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2.暴露評価関係

1)器具・容器包装由来のDEHP暴露について

(132) 昨年6月の審議会での手袋/コンビニ弁当の場合は、1食分でTDIを超えるDEHP摂取量になることがはっきりしていたが、今回の審議会では、DEHPを含むPVC製品に接触した具体的な食品、およびその食品からのDEHP摂取量等がTDIを超える、あるいはその可能性が大との、客観的リスク(規制の必然性)が示されないのになぜ製造禁止にまで至ったのか。資料No.5では、177検体の市販食品で手袋に起因すると思われるもの以外では、TDIを超える摂取量となるものはないとしている。同資料でPVC配管からのDEHPの移行が疑われているが、疑わしければ追跡調査、実証すべきであったと思われる。

(133) 現在生産されている食品器具及び容器包装では人の健康を害するほどDEHPが食品へ移行するとは考えられない。生産する側も充分に認識して生産しており、TDIに近づく恐れが全く無いものをどうして法規制する必要があるのか。

(134) 判断の指標としてTDIを使用するなら、推定1日摂取量(食品とDEHP量)を求めねばならないが、求め方が決まっているのか。食品中濃度を直接測定すればよいわけだが、疑似溶媒での移行値から判断するには、実食品濃度に換算するための換算式、係数等が必要と思われる。資料No.5のホース、フィルムのn-ヘプタンへの溶出試験はどういう意味があるのか。この値と実食品中の濃度の相関が不明なのに、この溶出液を1日1kg食べるとTDIを超えるとしているが、これは非現実的な仮定による判断である。

(135) 手袋から食品へのDEHP移行問題は、米国FDAやJHP規格を遵守しておれば発生しなかったと思われ、改正に反対する。

(136) 「フタル酸エステル類(可塑剤)を含有するPVCを油脂、脂肪性食品の器具、及び包装容器を製造してはならない」と言う法規制化について、そもそもは、先に社会問題化していた「ビニル手袋」から発生した強化措置、法制化と思われる。しかし、あの「ビニル手袋」はほとんどが台湾製等の海外品であり、法外な可塑剤含有量が話題にもならず、ただ現象だけを追求された。「化学成分表示を義務付けたうえ、含有制限基準を設けていたら充分に製品として使用継続可能だったのではないか」と考える。

(回答)
 DEHPを含有するPVC製手袋の使用により、1食分でTDIを超えるDEHP摂取量になる弁当の存在が判明し、その原因について検討した結果、DEHPを含むPVC製品が油分を含む食品に接触すると、食品中にDEHPが極めて容易に移行し、接触時間に比例して移行が増加することが明確になりました。
 1食分でTDIを超えるDEHP摂取量になる食品が現実に生じたわけであり、その後に得られた調査研究の結果を検討した結果、DEHPを含むPVC製品の油分を含む食品との接触によって相当量のDEHPが移行することが明確になりました。
 DEHPを含む食品用の器具・容器包装によって一定のリスクが生ずることは間違いなく、そのようなリスクを減少させることを目的として必要な措置を講じるべきと考えます。
 今回の規格基準案は、食品に多量のDEHPが移行することがないよう、油分を含む食品にDEHPを含むPVC製品が接触することがないようすることが本旨であり、油分を含まない食品用の容器等、DEHPの食品への移行のおそれがないものについてまで規制しようとしているものではありません。
 現在生産されている食品用の器具及び容器包装では、DEHPの使用を避けられている場合が多く、DEHPの使用頻度は高くないものと認識していますが、油分を含む食品にDEHPを含むPVC製品が接触することによって相当量のDEHPが移行することは明らかであり、法的な規制が必要と判断されます。
 食品中の化学物質の分析結果等から、ご指摘のように、現状においては健康被害の発生を直ちに心配する必要は少ないものと判断されますが、現実に1食分でTDIを超えるDEHP摂取量になるような事例が存在したわけであり、これを重く受け止め、現在の状態を今後とも担保するためにも法的な規制措置が必要と考えます。
 今回の措置は、推定1日摂取量を求め、それがTDIを超えているために規制しようとするものではありません。現実に1食分でTDIを超えるDEHP摂取量になるような事例が存在したわけであり、油分を含む食品の模擬実験となるn-ヘプタンによる溶出試験により、DEHPの含量が低い場合でも油分によりDEHPが多量に溶出することが明確になったこと等から、油分を含む食品にDEHPを含むPVC製品が接触する機会を極力少なくなるよう、規制措置を講じようとしているものです。
 接触時間等、食品へのDEHPの移行量が増加する因子があることも明確で、成分表示と含量規制のみでは不十分と判断されます。
 なお、手袋以外の製品であっても、可塑剤としてDEHPが使用される場合、数十%程度の含量で使用されることは通常の使用のされ方であり、問題となった手袋のDEHP含量が法外であったとは考えられません。

