供等による生殖補助医療のあり方についての報告書」については、以下の要領で御意見の募集を行いました。
(1)期間 | 平成13年1月18日〜4月18日 |
(2)告知方法 | 厚生労働省ホームページ及び記者発表 |
(3)御意見送付方法 | 電子メール又は郵送 |
※ いただいた御意見については、提出者の意向を踏まえて匿名化を行った上、その全文を厚生労働省ホームページ及び厚生労働省大臣官房総務課行政相談室において公開させていただくともに、今後のこの問題についての検討の場に配布する等により、今後の検討に当たっての参考とさせていただきます。
今回、御意見をお寄せいただいた方々の御協力に厚く御礼申し上げます。
2.受付意見人数・団体数 計26人・団体
(内訳)
(1)個人・団体別
(2)性別(個人の内数)
(3)年齢(個人の内数)
3.受付意見の概要
御意見の内訳は以下のとおりでした。
(※複数の項目に御意見を提出している個人・団体があるため、下記の御意見提出人数・団体数の合計は、上記の受付意見人数・団体数と一致しません。)
I はじめに | |
1 本専門委員会による検討を必要とした背景 | 1人・団体 |
2 本専門委員会における検討の経緯について | 2人・団体 |
II 意見集約に当たっての基本的考え方 | 8人・団体 |
III 本論 | |
1 精子・卵子・胚の提供等による各生殖補助医療について | |
(1)精子・卵子・胚の提供等による生殖補助医療を受ける条件について | 11人・団体 |
(2)各生殖補助医療の是非について((1)〜(5)への個別の意見は含まない) | 10人・団体 |
(1) AID(提供精子による人工授精) | 4人・団体 |
(2) 提供精子による体外受精 | 4人・団体 |
(3) 提供卵子による体外受精 | 8人・団体 |
(4) 提供胚の移植 | 6人・団体 |
(5) 代理懐胎(代理母・借り腹) | 4人・団体 |
(3)精子・卵子・胚を提供する条件等について | |
(1) 精子・卵子・胚を提供する条件 | 7人・団体 |
(2) 精子・卵子・胚の提供に対する対価 | 5人・団体 |
(3) 精子・卵子・胚の提供における匿名性の保持 | 6人・団体 |
(4) 兄弟姉妹等からの精子・卵子・胚の提供 | 12人・団体 |
(5) 書面による同意((ア)及び(イ)への個別の意見は含まない。) | 4人・団体 |
(ア)提供された精子・卵子・胚による生殖補助医療を受ける夫婦の書面による同意 | 1人・団体 |
(イ)精子・卵子・胚を提供する人及びその配偶者の書面による同意 | 2人・団体 |
(6) 十分な説明の実施((ア)及び(イ)への個別の意見は含まない) | 6人・団体 |
(ア)提供された精子・卵子・胚による生殖補助医療を受ける夫婦に対する十分な説明の実施 | 1人・団体 |
(イ)精子・卵子・胚を提供する人及びその配偶者に対する十分な説明の実施 | |
(7) カウンセリングの機会の保障 | 9人・団体 |
(8) 精子・卵子・胚を提供する人の個人情報の保護 | 3人・団体 |
(9) 精子・卵子・胚を提供する人の個人情報の提出・保存 | 5人・団体 |
(10) 同一の者から提供された精子・卵子・胚の使用数の制限 | 5人・団体 |
(11) 子宮に移植する胚の数の制限 | 3人・団体 |
2 規制方法及び条件整備について | |
(1)規制方法 | 7人・団体 |
(2)条件整備 | |
(1) 親子関係の確定 | 2人・団体 |
(2) 出自を知る権利 | 7人・団体 |
(3) 提供された精子・卵子・胚による生殖補助医療の実施に関わる体制の整備 | 4人・団体 |
(4) 提供された精子・卵子・胚による生殖補助医療を行う医療施設の指定 | 3人・団体 |
IV 終わりに | 4人・団体 |
○ 別添「多胎・減数手術について」 | 3人・団体 |
○ その他の御意見 | 5人・団体 |
4.受付意見(全文)
(※受付期間中(平成13年1月18日〜4月18日)に提出された御意見は受付番号1〜26ですが、今回の結果発表までに提出された受付期間外の御意見(受付番号27〜31)についても参考として掲載しています。)
受付番号:1
受付日時:平成13年1月26日
年齢:不明
性別:男性
職業:不明
氏名:(匿名化の要否不明)
所属団体:不明
この問題に関心を持った理由:不明
御意見
生殖補助医療について
他人の生殖細胞を利用することに反対。人工受精は夫婦間に限定すること。
生まれて来た私たちはあらかじめ両親をえらぶことは出来ません。長じて両親を知り、納得して生きて行きます。これは天命とでも言える人間の宿命です。
まして親が分からない、分からせてもらえないたとえ分かったとしても家族でない他人が親だと知らされたらその本人の気持ちはどうでしょうか。果てしない問題が拡がって来ます。子どもが欲しいなら養子制度を取るべきです。ついでに、人の受精卵はすでに人間であるという認識を確認して下さい。受精卵の扱いについてはきびしい規制をもうけるべきです。
受付番号:2
受付日時:平成13年1月26日
年齢:不明
性別:不明
職業:不明
氏名:不明
所属団体:不明
この問題に関心を持った理由:不明
御意見
新聞を見てぺんを取る事にしました。
生殖医療は、子を持ちたいと願う人にとっては、すごく大切な事で、なかなか出来ない人にとっては、切実な問題です。
数年前、ある医師が姉妹の卵子提供を受け妊娠した事がいろいろと取りざたされましたが、結果として、その医師がやった事がもうすぐ認められます。それも親となる人との血のつながりを無視した形の方法を認められ、それは、子供の親を知る権利を全く持って無視していると思います。子供がもし遺伝的病に犯された場合の責任とか両親が離婚した時とかどうなるのでしょう。
現実、非配偶者間人工受精は、認められ何万人もの子供が誕生しています。知らないうちに近親そうかんという事も考えられます。
そういう事は無視して子供を与えるというのはどうしょうか?
もし自分以外の子供を持ち実の親として居られるということを認められるのであれば、代理母も認められるべきだと思います。
何らかの理由で子宮を摘出してしまった人の人権はムシされ自分で卵子精子を作れない人の人権は守られる、オカシイです。ご一考される事を望みます。
また、決定を出した人の中に、他人の卵子、精子を使わなければ子供を得る事の出来ない人が居るとのうわさがあります。
公平さを保つ意味でも、今回の決定は?マークです。
それよりも、不妊治療の費用の保険適用と体外受精の料金の一定化を切に願います。
受付番号:3
受付日時:平成13年1月28日
年齢:32歳
性別:女性
職業:匿名希望
氏名:匿名希望
所属団体:なし
この問題に関心を持った理由:
ふたごの赤ちゃんがアメリカ人夫婦とイギリス人夫婦のあいだでどちらが里親になるか、裁判にかかっている件をみて、子供が欲しいという気持ちを考えるようになり、関心を持った。
御意見
(1)「精子・卵子・胚の提供等による生殖補助医療を受ける条件について」について
基本的に賛成ですが、このまま早いスピードで認可されてはどうかと考えます。
なぜなら、提供を他人から受けることによって、その生まれてきた子供達が結婚をするような年齢になったとき、万が一にでも近親者で婚姻があったら…と、考えているからです。
これがもし、養子なら可能と言う部分で本人および、相手にも万が一…という心構えもできるでしょうけれど、提供を受けて授かった子供を戸籍上、実子と扱うことに違和感を感じます。
やはり、血のつながりというのは生物学的にもはっきりとさせておくべき、と思います。
もちろん、どこの誰の子…とまでは無理だとしても、戸籍には提供を受けて授かった、という記載はあるべきだと考えます。
養子を取らずに、提供を受ける方々には戸籍上の実子がほしくて(提供を)考える人が多いと思いますが、子供の将来を考えて不幸な結果にならないように戸籍上の記載は必ず行ったほうがいいと思います。
特に日本人は単一民族であるため、人種での判別がつかない分必要ではないでしょうか?
