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1.毒性評価関係

1)DEHPの代謝について

(1) 日本では、調理用手袋という特殊事情があり今回の規制に至った。しかし、調理用手袋からの移行で、最大の移行可能量がTDI(耐容一日摂取量)を超えたにしろ、暴露量がヒトの健康に重大な影響を及ぼすとは考えられない。部会資料に示す体内動態においては、消化管の吸収には制限があり、仮に吸収されても容易に代謝排泄されるとある。仮にTDIを超える食べ物を摂取したとしても健康被害に至る程の暴露には達しないというのが、科学的判断だと思うが、別の判断をされているのであれば、具体的に説明いただきたい。

(2) 部会資料の体内動態の内容が不十分で採用できないというのであれば、体内動態について調査プログラムはあるのか。その調査を待たず、今、規制しなければならない緊急性の根拠は何か。

(回答)
 TDIは、毒性試験の結果(実際に投与された後の毒性所見)に基づくものであり、必然的に消化管吸収や代謝排泄の影響も反映されています。
 フタル酸ジ(2-エチルヘキシル)(DEHP)について、人への30mg投与において、24時間以内に約13%(11〜15%)が代謝物として排泄されており、糞中への排泄が調べられていないことから、吸収率はこれ以上であると考えられています。
 TDIは、それを超えると直ちに健康影響を生じるような値ではありませんが、人の健康を守る観点からは、TDIを超える暴露が生じないよう対策を検討すべきものと考えます。
 体内動態について、TDIの設定に必要な情報は既に存在しているものと考えます。また、不確実係数を変更するに足る作用機序に関する知見は得られておりません。

2)種差による毒性発現の相違について(全般的事項)

(3) ラット、マウスでの実験結果は無視できないが、現在は霊長類には発生しないというデータも発見されており、その研究が進んでいると聞いている。わざわざ古いデータに遡る根拠は何なのか、霊長類のデータが出るまで待てない根拠は何なのか。ヒトに近い動物試験の結果を重視するべきではないのか。霊長類の評価に対する見解を説明するよう要望する。

(4) ヒトに近いサル類、マーモセット等の実験結果を用いるべきであり、げっ歯類のデータは予備実験ないし参考資料以上のものではなく、この際法規制の根拠としては不適切である。

(5) 乳幼児が口に接触するおもちゃにDEHP及びフタル酸ジイソノニル(DINP)を使用したポリ塩化ビニル(PVC)の使用禁止の規制を強化する措置案が提示されたが、DEHP及びDINPについては霊長類であるマーモセットには、反復経口投与試験から、肝臓、腎臓、精巣等に異常を生じさせないことが確認されている。危険とは言えないDEHP及びDINPについて、使用禁止措置がとられる正当性が不明。また、それに替わる新材料のリスクアセスメントの方法についても開示されたい。

(6) 毒性評価はげっ歯類だけではなく、霊長類のデータも検討の対象に入れるべきではないか。毒性に対する感受性が強い、データが豊富、再現性が確認できる等の理由から、げっ歯類(ラット、マウス)の試験結果が専ら使用されているが、試験法についても技術は確実に進歩している。細かな病変までも観察できるようになれば更に無毒性量(NOAEL)の数値は下がり、どのような化学物質も危険性が増すことになる。げっ歯類と霊長類では、DNA、代謝の過程、毒性発現の部位等が異なることが明らかになってきており、DEHPとDINPについては、既に霊長類(マーモセット)に対する試験が行われ、また現在進行中の試験もあることから、これらのデータも検討の対象に加えて頂きたい。もし検討の対象に出来ないのなら、その理由を示されたい。

(7) DEHPのTDIの根拠になる精巣毒性に関しても、マーモセットやカニクイザルのような哺乳類では影響がないという研究報告もあり、科学的な根拠が明確ではない。DINPについては科学的なデータがもっと乏しいと思われる。安全を示すデータも多数あるので規制には反対である。

(8) 今回の動物実験では、「種差」の問題が明確である。メカニズムが明確にならない限り、げっ歯類の実験でも、また霊長類の実験でも、人に対する整合性には疑問を生じる。げっ歯類の中でも所謂「ノックアウトマウス」のように、部分的では人型マウスも実験対象になっているようだが、今回の規制対象物質のように霊長類では発現しにくい場合は、より人に近い種で、かつ再現性の取りやすい動物で、「本当に人に対して危険か」を吟味すべきだと考える。ノックアウトマウスを用いた文献では、何ら異常は見られないことからヒトにはこのような毒性は起こらないと考える。ノックアウトマウス(ヒト型マウス)のデータをどのように評価しているのか。

(9) 今回の結論は、暫定基準として運用し、早急にサルでの実験を更に進めて作用メカニズムを解明し、妥当なアセスメントを行うべきである。

(10) 発現するメカニズムを解明することは現代の科学を駆使すれば、できるにしても現象の見られないことを証明する手法はあるのか。

(11) なぜ精巣毒性がおきるのか。そのメカニズムがはっきりしてから規制をする方が良いのではないか。

(12) 毒性について、霊長類とげっ歯類はあきらかに違うという人もいる。メカニズムを解明して欲しい。疑わしきは使わずでは、化学物質はすべて疑わしく、使ってはいけないということになってしまうが、いまさら石油製品のない生活には戻れない。リスクとベネフィットの考え方は、口に入れるものでも必要ではないか。

(13) げっ歯動物によるデータの妥当性は、特に日本でも証明されているように、ヒト以外の霊長類で、更に高いフタレート被ばく量でも何の影響もなかったことから論争が続いている。

(14) 動物実験の結果が人体に外挿されないかぎり、規制しないという予防原則を無視した方針では、フタル酸エステル類などで指摘されている精巣毒性や発がんといった深刻な影響が懸念されると考える。

