厚生労働省

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自殺・うつ病等対策プロジェクトチームとりまとめについて

(社会・援護局障害保健福祉部 精神・障害保健課)

1.我が国の自殺の現状

平成10年に、それまで年間2万人台前半で推移していた自殺者数が3万人を超えました。それ以降は、3万人を超える高い水準で推移をしています。

近年の自殺死亡者数の推移

警察庁の発表によると、平成21年の自殺者数は32,845人、自殺死亡率(人口10万人あたりの自殺者数)は25.8であり、平成21年度交通事故死者数の4,914人に比べても高い数字になっています。また、自殺は国内の死因別の順位で第7位であり、主要7か国の中でも、男女とも日本が最も高い数字となっています。

平成21年9月から平成22年6月までの10か月では自殺者数が前年同期比で6.4%減少しています。今後とも、強い気持ちを持って、「生きる支援」として自殺対策を推進していくことが必要です。

2.自殺・うつ病等対策プロジェクトチーム

厚生労働省では、これまでも様々な自殺対策(※)を実施していますが、省を挙げて取り組んでいくため、平成22年1月に自殺・うつ病等対策プロジェクトチームを立ち上げ、5回にわたり有識者の方々からのヒアリング及び議論を行うとともに、人口動態統計など、自殺に関するデータの分析等を行い、自殺の実態を踏まえた対策を検討してきました。その結果、5月28日に報告をとりまとめ、今後の厚生労働省の対策として五本柱を示しました。

まず、「いのちを守る」というメッセージを発し、「支えられている」という安心感を持っていただけるよう、「柱1−普及啓発の重点的実施」として、キャンペーンの実施やウェブサイトの充実などにより、当事者の気持ちに寄り添ったメッセージを発信していきます。

自殺の実態の分析からは、自殺には多くの要因が関連しており、中でも、無職者、独居者、生活保護受給者等は自殺のリスクが高いことが分かりました。「柱2−ゲートキーパー機能の充実と地域連携体制の構築」として、ハローワーク等での相談・支援体制の強化、精神疾患を有する生活保護受給者への相談支援体制の充実などにより、悩みのある人を、早く的確に必要な支援につなぐことを目指します。

一方、有職者の自殺率も上昇しており、「柱3−職場におけるメンタルヘルス対策・職場復帰支援の充実」として、職場におけるメンタルヘルス不調者を把握する方法や、職場での支援体制の強化について検討するほか、産業保健スタッフの養成や職場環境のモニタリングなど、一人一人を大切にする職場づくりを進めます。

自殺の背景には、うつ病をはじめとする様々な精神疾患が関連することが多いと言われていますが、治療を受けていない方々も多くいます。「柱4−アウトリーチ(訪問支援)の充実」として、一人一人の身近な生活の場に支援を届ける体制づくりを進めます。

また、精神科医療の改革と診療の質の向上も求められており、「柱5−精神保健医療改革の推進」として、認知行動療法の普及や自殺未遂者に対する医療体制の強化など、質の高い医療提供体制づくりを進めます。
(自殺・うつ病等対策プロジェクトチーム報告)

https://www.mhlw.go.jp/bunya/shougaihoken/jisatsu/torimatome.html
このような対策を通じて、誰もが安心して生きられる温かい社会づくりを目指していきます。

(※)これまでの自殺対策の概要

(1)うつ病対策

自殺既遂者に対する調査からは、うつ病等の気分障害が自殺の要因として特に重要であることが明らかになっており、厚生労働省における自殺対策においても、その中核となっているのはうつ病対策です。

平成19年以降の警視庁統計における自殺の原因・同期

i)うつ病の現状

厚生労働省が3年ごとに全国の医療施設に対して行っている「患者調査」によると、平成8年には43.3万人だったうつ病等の気分障害の総患者数は、平成20年には104.1万人と12年間で2.4倍に増加しました。「患者調査」は、医療機関に受診している患者数の統計データですが、うつ病患者の医療機関への受診率は低いことがわかっており、実際にはこれより多くの患者がいることが推測されます。

気分障害患者数の推移

厚生労働省では、うつ病を、極めて重要な健康問題としてとらえ、心の健康を保つための心の健康づくりから、早期発見、うつ病にかかったときの治療や社会的支援にわたる対策を進めています。

ii)早期発見

うつ病にかかっていても、医療機関に受診していない人が多い状況にあり、本人が不調に気づき、専門医へ適切に受診できることが重要です。うつ病に関する一般への普及啓発と、地域の保健医療体制等によるうつ病の早期発見をすすめてきました。