子供達が自分が戸籍上の両親の血のつながった親子でないとわかってしまった時の問題もあるとは思いますが、子供たち本人の婚姻について考えた時、戸籍に記載することは差別にはつながらないと思います。(それでしたら、養子の方がよっぽど差別的)
それに養子を取る、という件も見直していただきたいです。
差別を受けないように、養子を取る時の条件が里親の年齢などで可能か不可能かなどときめけつけられないように。
それを考えた上でなら、子供をほしいと思うすべての夫婦にチャンスが与えられるのはすばらしいことだと考えます。
受付番号:4
受付日時:平成13年1月30日
年齢:49歳
性別:女性
職業:主婦
氏名:(匿名化の要否不明)
所属団体:不明
この問題に関心を持った理由:不明
御意見
私は四十九才の主婦です。二十五才第一子(女)を生み、第二子が五年間できませんでした。俗に言う不妊症で二年半、通院しました。その間の精神的な苦しみは、何とも言えません。一人いるからと主人はなぐさめてくれましたが、それでも第二子が欲しくてたまりませんでした。子供が欲しいと思う気持ちは、誰しも同じだと思います。私は、五年後に第二子(女)、その後、就職し、そこで五年後に第三子(女)その五年後に第四子(男)を出産し、四人の子宝に恵まれました。でもあの時の苦しみは忘れていません。本当に子供の欲しい方なら、本人達の納得(希望)で、夫婦以外の精子や卵子の利用を認めても良いと思います。誰も親を選べないのは同じです。そこまでして生んだ子供なら、大切に育てると思います。将来、その件を話す時が来ても、それにそなえる時間はあるはずです。少しの事には動揺しない子供に育てれば良いでしょう。動揺しても立ち直れる子供に育てればよいでしょう。
ちゃんとした技術はあるのに、それを使えば子供が持てるかもしれないのに、じっと見てるだけしかない方々が、お気の毒です。
技術はその技術で幸せになれる人のために使って下さい。そして、悪用されないように、見守るのも厚生労働省の仕事だと思います。
受付番号:5
受付日時:平成13年1月30日
年齢:82歳
性別:女性
職業:不明
氏名:(匿名化の要否不明)
所属団体:不明
この問題に関心を持った理由:不明
御意見
私は八十二歳、遺言のつもりで書いております。
医学の究極の目的は人間の幸福と繁栄に有ると思います。そして医学は人間が研究して、日進月歩の発達を遂げて来ました。医学は生みの親である人間の手の届く範囲に有る可き存在のものなのです。夫婦間で当然ある可き、生まれる可き子供が出来ない時の手助けは医学の本来の姿だと思いますが、ここに問題の夫婦以外の精子、卵子を認めた場合、人間の将来はどうなるでしょうか。人間の作った秩序や文化の中には納めきれない不安が必ず来ると思います。
いつかは、どこかで、必ず起きるであろう、親子、兄弟姉妹の結婚、遺伝子の劣化…もう医学だけでは止めようのない、人類滅亡の第一歩のような気が致します。
人間は安楽と便利の追究に走り過ぎ、自然界に存在しない異物を作りすぎました。ダイオキシンや劣化ウランのような不安物質に音を挙げているのが今の現状です。
この失敗を医学の上に繰り返してはならないと思います。夫婦以外の精子卵子の利用は人類滅亡への第一歩だと思います。「技術を取るか、倫理を取るか」技術だけで将来はまかせられませんが倫理は永遠のものとして存続させなければ、将来は無いと思います。
私は第三者の精子卵子を使った体外受精と移植には大反対いたします。
受付番号:6
受付日時:平成13年1月31日
年齢:不明
性別:不明
職業:不明
氏名:不明
所属団体:不明
この問題に関心を持った理由:不明
御意見
(1) 子どもに恵まれない夫婦に家庭に恵まれない国内外の子どもを結ぶ支援をおねがいします。特に親の記憶のないまま連絡のない親を施設で待ち続ける子どもたちが養親・里親のもとで育てる道がもっと開かれますように。
(2) 子どもに事実を伝えることができる範囲の生殖医療
自分が、生まれた子であったとして受け入れられる範囲の生殖医療を。いのちの選別には反対します。
(3) 少子社会となっても、夫婦のみの世帯と子育て世帯がどちらもその生き方を尊重されるように。不妊治療は身体的負担があるが、不妊症は社会的精神的負担がほとんどなので、それを除く社会の変容の方が大切では…?
受付番号:7
受付日時:平成13年2月1日
年齢:不明
性別:男性
職業:不明
氏名:(匿名化の要否不明)
所属団体:不明
この問題に関心を持った理由:不明
御意見
生殖医療に反対する意見
子どもを生むために夫婦の精子や卵子を使うことなく、第三者の精子や卵子を使っての体外受精と受精卵(胚)の移植を認めることに反対します。
理由
生まれた子どもが遺伝上の親を知る権利は全的に生まれた子どもに属することは当然なことであって、法によって遺伝上の親を知る権利が制限されるべきものではありません。もし、そのようにして子ども生むことが許されるならば、生まれた子どもの人権はどうなりましょうか。仮に、そのようにして子どもが生まれたとして、その子を抱いた母親が、「今日は赤ちゃんわたしがママよ」と歌いながら、まともなまなざしでその子の瞳を見つめることができるでしょうか。
その子どもが成長して、やがて物心がついた日に、出生のいきさつを一部始終知ったなら、その子はどのような衝撃を受けるでしょうか。取り返しのつかない自らの宿命に苦悶のあげく、思いつめて悲劇を招くおそれすら否定できないでしょう。
生殖医療は技術的には可能であっても、論理的には許されないことであり、むしろ論理以前の問題として取り上げられるべきであると思います。
生殖医療というのは、言ってみれば文明の愚かな火遊びであり、人間破壊の暴力であると言ってもよいのではないでしょうか。
(朝日新聞上で意見募集の記事を拝見しましたので私見を申し述べました)
受付番号:8
受付日時:平成13年2月5日
年齢:不明
性別:女性
職業:不明
氏名:(匿名化の要否不明)
所属団体:不明
この問題に関心を持った理由:不明
御意見
(1) 社会全般的に、情報公開度が広く細部まで行われつつある現状を考えると、出生児が成人する頃には、全公開が想定されます。戸籍や近親婚姻も問題と思います。
(2) 不妊には、環境ホルモン等の、元の原因を解消することが先決です。又、子を望む夫婦が、必ずしも「子ども好き」でなく、利己的という点も考慮して下さい。(その証拠に、里子・養子をむかえることはもちろん、他人の子をあやすこともしないカップルは多い。)中絶や虐待児を、縁組みすることが重要です。
受付番号:9
受付日時:平成13年2月9日
年齢:30歳
性別:女性
職業:匿名希望
氏名:匿名希望
所属団体:なし
この問題に関心を持った理由:現在不妊治療中である
御意見
精子や卵子の提供など,最新医療のことばかり論議されすぎていると思います。
個々にちがう状況を法で整備するのはどうかと思います。
実際はそういう最新医療をする人は少なく,排卵誘発剤とエコーによる卵胞チェックでのタイミング療法が主です。その間にいろいろな検査をするといった具合です。
それでも検査費などずいぶんとかかります。医師による卵胞チェックに通うだけでも時間とお金はかかります。それにまだまだ世間的に認知されておらず精神的苦痛がつきまとっています。産婦人科も不妊外来という看板を掲げてはいますが,単にお金儲けだけといった感じがします。保険の適用と国が率先しての不妊治療研究・医師の育成を早急に願います。
受付番号:10
受付日時:平成13年2月28日
年齢:30歳代
性別:女性
職業:勤務助産婦
氏名:加藤 美奈子
所属団体:国立金沢病院 日本不妊看護ネットワーク
この問題に関心を持った理由:
実際に生殖補助医療に携わっているため,興味をもっています
御意見
『と,ありますが具体的ではないため判断に迷うことも考えられると思います。加齢により妊娠できない夫婦を具体的に表した方がいいのではないでしょうか?』