(回答)
 動物実験で得られた知見を無視する場合、必要相当な根拠が求められます。
 一般にフタル酸エステル類の精巣毒性は幼弱ラットで強く発現することが知られており、ラットにおける精巣毒性のメカニズムの検討も行われております。一方、カニクイザルとマーモセットにおいては、DEHPによる精巣毒性は発現しておりません。しかしながら、他の動物で毒性が認められている場合、単に霊長類で毒性が出ないことのみでは人での安全性の根拠として十分なものではなく、現時点では、ラットで毒性が発現して、サルで毒性が発現しないメカニズムは充分解明されておらず、サルで毒性が発現しないことのみをもって人で毒性が発現しないと言うことも困難です。このため、現時点では、DEHPのTDIの根拠としてラットの精巣毒性のデータを用いることとしています。
 また、ラットにおける精巣毒性をTDIの根拠としない場合には、生殖・発生毒性試験の成績がTDIの根拠となり、この両者から、今回、40〜140μg/kg/dayとのTDIを設定しております。
 げっ歯類については、背景データ等の蓄積が多く、毒性評価においてげっ歯類を用いることは妥当であり、げっ歯類のデータが予備実験ないし参考資料以上のものではないという考え方には同意出来ません。
 今回の毒性評価においてもカニクイザルとマーモセットの毒性試験成績を評価しており、霊長類のデータも検討しております。
 動物試験の技術が進歩し、細かな病変までも観察できるようになったとしても対照群をおいた実験であれば、ご指摘のように直ちにNOAELの数値が下がるとは思えませんが、逆に、技術の進歩により、新たな毒性が検出出来ればNOAELを見直すことは当然と考えます。
 げっ歯類と霊長類とでDEHPの毒性発現に種差があるとする報告があることは事実ですが、人での発現を懸念する必要がない種類の影響であるのか否かがポイントになると考えます。毒性発現のメカニズムが不明であっても、動物実験の成績等から人への健康影響を避けるための措置が必要と判断されれば、行政としては対応すべきものと考えています。
 「種差」を踏まえた安全性を確保するため、妥当な不確実係数をとっており、人でのTDIの設定には問題ないものと考えています。DEHPのげっ歯類における毒性発現のメカニズムについての研究も進められていますが、現時点においては、げっ歯類での毒性所見がヒトにおいては発現しないと判断しうるだけの知見も得られていません。
 今後、新たなデータが得られれば、必要に応じ、当該データを検討することは当然のことと考えますが、一定のリスクが判明している以上、単に霊長類で実験中であることは、今回の規制を止める理由にはなり得ないと考えます。
 動物実験の結果から人への健康影響が懸念されないようなものについては法的規制の根拠に乏しいと考えます。なお、DEHPとDINPの精巣毒性や発がん性についても今回検討しております。
 化学物質の毒性評価は個々の物質の特性をとらえる必要がありますが、食品添加物のガイドライン等は参考になると考えます。
 TDIの設定において、複数の動物での試験結果がある場合、個々の試験について何等の毒性影響が認められない量であるNOAELを求め、このうち、最も小さいものを当該化学物質のNOAELとしており、DEHP及びDINPのTDIについては現時点における科学的根拠に基づくものであります。
 毒性評価においては危険性を示唆する情報を重視せざるを得ません。
 今回の評価は妥当なものと考えており、厚生労働省ではDEHPに関する実験を行う具体的な予定はありません。
 サルでの実験がないと、正式な基準ではなく暫定基準とすべきとする考え方、あるいは精巣毒性のメカニズムがはっきりするまで規制しないという考え方については、一定のリスクが判明している以上適当でないと考えますし、また、マーモセットと人とがまったく同じとは言えません。
 DEHPとDINPには一定のリスクがあり、規制が必要と判断しておりますが、両物質とも全面使用禁止ではなく、データから必要と考えられた範囲での規制である点について誤解なきようにお願いします。
 「サルで精巣毒性が発現しないメカニズムが充分解明されていない」とは、げっ歯類とサルでの実験結果が何故相違するのか、その理由が判明すれば、人での毒性を考える際、どちらのデータを重視すべきかが明確にできますが、その点が不明ということを意味しています。
 今回、単に疑わしいという以上のリスクがあることが判明したため、規制をしようとするものです。食品分野におけるリスク・ベネフィットの判断は、リスクを厳しく判断するものとならざるを得ません。

3)種差による毒性発現の相違について(DEHP)

(15) げっ歯類による試験データを採用する理由は何か。それが科学的な態度なのか疑問に思う。

(16) DEHPの精巣毒性はげっ歯類に特有のもので、ヒトにおいてはその懸念はない。

(17) DEHPは「人において精巣毒性が出る懸念は低い」としながら、それらのデータは全く適用せず、ラットの実験結果のみを採用しているのは何故か。

(18) 今回の規制(案)はラットやマウスによる文献調査の結果をもとに設定されているようであるが、霊長類では、発生しないと聞く。なぜ規制するのか。

(19) ハザードのデータのみを取り上げ、被爆量も少なく、したがってリスクが小さいこと、更にはげっ歯類のデータを採用し、人類に一番近い霊長類のデータを採用しない点等理解できないことが多い。果たしてそのような判断で正しいのか。

(20) 精巣毒性においてラットでは確認されており、霊長類サルの結果では毒性は発現しないとの報告もある。再度検討が必要であると判断される。

(21) よりヒトに近似できるカニクイザルとマーモセットで精巣毒性が発現しないという実験結果が、作用メカニズムが不明という理由で排除されている。

(22) 現時点ではラットを用いたデータでTDIを結論づけているが、これでは適切なアセスメントと言えないのではないか。

(23) DEHPの精巣毒性において、ラットではセルトリ細胞の空胞化が認められ、霊長類のカニクイザルを用いた研究結果では、精巣毒性は発現しないとの報告もある。DEHPの毒性評価はよりヒトに近い動物試験の結果を重視すべきであり、げっ歯類のデータを採用すべきでないと考える。

(24) げっ歯類の研究とヒトへの影響の関連性については、討論の的になっている。ヒト以外の霊長類を用いた試験では、はるかに高い暴露値においても影響が出なかったからである。

(25) フタル酸エステルの毒性評価について、げっ歯類であるラットによる評価結果を採用している。霊長類で、すでにデータのあるカニクイザルによる評価結果を基準として判断を下すべきである。

(26) カニクイザルによる評価結果で不足であれば、カニクイザルのようなサル種の動物を使用して実験を行ってから判断すべきではないか。

(27) 一般毒性及び発がん性に関し、「ペルオキシソーム増殖によって発生する種々の毒性や発がん性は、ヒトには外挿できないものと考える」と述べている。また、精巣毒性については、「通常の暴露では、ヒトに対しても精巣毒性を発現する可能性は極めて低いと考えられる」と述べている。同様に生殖毒性については、「いずれの試験でも毒性発現は認められない。」と述べている。どうして規制に結びつくのか、説明が十分でない。

(28) サルを使った研究では、げっ歯類で発がん性の原因となったメカニズムは認められず、従って、ヒトと関連する可能性はきわめて少ない。

(29) IARCが昨年2月にDEHPの分類を「ヒトに対する発がん性について分類できない」に変更したのも、これら種による差異を認めたものである。

(30) げっ歯類には危険という古いデータのみを採用し、新しい人により近い霊長類には安全というデータが無視されている。

(31) DEHPの精巣毒性において、マーモセット等霊長類での影響が認められていないことを考えると、当面適当とされたTDIについては、動物種差を考慮した更なる検証が必要。

(32) “現時点ではDEHPのTDIの根拠としてNOAEL3.7mg/kg/dayを用いることもまた適切であると考えられる。”と結論付けられている。しかしながら、これだけではなぜ適切なのか理解できない。このような判断の基礎となるものは予防原則とでも言うものだろうが、疑わしきものは罰するといった行政措置が、果たして法的に可能なのかどうかを明確にする必要がある。更に、このような措置が可能であるとしても、予防原則の思想の中には常にオーバーキルの危険性が内包されており、今回の判断の中に、この点の検討がなされていないのは大きな問題である。

(33) DEHPのTDIについて、もともとげっ歯類の精巣毒性或いは生殖・発生毒性から発したものであり、人とげっ歯類の種差があるとは思われるが、何故、即、人への適用になるのか。

(34) NOAEL決定について、DEHPのラットでの精巣毒性からNOAELを3.7mg/kg/dayとされたことは理解できたとしても、カニクイザル、マーモセットにおいてDEHPを500mg/kg/dayで14日間連続投与しても精巣毒性が発現しないことを確認していながら、「発現のメカニズムが充分解明されていないことから」と言う理由でラットでのNOAELを適用して3.7mg/kg/dayが決められたことは納得いかない。

(35) DEHPのTDIを40〜140μg/kg/dayとしているが、根拠データが古く、かつ、げっ歯類のデータを採用し、サルで精巣毒性が発現しないのに上記の様な数値を採用されたのは承服しかねる。

(36) サルで精巣毒性が発現しないメカニズムが充分解明されていないからげっ歯類のデータを採用するというのは極めて乱暴な話で、そうであればその解明を待って規制すべきと考える。一旦この様に設定すると一般消費者は数値だけで物事を判断してどんなものにもこの規制の適用を要求するのは目に見えている。

(37) 生殖・発生毒性に関する論文もCD-1マウスでの報告のみで、他のサルなどの報告が見られない。なぜ、精巣毒性ではラットの他にサル等の報告もされているのに、生殖・発生毒性に関してはマウスのみなのか。霊長類の実験も加えてこそ意味が出るのではないか。その点で生殖・発生毒性のNOAELで14mg/kg/dayが適切とされていることは理解できない。