2)おもちや由来の暴露について

(137) TDIに近づくだけでも許されないと言う論理は間違っている。

(138) 国が定めるTDIとの関係で判断すべきである。TDIに達しないのであれば、安全とするのが、科学的判断だと思う。

(139) 本措置の根拠となっているフタル酸エステル類の暴露量に基づくリスク評価では、その暴露の値が十分TDI以下であると明記されながらも規制を行う結論に至ったことは理解しがたい。

(140) 今回の規制の基準として、新聞では「生涯取り続けても健康に影響がない量として国が定める許容一日摂取量に近いDINP、DEHPを取る可能性があることが分かった」と報道されていたが、実際として近いということは最大摂取量が達しないということなのかどうなのか、曖昧なまま、これを基準に規制を行うことに関して大変な矛盾を感じている。

(141) 今回の法改正は「超安全サイドに立脚した一生涯摂取しても影響がない数値であるTDIを、全論理的確率の中で極まれなケースにおいて超える可能性があるので、その物質の使用を禁止する。」ということのようだが、法制化するには、その根拠があまりに非科学的であり、一方的だと思う。こうした措置がとられると、せっかくの厚生行政への信頼性を損なう懸念もあるので再考されたい。

(142) 現実的にはおもちゃからTDIを超えるフタル酸エステルを摂取している状況が無いこと、ごくまれな場合、TDIを超える可能性があるとの理解でよいか。

(143) 少なくとも乳幼児において超えるとの判断には乏しいと思われるが、今回の規制がTDI値を明らかに超えると判断した根拠はどこにあるのか。

(144) 乳幼児で可能な最大摂取量を見積もった結果、TDIに近いけれども達しなかったのであれば、これは「安全」な証拠ではないか。TDIに近いが達しなかったのであれば、安全であるとするのが科学的判断であり、TDIの意味ではないか。科学的根拠に基づいて規制を考えるといいながら、そうでないのは何故か。TDIを超えないように規制しなければならないという理屈なら分かるが、TDIに近いレベルであってもTDIを超えないならば、健康に害がないと解釈するのが、科学的な判断なのではないか。

(145) DEHP、DINPの暴露量がTDIを超えていないにもかかわらず、DEHP、DINPの規制をするのは何故か。対象が乳幼児であり、リスクは最小限に抑えなければならないという特殊事情への配慮が理由としても、このような考え方は非科学的で、TDIの定義を曖昧にし、混乱を招く。対象が乳幼児の場合も織り込んでTDIの算出方法が決められているわけであるから、TDIを超えていないのに規制するのは極めて重大な誤りである。

(146) 資料8においてTDIとして設定した下限値を上回るのは乳幼児の3.1%と推定されるとあるが、これは『ヒトへの精巣毒性などハザードの低いDEHP、DINPに対し、安全といわれる暴露量(TDI値)を超える乳幼児の割合は低い』と理解してよいか。

(147) おしゃぶりの実験による乳幼児への影響の根拠は何を言わんとしているか。これは我々乳幼児を持つ親にとっては深刻な問題である。TDI(耐容一日摂取量)とはどういう意味を持つのか。この値に強調試験で達しなくても近い値だと危険なのか。十分安全な領域の数値ではないのか。これでは何を利用して何を飲ませ、何を食べさせ、何を着せ、何処に住めば、自分・家族が最低限幸せに暮らせるのかわからない。ダメだ、心配だ、と公的に発表した以上は代案をも明確に表明する義務があると思われる。

(148) 今回の玩具のMouthingによるDEHPへの暴露量は、TDIを40μg/kg/dayとすれば、わずかにこれを超える場合があり得る、という結論といえるが、だからと言って直ちに規制しなければならないことになるのか。

(149) しゃぶるものが玩具のみと想定、かつDEHPを含有するPVC製と仮定した場合、暴露量はTDIの下限値に近くなり、場合によってはTDIを超える可能性があるとの理解でよいか。

(150) DINPはおしゃぶりに使用しても現実的にはTDIを超える可能性はなく、極端な条件を想定すると、TDI近くの可能性は否定できないとの理解でよいか。

(151) DINPはTDIを超える可能性はない(極端な条件でもTDI近く)ので、おしゃぶり等にDINPを使用することを禁止する案は採用すべきではない。

(152) DINPにいたっては、TDIを超える可能性が全くと言っていいほどないにもかかわらず、即禁止というのは理解に苦しむ。

(153) 今回の研究班の推定では、幼児がおしゃぶりから摂取するDINPについて最大値を推定すると、TDIを超えることはないので、安全であるとするのが科学的な判断である。