○ 加齢と精子の異常の発生率との関係については必ずしも明確にはなっていないが、加齢と精子の異常の発生率との関係を示す研究もある。(中略)こうした点を勘案して、本専門委員会においては、イギリスにおいても精子を提供する人の年齢要件として採用されており、また、生殖活動を行う一般的な年齢を考慮しても妥当なものと考えられる 満55歳未満を精子を提供する人の年齢要件としたものである。
『卵子の提供を35歳と区切ったのは,説得力がありますが,精子の場合,その根拠が乏しく説得力に欠けます。一般的なイメージとして,もう少し若い方がいいような気も致します。アメリカ等はどうなのでしょうか?』
○ 上記によるカウンセリングを行う人は、提供された精子・卵子・胚による生殖補助医療を行う医療施設や精子・卵子・胚の提供を受ける医療施設以外の当該生殖補助医療に関する専門知識を持つことを専門団体の認定制度等により証明された人であることが望ましい。
『認定制度等により認められた専門知識を持つ人が,実際にクライアントの身近にいるとは考えにくく,地域によっては,かなり遠方から負担をかけて通うケースも考えられます。ARTを受ける施設が近くにありながら,医療施設以外に足を何回も運ぶ(カウンセリングが一回で終了するとは思えないので)ことが,実際に可能でしょうか?(メールや電話等の面会以外のカウンセリングでは,表情等の微妙なものが伝わらないと思われるので)もちろんカウンセリングは必要ですが,治療そのものだけでかなりの時間的・金銭的・心理的負担をお持ちなので,そのカウンセラーがクライアントの近くに出かけて行くという制度があってもいいと思います』
○ イギリスの例も参考とし、同一の人から提供された精子・卵子・胚による生殖補助医療を受けた人が妊娠した子の数が10人に達した場合には、当該同一の人から提供された精子・卵子・胚を提供された精子・卵子・胚による生殖補助医療に使用してはならないこととしたものである。
○ 同一の人からの卵子の提供は3回までとする。
『上記2点は矛盾しているように感じます?卵子の提供が3回までなのに,それによる妊娠した子が10人に達する可能性はあるのでしょうか?』
『人口が少ない程,近親者による婚姻の確立が増えるので,上記の10人というのは多いと思います。10人とした根拠が分かりにくいです』
○ 同一の人から提供された精子・卵子・胚の使用数を制限するためには、提供された精子・卵子・胚による生殖補助医療に使用された精子・卵子・胚を提供した人の氏名や当該生殖補助医療の実施の結果など当該生殖補助医療の実施の内容に関する情報を一元的に管理する必要がある。
『徹底した管理体制のもとで一元化することに賛成します』
○ 営利目的での精子・卵子・胚の授受・授受の斡旋及び代理懐胎のための施術の斡旋は、「商業主義を排除する」及び「優生思想を排除する」という本専門委員会の基本的考え方に著しく反し、なおかつ、医師以外の人々によっても行われる可能性が高いことから、実効性を担保するために罰則が必要であること
『グレーゾーンとして,精子バンクが存在しているので,今後卵子バンクができる可能性は充分あり得ますし,ARTは商業的ニュアンスがあるので,これらを絶対に防ぐ必要があります。ARTによるもののコストの上限をもうけてもよいのではないでしょうか?地元では,同じIVFをするのに10万円台の施設から50万以上という施設まであります。暗黙にポケットマネーを請求されることもあると言われました。クライアントは弱い立場なので,それに付け込むということはあってはならないと思います』
受付番号:11
受付日時:平成13年4月2日
年齢:73歳
性別:女性
職業:評論家、著述業
氏名:青木 やよひ
所属団体:比較文明学会、日本女性学会、その他
この問題に関心を持った理由:
1978年に世界最初の試験管ベビーが誕生して以来、フェミニズムの立場から一環してこの問題に注目してきました。その間メディアやシンポジウム等の場で発表した意見は、自著『フェミニズムとエコロジー』(1986年、新評論)『共生時代のフェミニズム』(1994年、オリジン出版センター)等に一部収録されています。また、グループ「女の人権と性」「リプロダクティブ・エシックス研究会」等において、医師・法律家・国会議員・ジャーナリストなどと15年余にわたり討議を続け、共著『ア・ブ・ナ・イ生殖革命』(1989年、有斐閣)も刊行しています。
御意見
2 III本論の(2)「各生殖医療の是非について」の(1)および(2)について。
提供精子による人工授精および体外受精を」容認した上で、提供精子からの感染症の危険を防ぐため、「十分な検査等の予防措置が講じられるべきである」としている。これは医療上当然の措置であるが、そこに優生思想が反映せざるをえない点について、どのような対応が考えられているのだろうか?
3 (3)−(2)「精子・卵子・胚の提供に係る一切の金銭等の対価を提供すること及び受領することを禁止する」とあるが、具体的な場面でどのようにチェックが可能か、また違反した場合にどのような措置が適当なのか、イメージできない。このような単なる名目的規制では商業主義の介入を防ぐことは不可能であり、市場システムがあるかぎり、生殖の商品化はとめどなく進行し、生命の尊厳が失われる結果になるのではないだろうか?
とくに現状のように経済の国際的南北格差が顕著な場合、南からの卵子や胚の輸入ということも将来的には起きかねないのではないか?(冷凍すれば遠隔地からでも輸入できる。)
「人を専ら生殖の手段として扱ってはならない」という基本的考え方を「代理懐胎」だけにかぎらず、ここまで拡げて適用する必要があるのではないか?
4 (3)−(3)「精子・卵子・胚を提供する場合には匿名とする」について。
この場合、提供者のプライバシーを守る必要と「生まれてくる子の福祉を優先する」という基本的考え方に立つ「子の出自を知る権利」とが相反することになる。しかしここでは、この争点については明確な見解は示されていない。
一方では、子が提供者を知った場合に予想される弊害をかなり具体的に提示した上、匿名にしなければ、被提供者に提供者の選別を行う余地を与える可能性がある(優生思想が介入する恐れがあるということか?)として、匿名性の必要性を説明している。つまりここでは、子の「出自を知る権利」には言及されずに、匿名性のメリットだけが示されている。
そして他方では、匿名性を保持しなければ「提供の減少を招きかねず」「生殖補助医療の実施を実質的に困難にしかねないものである。」と述べられている。
これは結果的に、「生殖補助医療の実現可能性を実質的に担保するため」に、「生まれてくる子の福祉を優先する」という理念を裏切っていることを示すものではなかろうか?
5 (3)−(4)
「精子・卵子・胚の提供における匿名性の例外として、精子・卵子・胚を提供する人が兄弟姉妹等以外に存在しない場合には、当該精子・卵子・胚を提供する人及びそれらの提供を受ける人に対して、十分な説明・カウンセリングが行われ、かつそれらの提供が生まれてくる子の福祉やそれらを提供する人に対する心理的な圧力の観点から問題がないこと及び金銭等の対価の供与が行われないことを条件として、兄弟姉妹等からの精子・卵子・胚の提供を認めることとする」としていることについて。
いかにも厳密な条件で規制しているように見えるが、肉親という親密で永続的な関係において、これらの条件をいかにして担保することが可能なのか?
提供者の情報が具体的に知られることによる弊害は、あとの2−(2)−(2)「出自を知る権利」の項でも述べられているように、当事者双方にとって「取り返しのつかない事態を招く恐れ」があると予想されている。このような弊害が近親者間で将来的に起こらないという保証はない。むしろ見知らぬ他者の場合よりも「人間関係の複雑化」や「心理的圧力」はいっそう大きいと考えられる。こうした中で、兄弟姉妹からの提供を容認する方向性を打ち出す根拠は、一体どこにあるのだろうか?