(回答)
 一般にフタル酸エステル類の精巣毒性は幼弱ラットで強く発現することが知られており、ラットにおける精巣毒性のメカニズムの検討も行われております。一方、カニクイザルとマーモセットにおいては、DEHPによる精巣毒性は発現しておりません。しかしながら、他の動物で毒性が認められている場合、単に霊長類で毒性が出ないことのみでは人での安全性の根拠として十分なものではなく、現時点では、ラットで毒性が発現して、サルで毒性が発現しないメカニズムは充分解明されておらず、サルで毒性が発現しないことのみをもって人で毒性が発現しないと言うことも困難です。このため、現時点では、DEHPのTDIの根拠としてラットの精巣毒性のデータを用いることとしています。
 また、ラットにおける精巣毒性をTDIの根拠としない場合には、生殖・発生毒性試験の成績がTDIの根拠となり、この両者から、今回、40〜140μg/kg/dayとのTDIを設定しております。
 仮にTDIを一本化するのであれば、ラットにおける精巣毒性によってTDIを設定すべきものとも考えられますが、サルにおけるデータも勘案し、今回、TDIを幅で設定しております。なお、暴露の評価等においては、人の健康を確保する考え方に立てば、TDIの下限値をより重視すべきことは当然と考えます。
 動物実験の結果に基づき、公衆衛生の見地から、食品衛生法による食品等の規格基準を作成することについて、法的な問題はありません。
 TDIの設定においては、動物での結果を人に当てはめるため、一定の安全性・不確実性を見込むことが必要であり、今回、不確実係数100を用いておりますが、これは、国際的にもコンセンサスのある数値であり、特段大きな数値を用いたわけでもなく、妥当なものと考えております。
 一定のリスクが判明した以上、毒性メカニズムの解明を待つまで規制しないことが適当とは考えられません。
 今回、現時点で入手可能なデータに基づき、TDIを設定しております。毒性評価において、必ずしも各種の動物試験成績が得られるとは限りません。

4)種差による毒性発現の相違について(DINP)

(38) DINPは「ラット特有の病変で人に外挿できない」としている文献はTDIの設定根拠として正当ではない。せめてヒトに近いサル等の霊長類の動物試験結果をもとに毒性評価をするべきである。人に外挿できないのに、なぜ使用禁止となるのか。

(39) DINPのTDIは、F344ラットに特有の病変である単核球性白血病による二次的影響と見なされる軽度の肝機能障害を根拠にした最小作用量(NOEL)から算出されているが、この様な特定種に固有な病変を人へのリスクの推定に用いることこそ非科学的判断或いは予防的措置と呼ぶべきではないか。或いは、科学的根拠に基づくと言い張るなら、この様な病変が人にも起こる確率をどの程度だと推定したかを“科学的”根拠と共に示すべきである。

(40) DINPについて、自ら「ヒトには外挿できない」と判断しているデータを使ってTDIを決めているが、ヒトの健康リスクの議論にこのような論理的矛盾が許されるのか。

(41) DINPについて動物実験でハザードを求めるとして、その実験動物に特異的でヒトには起こりえない症状であると報告者が明言している数値を、ヒトの健康リスクの判断基準に使うのは論理的に矛盾している。

(42) リスクや最大の安全を要求する根拠が、14年も前に発表されたLingtonらのF344ラットにしか起こらない特有の病変である単核球性白血病による肝機能障害と貧血である等という説明ではとうてい納得できない。

(43) F344ラットを使用した毒性評価は、人には直接あてはまらないとしていたはずであるが、それを覆すような評価がでてきたのか。

(44) DINPのTDI設定の根拠となった毒性評価は「LingtonらのF344ラットを使用した試験で肝機能障害が認められたこと」によるが、「ヒトには外挿出来ないと考えられている。」とされており、TDIの根拠として正当ではない。

(45) おもちゃでDINPを規制しようとするのは、時期尚早ではないか。DINPのTDIを求めた根拠は、F344ラットに対する一般毒性で、「その病変はラット特有でありヒトには外挿出来ない」と明記されている。他の毒性についても、ヒトに対する危険性は報告されていない。また、資料中の「玩具由来のDEHPあるいはDINP暴露に対する推定」によれば、特殊なケースを積み重ねてもTDIを超える確率がわずか0.12%である。

(46) 合同部会でDINPの一般毒性、及び発がん性、精巣毒性、生殖毒性については懸念がなく、唯一、発生毒性のNOAELとして「100mg/kg/dayが適切である。」と述べながらも、TDIの設定においては、「2年の混餌投与試験における無毒性量15mg/kg/dayを踏まえ、安全係数として100をとり、150μg/kg/dayとする。」との結論が導き出されたところが疑問である。

(47) DINPのTDIについて、動物実験でヒトに外挿できるデータを採用し、論理的に矛盾しないTDIを決め直されたい。

(48) DINPのヒトへの毒性には理由が無く、DINPの規制は撤回すると決定すべきである。

(49) 根拠としているデータに偏りがないか。大きく取り上げられるのは悪い情報ばかりで、DINPの霊長類を用いた検証した結果安全であるというデータが大きく取り上げられないのは何故か。単なる責任逃れか。

(50)DINPにおいて今回のTDI設定の根拠となった動物試験による毒性評価は、げっ歯類であるラットを使用した試験結果のみで、この結果が直ちに人間にもあてはまるという科学的根拠は今のところ無い。

(回答)
 動物実験で得られた知見を無視する場合、必要相当な根拠が求められます。
 F344ラットに特有の病変である単核球性白血病はNOAELの根拠にしておりません。肝機能障害という所見をNOAELの根拠としています。
 論文の著者は、単核球性白血病による二次的な影響と判断していますが、この評価を十分支持できる情報はないと考えられますことから、本試験のNOAELは肝機能障害を根拠に15 mg/kg bw/dayとしております。
 なお、合同部会で用いた資料においても「Lingtonらの報告のNOAELは15mg/kg bw/dayである」旨明記しております。
 また、人に対する危険性が報告される前であっても、動物実験の成績等から人への健康影響を避けるための措置が必要と判断されれば、行政としては対応すべきものと考えています。

注) TDIの設定においては、「安全係数(Safety Factor)」 という用語より、「不確実係数(Uncertainty Factor)」 との用語を用いる方が正確であり、関係資料中の用語は「不確実係数」に統一します。

(51) かなりの安全性を見て採用データを決定しているのに、何故、さらに100の不確実係数が必要なのか伺いたい。

(52) 動物実験結果を用いて人間レベルの安全基準を設定するに当たっては、通常100倍の不確実係数を見込むのは一般に行われているが、このような不確実係数は、行政上の判断基準とするには論理的根拠が薄弱である。一方で精緻な実験をしていながら、運用に当たっては勘と経験的判断がまかり通るというのは、大きな矛盾だと考える。10×10だから100というのではなく、何故に10なのか、何故に10×10なのかを論理的に実験的に明確にする必要がある。1点から外挿する場合は、その線は極めて恣意的にならざるを得ず、その恣意的な外挿線をベースとして、行政判断を行うとすれば、それは恣意的判断であると言わざるを得ない。

(53) DINP規制の根拠としたTDIについて、単核球性白血病はF344ラット特有の病変であり、ヒトには外挿出来ず、肝機能障害や貧血は単核球性白血病による二次的な影響と見なされると資料中に明記されているが、ヒトへの影響が無視できる状況で不確実係数を100とした理由如何。

(54) TDI値決定のための不確実係数のかけ方について、精巣毒性試験及び生殖・発生毒性試験におけるNOAEL3.7〜14mg/kg/dayの決定についても疑問がある上、これに100の不確実係数を掛けている点について過大な係数になっていると考える。