(154) 今回の研究班の報告をまとめると「乳幼児がおもちゃを口に含む時間のうち、一番長い時間と、大人におもちゃをなめてもらった結果の最大溶出量をかけ算した値では、国が定めるTDIに近くなる。」ということは、「幼児がおしゃぶりから摂取するDINPについて最大値を推定すると、一生取り続けても健康に影響がないと定めたTDIを超えることはない。」ということを意味し、したがって安全であるとするのが、科学的な判断である。即ち、おしゃぶりにDINPを使用することを禁止するのは科学的ではない。

(155) 乳幼児が口にするおもちゃにDINPを含むPVCの使用を禁止するとあるが、その溶出量、摂取量がTDIよりも少ないにも関わらず、なぜ使用禁止になるのか。

(156) おもちゃのMouthingによるDINP暴露量は33.2μg/kg/dayであるのに対し、DINPのTDIは150μg/kg/dayで、TDIを超えておらず、DINPの使用禁止規制には論理的矛盾がある。矛盾のある論理での規制について、その判断の開示を要望する。

(157) 厚生労働省の報告書では、乳幼児の「おしゃぶり乳首(塩ビは使用されていない)」を除く玩具を口に含む推定最長時間大人に塩ビ製玩具を舐めてもらってDINPの溶出量を求めた結果、その値は約33μg/kg/dayとなりTDI値である150μg/kg/dayを下回っている。また、特定の仮定を置いた場合の検討でも、その溶出量はTDI値以下であることが確認されている。従って、これらのことを考慮すると、DINPを玩具に使用しても最悪でも溶出量はTDI値以下であることが確認されたことになり、TDIの考え方からすると、むしろDINPが安全であることが確認されたと判断する方が妥当ではないか。

(158) 「おもちゃを口に入れる時間が長い乳幼児に限れば、生涯取り続けても健康に影響がない量として国が定めるTDIに近いDINPを取る可能性があることが分かった」との新聞報道があったが、これはTDIという考え方を否定することになると考える。

(159) ダイオキシン類のパンフレットで「ダイオキシンの平均摂取量は2.25pg/kg/dayであり、安全の目安となるTDI(4pg/kg/day)以下であり、健康に影響を与えるものでは有りません」とあり、最高に摂取すると仮定して計算しても、TDI並にしかならないDINPを禁止することは上記の表現と整合性が取れない。

(160) DINPの耐容一日摂取量は150μg/kg/dayとなっている。一方、厚生労働省の資料によると、玩具から乳幼児が取りうる最大摂取量を見積もった結果は33μg/kg/dayとなっている。即ち許容内の結果であり、規制の対象とする必要のない物質であると解釈できるにもかかわらず規制するとしており矛盾がある。

(161) DEHPに関しても同様に言えることであるが、特にDINPに関しては欧米諸国でも、まだ科学的な調査・研究が十分ではなく、国際的に議論不足でグローバルスタンダード的な共通認識が整っていないことに加えて、代替品に対する同様の試験結果がまだ十分に出揃っていない現状に鑑み、今回むしろTDI以下であることが確認され、安全とも言えるDINPを逆に敢えて規制することは、どうしても納得できない。百歩譲っても時期尚早といえる。

(162) 資料8及び資料9ともに、DINPに関するリスク評価がDINPのTDI(150μg/kg/day;EU値)に基づかず、DEHPのTDI(40μg/kg/day)を用いて評価している。DINPの暴露量が150μg/kg/day以上となる割合がどの程度となるかが一つのポイントであり、これをベースに議論すべきである。

(163) 規制、又は禁止を正当化し説得出来る現実的なデータが欠落しているとしか見えない。赤ん坊の「歯固め」や「おしゃぶり乳首」にPVCは使用されていないし、又玩具のMountingによるDINPへの暴露量はTDI設定値を下回っており、何ら規制する必要はないと考える。

(164) 「DINPについてはおしゃぶりに使用されたとしてもTDIを超える暴露は生じないと考えるが、極端な条件を想定するとTDI近くの暴露が生じる可能性は否定できない」と結論づけているが、科学的根拠に基づいて規制する方針であれば、DINPは規制対象に入らないと言える。DINPを規制する科学的根拠を説明されたい。

(165) 「歯固め」、「おしゃぶり乳首」には、PVCは使用されていない為、「おしゃぶり乳首」の MouthingによるDINPへの暴露量は0である。厚生労働省の報告書では、総Mouthing時間から「おしゃぶり乳首」のMouthing時間を除外した、玩具のMouthingによるDINPへの暴露量は33.2μg/kg/dayで、TDIの150μg/kg/dayを超えていない。また、特定の仮定をおいた場合の検討でも、玩具のMouthingによるDINPへの暴露量はTDIを超えておらず、規制の対象とする必要はない。