またこれを容認することは、すでに規制を無視してこの方法を実施している医療機関に対して、その免責と追認を与えることにもなるのではないだろうか?
6 2−(1)「規制方法」について。
この項四角囲み欄の結論については、大方の異論はないところと思われる。しかし、この結論にいたる基本的考え方を読むと、この規制に果たして実効性があるのか、疑わしさがぬぐえない。
その核心は、上記の結論が、憲法第13条による「国民の幸福追求権と公共の福祉の観点との均衡を勘案」するところから導き出されたというところにある。この理論によれば、不妊の夫婦が生殖補助医療を利用して子を持とうとすることは、憲法上の権利と認められることになる。
個人が子を持ちたいという意欲を、第三者が理由なく妨げてはならないことは自明の理である。しかしこの場合は、それとは条件がまったく異なる。人類がこれまで体験したことのない生殖技術を用いて、いわば「不自然な」妊娠による出産をめざすものだからだ。技術がこの先どのような展開を見せるかも定かではなく、生まれてくる子のアイデンティティの問題も未解決である。こういう段階で、これを安易に憲法上の権利と結びつけて考えることは危険ではないだろうか?そもそも不妊とは(筆者自身その体験者だが)、生きてゆく上で健康上なんの障害にもならない状態なのである。にもかかわらず、生殖補助医療による不妊の解消に憲法解釈が後ろ楯となるならば、人は、「子を持つ」という「幸福権」の追求に向けて、いかなる手段をとることにも抵抗感を持たなくなるのではないか?そして、市場原理に支配されているわれわれの社会においては、こうした不妊夫婦のニーズがあるかぎり、それに応える、有形無形のさまざまな「市場」が形成されることになるのではないか?
これが、営利目的の授受やその斡旋、あるいは代理懐胎などの規制を、実効性の弱いものとするのではないかと、私が危惧するゆえんである。
さらにまた、こうした過程で生命への倫理観が徐々に崩壊して行ったところに現れるのが、クローン人間の登場ではないだろうか?クローン技術はすでに「不妊治療」の一つとして名乗りをあげている。しかも、「不妊であることが不幸」であるならば、事故や病気で「子を失った不幸」はそれにまさるものである。その親たちの中から「幸福追求権」としてクローン技術による子の再生を望む声が出てきたとき、それを規制するどんな根拠があるのだろうか?
それもまた容認されるとしたら、人類に開かれている未来とはどんなものになるのだろうか、それがこの問題に関する私の最大の危惧である。
受付番号:12
受付日時:平成13年4月5日
年齢:30歳代
性別:女性
職業:主婦
氏名:岸本 佐智子
所属団体:ひまわりの会
この問題に関心を持った理由:
ひまわりの会の会長として、娘の卵巣機能不全を心配する多くの母達の気持ちを聞いているし、また自分のことで悩んでいる成人の女性からの相談も受けている。
御意見
(別添)
2001年3月25日
日本産科婦人科学会倫理審議会委員長 | 武部啓殿 |
同 倫理委員会 | 藤本征一郎殿 |
近親者からの卵子提供についての要望書
私たちひまわりの会は同封の「提供卵子による不妊治療促進についての要望書」を一昨年に貴学会倫理審議会および厚生省厚生科学審議会に提出いたしました。
本年2月24日の読売新聞の報道によれば、貴学会倫理審議会では夫婦間以外の体外受精について、精子、卵子の提供者には匿名の第三者を想定し、近親者からの提供は基本的に認めないとの事です。
ひまわりの会が行ったアンケートによれば、卵巣機能不全の娘に姉妹がいる事に希望を託している方がおられます。匿名の第三者からの提供を希望する本人もおられますが、また、遺伝的関係のある肉親からの提供を希望している方も居るのが実情と言えると思います。
子供のない夫婦が子沢山の親戚から子供を貰いうけて、養子としているケースは従来から身の回りにみられます。近親者からの卵子の提供を受けることは、身内からの養子という従来からの慣行と連続性を持った現代的な形といえるのではないかと考えます。
他方、自分が不妊症であることを知って、「とじこもり」になるなど非常な精神的混乱に陥っている思春期の女性の例も会の内外で聞いております。
貴学会が提供者を第三者に限定する理由として「提供を強制する心理的重圧」や、近親者からの提供によって親子関係が複雑になるなどがあげられます。これについては各治療施設や地方レベルで倫理審議会または検討員会を設け、そこでの検討や、充分なカウンセリング体制によって、強制が推測されるなどの不適切なケースに対しては、治療申請を却下するというような方法で対処できるのではないかと考えます。
一般人の私たちにさえも、今後の生殖医療の急速な展開は予見できるものであります。その為にも、専門家内部、および識者や一般人を交えての活発な討論と迅速な方針の決定、さらには当該の不妊治療のみならず多様かつ先進的な治療を求める人々への十全な情報提供とカウンセリング体制こそ、今最も求められているものといえるのではないかと考えます。
ひまわりの会会員全体に図る時間がありませんので、ここに有志として、姉妹などの近親者による卵子の提供も認め、幅広く治療を受ける可能性を開いていただきますよう貴学会に要望いたします。
ひまわりの会有志 代表 岸本 佐智子
他、69名
受付番号:13
受付日時:平成13年4月12日
年齢:32歳
性別:女性
職業:匿名希望
氏名:匿名希望
所属団体:なし
この問題に関心を持った理由:
私自身、不妊治療中であり、生殖補助医療に強い関心がある。また知人に二人の母(産みと育ての親)を持つ人がいる。知人は思春期に色々と悩んだようなので、その経験などから考えると、第三者からの提供については、もっと慎重に考えるべきではと思ったので。子供を欲しい親の気持ちは痛いほどわかるが、一方で、生まれてくる子供の心の問題、子の福祉を考えると、第三者からの提供はなるべくさけるべきと思う。特に兄弟姉妹など近親者からの提供と、胚の提供はかなり問題ではないか。
御意見
・意見要旨
基本的考え方としてあげられている6つの点については、まさにその通りと思う。しかし、報告書を読むと「生まれてくる子の福祉を優先する」ということが、軽視されているようだ。子供は、生まれてくる家庭を選べない。第三者からの提供により生まれたということを知った時の子供の気持ち、そのショックを考えていない。全体に身体的リスクや法の整備については十分検討されているが、心理的リスクについては十分でない。兄弟姉妹からの提供については、学会も問題ありとしているように、人間関係が複雑になりやすまた、子が成人前の多感な時期に真実を知ってしまうリスクも大きい。その場合の心理的損傷は計り知れない。胚の提供の場合も、一方のみの提供に比べて、たとえ成人後に知ったとしても、子の心理的負担があまりにも大きすぎる。自分がそうであったらと考えてみるがいい。心に大きなトラウマが残ると思われる。そのようなリスクを犯してまでも胚の提供を受けるべきだろうか。それよりもこの場合は、家庭に恵まれぬ子供を養子として迎える道を推奨すべきではないか。親の希望よりも、生まれてくる子供に幸せな家庭環境を用意できるかどうかを優先し、子の福祉をもっともっと子供の立場に立って考えて欲しい。
私も、なかなか子を持てず、不妊治療に苦しんでいるのだが、なにより、生まれてくる子供にとって何が良いかということを、考えたいと思っている。
一方、提供者側や提供された家族のその後の心理的負担や葛藤についても、もっと考え検討すべきだ。又、卵子や胚の提供は、場合によっては代理母の代替になってしまう危険性もあるのではないか、検討が必要だ。以下、報告書の内容に基づいて細かく述べていく。
・意見
1 IIIの1の(1)精子・卵子・胚の提供等による生殖補助医療を受ける条件についてこの結論については賛成です。子の福祉の観点からもこの3つについては、絶対ゆるがしてはいけないと思う。
2 IIIの1の(2)の(3)提供卵子による体外受精について