(55) DINPのTDIについて、その影響は体重減少及び肝、腎の比重量低下という軽微なものであり、NOAELと最小毒性量(LOAEL)の差が10倍となっていることから、十分安全性に配慮された数値であるとの理解でよいか。

(56) 大人のTDIによって判断するのではなく、発達途上の子どもにはさらなる安全性が考慮されるべきである。アメリカ「食品品質保護法」では、大人の1/10の基準や複数の化学物質の累積的危険性を考慮する考え方をとりいれており、子どもについては、予防原則を適用してさらなる不確実係数を見込んだTDIの考え方がとられるべきだと考える。

(57) 食品、おもちゃ個々についてそれぞれフタル酸エステルなど化学物質の暴露量とTDIを比較検討するのではなく、大気等生活全体における暴露量を検討し、子どもについては、予防原則を適用してさらなる不確実係数を見込んだTDIの考え方がとられるべきである。

(回答)
 化学物質の安全性を評価する際、人を用いた直接的な毒性試験を実施することはできないため、動物実験の結果から人での安全性を判断することが必要となります。
 ある化学物質について、複数の動物での試験結果がある場合、個々の試験について何等の毒性影響が認められない量であるNOAELを求め、このうち、最も小さいものを当該化学物質のNOAELとします。
 動物試験の評価においては、人で出現する可能性のない事象はNOAELの決定には用いませんが、人においても出現する可能性のある事象については、それを無視することはできません。
 不確実係数は、動物におけるNOAELから人のTDIを求める際に用いる係数です。
 TDIの設定においては、動物での結果を人に当てはめるため、一定の安全性・不確実性を見込むことが必要であり、不確実係数は、動物から人へデータを外挿する際の不確実性と人の個体差を考慮して決められます。通常、動物と人との種差を10、人の個体差を10とし、それらを掛け合わせた100が用いられております。これは、国際的にもコンセンサスのあるやり方です。
 また、得られている毒性試験成績、当該化学物質の特性等から必要と判断された場合には100以外の値を用いることがありますが、今回は100以上の不確実係数を用いるべき理由も見あたりませんでした。100という不確実係数は通常の毒性評価に用いられているものであり、恣意的に設定しているものではなく、かつ、過大な不確実係数でもありません。
 今回設定したTDIは、文献上、発達途上の子ども等に対する安全性も含め、現段階で得られた毒性試験データに基づいた適切な値と考えております。

5)DEHPのTDIの設定について

(58) DEHPは何故、2種類のTDIが必要なのか。

(59) 我が国のDEHPのTDIについては40〜140μg/kg/dayとなっているが、下限の40μg/kg/dayについては一つの資料しか用いられておらず、法規制の判断や行政上の判断を下す場合としてはデータ不足と言わざるを得ない。何故、このデータまたは判断根拠の裏付けを充実させるような研究が行われていないのか。このデータがイレギュラー値であった場合、大きな行政上の判断ミスを行うことになり、何故、このデータを採用するのか、慎重な判断とその採用理由を明確にする必要がある。

(60) TDIは、ヒトに対する安全基準としては範囲で示さず一本化すべきである。

(61) DEHPのTDIは、両方とも均等な意味を持つものと思われるが、40μg/kg/dayを下限値とすることは正しいのか。いずれとも決めがたいから併記されていると理解する。将来的に知見が出れば、見直していただきたい。

(62) 日本でDEHPのTDIが40〜140μg/kg/dayと幅を持って設定されたのは、何ともお恥ずかしい限りだと思う。文献の優劣を評価する力量も無い人が決めたTDIでは、世界中から笑い者になるだけである。厚生労働省から審議会への答申、あるいは審議会のあり方を含めて、再検討されるべきであると考える。

(63) 今回の規制は、当該可塑剤のTDI値を根拠に規制案を作成されたと理解している。ところでその根拠となるTDI値がDEHPについては40〜140μg/kg/dayと幅のあるものになっているが、このようにあいまいな幅のある値を規制の根拠とすることは法律で人の行動を制限するような場合においては、極めて異常と言わざるを得ない。DEHPのTDI値を明確にできなかったのは、どのようなデータが足りなかったかをご教示いただきたい。

(64) カテゴリーの違いごとにTDIを設定したのでは、最下限値以外のTDI値は、安全基準として使えるのか。

(65) DEHPは、2種類のTDIがあるにもかかわらず、何故、下限TDIのみを判断基準にしているのか。

(66) TDIに範囲があること自体、不自然だが、上限値であってもTDI値である以上、この値さえ超えなければ良いと言う考え方も成り立つ。このように考えるとするなら、今回の実験結果は、全く可塑剤の規制が不要であることを示している。

(67) TDIについては、精巣毒性と生殖・発生毒性のNOAELの違いから、40〜140μg/kg/dayのような範囲が設けられているが、このことは、恣意的な判断を許す原因となるものであり、何故これを一本化出来ないのか、その理由を明確にすべきである。このようなことを認めるとするなら、カテゴリーの違いごとにTDIが設定されることになり、混乱するだけである。

(68) DEHPに関しては、今回のデータから見て、場合によってはTDIを超える場合が想定されるが、TDI自体が暫定的な意味合いがあり、高い方のTDIを超えていないので、何ら規制の必要が無いと考える。

(69) DEHPのTDIというものは、メカニズムが解明されるまでの暫定的なものとの理解でよいか。

(70) 今回定められたDEHPのTDIというものは、充分安全性に配慮された数字との理解でよいか。

(71) DEHPのTDIの根拠とされるデータは、米国のヒトの生殖リスク評価センター(CERHR)が発表した資料にあるPoonらの精巣毒性試験によるものである。CERHRはその報告中でPoonらの試験について信頼性は「中程度ないし低位」と評価し、別に精巣毒性の認められない霊長類のデータについても説明し、現状Poonらのデータを基準に判断することとなるが、速やかに、ヒトへの影響について、より確かな試験をして確かめるように勧告している。これを受けて、関係各機関は国際的に分担して、事の真偽を確認すためにいくつかの作業プログラムが計画され、進行中である。

(72) Poonの報告書は「(3.7mg/kg/day相当値)投与では認められなかった組織異常がその10倍値投与では認められた」という極めて粗いものであり、今回の精密な検討では「添付写真が不足または不鮮明」「なぜ電子顕微鏡写真にしなかったのか」その他の疑問があって、指標としての立場を失っている模様である。

(73) Poon等の報告書の結論について、その吟味と追試等の努力がなされるべきである。これについてごく最近報告が出はじめており、これら最新の諸報告が考慮されなかったのは遺憾であり、拙速である。