(166) 不用意に化学物質を摂取することは好ましいことではないが、他にメリットがある場合は、TDI以下を守りつつ、そのメリットを享受してかまわないということではないか。TDIとは絶対に守らなければならない量と考えて、この値に対して更に安全係数をかける必要があると考えているのか。その場合、その安全係数はどの程度を考えているのか。

(167) TDIは、数値を決めるときに、既に、不確定要素を組み込んで、大きく安全係数が掛けられている。その上、暴露量の見積もりで極めて少ない確率も考慮するのは、二重に安全を見込むことになる。健康被害が重大な場合には、そのような手続きもゆるされるかもしれない。しかし、今回のDEHPの問題は、そもそも霊長類では起こらないかもしれないとする意見もあることを考慮すれば、それほどに厳しく見なければならない必然性がない。それとも、別の確たる理由があるのか。

(168) 改正案の表現では、すべてのDEHPを含むPVCのおもちゃが禁止されるが、この禁止の根拠が見当たらない。口に入れる可能性のごく少ないもので、TDIを超える可能性があるのか。科学に基づいての評価からの結論とは思えず、この項目は削除されたい。

(回答)
 乳幼児のMouthing時間及び口腔内溶出試験の結果から、TDIを超える暴露があり得ることが判明したため規制しようとするものです。検討結果から、仮にDINPを含有するPVC製のおしゃぶりが使用されたとしても大多数の乳幼児ではTDIを超える暴露は生じないものと考えられますが、TDIを大きく超える暴露が生じる可能性は少ないもののTDIを超える暴露が生じることがあり得ることが判明しました。
 おもちや由来の暴露によってTDIを超える暴露が生じることがあり得ることは検討結果から明確でありますが、TDIを大きく超える暴露ではないことから、合同部会の資料中では「TDI近く」という表現を用いました。
 例えば、食品衛生法に基づく残留農薬基準の設定においては、水、空気等からの暴露を正確に試算することが困難であることから、便宜上、水、空気等からの農薬の暴露量としてADIの20%を割り当てて、食品中の残留農薬について暴露の評価をしていますが、今回は、乳幼児のMouthing時間及び口腔内溶出試験の結果の分布が極めて幅広くなることが判明したことを踏まえ、多量に暴露される条件を念頭に検討を行ったため、玩具以外からの暴露は考慮せずに検討を行っております。
 今回の規制の対象は、乳幼児向けのおもちやであり、すべてのDEHPを含むPVCのおもちやが禁止されるわけではありません。
 乳幼児向けのおもちやについては、口に入れる可能性のごく少ないものではなく、口に入れる可能性が高いことから食品衛生法による規制の対象となっております。
 乳幼児のMouthing行動のデータから、TDIを超える暴露が生じないよう、今回の規制措置が検討されたものであり、科学的評価に基づいて規格基準案を検討しております。
 今回、法改正は考えておらず、今回の規制措置は、食品衛生法に基づく告示の改正です。
 TDIは安全サイドに立脚したものですが、通常以上の不確実係数を設けているわけでもなく、「超」安全サイドに立脚したという表現は不適切と考えます。
 DINPを含むPVC製のおしゃぶりを長時間Mouthingする乳幼児がいた場合、出現頻度は低いものの、TDIを超える暴露があり得ることが判明しながら、何等規制しないことが科学的な判断であるとは考えられません。
 また、玩具の業界団体は、今回のDINPの規制対象となる玩具については、既に独自にPVCを使用しない旨意思表示されています。
 今回の使用禁止措置は全面的な使用禁止ではなく、国民の健康を守るため、TDIを超える暴露をもたらす可能性のある範囲での使用禁止を規格基準により定めようとするものであり、その根拠は科学的な検討結果に基づくものです。
 現実的にはおもちやからTDIを超えるフタル酸エステルを摂取する可能性は少ないものと判断されますが、口腔内溶出で多量溶出する場合があることと長時間Mouthingする場合があることが明確になっており、試算の結果からTDIを超える可能性はあると判断されます。
 実際のデータの分布から見て、資料8における推定手法は分布の端の方を小さく見積もる可能性がある手法であることに留意することが必要ですが、TDIを超える暴露が生じる可能性はそれほど高いものではないと判断して差し支えないものと考えます。
 おもちやのDEHPについて、TDIを超える暴露が生じ得ることが判明した以上、適切な規制措置を講じるべきものと考えます。なお、規制措置の施行には適当な猶予期間を置くことを予定しています。
 Mouthingデータから、しゃぶるものが玩具のみと想定、かつそれがDEHPを含有するPVC製と仮定した場合、DEHPのTDIの下限値を超える暴露が生じる可能性があります。
 DINPについては、おしゃぶりに使用された場合、極端な条件を想定すると、計算上最大150.8μg/kgの暴露となります(この場合もおもちや以外からの暴露は想定していません)ことから、DINPのTDI(150μg/kg)を大きく超えることはないとしても、TDIを超える暴露が生じる可能性は否定できないものと考えられます。
 TDIは、その値を超えると直ちに健康被害が発生するといった値ではありませんが、規制措置の必要性の有無等を検討する際には、TDIを指標としており、事例の特性に留意しながら、TDIを超える暴露が生じることがないよう検討すべきものと考えます。
 今回、TDIを超えるとしても大きく超えるものではないと考えられたことから資料中ではTDI近くという表現を用いていますが、TDIを超える暴露があり得ることが判明しても何等規制しないという判断が適切とは思えません。
 食品由来の暴露とおもちゃからの暴露とは、暴露の形態が異なり、それぞれの特性を踏まえた暴露評価の検討手法をそれぞれ用いるべきと考えます。食品由来のダイオキシンの暴露評価ではTDIを超えないことが判明しており、整合性には問題ないものと考えます。
 おもちやからの暴露の評価については、食品由来の暴露等よりも暴露量の分布幅がはるかに大きく、一つのおもちやをしばらくの間使用し続けることが想定されるという乳幼児の行動態様に鑑み、極端な条件をも考慮することが適当と考えられたことから、今回の評価方法は妥当なものと考えます。
 例えば、食品中に残留する農薬の暴露の評価においては、食品以外からの農薬の暴露量としてADIの20%を割り当てていますが、今回は、他からの暴露は考慮に入れず、極端な条件下におけるおもちや由来の暴露を検討しております。
 資料中の「玩具」には「おしゃぶり」等は含まれておりません。規格基準案が施行された後であっても、DINPを含むPVCは資料中の「玩具」に使用することは差し支えありません。DINPの規制対象は「乳幼児が口に含むことをその本質とするおもちや」です。
 資料9ではDINPのTDIに基づく整理も行っております。
 ご指摘のとおり「歯固め」や「おしゃぶり乳首」にPVCは使用されていないのであれば、今回の規制措置によって、安全な現状が将来的にも継続することが確保されることになります。規制措置を講じなければ、将来、DINPやDEHPを含有するおしゃぶり等が使用されることも想定されます。
 おもちやについては、既におしゃぶり等についてはPVCは使用しない旨業界団体も意思表示しており、また、「乳幼児が口に含むことをその本質とするおもちや」以外についてはDINPの使用は差し支えないものです。
 また、すべてのDEHPを含むPVCのおもちゃを禁止するものではありません。
 Chewingにより多量に溶出する場合があることと長時間Mouthingする場合があることは無視し得ません。おもちや由来の暴露は極めて幅の広い分布を示す事象であり、極端な条件下におかれることを想定した事例をも視野に入れることは不当なことではないと考えます。乳幼児がDINPを含むPVC製おしゃぶりを長時間しゃぶらないのであれば規制は不要でしょうが、長時間しゃぶることがありえることが判明している以上、規制は止むを得ないと判断されます。