卵子の提供をうけなければ妊娠できない夫婦に限る点は賛成です。たとえ、排卵しにくい状態だったとしても、誘発剤の投与などで卵子が得られるのなら、子の福祉の観点からも問題があるし、第三者に身体的及び心理的リスクを与えるものであるので、提供してもらってはいけないだろう。
しかし、「他の夫婦が自己の体外受精のために採取した卵子の一部の提供を…受けることを認める」とした点は反対です。他の方法による卵子の提供と本質的には相違ないとしているが、大きな相違がある。体外受精をしようとする夫婦は、子を切望し不妊治療をしている途中なのに、さらに心理的リスクを負うことになる。この提供夫婦は流産したが、提供を受けた方は無事出産したという場合、提供者は多分自分の提供卵子がどうなったか知りたがるだろうし、親としての引渡しを主張する場合もありえるのではないか。むろん法律で、それを禁止するとしても、提供者と提供された側にいらぬ軋轢や葛藤をうむことになり、子の生育環境に悪化を生ずるので、子の福祉にも反する。体外受精においては、普通、妊娠率を上げるために複数個の胚を体内に移植する。原則として3個以内と規定するようだが、多胎となった場合、提供夫婦が一人よこせと主張する可能性や、最初から「多胎児の場合は一人提供者に渡す」というような条件付きで提供をするような事態にならないとも限らない。以上から、「不妊治療中でまだ子供を出産していない夫婦の卵子」を提供することは禁止すべきである。子供を出産済みの夫婦の場合は、十分なカウンセリングを行ったうえで、冷結保存してあった余剰卵子を提供することを認めても良いかもしれないが、心理的リスクについて慎重に考えなければならない。
3 IIIの1の(2)の(4)の提供胚の移植について
胚の提供によって子をもうけること自体に反対です。他国でそのような事例があるのかは知らないが、事例があるとして、他国では子が事実を知った場合、問題は生じなかったのだろうか。これは子の福祉の点でおおいに問題があると思うのだが。「提供された胚を余剰胚に限定した場合、安全性など6つの基本的考え方に照らして特段問題ないと言えないことから容認した」とあるが、子の福祉や子の心理的リスク、及び提供者の心理的リスクについては十分検討されていないのではないか。自分がそうであったらと想像してみるがいい。たとえ成人後にそのことを知ったとしても、(近親婚をさける等の理由から、知る必要があると思うが)その精神的なショックは、はかり知れないのではないか。ましてや心理的に不安定な思春期などに知ったとしたら、心理的損傷は想像できないほどである。(知らせなければわからないと思いがちだが、子供は感受性が強く、気づいてしまう可能性は高い。)そのようなリスクを子に負わしてまでも、胚の提供をうけるべきだろうか。精子か卵子の片方のみの提供なら、親に顔も似るだろうし、親ともちゃんと血がつながっているのだからと、事実を知った子も自分を納得させやすいメリットはある。しかし胚の場合、子に多大な心理的リスクを負わせてまでも提供をうけなければならない必然性はない。むしろ、家庭に恵まれない子供を養子に迎えることを推奨すべきではないか。
さらに、余剰胚の提供は提供夫婦にも多大な心理的リスクを負わせる。自分たちも子を切望し、苦しい不妊治療中なのである。まさしく遺伝的にも自分たちの子供が、他の女性の体内で育ち、生まれることに、苦痛を感じないはずがない。子をできないつらさに加えてのこの苦痛である。「余剰胚を提供する人に新たな身体的リスクをおわせるものではない」としているが、心理的リスクは膨大なものだ。例えカウンセリングをしたとしても、もしかしたら一生の後悔を負わせることにもなりかねない。提供時には納得しているつもりでも、いざその子が誕生したら、あるいは長い一生の間には、様々な心理的葛藤が生じると思われる。また、余剰胚を「他の夫婦が自己の胚移植のために得た胚であって、当該夫婦が使用しないことを決定したもの」としているが、提供夫婦に子供がいない、あるいは流産した場合、「提供された夫婦が出産した子」を自分たちの子だと主張し、深刻な争いになる可能性は多大である。提供者は多分自分の提供胚がどうなったか知りたがるだろうし、親としての引渡しを主張する場合もありえるのだ。むろん法律で、それを禁止するとしても、提供者と提供された側にいらぬ軋轢や葛藤をうむことになり、子の生育環境に悪化を生ずるので、子の福祉にも反する。体外受精においては、普通、妊娠率を上げるために複数個の胚を体内に移植する。原則として3個以内と規定するようだが、多胎となった場合、提供夫婦が一人よこせと主張する可能性や、最初から「多胎児の場合は一人提供者に渡す」というような条件のうえで提供をし、いわば代理懐胎のように使われるような事態にならないとも限らない。また、心理的にリスクが大きいため胚の提供者は多くはないと思われる。そこで、その不足を補うために、子宮の異常等があり代理懐胎でしか子をもうけることのできぬ夫婦が、胚の提供を申し出て、「多胎児の場合は一人提供者に渡す」条件をつけることも考えうるので、実質上の代理懐胎の抜け道に使われる恐れがある。 また、精子や卵子と違い、胚はそれ自体一個の命と考える考え方もある。医学の世界では、胚の状態では命として扱わないのかもしれないが、一個の命と感じる人がいる以上、精子や卵子と同列には扱えないと思う。精子・卵子以上に、より慎重な議論が必要ではないか。その点は十分議論され、国民の納得も得られたのだろうか。疑問である。
以上、子の福祉上の問題や子に心理的多大なリスクを負わせること、提供者に心理的リスクや葛藤を負わせ、提供を受けた側との間に争いの生じる可能性があること、及び代理懐胎の代替になる恐れ、精子・卵子と胚を同列に考るのは国民の理解が得られているとは思えない点を考えると、胚の提供を認める必然性はなく、全面的に禁止すべきである。このような多大なリスクをおかすより、養子を推奨するほうが良いのではないか。
4 IIIの1の(2)の(5)代理懐胎(代理母・借り腹)について
「人を専ら生殖の手段として扱ってはならない」「安全性に十分配慮する」という基本的考え方に照らして到底容認できない、禁止するとしているのには、全く賛成です。また、アメリカでもその事例がたくさんあるように、代理懐胎を依頼した夫婦と代理懐胎を行った人との間に、生まれた子を巡って深刻な争いが起こることはかなり考えられるので、「子の福祉の優先」からも禁止すべきとの結論にも全く賛成です。場合によっては、代理懐胎を依頼した夫婦と、実際の精子や卵子の提供者と、代理懐胎のみを行った人との三つ巴で争いが生じる可能性もあり、そこに巻き込まれた子は悲惨な体験をすることになるので、絶対禁止すべきです。
5 IIIの1の(3)の(1)精子・卵子・胚を提供する条件について
「卵子の提供者を既に子のいる成人に限り、満35歳未満とする」点につき、賛成です。提供に際して副作用等で提供する人自身が不妊症になる身体的リスクについて述べられているとおりだと思う。しかし、「自己の対外受精のために採取した卵子の一部を提供する場合には、既に子がいることを要さない」とした点は反対です。体外受精をしようとする夫婦は、子を切望し不妊治療をしている途中である。自分はまだ妊娠していないのに、自分の卵子が他の女性の体内で育つことには苦痛を感じるだろう。新たな身体的リスクはないかもしれないが、苦しい治療をしている上に、さらなる心理的リスクを負わせることになる。もし、この提供夫婦は流産したが、提供を受けた方は無事出産したという場合、親としての引渡しを主張する場合もありえるのではないか。そうなると、子が争いに巻き込まれ、子の福祉にも反する。体外受精においては、普通、妊娠率を上げるために複数個の胚を体内に移植する。原則として3個以内と規定するようだが、提供卵子を使って多胎となった場合、提供夫婦が一人よこせと主張する可能性や、最初から「多胎児の場合は一人提供者に渡す」というような約束をするような事態にならないとも限らない。以上から、「不妊治療中でまだ子供を出産していない夫婦の卵子を提供することは禁止」とすべきである。不妊治療で子供を出産済みの夫婦の余剰卵子については認めても良いかもしれない。
