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広報誌「厚生労働」

特集

お金・家・仕事……「困った」を支える仕組み

「生活困窮者自立支援制度」という名称を聞いたことがありますか?
これは、生活に困っている人を支えるための制度です。昨年6月に成立した改正生活困窮者自立支援法では、制度の対象である「生活困窮者」の定義が明確化され、困窮状態に至る背景として仕事や心身の状況、地域社会との関係などの事情が追加されました。具体的には、「仕事が長期間見つからない」「家族がひきこもっている」といった問題を抱えている人のほか、解決の相談先がわからない人などが対象です。図表はその一例です。失業や病気などをきっかけに誰もが生活に困窮する可能性がありますし、もしかしたら「困った状態」に悩んでいる人が周りにいるかもしれません。だからこそ、困ったときに利用したり、困っている人に利用を勧められるように同制度を知っておくことが大事です。どんな支援を受けられるのか、一緒に学びましょう。

図表 様々な生活困窮者

Part1:困りごと別受けられるサポート

生活困窮者自立支援制度では、相談者の困りごとに合わせてさまざまなサポートを用意しています。困りごと別にどんなサポートを受けられるのかについて紹介します。

生活に関する困りごとがある

図表1 生活困窮者自立支援制度の内容

→ 自立相談支援事業
 生活困窮者自立支援制度の窓口となるのが、自立相談支援機関(自治体によって名称は異なります)です。福祉事務所を設置している自治体が直営または委託により運営しています。生活保護に至る前の早い段階から、困りごとを抱えている人に関わることで、できるだけ早く困窮している状態から抜け出せるように支援します。
 自立相談支援機関では生活困窮者からの相談を受け、相談者が抱える課題を評価・分析し、必要な支援を検討します。その支援を計画的・継続的に行うため、支援調整会議において、サービスを提供する関係機関と調整し、支援プランを作成します。支援プランは適宜見直し、課題の解決に向けてきめ細かい支援を行います。
 また、地域ネットワークの強化や社会資源の開発などによる地域づくりも行っています。

New!
 今回の法改正では、自立相談支援事業と就労準備支援事業(後述)、家計改善支援事業(同)の一体的実施の促進が盛り込まれました。包括的な相談支援と、専門性の高い就労準備支援、家計改善支援が連続性をもって実施されることで、より効果的な支援が行われることが期待されます。

再就職をしたいのに家がない

→ 住居確保給付金の支給
 離職によって収入が減少し、家賃を払うことが難しくなる場合があります。また、会社の寮などで暮らしていた人のなかには、離職と同時に住む家を失ってしまった人もいるでしょう。いくら再就職をめざしていても、住む家がなければ、安心して就職活動を行うことができません。そこで、就職活動をしていることを条件に、一定期間、家賃相当額(上限は生活保護制度における住宅扶助特別基準額)を支給するのが、この仕組みです(支給期間は原則3カ月ですが、最長9カ月まで延長することが可能です)。

就職活動がうまくいかない

→ 就労支援(就労準備支援事業、認定就労訓練事業)
 就労準備支援事業は、決まった時間に起床・就寝ができないなど生活リズムが崩れている人や、他者とのコミュニケーションが苦手な人など、就職に向けた準備が必要な人が対象です(図表2)。グループワークや模擬面接、職場見学、就労体験、農作業体験など、さまざまなメニューを通所や合宿などの形式で提供します。こうしたメニューを通じて、就職に必要な基礎的な能力を身につけていきます。

図表2 生活困窮者に対する就労支援について

 認定就労訓練事業は、長期離職者やひきこもり状態にある人、精神疾患を抱えている人など、すぐに就職するのが難しい人に向けて、支援付きの就労の機会などを提供するという事業です。事業者が自治体から認定を受けて実施しているので、安心して利用できます。
 達成すべきノルマを設けずに訓練計画に基づいて行う「非雇用型」と、就労支援プログラムに基づいて行う「雇用型」があります(図表3)。雇用型は、労働基準関係法令の適用対象となりますが、労働時間や欠勤について柔軟な対応をとるなど、就労条件に一定の配慮をしています。どちらも、事業所に配置されている就労支援担当者が利用者の相談にのったり、必要なアドバイスを行い、自立相談支援機関とも連携しながら、就職に向けた支援を行います。