3)おもちや由来の暴露の検討の前提条件について

(169) 全ての玩具がPVC製で、その全てにDEHPあるいはDINPが39%含まれるという仮定が両立する為には、可塑剤含量は78%ということになるが、この仮定は非現実的である。市場調査と統計学を用いれば塩ビ製玩具の比率や可塑剤を含む玩具の(可塑剤の種類毎の)割合、含量等を推定することはさほど困難ではないはずである。この様な非現実的な仮定に基づく規制こそ“予防的措置”以外の何ものでもない。

(170) DEHPの暴露量がTDIに近くなる可能性が示されているが、これはすべてのおもちゃをDEHPの塩ビおもちゃと仮定したもので、現実的には種々の材質が混在していると考えられるため、実質的にTDIを超えることはないと思われる。TDIを超える可能性がないので何ら規制は必要が無いと考える。

(171) DEHPに関しては、資料8の要旨の項に「DEHPがDINPと同量含まれ、同様に溶出するとした場合」と仮定している。DEHPとDINPの含量にはそれぞればらつきがあるが、試験に用いられた39%含有試料を用いることに異論はないが、同様に溶出するかどうかは、試験してみないと分からないはずであり、このような推定は科学的に正しいとは言えない。当該標品を用いた試験データに基づくか、あるいは合理的な根拠を示すべきである。

(回答)
 DEHPあるいはDINPの暴露を検討する場合、それぞれについて含量の仮定(前提)を置くことが必要になります。いくつかの仮定(前提)が、現実の暴露よりも暴露を過大に見込む方向になることはやむを得ないものと考えますし、暴露評価においては暴露を少なく見積もることになる前提条件も含んでいます。
 また、おもちやの場合には、一つのものをしばらくの間、使用し続けることも念頭に置かざるを得ません。市場占有率が低くとも、安全性に一定の懸念のある玩具については規制措置が講じられてしかるべきものと考えます。
 DEHPとDINPの溶出については、厚生科学研究における溶出実験の成果から、DEHPの方がDINPよりも溶出が少ない可能性はあるものの、ほぼ同様に溶出すると仮定して問題ないものと判断されます。

