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広報誌「厚生労働」

特集
企業も働く人も成長する 人材育成支援策を活用しよう

少子高齢化で労働力人口が減少するなかで、日本が持続的な経済成長をめざしていくには、生産性の向上を図る必要があります。そこで、カギとなるのは「人材育成」です。人材育成の取り組みは、企業にとっては“生産性の向上”、労働者にとっては“技術・スキルの向上”につながり、両方にメリットがあります。今回の特集では、実際に人材育成支援策を利用した企業の声を紹介します。また、企業の人材育成の目的や方法から、適切な国の支援策を導き出せるようになっています。

Part1:使ってよかった利用者の声

part1では、実際に国の人材育成支援策を利用した企業に、その内容と効果を伺いました。

事例1:セルフ・キャリアドック OJTと組み合わせて社員のキャリアアップにつなげる

画像 竹延幸雄さん

技術を細分化し3年で3つの習得を
 株式会社KMユナイテッドは、大手塗装の株式会社竹延の子会社です。親会社の技術を持つベテラン職人の高齢化に対処して、成り手不足を解消するために、2013年に設立されました。
 塗装や建設業界で活躍する職人は、これまで「先輩の背中を見て学ぶ」ことで技術を身につけてきました。「『背中を見て学ぶ』で残れる人だけでなく、技術を身につける過程で業界を離れていく才能ある人たちに残ってもらうために、しっかりと学べる体制をつくる必要性を感じました」と、社長の竹延幸雄さんは説明します。
「10年かけて一人前になるように育てる」では、その長すぎる過程で離脱していく人も少なくありません。そこで、同社では3年かけて、塗装の前工程である「養生」や「研磨」、「パテ処理」などのうち3つの技術が一人前になることを目標とする教育体制にしました。技術を細分化し、それぞれの技術を一流の人に学べるシステムで、各社員の成長段階をみて、竹延さんが次の技術の習得を割り振っていくようにしています。

外部講師との面談でOJTの課題が明らかに
 人材育成(OJT:日常の業務に就きながら行われる教育訓練)の体制ができ、効果が生まれてきているなかで、一から十まで教える仕組みのデメリットも感じていたと、竹延さんは話します。「入社時には、やる気にあふれていた社員たちも、だんだんと教えてもらえることに慣れ、『次は、何を教えてくれるのだろう』と、自立性が薄くなっていくように感じ、悩んでいました」
 そんなときに、同社は2016年にセルフ・キャリアドック導入モデル企業に推薦されました。セルフ・キャリアドックを導入し、外部講師のコンサルタントが社員一人ひとりと面談。そこでは「やる気はあるのに指導してくれない」「仕事を回してくれない」などの声が社員からあがりました。自分と社員の意識のズレを知ったそうです。「外部講師なので、中立的な立場での意見をもらえました。社員にも『それは、会社が変わるべきこと』『それは、会社でなくあなたが変わるべきこと』と、両方の見方を伝えてくれました」と話します。
 OJTの課題を解決するために、現在はOJTとセルフ・キャリアドックを組み合わせ、社員のやる気と自立性を引き出して成長していくのをバックアップする人材育成の体制にしています。
 職人としてのキャリア形成のグレードもつくりました。基本的な塗装技術を身につけた「クラフトマン」、現場を任されるようになった「サブインストラクター」、一通りの技術を身につけた「インストラクター」の3段階です。
 2017年以降も毎年、社員全員を対象にセルフ・キャリアドックを行っています。「中小企業だからこそ、ヒトにこだわり、今いる人材を大切にすべきだと思います。セルフ・キャリアドックを活用して、一人ひとりのキャリア形成を考えていきます」と、竹延さんは語ります。

個別面談で個々のやる気を引き出す

事例2:生産性向上支援訓練 1カ所に集まらなくても全国各地で同じ訓練が実施できる

画像 藤田智弘さん

部下のマネジメントという店長の悩み解消を目的に
 株式会社ロベリアは、婦人服の販売を行っています。「アクティブな大人の魅力的なライフスタイルをリードする」をコンセプトに、次の3つのマインドを掲げています。@ホスピタリティー:お客さまの期待を超えるサービスを提供する。Aプロフェッショナル:コーディネート力を身につけたプロの集団をめざす。Bチームワーク:チームワークでサービスの向上に取り組む。
 同社は全国に100店舗があり、ストアマネジャー(店長)1人、ファッションアドバイザー(販売員)3〜5人で各店舗を運営しています。店舗は北海道から沖縄まで各地にあるため、1カ所に集まって研修を実施することが難しく、これまで行えていませんでした。
 そうした状況の打開策を模索していた、同社代表取締役社長の藤田智弘さんは、2018年春に「生産性向上支援訓練」のことを知りました。自社の課題に合わせた内容の訓練を場所や時間などの要望に応じて実施できるため、全国各地で同様の訓練を受けられる点に魅力を感じ、実施を決意。まずは関東エリアで行い、それをもとに全国で行っていくことにしました。
 今回の訓練の対象者は店長です。「当社の店長たちには売り上げ目標を達成することが求められます。そのためには、いかに従業員に活躍してもらうかが重要になってきますが、彼らをどのようにマネジメントすればいいのか悩んでいました」と、藤田さんは話します。
 店長の年齢は平均55歳、販売員は60歳と、自分よりも年上の部下がほとんど。販売員たちのなかには店長経験者も多く、経験や知識でも勝る人たちの適切なマネジメントこそが各店長の共通の課題だったのです。
 こうした店長の悩みの解決を、訓練の目的とし、マインドのBチームワークの強化をテーマとしました。