「同一人からの卵子の提供を3回まで」としているのは賛成です。一方、精子や胚は回数を制限しなくていいのだろうか。精子は身体的リスクはそれほどないが、心理的リスクについて考えれば、回数を制限すべきではないか。また同一の人の提供精子から沢山の子が生まれる危険性もある。(10)で10人になったら制限するとしているが、同時期に続けて提供すると、受胎確認に時間がかかり、確認まえに10人を超えていたなんてことになり、近親婚の危険もあるので、回数制限をしないまでも、前回提供からの期間を置くような処置をとるべきではないか。胚の提供は、それ自体にも反対だ。精子や卵子の場合は、異母や異父兄弟が10人までなら大丈夫と考えるとして、胚は両親とも同じ兄弟が生まれるわけだから、次元が違う。胚の提供は、万一、認めるとしても、回数制限と使用数制限を厳しくすべきである。
6 IIIの1の(3)の(2)の精子・卵子・胚の提供に対する対価について
まさしく報告書のとおり、絶対禁止すべきです。精子や卵子を売って、お金をもうける人が出てくると、商業主義の問題もあるが、金銭をめぐるトラブルの発生も懸念される。現に今でも、精子バンクと称して150万円の手数料を取って精子を斡旋している会社があるようで、インターネットにホームページを載せている。金銭以外の、優先思想を助長するなどの弊害もあるので、禁止すべきだ。「実費相当分についてはこの限りではない」としているが、この点を悪用されてはいけないので、厳しく規制すべきだ。
7 IIIの1の(3)の(3)の提供における匿名性の保持について
賛成です。報告書に述べられているとおりでしょう。
8 IIIの1の(3)の(4)の兄弟姉妹等からの精子・卵子・胚の提供について
反対です。兄弟姉妹等からの提供については、学会も問題ありとしているように、人間関係が複雑になりやすく、また、子が成人前の多感な時期に真実を知ってしまうリスクも大きい。その場合の心理的損傷は計り知れない。子の福祉の観点から、かなりの深刻な事態が発生しやすいと思われる。また、提供者の心理的リスクも多大である。心理的圧力から強要されるかもしれないし、提供後も身近に子がいるわけだから、その後の一生を、大きな心理的負担と葛藤して生きていかなければならない。提供後は人間関係がギクシャクしたものになってしまうだろう。そのような環境で子が育つことも、子の福祉の観点からみて適当ではない。これらのことを、報告書では提供時のカウンセリングでのりきれるようにしているが、提供時には納得したつもりでも、いざ生まれたら違ったものになる可能性は大きい。
例えば、朝日新聞2000年12月27日の記事で紹介されている事例だが、夫に義兄が精子を欲しいと言ってきて、その時は「みんなが幸せになるんだったら、まあいいか」と納得したつもりだったが、夫の精子で義姉が妊娠したとたんに「この先、兄夫婦とうまくやっていけるのかしら」「うちの子がこの事実を知ったら…」などの不安に悩まされるようになった家族の話がある。また、兄弟姉妹等近親者からの提供の場合、提供時には何も知らない子供であった、提供者自身の子も、この葛藤の中に巻き込まれることになる。真実を知った時、提供されて生まれてきた子供もショックを受けるが、提供者自身の子供も、心理的リスクを負うことになる。
つまり、近親者からの提供では、心理的リスクを負う人間が多すぎる。その家族全体に及び、その家族ぐるみの将来を暗澹としたものにしてしまう危険性があまりにも大きい。提供時のカウンセリングでは、とうてい予想もしていなかったようなことが、長い人生では起こる。もしかしたら、自分の親から精子等が提供されて生まれた子とは知らず、従兄弟と思って好意を寄せ、結婚しようとしたら家族の反対にあい、その理由が「実は兄弟だから」なんていう悲惨なことにもなる。カウンセリングをするのなら、提供時のみではなく、その後一生涯にわたって、家族なども含めてカウンセリングしなければならないはずである。しかし、カウンセリング機関もままならない状態で、それだけの精神的な支援が果たして可能なのか。とうてい無理ではないか。
以上から、兄弟姉妹等からの提供は原則的に禁止すべきである。
ただし、例外中の例外として、例えば子宮摘出等で将来子供をもうけることができない人が、提供することを強く望んでいる場合等のみ、提供後も関係者全員に、生涯にわたって十分なカウンセリングを行うことを条件にして、十分な審査の上で認めるということではどうか。この場合、提供者の関係者(家族)の同意も必要としなければならない。
「医療施設の恣意的判断で特例を濫用されないように、公的管理運営機関で事前審査を行う」とした点は賛成である。医療施設の恣意的意見に、当事者が引きずられることも考えうるので、第三者的な視点は必ず必要であろう。
新聞で紹介されたような、近親者からの提供事例に、匿名アンケートや聞き取り調査などをされたうえで、この結果を出されたのであろうか。心理的リスクについての調査をもっとすべきである。
9 IIIの1の(3)の(5)の書面による同意について
賛成です。書面で同意することは、自分自身の意思の確認にもなり、また後々の争いを避けるためにも必要であろう。義務とすべきです。
10 IIIの1の(3)の(6)の十分な説明の実施について
報告書に書かれていることには賛成です。十分すぎる程の説明が必要である。多大な心理的リスクを負うことになることも、十分説明しなければならない。最低限度の説明義務事項を定め、説明不足の場合には、当該医療施設に対しての罰則をつけてはどうか。
11 IIIの1の(3)の(7)のカウンセリングの機会の保障について
報告書に書かれていることには賛成ですが、不十分です。「…当該生殖補助医療の実施又は当該精子・卵子・胚の提供に際して…カウンセリングを受ける機会を与える」としているが、実施や提供時はむろんのこと、「当該医療行為の実施後又は提供後」も、いやむしろ「実施後・提供後の一生にわたって」こそ、カウンセリングが必要です。医療実施の際には納得していても、いざ当該子供が誕生すれば、提供された夫婦もさまざまな葛藤に直面する。誕生後に夫婦仲が悪くなって、例えば「俺の子(精子)ではない」などと言われ悩むこともあるかもしれない。そのような時にこそ、カウンセリングが必要だ。提供した側もそうである。提供時には納得していても、長い人生の上で、自分の精子や卵子で生まれた血のつながった子供に会いたいと悩むこともあるだろう。そのような時、相談に行ける機関が必要になってくる。また、誕生した子供が真実を知った時、かなりのショックを受け、悩み苦しむことは目に見えている。その子らをカウンセリングしなければ、心に深い傷を負ったまま人生を送ることになる。いままでAIDで大きな問題の発生は報告されていないとしているが、プライベートな問題だけに、だれにも言えず、悶々と悩み苦しんでいる人が多いのではないだろうか。「医療実施又は提供時」のみならず、「医療実施後又は提供後の一生にわたって」も、また、「この生殖補助医療で生まれた当該子供にも」、カウンセリングを受ける機会を保障できるようにすべきだ。
「医療施設以外の専門団体等の認等を受けた…専門知識を持つ人によるカウンセリング」としている点には賛成です。第三者的な機関でないとなかなか相談できないこともあるので、そのような機関を早急に設けるべきだと思う。
12 IIIの1の(3)の(10)の同一の人から提供された精子・卵子・胚の使用数の制限
「同一の人から提供された精子・卵子・胚による生殖補助医療を受けた人が妊娠した子の数が10人に達した場合には」それ以上当該同一の人から提供されたものを使用してはならないとしている。近親婚の危険性を考えると、使用数の制限自体は賛成ですが、「精子・卵子」と「胚」を同列に扱って10人としている点について反対です。