4)Mouthingデータについて

(172) ChewingによるDINPの溶出は個人間で極めて大きなばらつきがあったようだが、その原因も解明しないまま、この試験のデータを用いるのは極めて非科学的と言わざるを得ない。また、大人のChewingデータを用いて3才未満の乳幼児のMouthingによる暴露を見積もることの妥当性が証明されていない。したがって、このChewing試験のデータを根拠とする規制に、科学的な裏付けはない。

(173) 乳児の摂取量を大人の唾液中の濃度から推定しているが、(1)大人が意識的にかつ積極的にしゃぶった場合と乳幼児が口元寂しさを紛らわせるために口に含んでいる場合(積極的にしゃぶっているわけではない)では、唾液の出る量が違うことを考慮すべきではないか?また、(2)乳幼児はつばを飲み込む能力に欠け常によだれをたらしていることから、唾液=吸引量とはならないのではないか?この点をどう考えるか。

(174) 注意を要する可能性があるとCHAPが指摘する一つのケースは、一日に75分以上DINP含有物を日常的に口にする子供を想定した場合である。しかし、これを決定するためにCHAPが使用した、数多くのかなり控えめな仮説からは、きわめて非現実的な極端な暴露のシナリオが導き出されており、したがって暴露は、すべての子供について健康上の基準を十分に下回っていることが見込まれる。

(175) 根拠となる研究結果については推定部分が多く、Mouthing行動調査も、オランダでの結果等との違いがあり、更に再現テストで明らかにした上で判断する必要がある。

(回答)
 ChewingによるDINPの溶出試験結果では個人間で極めて大きなばらつきがありましたが、その原因が解明されないからといって、その試験データを用いられないということはないと考えます。乳幼児が接触するおもちやの安全性の確保という観点からは、むしろ、そういう事象が起こり得るということを前提に検討を進めるべきであると考えます。
 乳幼児を対象としたChewing実験を行うことは困難であり、また、不適切と考えます。
 成人と乳幼児のChewing行動の相違について、種々の意見はあり得ますが、成人と乳幼児とが大きく異なるというデータもなく、乳幼児のMouthingではむしろ積極的になめたり、吸ったり、かじったりしていることが多いことも事実であり、試験結果を補正する妥当な手法も現時点では得られていません。諸外国で行われている暴露の推計においても同様の手法が取られており、現時点において実施できる推計手法として適切な手法で検討したと考えています。
 前述のように、CHAPが指摘した一日に75分以上DINP含有物を日常的に口にする場合があり得ることが判明しております。
 暴露評価は一種の推定に基づくものではありますが、一定のリスクがあることは判明しており、現時点での判断は可能と考えます。
 平成11年度の厚生科学研究以降に実施された15例の観察においても、平成11年度の研究結果と同様のMouthing時間の分布が示されております。Mouthing行動は、子どもの発達、行動範囲、子供の周囲の玩具や物の状況、家族との関わりの状況等の養育環境により異なるため、オランダと日本の子どものMouthing時間が異なることは十分あり得ることと考えます。さらに、オランダの研究では、親がMouthing時間を測って記録していますが、日本の研究ではビデオ記録を行っており、記録方法の違いによる結果の相違も考えられます。

5)統計処理について

(176) 極端なケースを考慮することは統計学的に許されるのか。また、今後の行政判断も極端なケースを考慮する手法で行うとの理解でよいか。

(177) 今回の統計処理法は特異な方法とのことだが、妥当性は大隅教授の個人的な判断ではなく、学会等での議論を尽くされ、コンセンサスが得られた上でのものか。

(178) 資料No.8によると、平均一日摂取量は14.8±11.2μg/kg/dayであり、また、95パーセンタイル値は35.7μg/kg/dayとなったとあり、この数値がEUのTDI及び我が国のTDIと比較して、かなり下回ることが指摘されている。現実のデータが95%の範囲に落ちる確率の上限値35.7μg/kg/dayは我が国のTDI値の範囲外(下方)にあり、全く問題ないことを示している。このような結果が得られていながら、何故規制しなければならないのか。これはまさに恣意的判断と言わざるを得ない。

(179) 上限値35.7μg/kg/dayはTDIの下限値40μg/kg/dayに近く、この確率分布では、論理的にこの下限値を僅かながらオーバーする確率が存在する。しかしながら、その微少確率であっても行政措置を取る根拠とするなら、その論拠を明確にすべきである。