○地域保健におけるうつ病の普及啓発、早期発見、受診促進等を推進するために、行政関係者向け及び保健医療従事者向けに、「うつ対策推進方策マニュアル−都道府県・市町村職員のために−」、「うつ対応マニュアル−保健医療従事者のために−」の2つのマニュアルを作成しました。各種研修会や講習会等で周知を図っています。
https://www.mhlw.go.jp/bunya/shougaihoken/kokoro/index.html

○また、市町村が実施している介護予防事業における介護リスクを図るための「基本チェックリスト」にはうつ病に関する項目が入っており、それを活用してうつ病高齢者の早期発見を進めることができるよう、「うつ予防・支援マニュアル」(平成21年改訂)を示しました。
https://www.mhlw.go.jp/topics/2009/05/tp0501-1.html

○早期の対応には、内科医等かかりつけ医に受診した段階でうつ病患者を見つけることが有効であると考えられます。地域のかかりつけ医にうつ病に関する基礎的な知識や精神科医との連携方法等に関する研修を行う、かかりつけ医心の健康対応力向上研修事業を実施しています。

○平成20年の診療報酬改定において、精神科以外を標榜する医療機関がうつ病等の精神疾患の疑いで患者を精神科に紹介した場合の評価を新設しました。かかりつけ医におけるうつ病の早期発見を促進する効果が期待されています。

○平成19年度から21年度まで、地域における自殺対策モデルの確立を目的とした「地域自殺対策推進事業」を実施しました。その中で、静岡県が富士市で実施した「富士モデル事業」は、うつ病でよく見られる症状の一つである不眠に着目し、様々な広告媒体を通じたうつ病の普及啓発活動を実施したもので、これは睡眠キャンペーンとして全国展開されました。さらに、かかりつけ医や産業医、薬剤師から不眠を訴える患者を精神科医につなぐためのシステムを構築し、専門医への受診促進も図りました。

ポスター
iii)うつ病にかかったときの治療

うつ病では、その方に応じた適切な治療を受けられることが大切です。このため、厚生労働省では、治療法に関する研究への助成などを行ってきました。

○認知行動療法はうつ病や自殺予防に対する有効性が示されている精神療法で、欧米を中心に広く行われていますが、日本ではまだ十分に普及していません。平成22年1月に、厚生労働省の研究班が作成したうつ病に対する認知行動療法の実施マニュアルを厚生労働省のホームページに掲載しました。
https://www.mhlw.go.jp/bunya/shougaihoken/kokoro/index.html
 また、平成22年4月から認知行動療法の診療報酬上の評価が新設されました。認知行動療法が薬物療法と同様に精神科臨床において広く実施されるよう、医療従事者への研修を行うなど、普及を進めていきます。

(2)アルコール問題対策

うつ病等の気分障害とともに自殺の大きな要因となっているのは、アルコール依存症等が含まれる物質関連障害です。うつ状態に陥った際に不眠や抑うつ気分の解消のためにアルコールを使用することは、うつ状態の悪化につながる行為として極めて有害です。そのため、自殺対策の観点からアルコールの有害使用についての対策を積極的に実施する必要があります。

○自殺既遂者に対する調査からは、特に中高年男性の自殺者において、死の直前に飲酒量が増加したり、飲酒した状態で自殺企図に至っている等、自殺に際してのアルコールの有害使用が少なからず認められることがわかっています。飲酒が不眠や抑うつ気分の解消のために有用だという誤解を解消し、アルコールとうつ・自殺との関連について広く知ってもらうため、特に中高年男性をターゲットとしたリーフレット(「のめば、のまれる」)を作成し、普及啓発活動を行っています。
http://ikiru.ncnp.go.jp/ikiru-hp/index.html

リーフレット

○アルコール依存症や薬物依存症の回復に有効と考えられている自助団体の活動の支援や、関係機関による依存症対策に係る地域連携体制の構築と効果的な依存症対策の開発・実施を目的として、平成21年度から「地域依存症対策推進モデル事業」を開始し、地域における依存症対策の推進を図っています。