図表3 認定就労訓練事業

家計のやりくりがうまくできない

→ 家計改善支援事業
 生活に困っている人のなかには、家計の収支を把握できていない人や、多重債務を抱えている人がいるかもしれません。家計改善支援事業では、相談者が自分で家計を管理できるようになり、債務を解消して生活が安定することをめざします。
具体的には、家計の状況を明らかにし、根本的な課題を把握します。そのうえで、家計再生プランを作成し、目標を決めます。多重債務者に対しては、専門機関と連携して債務整理を行います。そして、家計の状況をモニタリングしながら、その管理を支え、最終的には相談者が自立した生活ができるようになることをめざします。

New!
これまでは「家計相談支援事業」という名称でしたが、今回の法改正で「家計改善支援事業」に変更になりました。

家を失ったままで、どうしたらいいかわからない

→ 一時生活支援事業
 ホームレスや、ネットカフェやサウナに寝泊まりしている人など、住む場所を失って困っている人に向けて、原則3カ月間(最大6カ月間)、衣食住の提供を行っています。事業を利用している間に、仕事を見つけたり、アパートなどを借りるためのお金をためたりすることによって、自立することを目標にしています。

New!
 今回の法改正で、シェルター等を退所して地域で暮らし始めた人などに対して、一定期間、訪問による見守りといった日常生活を営むのに必要な支援も行えるようになりました。地域とのつながりが薄く、孤立しているような人に対して、こうした支援を行うことで、支援が必要な人同士や地域住民とのつながりをつくり、お互いに支え合える関係を構築し、より安定した暮らしを営めるようになることをめざします。

子どもに十分な学びの機会を与えられない

→ 子どもの学習・生活支援事業
 生活困窮世帯の子どもは、「親が仕事や病気のため、十分に子どもの勉強をみることができない」「家庭に居場所がない」「学習が進まない」といった問題を抱えているケースがあります。そうした子どもに対して、居場所の提供を行ったり、宿題や進学に向けた勉強のサポートをしたり、生活習慣や社会性が身につくような支援をすることで、子どもの将来の自立を後押しします。

New!
 これまでは「子どもの学習支援事業」という名称でしたが、今回の法改正で同事業の強化が図られ、「子どもの学習・生活支援事業」に変わりました。子どもの「生活習慣が身についていない」などの問題に対して、生活習慣の形成や育成環境の改善に関するアドバイスを行います。さらに、進路を考えるきっかけとなるような情報の提供なども行います(図表4)。

図表4 生活困窮世帯の子供を取り巻く主な課題

相談(1)借金があるから何とか仕事に就きたい

 消費者金融からお金を借り、200万円の借金を抱えた30代男性。派遣社員として働いていたものの、30代前半のときに脳梗塞となり、後遺症を理由に退職した。体調回復後、就職の相談をしに行った地域若者サポートステーションの担当者が生活困窮者自立支援制度の担当者を紹介。お金の管理の仕方を学ぶとともに、弁護士に債務整理を依頼。過払い金が戻ってきたことで、自動車運転免許の取得に充てられた。また、ホームヘルパーの研修を受講し、資格を取得。現在は週5日働きながら、借金を返済している。(取材協力/神奈川県座間市福祉部生活援護課)

相談(2)必死に働いても生活がカツカツ……

 派遣社員として一生懸命働いていた50代独身男性。生活はカツカツで、水道光熱費を滞納している状態だった。しかし、生活保護を受けるには一定の要件があり、収入が生活保護の適用基準を上回っていたため、生活保護を受給できなかった。生活困窮者自立支援制度の担当者に相談し、家計の収支を見直すことに。また、お金がなく、病院の受診を後回しにしていたので、支払いの相談に乗ってくれる病院を紹介してもらった。(取材協力/座間市福祉部生活援護課)

相談(3)年金を差し押さえられ、ホームレスに

 70代の単身男性は、自営業がうまくいかず住民税や国民健康保険料などを滞納。その滞納をどのように相談したら良いかわからず放置したため、引退後に、生活費分を除く年金を差し押さえられてしまった。しかし、生活費以外に自営業時代の支払いもあり、その支払いを優先したため家賃が払えず、路上生活に。冬の寒さに耐えきれず、市役所に駆け込んできた。年金の差し押さえは一時的であることから生活困窮者自立支援制度の担当者を紹介され、担当者と一緒に税の担当窓口へ。事情を説明したところ、年金の1回分全額の差し押さえ解除をし、今後の生活見通しを加味した税の分納相談に応じてくれたので、そのお金を入居金に充てて家を借り、食料はフードバンクに援助してもらって生活を維持。まもなく完済できる見込みという。(取材協力/座間市福祉部生活援護課)

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