(180) 玩具のMouthingによるDINPへの暴露量(平均)は33.2μg/kg/dayであり、また、特定の仮定をおいた場合のDINPの暴露量(平均)でもTDIを超えていない。ということは、乳幼児のMouthingによりDINPの摂取があったとしても「健康上被害のない安全な範囲である」、とするのが科学的な判断ではないか。にもかかわらず、規制するのは、いかなる科学的根拠によるものなのか。

(181) 信頼性のないデータ、しかも統計学的な「はずれ値」まで用いてさえ、MouthingによってDINPのTDIを超える確率は僅かに0.12%である。TDIの定義は、一生涯暴露されても影響のない量と理解しているが、TDIを僅かでも、ごく希にでも超える可能性があれば禁止するというのは“科学的根拠に基づかない予防的措置”とは呼ばないのか。

(182) 「玩具由来のDEHPあるいはDINP暴露に関する推定」(資料9)については、平成12年度厚生科学研究のひとつである「高分子素材からなる生活関連製品由来の内分泌かく乱化学物質の分析及び動態解析」(資料8)を元に作成されたと考えられるが、資料8では、「玩具からのDINP一日摂取量の推定」の項で、(1)点推定法、(2)積の誤差法則による95パーセンタイル、及び(3)モンテカルロ法による推計が行われており、これらの統計処理法では、モンテカルロ法が最も現実的に起こりうる状態を反映した統計処理法と考えられると結論している。しかし、資料9では、「検討その3」として無作為抽出による推計を行っている。モンテカルロ法では、ハズレ値に対して出現頻度に関しての重み付けがなされ、より現実的な推計ができ、統計学的には無作為抽出法に比較し、信頼性が高い。資料9においても、モンテカルロ法による推計法を採用すべきであり、結果の評価もモンテカルロ法で得られたデータに基づくべきである。

(183) Mouthingの最長時間が351.8分で1検体のみ、しかもこのサンプルが群を抜いて長い。通常の統計処理ならこの様なサンプルは除外する。ところがこれを根拠に、しかも唾液への最大移行量を乗じてDINPもTDIに近づく、と強引に結論づけている(150μg/kg/dayを超える例は12/10,000の確率)。この手法で計算された僅か0.12%の確率で起こるかも知れない可能性が規制理由になることが理解できない。この手法が採用された具体例を示されたい。

(184) もっとも玩具を口に入れる機会の多かった6-10月の乳児の口中時間を測定しそれを拡大・一般化して全玩具の規制値計算に用いることは異なる母集団の間でデータを流用し、対象をすり替えた事であって許されない。これが許されるなら少年用・大人用であっても玩具と名がつけば同じ規制を受けることになる。「最悪な場合に安全なら全般的に安全である」とは言えるが、その逆は真ではない。

(回答)
 データの数値の取り得る分布の範囲が極めて大きい今回のような事例においては、暴露が大きくなる極端なケースを考慮するべきと考えます。検討手法はケースの特徴を考慮し、慎重に対象の事例に最も適切な手法を検討すべきものと考えます。
 統計的手法も最近では様々な方法論が展開されており、それぞれの問題に応じて適切な手法を適用するようになっております。今回の検討手法は、統計学的には何の問題もなく、探索的な検討を実施しているものです。
 おもちやからの暴露の評価については、食品由来の暴露等よりも暴露量の分布の取り得る範囲が極めて大きく、一つのおもちやをしばらくの間使用し続けることが想定されるという乳幼児の行動様態に鑑み、極端な条件をも考慮することが適当と考えられたことから、平均値等での評価を行わず、探索的な手法で検討を行った今回の評価方法は妥当なものと考えます。
 また、乳幼児が玩具等を長時間しゃぶることが判明した以上、それを所与の前提として検討すべきものと考えます。長時間しゃぶる子ども(上位25%群)が口腔内溶出が多い場合を想定すると、おしゃぶりを除く総Mouthing時間から40.68μg/kg/dayの暴露があり、DEHPのTDIの下限値を超える等の検討結果から、少数ながらもTDIを超える暴露の発生が懸念されることから、今回規制すべきものとの判断に至ったものです。
 35.7μg/kg/dayは上限値ではなく、95パーセンタイル値ですが、暴露が40μg/kg/dayを超える可能性は複数の検討結果から得られています。
 データに信頼性がないとする根拠は見あたりません。このグループ中では、統計学的には「はずれ値」とみなされる数値であっても、他の実験において同程度の溶出値は観察されております。
 TDIを超える暴露があり得ることが明確になりながら規制しないことが科学的な判断であるとも思えません。
 資料8でいうモンテカルロ法と資料9の検討手法には実質的な相違は少なく、今回のデータセットからは探索的手法による検討が統計学的に妥当なものと判断されます。
 玩具からの化学物質の暴露の評価は今回初めて実施したものです。
 長時間Mouthingする子どもの存在を無視するという考え方には同意いたしかねます。
 食品衛生法の規制の対象は乳幼児が接触することによりその健康を損なうおそれのあるものとして厚生労働大臣の指定するおもちやで、すべてのおもちやを対象としているわけではありません。Mouthing行動は、乳幼児期の成長発達と密接に関係しており、誰にも教わらずにMouthingが始まり、発達とともに自然に少なくなっていきますが、乳幼児の代表として6〜10ヵ月児のデータを用いることは安全性を確保する観点からは適切なものと考えます。最悪の場合に安全であれば、問題は生じないものと考えます。