○また、平成22年4月から、重度のアルコール依存症の患者に対して専門的な入院医療を行った場合の診療報酬の加算が新設されました。

(3)自殺未遂者への支援

自殺未遂者は、実際に自殺企図を行っているという点で最も自殺のリスクの高い者と考える必要があり、十分なケアが必要です。

○平成17年から、救命救急センターに搬送された自殺未遂者に対して精神医学的評価に基づくケース・マネージメントを実施し、その有効性を検証する研究を実施しています(自殺企図の再発防止に対する複合的ケース・マネージメントの効果:多施設共同による無作為化比較研究:ACTION-J)。
http://www.jfnm.or.jp/itaku/J-MISP/index.html

○平成18年12月から、「自殺未遂者・自殺者親族等のケアに関する検討会」を開催し、自殺未遂者が再企図しないために必要な支援等についての有識者の意見を、平成20年3月にとりまとめました。

○研究で蓄積された自殺未遂者対応に関する現場でのノウハウや、この検討会の報告を基に、厚生労働省の研究班と日本臨床救急医学会との協同で「自殺未遂者への対応−救急外来(ER)・救急科・救命救急センターのスタッフのための手引き」を作成しました。
https://www.mhlw.go.jp/bunya/shougaihoken/jisatsu/index.html
 この手引きを基に救急医療従事者に対して自殺未遂者ケアに関する研修会を厚生労働省と日本臨床救急医学会との共同開催で実施する等、救命救急医療現場における自殺未遂者への対応技術の普及を進めています。

○また、厚生労働省の研究班と日本精神科救急学会との協同で「精神科救急医療ガイドライン−自殺未遂者対応」を作成し、精神科医療従事者に対する自殺未遂者ケアに関する研修会を厚生労働省と同学会との共同開催で実施する等、精神科医療の現場についても自殺未遂者への対応技術の普及を進めています。

(4)複合的な自殺対策

精神疾患に至るまでには経済社会的問題、生活問題、学校問題等、様々な要因が積み重なっていることも多く、精神保健分野での自殺対策を生かすためには、精神保健以外の領域における対策も併せて実施することが必要です。

○平成17年から、様々な視点からの自殺対策を組み合わせたプログラムに基づく自殺対策を実施して、複合的な自殺対策の有効性を検証する研究を実施しています(複合的自殺対策プログラムの自殺企図予防効果に関する地域介入研究:NOCOMIT-J)
http://www.jfnm.or.jp/itaku/J-MISP/index.html

○この研究を通じて、これまで僅かな実施例しか知られていなかった地域での自殺対策に関するノウハウが蓄積され、それらを基にした地域における自殺対策の基盤作りが進みつつあります。この研究で実際に使用されているプログラムを「地域における自殺対策プログラム」としてまとめ、厚生労働省のホームページに掲載しています。
https://www.mhlw.go.jp/bunya/shougaihoken/jisatsu/index.html

(5)職場のメンタルヘルス対策

自殺者数のうち、「勤務問題」を自殺の原因の一つとしている者は約2,500人に達しています。また、職業生活等において強い不安、ストレス等を感じる労働者は約6割に上っており、精神障害等による労災支給決定件数も増加傾向にあります。

このため、関係法令の整備や、メンタルヘルスケアの原則的な実施方法を定めた指針の策定等を行うとともに、労働基準監督署を通じた事業者への指導の実施、事業者の講じるメンタルヘルス対策への支援等を行っています。
https://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/anzeneisei12/index.html

○労働者の自殺の防止を図るため「職場における自殺の予防と対応」(自殺予防マニュアル 平成18年改訂)を策定し、自殺予防の十箇条、日常の配慮と相談対応、自殺後に遺された人への対応等、自殺防止に関する周知啓発を行っています。
http://www.jaish.gr.jp/information/mental.html

○平成21年10月には、メンタルヘルス・ポータルサイト「こころの耳」を設置し、事業者、産業保健スタッフ、労働者やその家族等に対してメンタルヘルスに関する様々な情報を提供しています。
http://kokoro.mhlw.go.jp/

働く人のメンタルヘルスポータルサイト「こころの耳」
(6)民間団体の活動に対する支援

○「いのちの電話」をはじめいくつかの民間団体において、自殺を防止するための電話相談活動などが行われています。「自殺防止対策事業」の中で、ボランティア等で先駆的・試行的な自殺対策の取組を行う民間団体に財政的支援を行っており、相談員に対する研修、フリーダイヤル電話相談の実施等の事業を行う複数の団体がその対象となっています。


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