理論もテクニックも集中的に学べる
 訓練の実施にあたっては、申し込み先の(独)高齢・障害・求職者雇用支援機構東京支部に設置されている生産性向上人材育成支援センターに訓練実施機関の選定から訓練内容の調整まで、訓練実施に関するコーディネートをしてもらい、2018年10月に同社の会議室で1日(6時間)訓練を実施しました。
 訓練内容は部下のモチベーションの上げ方や指示の仕方、話の聴き方などで、座学に実習も交えて学びました。「『しなさい』と指示をするのではなく、従業員から答えを引き出す聴き方・話し方をすることが大切であると知りました。チームワークがより強化されれば、さらなる営業力の向上が図れると思います」と、藤田さんは訓練の様子を話します。
 訓練では、各店長が店舗に持ち帰って掲示できるように行動基準書も作成しました。自分の働き方や部下とのコミュニケーションで悩んだ際に、この基準書を見返し、自分の行動指針を確認することが目的です。「さまざまな理論やテクニックが1日の訓練のなかに凝縮されていました。今回の研修を通じて、店長一人ひとりがモチベーションを高く持ちながら、働き続けてもらえればうれしいです」
 訓練後のアンケートでは、「持ち帰って、実践してみたい」「1日の研修であったが、内容が充実しており、とても満足した」との声があがってきたそうです。
 参加者に好評であったことを受けて、「今後は、関東以外の地域でも同様の内容の訓練を実施していきます。そのうえで、訓練内容の課題抽出と改善を図っていきたいと考えています」と、藤田さんは今後の展望を語ります。

座学と実習を組み合わせた実践的な訓練に、参加者の満足度も高かった

事例3:雇用型訓練 Off-JTとOJTの組み合わせで定着率向上につなげる

画像 星指千恵さん

中途採用での苦い経験を新卒の教育・研修に活かす
 丸善工業株式会社は小型建設機械、自動車用検査機器、包装梱包機、医療機器などの開発・設計・製造・販売を行っています。現在、「一流を育てる」ことを目標に、Off-JT(通常の仕事を一時的に離れて行う訓練)とOJTを組み合わせて、新人の教育をしています。
 同社では、2011年までの約10年間、新卒を採用せず、欠員が出るごとに中途採用者で補充していました。「これまで、採用者は現場での実務を通して学ぶ体制でした。しかし、現場の技術者は教えるプロではないこともあり、教育がうまくいかず、そのため採用してもなかなかスキルアップしないことが悩みでした」と、総務課係長の星指千恵さんは振り返ります。
 そこで欠員補充ではなく、増員を目的に新卒採用を始めることにしました。これまでの中途採用での課題を踏まえて教育体制を検討し、雇用型訓練の導入に踏み切ったのです。「新卒者なので、まず社会人としての基礎や製造業の基本的知識を身につける必要があります。その最初の部分を雇用型訓練で行い、現場に配属してから徐々に技術を学ぶ流れにしました」と、星指さんは説明します。社会人としての研修には、同じ時間をかけるなら、プロに学ぶほうが効率的であることも、同訓練を取り入れた理由の一つです。

社内外に支え合える仲間ができることもメリット
 同社が活用したのは、雇用型訓練コースの「特定分野認定実習併用職業訓練」です。Off-JTとOJTとを組み合わせた訓練になります。入社した最初の1カ月半の間、外部の教育機関でOff-JTを実施します。ここで、他社の新入社員と一緒に社会人としての姿勢や基本的マナーを身につけ、1カ月半後にそれぞれの会社に戻ります。同社に戻ってきた際には、社会人としての準備のできた顔つきになっていると、星指さんは話します。
 Off-JTの研修後、営業や技術、事務など各部署でのOJTが始まります。自社で必要な技術や知識の習得が、1年目の残りの期間で行われるのです。
 同訓練の効果について、星指さんは次のように話します。「1年間計画的に教育・研修を行ってきたことで、従来と同じ教育(OJT)でも着実にスキルアップができるようになり、新卒の3年以内の離職は、2018年の春まで出ていません」
 また、一緒にOff-JTを受けた他社の社員とは、研修後も個別に連絡を取り合っているそうです。困ったときや悩んだときに、会社の外にも相談できる仲間がいることは、その後の社会人生活での支えになっています。同訓練の実施で、社内外に支え合える仲間ができることは、離職率の低下につながっています。
「同訓練を利用することで、ビジネスマナーからプレゼンテーションの仕方、パソコンの基本操作まで、多岐にわたるプログラムをしっかりと学ぶことができます」と、Off-JTと組み合わせられる雇用型訓練のメリットを話します。
 さらに、訓練終了後2カ月以内に「人材開発支援助成金支給申請書」とジョブ・カードなどの書類を都道府県労働局に提出することで、助成金も支給されます。同社の雇用型訓練も、人材開発支援助成金を活用して実施しました。
 同訓練の効果を受けて、同社では今後、さらに新卒以外の教育にも力を入れていくようです。「現在、中間層の教育体制が整備されていません。そのため、スキルアップしていくための3段階(入門編・初級編・中級編)の社内研修『丸善道場』というものを検討しているところです」と、今後の展望を語りました。

会社のプレゼンテーションをすることが毎年の課題

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