6)器具容器・包装、おもちや以外に由来する暴露について

(185) 生活の中でのさまざまな暴露の実態が、調査により分かってきており、食品、おもちゃはもとより、室内空気のフタル酸ジブチル、DEHP等の汚染(1999年東京都衛生局調査)や自動車内空気のDEHPの高濃度汚染(星薬科大学中沢氏調査)の報告等がある。今回の改正案では、食品からのみ或いはおもちゃからのみの暴露量が推定試算され、TDIと比較検討されているが、当然のことながら生活全体の暴露量がTDIと比較検討されるべきである。

(186) フタル酸エステル摂取量をTDIと比較する場合、大気経由を含むおもちゃ以外の経路からのフタル酸エステル類の暴露も高くなる可能性があるが、これらの経路からの摂取を含めて勘案すべきと考える。

(回答)
 今回の検討に関しては、大気経由等からの暴露量を考慮する前に規制の必要性が判断出来ております。大気経由等からの暴露によるリスク評価については別途必要に応じて考慮すべきものと考えます。

7)海外の状況について

(187) 最近のEUのリスクマネジメントや米国消費者製品安全性委員会(CPSC)あるいはCHAPの見解では、DINPは人に対する危険性はないと明言しているが、なぜこれを採用しないのか。

(188) EUにおいて、子供の玩具に用いられている可塑剤のうち、主なものであるDINPについては、リスク評価の項目において、口の中に入れる玩具に関連する健康上の懸念はないと断定的に結論している。

(189) 2001年6月に発表されたCHAPの報告書の結論は、大多数の子供に関して はDINPを含む玩具からの暴露における害は最少、若しくは存在しないというものであった。この結論はCPSCの以前の予備的結論を確認するものであり、また1999年に子供用玩具に含まれるDINPの安全性を評価したもう一つの第3者グループ、Dr.Koopを議長とする審議会の結論を再確認するものである。

(190) CHAPの科学的調査の結果が6月に発表されており、報道記事では、フタレートに有利な結果が出ている。何故この結果が審議会に出されなかったのか不思議で、審議会委員も含めてこの情報に気付いていないとすれば、相当情報に疎い人たちと思う。

(191) CHAP報告そのものは規制ではなく、CPSCへの助言として提供されている。CPSCは、玩具を口にする子供の挙動及び子供が口にしたDINP含有品からのDINPの溶出に関するその他の情報と合わせて、このCHAP報告を評価している。CPSCは、今後数ヶ月以内に、子供用製品のDINPの規制に正当な理由があるか否かを判断することが十分あり得ると、委員会は考えている。CPSCとの協議を希望されないのか。

(192) 1998年にCPSCはDINPを含有する玩具を口にする子供への潜在的なリスクを評価した。CPSCはその際、“一般的にDINPの量は有害なレベルにはほど遠い”と結論付けた。それにもかかわらずCPSCは、“用心のため”に、製造業者が自主的に3歳以下の子供が口にすることを目的とした製品からDINPを排除するよう求めた。

(回答)
 EUでは、6種類のフタル酸エステル類を含有するPVC製の3歳未満の子どもが口に入れることを目的とする玩具及び保育用品が流通しないよう規制措置を講じています。
 米国のCPSCの科学委員の検討結果では、1日に75分以上玩具を口に入れている子どもにはDINPのリスクがあるかも知れないとした上で、大部分の子どもに対してはDINPの被曝が被害を与えるリスクは極めて僅かか、あるいはあり得ないものであろうとしています。我が国の調査結果では、最長のMouthing時間は 314.1分、最短 0.6分、平均73.9分で、75分以上「おしゃぶり」をMouthingする乳児は11例中4例(36.4%)あり、米国の委員会がいう75分で判断してもリスクは無視しえないものと考えられ、おしゃぶりに使用された場合、極端な条件を想定するとDINPのTDIを超える暴露を生じる可能性があります。
 海外の状況は、当然考慮すべきものですが、合同部会においては、先ず我が国の調査研究結果の評価を行っております。
現時点で、海外規制当局との協議は予定しておりません。
 ご指摘のように、米国CPSCは、おもちゃの製造業者に対してDINPの使用自粛の勧告をしています。



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