精子や卵子の場合は、異母や異父兄弟が10人までなら大丈夫と考えるとして、胚は両親とも同じ兄弟が生まれるわけだから、次元が違う。異母や異父兄弟が近親婚になった場合の弊害と、同父母の兄弟が近親婚になった場合の弊害を考えれば、明らかだろう。例えば、奇形児の発生率も同父母の場合特段に増えるだろうし、同父母間の近親婚になるとわかった子らのショックも、異父母の場合よりかなり大きい。よって、胚の提供自体にも反対なのだが、万一、胚の提供を認める場合でも、同一の人からの胚の使用数は、10人では多すぎる。精子・卵子以上に、厳しく制限すべきである。
「…生殖補助医療を行う医療施設は、…当該生殖補助医療の実施の内容に関する情報を公的管理運営機関に提出しなければならない」とした点は賛成です。報告書に書かれているとおり、情報開示のためにも、プライバシー保護のためにも、公的機関で一元管理しなければならないと思われる。
13 IIIの2の(1)規制方法について
「営利目的での精子・卵子・胚の授受・授受の斡旋」「代理懐胎のための施術・施術の斡旋」「提供された精子・卵子・胚による各生殖補助医療に関する職務上知り得た人の秘密を正当な理由なく漏洩すること」について、罰則を伴う法律によって規制するとしているのに賛成です。この3点は、絶対規制してほしい。
「営利目的での…授受・授受の斡旋」については、現に今、精子バンクがあって、なんと150万円の手数料を取って斡旋している。不妊についてインターネットで調べていると、そのような会社のホームページがあってびっくりした。こんなことを野放しにしていては、色々な問題が生じるので、早急に規制する必要がある。また「代理懐胎のための施術・施術の斡旋」について、アメリカでの施術を斡旋するところがあるが、これについては規制はどうするのだろうか。
また、プライバシー保護のためにも、生まれてくる子の福祉のためにも、情報の管理はきっちとして、漏洩に関しては厳しく規制してほしい。そうでないと、安心して生殖補助医療を受けたり、精子等を提供したりすることができないだろう。
14 IIIの2(2)条件整備(2)出自を知る権利について
「提供された精子・卵子・胚による生殖補助医療により生まれた子は、成人後…提供した人に関する情報のうち…開示することを承認した範囲内で知ることができる」としている点について、アイデンティティの確立などの点から賛成です。「…(成人前でも)近親婚とならないことの確認を求めることができる」としているのも、賛成です。しかし、「当該医療行為により生まれた子のみ」に情報を知る権利を認めているのには反対です。例えば、精子等を提供した提供者に子どもがいる場合、そしてその子がその事実を知った場合、その子が結婚する時には、もしかしたら近親婚になるかもしれないとの不安を抱くだろう。どうやってそれを確認したらいいのだろうか。また、自分や配偶者が提供した精子等で生まれた子供と、自分の子供が近親婚になるのではないかと不安を、精子等の提供者側もいだくだろう。提供者側のみならず、提供された夫婦にも、子にはショックを与えるのでそのような事実を知らせたくないが、近親婚でないことを確認したいという場合も出てくる。それをどうやって確認するのか。「提供された夫婦、及び、提供者の一定範囲内の関係者の、自分の子や自分が、近親婚にならないかどうかを知る権利」をも、認めるべきではないだろうか。
・終わりに
重ね重ね述べるが、子供は生まれてくる家庭を選べない。子供の福祉を最優先し、その心理面へのリスクを十分考えて欲しい。たとえ、親が第三者からの精子等の提供を強く望んでいたとしても、生まれてくる子の福祉の観点や子の心理的負担を考え問題があれば、容易にそれを認めてはならないと思う。私も不妊治療中であり、子の持てぬ人のつらい気持ちは痛いほどわかるが、それでも、子供の福祉を最優先すべきだと思う。また、当該子供の誕生後にこそ、提供者側にも、提供された方にも、色々な心理的問題が生じてくることを、その心理的リスクを、もっと重要視して、十分検討して欲しい。
受付番号:14
受付日時:平成13年4月15日
年齢:60歳
性別:男性
職業:医師
氏名:久保 春海
所属団体:日本不妊学会、日本産婦人科学会、日本哺乳動物卵子学会、日本受精着床学会
この問題に関心を持った理由:医学的、社会的、倫理的立場から
御意見
1.IIIの(1)「精子・卵子・胚の提供等による生殖補助医療を受ける条件について」について、受けられる人の条件を不妊症にのみ限定したのは納得がいかない。第3者の卵子、精子、胚を現在もっとも期待しているのは、不妊患者はもとより治療法の無い遺伝性疾患の患者あるいは保因者である。このような患者は子供を産みたくても産めないのである。このような患者に第3者の正常配偶子、胚を提供出来るようにしなければならない。
2.IIIの(5)代理懐胎について、第3者による精子、卵提供による不妊治療を容認しておきながら、子宮性不妊のみを置き去りにし、代理母、借り腹を認めないのは容認し難い。ヒトを専ら生殖の手段としてはならないというのが理由ならば、卵子、胚を第3者から提供させるのはどう説明しますか?
卵子、胚を借りるだけなら他人を生殖の手段にしたことにはならないとでもお考えなのでしょうか。
卵子を借りるのと、子宮を借りるのとでは、借りる期間が異なるのみで他は全く同じではないでしょうか。代理母になった人が、妊娠した他人の子供に母性を育むことはあるでしょうが、それはごく一部であり現在欧米で実施されている代理懐胎では、ほとんどの借り腹、代理母の意見は他人のために何かしてあげられるという意思で行っているものと思います。
子宮因子不妊の患者も借り腹、代理母によって救ってあげるべきであると思います。
受付番号:15
受付日時:平成13年4月16日
年齢:56歳
性別:女性
職業:匿名希望
氏名:匿名希望
所属団体:匿名希望
この問題に関心を持った理由:
根津医師の行った不妊治療についての平成10年6月の新聞報道を読み、日本でこのような事がすでに技術的に可能だということを知って驚いた。またその後の産婦人科学会の対応は不適切であると思った。
御意見
意見1。まずなによりもこの報告書が出された事は非常に意義があり、良かったと思います。委員の先生方には多大なご苦労をされた事と思います。多くの点でイギリスのHFEAに準拠されて審議が進められているように思いますが、HFE法の制定が1990年、実施が1991年からとの事です。経済の分野で 「失われた10年」という表現があるようですが、同じようにこの生殖医療の分野 における「失われた10年」ではないかと思います。
根津医師の行った治療に対して、この分野の産婦人科学会のガイドラインは1984年に制定されたものとの事でした。日本においても治療技術は日進月歩で先進的であるのにたいし、それに対応するルール作りや社会的合意の取りまとめ、体系化などはなおざりにされている事を知りました。こういった事は一国の市民社会の品位に関わる事で、体系化されずに放置されているのは日本の恥であるとさえ思いました。公表した人のみが制裁を受け、それを見て、首をすくめて水面下で実は同じような治療をしている医師が他にもいるというのは健全ではないと思います。
意見2。「意見集約的に当たっての基本的考え方」に賛成です。しかしこの審議会のそもそもの発足の前提となっていると推察いたしますが、「不妊症の夫婦の子供を持ちたいという願いを次の6項目を反しない限りにおいて(又は、公序良俗に反しない限りにおいて)最大限に尊重する」といった内容の項目も明示的に入れるのが望ましいのではないかと考えます。
意見3。本論1の(2)の(3)で「提供卵子による体外受精]が認められたことに賛成です。また本論1の(3)の(4)で「兄弟姉妹等からの精子・卵子・胚の提供」が認められたことにも賛成です。
しかし、提供者の匿名性をまず優先させる為に、匿名の第三者からの提供が無い場合に近親者(知人、友人も含める)からの提供を認めるという説明に違和感を感じます。
私個人の自然な感情としては、まず近親者からの提供があれば望ましく、それが不可能な場合にのみ、匿名の第三者からの提供を待つというのが順序ではないかと思います。