(回答)
 DEHPのTDIは、現時点のデータに基づき、充分安全性に配慮して設定されたもので、暫定的なものということではありません。
 一般にフタル酸エステル類の精巣毒性は幼弱ラットで強く発現することが知られており、ラットにおける精巣毒性のメカニズムの検討も行われております。一方、カニクイザルとマーモセットにおいては、DEHPによる精巣毒性は発現しておりません。しかしながら、他の動物で毒性が認められている場合、単に霊長類で毒性が出ないことのみでは人での安全性の根拠として十分なものではなく、現時点では、ラットで毒性が発現して、サルで毒性が発現しないメカニズムは充分解明されておらず、サルで毒性が発現しないことのみをもって人で毒性が発現しないと言うことも困難です。このため、現時点では、DEHPのTDIの根拠としてラットの精巣毒性のデータを用いることとしています。
 また、ラットにおける精巣毒性をTDIの根拠としない場合には、生殖・発生毒性試験の成績がTDIの根拠となり、この両者から、今回、40〜140μg/kg/dayとのTDIを設定しております。
 仮にTDIを一本化するのであれば、ラットにおける精巣毒性によってTDIを設定すべきものとも考えられますが、サルにおけるデータも勘案し、今回、TDIを幅で設定しております。
 なお、暴露の評価等においては、人の健康を確保する考え方に立てば、TDIの下限値をより重視すべきことは当然と考えます。
 TDIの設定は得られる全ての毒性試験データに基づいております。複数の動物での試験結果がある場合、それらを検討し、個々の試験について何等の毒性影響が認められない量であるNOAELを求め、このうち、最も小さいものを当該化学物質のNOAELとしております。
 毒性評価として、現時点のデータに基づきTDIを設定して差し支えないものと判断しており、評価方法にも特段の問題はないものと考えています。
 DEHP及びDINPについては、既存データから一定の判断が可能であることから、現時点では、追加実験を実施する予定はありません。勿論、ラットで精巣毒性が発現し、サルでは発現しない理由等新規なデータが得られた場合、必要に応じて、TDIの見直し等の検討を行いますが、今後は、DEHPの毒性評価よりも他の化学物質の評価・検討を優先することを予定しております。
 Poonらの試験を無視すべき正当な根拠もありませんし、また、DEHPの精巣毒性については、Poonらの試験結果の他、複数の報告があります。
 今回、毒性発現メカニズムも含め、最近の知見を踏まえた検討を行っており、新たな知見があれば、必要に応じそれを検討することは当然ですが、現時点の判断としては妥当なものであると考えています。

6)TDI(その他)について

(74) 他の物質のTDIについて、たとえば、アルコール(酒)、コーヒー、たばこ、お茶、大豆、ガソリン、軽油等身近なもののTDIはいくらなのか。その場合、一日どの程度一生涯に摂取する量になるのか。もし、データがないのであれば、相対的な安全性を確認するための試験実施を希望する。

(75) 今後の有害性についての基準は、TDI値で論じられていくのか。

(76) TDIの概念は「一生涯1日当たりこの量まで摂取しても許容される量」であるからTDI以下であれば安全ということになり、DEHPを乳幼児が毎日TDIを超える量の暴露を受ける可能性は極めて低いから安全といえるのではないか。

(77) TDIとは一生涯に渡って摂取しても健康への悪影響は起きないと推測される1日当たりの摂取量であり、百歩譲って乳幼児がその期間にTDI近くのDEHPやDINPを摂取しても、その後にも同じ様な暴露が有るのか。もしその危険が無いのなら、TDIで規制することには理由がないはずである。

(78) TDIは、健康影響の観点から一生涯摂取しても一日あたりこの量までは摂取は許容される量であると言われているが、この定義であれば、TDIを超えなければ、摂取しても問題ないと考えて良いのか。この場合、DOP(DEHP)、DINPは毎日一生涯に渡って一人当たりどの程度摂取する量になるのか。

(79) 容器包装規格にTDIを適用するには、その必要性、根拠をはっきりさせ、現行の規格は問題あることを示し、さらに1日摂取量の求め方を確立してからにすべきではないか。

(回答)
 アルコール(酒)、コーヒー、たばこ、お茶、大豆、ガソリン、軽油等については、現時点においては、衛生上の観点から、その必要性が乏しいことからTDIを検討する予定はありません。なお、食品の摂取量については国民栄養調査等の結果があります。
 毒性評価においては、個別判断が必要な場合もありますが、TDIは人体への有害性を評価する上の指標として有用なものでありますから、今後の基準作成においてもこれを活用することが考えられます。いずれにしても、個々の基準作成の目的に鑑みて最も適切な評価方法を検討することになります。
 TDIは、一日でも、わずかでもその値を超える暴露があった場合に、直ちに健康影響が生じるといった値ではありませんが、食品衛生法に基づく規格基準(案)は、ADI(許容一日摂取量)あるいはTDIを超える暴露を受けることがないように設定しております。乳幼児のおもちゃという特殊性を考慮した場合、TDIを超える暴露がありえる可能性が判明した以上、それが実際に生じることがないよう規制することは妥当な措置と考えております。
 今回の検討からも、長時間しゃぶる子ども以外の子どもについては、TDIを超える暴露を懸念する必要はないものと考えられますが、長時間しゃぶる子どもがいることが判明し、口腔内溶出試験においても多量溶出する場合があることが判明した以上、規制は必要と判断されます。
 なお、一時期TDIを超える暴露があっても、その後、継続的な暴露が想定されないのであれば規制は不要という考え方は、指標値としてのTDIを否定する考え方であるとも思われます。この考え方には、TDI以外のどういう値で検討するのか、生涯暴露でTDIを超えないような基準値の設定も困難という問題もあります。
 体重50kgの人では、DEHPでは1日2〜7mg、DINPでは1日7.5mg を超える摂取がTDIに該当します。
 今回の器具・容器包装の規格基準(案)は、市販の弁当1食から最大4,306μg、平均1,768μgのDEHPが検出されたことが端緒となっています。この量は弁当1食分でほぼTDIと同程度の量となります。その後の検討により、DEHPを含む製品が、油分を含む食品と接触すると、脂溶性の液体である媒体を経由して極めて短時間のうちにDEHPが食品に移行すること、接触時間とDEHPの食品への移行量は相関すること、手袋以外の食品用器具・容器包装からもDEHPは容易に溶出すること等が判明したため、DEHPの食品への移行を防止するため、今回の規格基準(案)が作成されたものです。
 現行の規格では、DEHPそのものの移行防止を目的とした事項は、設定されておりません。DEHPが食品に移行が生じる場合には、容易に多量に移行することも明確になっており、1日摂取量の求め方の確立を待つまで規制しないという考え方は適当でないと考えます。

7)海外の状況について

(EU)

(80) EU諸国は技術委員会で、DINPのNOAELは88(メスでは108)mg/kg/dayとすべきで、当初毒性、生態毒性及び環境に関する科学委員会(CSTEE)が想定していた15 mg/kg/dayではないことで同意している。これは計算されるTDIが当初示唆されていた数値より何倍も高いことを意味するが、日本ではどう判断するのか伺いたい。

(81) 欧州連合ではフタレートのリスクアセスメントが行われており、厚生労働省とその審議会が、欧州のフタレートのリスクアセスメントに関心を持っていないことは、まさに職務怠慢と言うほか無いと考える。このリスクアセスメントは欧州連合の後援のもとで実施されており、求めれば政府筋からも情報が得られるはず。フタレート業界に不利な情報も報道されているが、それでもSchillingらの報告がどんなものか、また厚生労働省のNOAEL設定の基礎となったPoonらの研究が、今度のリスクアセスメントでどのように評価されたか、関心を持っても良いはずである。NOAELの設定に当っては、文献の著者から切片写真を取り寄せ報告内容と付き合わせて比較するような、厳格なアセスメントが行なわれており、Poonらの報告のように、内容が粗雑で電子顕微鏡写真も無いような報告は、アセスメントの対象外とされているようである。このような厳格なリスクアセスメントから出てきたNOAELは、DEHPで113mg/kg/day、DINPで88mg/kg/dayになったと聞いている。この値をPoonらの3.7mg/kg/dayと比較すれば判るが、資料8、9と組み合わせれば、乳児がTDI以上のDEHPを摂取する可能性を実質上無視できると統計学的に証明できるであろう。

(82) EU15ヶ国はDINPのNOAELを85 mg/kg/dayとすべきで、当初CSTEEが想定していた15 mg/kg/dayではないことで同意している。これは計算されるTDIが当初示唆されていた数値より何倍も高いことを意味する。

(83) 最近のデータでは、DEHPのNOAELは3.7〜14mg/kg/dayではなく113mg/kg/day(Schilling et al, 2001)とされている。