近親者からの提供である事によって、匿名の第三者からの提供を受ける場合よりも家族関係はより複雑になるという事の根拠はあるのでしょうか? 兄弟姉妹のために精子・卵子・胚を提供する事には覚悟が必要であり、受ける側の人達への親しい感情、愛情、思いやりが前提としてある場合にのみ可能であろうと思います。こういった不妊治療を行う前提には提供する側も受ける側も、当該不妊の夫婦のもとに子が生れてくる事を待ち、喜ぶ気持ちを持っているという親和的な関係が必要と思います。
また、自分が貰い子だったことが分かり、自分の実の親を知りたいという切実な思いを持った人の例が新聞に報道されていました。おじ、おばが実は自分の遺伝的な親であると分かっても、本人に取っては、身近な善意であり、理解しやすく、匿名の第三者よりも受け入れやすいのではないかと考えます。
精子・卵子の提供者が顕名となった時にマイナスに作用する場合にまず慎重な配慮が払われているように思いますが、当該不妊治療に当たっては(2)条件整備(1)親子関係の確定を厳重に前提として、カウンセリングが行われるべきであると考えます。その事を前提とした上で、ゆるやかな拡大家族のイメージで子供を囲む複数の人間関係を想定することはありうるのではないかと考えます。名付け親とか、godmotherとかいったものに準じて、生命の半分の提供者という位置づけを与えることも有り得ると考えます。このように考えれば、提供者の匿名性を第一義におき、匿名の第三者を提供者として望ましいとするのではなく、顕名となりうるかもしれないが親しい関係にある近親者を提供者とする事がより自然な事として、受け入れられると考えます。「妻の姉から卵子提供を受けたことについて、『義姉の子というより、妻の血族の子供と考えています。見ず知らずの女性の卵子を使うなら、実行しなかった』」(「不妊治療」読売新聞2000年12月20日)という感想を述べている男性の例がありますが、私個人の感じ方もこの方と同じです。
この複数の人間関係とは言い換えれば、「複雑な人間関係」としても作用しえるのでしょうが、あえて言えば、精子・卵子・胚の提供を受けるについては、その事態に対処して行く事への覚悟もまた必要なのではないかと考えます。
近親者・知人などに提供を期待できない場合は第三者に期待する他なく、その場合には 匿名性を保持することが必要である点については報告書の本論の「精子・卵子・胚の提供における匿名性の保持」に賛成です。
意見4。提供卵子による不妊治療が日本で認可されたとしても、卵巣機能不全とされる女性の中でも、結婚し、この治療をうける決断にまで至る方は数パーセントではないかと推察します。しかし素人考えかもしれませんが、究極的にこの治療法がありうるという事は、早くから卵巣機能不全による不妊とされる少女たちの女性ホルモン治療を質的に進める側面もあるのではないかと思います。成人した時に、もし本人が望めば、この治療を受ける事も可能となるように、乳房の発達などの外見的な女性らしさに加えて、十分な子宮の発達も視野において思春期の治療が行われる事が必要となります。かつては、ひとくくりに「不妊」とされていたのが、卵巣機能は欠けているが、子宮は機能しうるというふうに説明を受けるだけでも、その少女や親にとっての精神的ダメージは幾分か軽減されうるのではないかと考えます。また早くからより適切にアセスメントされた女性ホルモンの治療が行われる事によって、そういった女性のQOLも向上しうるのではないかと考えます。また、多くの産婦人科医がこの事についての認識を持つ事によって、東京、大阪、その他の都会だけでなく、日本全国の各地で均質的に適切な対応と治療がなされる事が望ましいと思います。
付記:意見3に至る契機ともなり、またよく視覚的に表現していると思われる絵のコピー(読売新聞2001年3月4日日曜版)を同封致します。
受付番号:16
受付日時:平成13年4月16日
年齢:39歳
性別:女性
職業:学生(大学院博士後期)
氏名:松島紀子
所属団体:城西国際大学大学院
この問題に関心を持った理由:
大学院では不妊女性の悩みの分析と社会的支援の在り方というテーマで研究をしており、日頃から不妊治療を受けている方たちの語りを中心に聞き取りをしている関係で、この問題には大きな関心がある。
御意見
III 本論
1 精子・卵子・胚の提供等による各生殖補助医療について
1)精子・卵子・胚の提供等による生殖補助医療を受ける条件について
○ 精子・卵子・胚の提供等による生殖補助医療を受けることができる人は、子を欲しながら不妊症のために子を持つことができない法律上の夫婦に限る。
の「法律上の夫婦に限る」に反対です。
理由
子どもが欲しいことで悩み苦しむのは、法律上のカップルに限らないし、事実婚のカップルや、同性愛のカップル、シングル、など家族が多様化しており、法律上のカップルに限定することは、多様性を否定することになる。子どもが欲しいという理由によって生殖補助医療の対象を選別することは、選別されなかった人たちへの差別につながる。従って、子どもが欲しいという理由以外での条件はそれに適さないというカテゴリィをつくることになり多様化を認めないというになるので、反対である。
6)十分な説明の実施
(ア)提供された精子・卵子・胚による生殖補助医療を受ける夫婦に対する十分な説明の実施
○ 提供された精子・卵子・胚による生殖補助医療を行う医療施設は、当該生殖補助医療を受ける夫婦が、当該生殖補助医療を受けることを同意する前に、当該夫婦に対し、当該生殖補助医療に関する十分な説明を行わなければならない。
に対し、補足すべき点がある。
現実にARTによって現在も裁判中のケースがある。
排卵誘発剤によって、適切な説明が不足によって死亡した例、重い障害を受けた例である。
もちろん、実際これに近い様々な問題点(特にICに関する)はARTを受けた患者から、多く聞かれる。
従って、このような事を防止するためにも、もっと具体的なICの項目、方法、誰が、どこで行うか、を明記すべきであり、ICにおいては、第三の機関(ART実施機関以外)を通して、患者が適切にIC受けているかどうかをチェックする事を義務付けすることを入れなければならない。このチェックを受けない機関では生殖医療行為を認めない。
7)カウンセリングの機会の保障
○ 提供された精子・卵子・胚による生殖補助医療を受ける夫婦又は当該生殖補助医療のために精子・卵子・胚を提供する人及びその配偶者は、当該生殖補助医療の実施又は当該精子・卵子・胚の提供に際して、当該生殖補助医療を行う医療施設又は当該精子・卵子・胚の提供を受ける医療施設以外の専門団体等による認定等を受けた当該生殖補助医療に関する専門知識を持つ人によるカウンセリングを受ける機会が与えられなければならない。
補足事項として
カウンセリングにおいては生殖医療を受ける気持ちを共有できるピア的な要素を持つ事が重要であり、福祉的な視点を持ち合わせなければならない。子どものいない生き方を支援していくことは今後よりよく生きるという支援にもなるからである。メディカルソーシャルワーカーも参入も必要である。また、このようなカウンセリングやメディカルソーシャルワーカーを院内に常設する事を義務化し、このカウンセリングの担当者は病院関係者以外の者とする。
4)提供された精子・卵子・胚による生殖補助医療を行う医療施設の指定
○ 公的審議機関の意見を聴いて国が定める指定の基準に基づき、提供された精子・卵子・胚による生殖補助医療を行う医療施設として、国が指定した医療施設でなければ、当該生殖補助医療を行うことはできない。
補足事項として
どのような基準を設けるのか、具体的ではない。何を基準として国が指定するのか明確にすべきである。まずは、ICがきちんとやられているか。ART専門のメディカルソーシャルワーカー、カウンセラーがいるか。技術の正確な成功率(妊娠率ではなく、生産率)を公開しているか。苦情を受け付ける窓口がおいてあるか。
など、生殖補助医療を受ける夫婦のニーズの調査をしたうえで、基準を明確に設けなければならない。