(回答)
 DEHPに係るPoonの研究については、EU等においてもNOAELの決定に使用されているものです。また、DEHPが、ラットで精巣毒性を発現させることについては複数の報告があります。新しい生殖毒性試験の結果も含め、現状においてTDIの設定根拠となった研究結果を否定し得るだけの情報はないものと考えます。
 二つの実験結果の報告を統合して、NOAELを88mg/kg/dayとした報告もありますが、公表されている論文からは、その妥当性を確認しえません。
 現時点において、DEHPについては、EUではTDIが37μg/kg/day(CSTEE,1998)、米国ではNOAELが 〜3.7−14mg/kg/day (CERHR, 2000)、DINPのTDIは、 EUでは150μg/kg/day(CSTEE,1998)、米国では120μg/kg/day(CPSC, 2001)です。
 諸外国の状況等については、今後とも情報収集に努めますが、DINPのTDIについては、得られた試験成績中最も低い無作用量に基づき設定しており、妥当なものと考えています。

(IARC)

(84) 2000年2月にIARC(国際がん研究機関)はDEHPの分類を2Bから3へ下げた。この決断は大変重要なものであり、IARCはこういった決定をしばしば行うわけではない。

(85) 2000年2月、IARCは、DEHPに暴露したげっ歯類に観察された肝臓腫瘍は、ヒトには当てはまらないと判断し、DEHPをヒトでの発がん性が認められる物質に分類することはできないと結論づけた。同様の考察は、同じメカニズムでげっ歯類に肝臓腫瘍をもたらすDINPにもあてはまる。

(86) DEHPの安全性について、発ガン性についてもIARCでグループ3に変更され、安全との見解が出ている。今までの研究結果によるデータの採用も古いげっ歯類のデータが採用されているようだが、なぜ新規データを採用しないのか。

(回答)
 DEHP、DINPのTDIは発がん性ではなく、一般毒性に基づき設定されています。

(米国)

(87) 米国NTP(国家毒性プログラム)のCERHRは、2000年6月にフタル酸エステル可塑剤の評価を完成し、全般的にヒトがフタル酸エステルに暴露する際の生殖・成長上の影響について懸念は少ないことを表明した。彼らの評価は、フタル酸エステルは消費者製品において正しく使用された場合安全であることを認めるものである。

(88) 2000年10月のCERHRの専門家パネル報告書によると、玩具又は他のDINP含有物を口にすることによってDINPの暴露を受ける可能性のある子どもにおいて、成長及び生殖について予想される健康上の影響には“懸念が少ない”と述べられている。このパネルは、成人の暴露レベルよりも著しく高いレベルで幼児がDEHPに暴露した場合に、懸念が生じる可能性があると表明しましたが、この理論的根拠は、ヒトには当てはまらないげっ歯類での極めて小さな影響を示す研究に基づいたものであった。未成年者へのDEHPの影響に関する研究は現在進行中である。CERHRの報告そのものは規制上の意味は持たないが、規制当局によって情報源として利用されることがある。

(89) CERHRは、リスク評価するに際し、直接、ヒトへの暴露量を、過去の報告を調査して見積もっています。医療行為による暴露が最も大きいと報告しており、(1)妊産婦ならびに妊産婦を通しての乳幼児への暴露と、(2)危篤状態の乳幼児への医療行為による直接的な暴露について重大な関心を持つと結論を出した。その後、疫病対策予防センター(CDC)が、婦人の暴露量を調査し、PVCの可塑剤として使用されるフタル酸エステル類については、暴露量が少なく、問題ないと報告している。したがって、残るのは(2)である。CERHRは、危篤状態の患者(乳幼児)を救うためには、DEHPを使用した医療器具(他に代替品がありません。)を使用すべきとしておりますが、DEHPに係るヒトへの影響について確認を急ぐようにと述べている。すなわち、米国は、一般の人々について、老若男女を問わず、健康リスク問題はないと判断している。

(90) PVCは、極めて優れた特性を有し、多くの分野で幅広く利用されているが、近年、ダイオキシンの発生や可塑剤の環境への影響をうんぬんされて、社会的に問題視されるに至っている。しかしながら、ダイオキシン問題については政府の見解が出されているように、「すべて、物質の焼却方法の問題である」ことが明らかにされ、また、DEHPについても米国のCERHRが昨年明らかにしたように、幼児期の大量の被ばくによる生殖毒性作用のみに留意するよう限定されたと理解している。

(91) DINPに関し、米国のNTPは、妊娠女性が暴露した場合の子どもへの影響を軽微な懸念、物を口に入れたことによる子どもへの影響を少ない懸念と報告している。今回の規格基準案の根拠として出されている資料はNTPの報告より古く、NTPが出した結論を覆すほどの研究結果とは考えられない。

(92) 2000年9月にCERHRは子どもがおもちゃを口にすることによるDINPの子どもに関する生殖、発育など健康影響の可能性はわずかな懸念しかないとしており、DINPのおもちゃ規制について、その毒性についての見解は国際社会の見解に合わせるべきで、規制は時期尚早である。

(93) 2001年6月に発表されたChronic Hazard Advisory Panel(CHAP)の最終報告の結論の要約は、(1)DINPは、ヒトに対して遺伝毒性はない。(2)DINPは、ヒトに対して発がん性はない。(3)DINPは、ヒトに対して生殖毒性はない。(4)現在ヒトがDINPを含む消費者製品から摂取するDINP量は、がんのリスクの著しい増加を伴うと、まことしやかに言われているレベルには達しておらず、そしてまたたいていの子どもにとって、DINPを含む玩具によるDINP暴露から健康を損なう可能性は、極めてわずかから存在しないレベルと予測される。

(94) CHAP報告は、2001年6月に公表され、次のように結論付けている。「ヒトは現在のところ、DINP含有玩具から発がんリスクの有意な増加に関連があると思われるDINPを取り込んではいない。」「したがって、『肝臓がんに関する』ヒトのリスクは、無視できるほどと思われる。」「DINPは、α2uグロブリンメカニズムによって『腎臓がん』を誘発するが、これはげっ歯類に特有なメカニズムで、ヒトでのリスクの決定には関連がないと思われる。」「単核球白血病も、げっ歯類特有のがんである可能性があり、ヒトでのリスクの決定に関連があるか否か不明である。」「DINPへの暴露に起因するヒトの生殖及び成長過程へのリスクは、極めて低いか存在しない」「大部分の子どもにとって、DINP含有玩具からのDINPへの暴露によって予想される障害リスクは、ごく少ないか存在しないであろう。”

(95) 1999年に米国科学衛生協会の後援の下で、Dr.Koopを議長とする審議会は、「軟質玩具に含まれるDINPが、子どもの健康にリスクを及ぼすとは考えられない。」と結論しています。また、「消費者は、塩ビ玩具が…安全であると確信することができる。」とも述べています。

(96) ACCのフタル酸エステルパネルは肝機能障害には種差があり、かつ腎腫瘍はDINP代謝物とα2uとの可逆性を明らかにしている。このような資料が引用されていない理由如何。

(97) 米国カリフォルニア州の環境保健有害性評価部(OEHHA)の化学物質被曝限界の提案を伝える記事があり、この記事の無有意リスク量(NSRL)の設定方法については残念ながら知識がないが、単位から見てTDIと同じ扱いをしても良いのではないかと考える。米国でも環境規制が厳しいと言われているカリフォルニア州で、DEHPに対する規制がこの様に緩和(警告ラベル貼付対象の緩和)されたことは、小さなNOAELを報告している研究結果が、到底米国の厳しい訴訟に耐えられない(簡単に論破される)ことを示しているのだと思う。

(回答)
 海外におけるフタル酸エステル類の評価に関する情報は、今回の規制の検討において参考としております。
 今回、DEHPとDINPの毒性評価に加えて、我が国における子どものMouthing時間の調査結果と口腔内溶出試験結果からおもちゃについてDEHPとDINPの規制が必要と判断したもので、規制の対象範囲は暴露評価の結果、必要と考えられた範囲としています。
 Koopらの報告においても、げっ歯動物において観察された肝臓と腎臓の病理組織学的変化や、ペルオキシソーム酵素活性の増加については、ヒトとの関連性が、疑わしいとされ、DINPのNOAELは15mg/kg/dayとされています。
 また、CHAPの報告においては、注意を要する可能性があると指摘するケースの1つは、1日に75分以上DINP含有物を口にする子どもを想定した場合とされております。厚生科学研究等の結果、おしゃぶりをMouthingする時間が、今回の調査においても、最長のMouthing時間は 314.1分、最短 0.6分、平均73.9分で、75分以上「おしゃぶり」をMouthingする乳児は11例中4例(36.4%)あり、おしゃぶりに使用された場合、極端な条件を想定するとDINPのTDIを超える暴露を生じる可能性があると判断されております。米国の委員会がいう75分で判断してもリスクは無視しえないものと考えられます。

(フランス)

(98) DINPについては、フランスが行ったリスクアセスメントの結果でも、これ以上の試験や調査は必要ないとされている。もう少し試験データや情報を集め、より多くの学識経験者の意見を聞かれて後、規制すべきか否かを判断されては如何か。

(回答)
 本件については、適正なデータに基づく検討が行われたものであり、また、薬事・食品衛生審議会食品衛生分科会毒性・器具容器包装合同部会での2度の審議、及び薬事・食品衛生審議会食品衛生分科会での審議が予定されており、慎重な審議を経た後に、規格基準を制定する予定です。

8)検討方法等について

(99) 今回の規制案が立脚しているのは、2、3の論文に過ぎず、一国の法規制の根拠としては薄弱である。その信憑性、再現性、対応については、単に一日の審議会ではなく欧州のCSTEEあるいは米国のACSHのごとく、権威ある専門化のグループに充分時間をかけて徹底的に検討してもらい結論とすることが望まれる。このどちらも、玩具用にフタル酸エステル可塑剤の使用に問題無しとしている。

(100) DEHPの毒性評価について、現在進行中の試験結果を待たずに規制を急がなければならない緊急性の根拠をお示しいただきたい。

(101) 是非とも毒性試験の追加をし、納得のいくTDI値が決められることを要望する。

(102) 今後の新たな知見に対しては、これを勘案し、適宜しかるべき見直しをすることを要望する。

(103) 緊急にどうしても今回規制せざるを得ないのでDEHPのTDIを決めざるを得ないとした場合においては、新たな知見が得られれば早急なる見直しをお願いしたい。

(104) 今回、「器具及び容器包装並びにおもちゃ」の規格基準の一部改正の根拠として示されたTDIは、今後の我が国の当該規格基準に係る全ての化学物質の評価、規制に使用されていくものと理解するが、その旨の見解を正式に表明されることを要望する。

(105) 厚生労働省においては、健康確保に重大な責任を持つ政府機関として、重大な関心を持つのであれば当然、自ら、DEHPの試験評価をされていると判断する、それの開示を求める。

(106) 現在、公的機関、産業界が、フタル酸エステル類による精巣毒性の評価を行なっていると思われるが、厚生労働省として今後どのように考えているのか、実施項目、検討内容、期間等を公表されたい。

(107) 今回の科学的根拠は大人のねずみを使った慢性毒性実験によるものであり、乳幼児の感受性を考慮するためには、生まれて間もない幼若動物実験による十分な毒性データが必要である。したがって、今回の健康影響評価方法では、乳幼児の健康と安全を確保することはできない。

(108) 規制の根拠となっている諸データは国際的な科学データからみて、規制しなければならない正当性が認められない。DINPは規制の対象に含めるべきでなく、国際的に認められている妥当な科学データを基に、規制の根拠を示されたい。

(回答)
 本件については、適正なデータに基づく検討が行われたものであり、また、薬事・食品衛生審議会食品衛生分科会毒性・器具容器包装合同部会での2度の審議、及び薬事・食品衛生審議会食品衛生分科会での審議が予定されており、慎重な審議を経た後に、規格基準を制定する予定です。
 DEHPの毒性評価については一定の結論が得られており、規格基準(案)を作成するに必要な検討が済み次第、規格基準を告示する予定です。告示後施行までの間、一定の猶予期間を設けることを予定しており、緊急に措置を講じるものではありません。
 DEHPのTDIは、追加試験成績がないと設定できないものではなく、現時点の成績から設定可能であり、その値は妥当なものと判断しております。
 厚生労働省ではDEHP等の試験は実施しておりません。DEHPとDINPについては、今回、一定の評価を行っており、追加実験等を行う計画は現時点においてはありません。なお、今後、フタル酸エステル類による精巣毒性について新たな知見が得られれば、必要に応じて検討を行うことは当然のことと考えます。
 今後、新たな知見が得られた場合には、必要に応じて検討を行うことは当然のことと考えます。
 毒性評価においては、個別判断が必要な場合もありますが、TDIは人体への有害性を評価する上の指標として有用なものでありますから、今後の基準作成においてもこれを活用することが考えられます。いずれにしても、個々の基準作成の目的に鑑みて最も適切な評価方法を検討することになります。
 特殊な毒性試験の成績があればより精密な毒性の考察が可能となりますが、生まれて間もない幼若動物実験による十分な毒性データはなくとも、今回の毒性評価等からも一定のリスクが判明したため、今回、規格基準(案)の作成を行っております。
 毒性評価においては適切な不確実係数を見込んでおりますし、慎重な暴露の評価も実施しておりますので、今回の規制で乳幼児の健康と安全を確保しえるものと考えます。
 DINPについては、おしゃぶり等に使用された場合、極端な条件を想定するとTDIを超える暴露を生じる可能性は否定しきれないことが判明しております。

9)その他

(109) 本措置に関する種々の試験について、試験そのものの精度が大きく判断に影響を及ぼすことから、結果を採用する試験についてはGLPに準拠している必要がある。これまでのハザード評価が精度管理のもとで行われたものであるか精査するよう要望する。

(回答)
 今回、毒性の検討に用いた種々のデータは、基本的に学術雑誌に発表されているもの等であり、その内容の精査・評価をしています。なお、安全性を疑わせる資料については、当該資料の信頼性等にかかわらず、幅広く収集し、評価することを基本的な方針としています。

(110) DEHPの発ガン性については、IARCの評価は3に分類されており、また内分泌撹乱作用に関してもZacharewskiらが行ったエストロゲン活性試験の結果では、女性ホルモン作用は認められていない。

(111) 現在使用されている中で占有率が高いのでたまたまDEHPとDINPは内分泌かく乱化学物質(いわゆる環境ホルモン)としての研究がなされているのではないか。

(112) フタル酸エステル類が環境ホルモンであると認識してないとの理解でよいか。

(113) 今回の規制は環境ホルモン作用を念頭に置いた規制ではないと理解しているが、それに相違はないか。

(114) 内分泌かく乱作用に関しても現在確認中である。現在進められている確認作業の結果を待って、規制の対象とするか否か、審議しても遅くはないと考える。

(115) 一部の報道で「環境ホルモン」、「環境ホルモンとして疑われているDINP、DEHP…」との記載等があったが、これは間違いだと考える。そうでない事実を明確にすべきではないか。大衆マスコミに流されていると考える。

(116) 新聞、ニュース等では短絡的に、内分泌かく乱物質候補=「環境ホルモン」、一般毒性=「環境ホルモン」として報道されていることに関して行政側としても正しい情報を伝える努力をされるよう要望する。

(117) 環境ホルモンなる言葉の一人歩きやシックハウスの原因でも同様で可塑剤との因果関係が今一理解できない。

(回答)
 今回の規制は、DEHPの発がん性や内分泌かく乱作用に基づくものではありません。
 内分泌かく乱性については、種々の研究がなされており、その際、使用量の多い化学物質については優先的に取り組むべきものと考えられます。しかしながら、今回の措置は両物質が内分泌かく乱化学物質(いわゆる環境ホルモン)と考えられたから講じるものではなく、TDIも一般毒性に基づき設定されています。
 今回の規制措置は、内分泌かく乱化学物質(いわゆる環境ホルモン)問題とは直接的な関係はありませんことから、合同部会の審議結果の発表及び取材対応においても、内分泌かく乱化学物質(いわゆる環境ホルモン)問題による規制措置であるとの説明はしておらず、適宜、規制措置を講じようとする趣旨を説明しています。

(118) フタル酸エステル類のハザード評価に関しては、今回の判断基準とされているげっ歯類による評価は必ずしも適切ではないとの指摘があることを含め、現時点での情報は規制を判断する上で不十分であると考えられる。

(119) DINPとDEHPに関する知識をより深める大規模で広範囲な努力が行われている最中であり、溶出・移行基準値はげっ歯類への影響を基礎としているために大変保守的に設定されているということを理解されたい。

(120) 本当にDEHP、DINPは他の化学物質に比べて危険なのか。

(121) DEHP、DINPの毒性に関し、本当に人間に害があるのか。

(122) 乳幼児のリスクは最小限におさえなければならないという特殊事情への配慮を主張されるのであれば、それは「いかなるリスク」で「最大の安全性を見込まなければならない」根拠を示されたい。

(123) 玩具へのフタレートの使用が欧米で問題になった発端は、フタレートの生殖毒性が疑われる一方、生殖毒性に対し感受性の高い乳幼児が玩具を口に含むことによるフタレート暴露への懸念であったはずだが、DINPなどは肝機能障害を根拠に禁止措置が取られた。乳幼児期の限られた一時期(3年以下)の暴露で肝機能障害を起こす可能性を、科学的に、どの様にして、どの程度と見積もったのか、或いは、特に乳幼児期に肝機能障害への感受性を懸念しなければならない根拠があったのか。

(124) おもちゃに関するフタル酸エステルの安全性については、欧米でも評価がなされているが、極めて限定的な一部の例外を除いて禁止という例はないはずである。今回の日本の決定(案ではあるが、)は、欧米とはデータが違うのか、そしてそれが何故結果の違いを生み出したのか。

(125) この規制は欧米諸国にも見られない厳しい内容であり、仮に科学的根拠に基づくものであれば、当然グローバルな尺度で判断されるべきもので、この点についても妥当性がない。DINPのおもちゃ規制についてその毒性に対する見解は国際社会の基準に合わせるべきで、規制は不当である。

(126) 法律で使用を禁止されるのは、世界でも例のないことであり、画期的と思うが、約50年間の使用で人間の健康に害があった報告例はない。ラット、マウス、魚類と人間の構造は違うことを十分に認識する必要があると考える。被害が出てからでは、遅いとの考え方もあるが、社会に有益な製品として貢献していることも充分に考慮すべき。

(127) あきらかにDEHPが作用したと確認できる障害が発生しているのか。過去何年間にも渡り使用されてきて障害が確認されていないものをどうして早急に 規制する必要があるのか。

(128) 今回の規制案が欧米諸国に比べ厳しい根拠と理由は何か。欧米人種の方がそういった物質に対し免疫能力に優れているのか。それとも、日本特有の責任逃れから必要以上に規制を厳しくしているだけか。

(129) TDIを超えなければ安全と解釈できるが、今回の規制案において、とくにおもちゃに対するDINPは、TDIに近づくケースが極稀である(極端な条件を想定した場合のみ)とされているにも係わらず規制しようということは、超安全サイドに立った措置と考えてよいか。

(回答)
 現時点での情報に基づいて、DEHP、DINPには規制が必要な程度のリスクはあるものと判断されます。
 乳幼児の玩具からの暴露の評価においては、その特殊性を考慮した上で評価を実施しております。暴露の評価や規制の必要性の検討において、安全性を見込むことは至極当然のことですが、今回特別に「最大の安全性」を見込んでいるわけではありません。
 乳幼児のおもちゃの使用の特殊性を踏まえた暴露評価の結果、TDIを超える暴露が生じる可能性があることから規制しようとするものです。
 TDIは、一日でも、あるいはわずかでも、その値を超える暴露があった場合に、直ちに健康影響が生じるといった値ではありませんが、食品衛生法に基づく規格基準(案)を作成するに当たって、TDIを超える暴露を受けることがないように設定しております。TDIを超える暴露があり得ることが判明しながら、それを放置することは適切ではないと考えます。
 EUでは既に6種類のフタル酸エステル類を含有するPVC製の玩具及び保育用品が流通しないよう規制措置が実施されております。この措置は3ヵ月毎の暫定措置とされていますが、平成11年12月以降、現在に至るまで継続されています。
 米国の消費者製品安全委員会の科学委員の検討結果では、1日に75分以上玩具を口に入れている子どもにはDINPのリスクがあるかも知れないとした上で、大部分の子どもに対してはDINPの被曝が被害を与えるリスクは極めて僅かか、あるいはあり得ないものであろうとしています。我が国の調査結果では、最長のMouthing時間は 314.1分、最短 0.6分、平均73.9分で、75分以上「おしゃぶり」をMouthingする乳児は11例中4例(36.4%)あり、米国の委員会がいう75分で判断してもリスクは無視しえないものと考えられ、おしゃぶりに使用された場合、極端な条件を想定するとDINPのTDIを超える暴露を生じる可能性があります。
 毒性評価、食品への移行のメカニズム(器具・容器包装)及び暴露評価(おもちゃ)に基づき規格基準(案)を作成しており、結果的に欧米の規制と相違する部分はあるかもしれませんが、EU及び米国においてもフタル酸エステル類の規制や指導は行われており、また、欧米での規制等も統一されたものではなく、例えば、EUはおもちゃにおける規制対象範囲は日本よりも広い部分がある等、今回の規制(案)が欧米諸国よりも全ての面で厳しいものであるとは言えないと考えます。
 今回の規格基準(案)は、データから必要と考えられる範囲で規制しようとする趣旨であり、DEHPとDINPの全面禁止ではなく、継続して使用できる範囲もある点について誤解なきようお願いします。
 化学物質による人における健康被害が明確になるまで規制すべきではないという考え方は、動物実験の否定でもあり、一定のリスクがあることが判明したものについては適切に措置を講ずべきものと考えます。
 なお、告示後施行までの間、一定の猶予期間を設けることを予定しております。

(130) DEHPの毒性評価については、「さしあたり一般毒性についてはこれまでの毒性評価で判断することは差し支えない」として内分泌かく乱作用を充分考慮しないTDI設定(40〜140μg/kg bw/day)がおこなわれた経過がある。内分泌かく乱化学物質については、毒性評価が定まっていないとはいえ次々と新たな知見も発表され、ノニルフェノールについては8月3日環境省が内分泌かく乱作用を確認した。極微量で胎児や乳幼児への不可逆的な健康影響が懸念されることから、確認されたものは勿論、その他のものについても「疑わしいものは使用せず」という予防原則にたった規制を求める。

(回答)
 内分泌系への影響についても評価した上で、TDIを設定しています。
 なお、内分泌かく乱化学物質については、別途検討が進められています。

(131) 科学的根拠に基づいた規制と聞いているが、最新のしかも本当に人に関するデータを基準にして作成された規制なのか。

(回答)
 毒性試験は人では実施できませんが、入手したデータを適切に評価した上で規格基準案を作成しております。



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