ホーム > 報道・広報 > 広報・出版 > 広報誌「厚生労働」 > 特集 守りたい、自分自身と大事な人の未来 エイズ・性感染症を正しく知る

広報誌「厚生労働」

特集1
守りたい、自分自身と大事な人の未来
エイズ・性感染症を正しく知る

HIV(ヒト免疫不全ウイルス)や性感染症に感染しているのに、気づかずに性行為によりパートナーにうつしてしまう例が後を絶ちません。そうした事態を防ぐには、まず正しい知識を持ち予防に努めること、不安を抱えている場合は検査を受けることが大切です。

Part1 エイズ・性感染症の知識を再確認

エイズ・性感染症という言葉は知っていても、その症状や治療方法などはよくわからないという人もいるはず。Part1では、それらの病気に関する正しい知識を再確認してみましょう。

今や「死の病」ではなくなったエイズ

 皆さん、HIV(ヒト免疫不全ウイルス)やエイズ(AIDS、後天性免疫不全症候群)にどんなイメージを持っていますか。1981年にアメリカで初めてエイズ患者が発見されてから30年以上が経ちました。当初は特効薬がなく、感染すると若くして亡くなってしまう人が多かったため、「死の病」と言われていました。それが現在では、HIVに感染しても、早期発見・早期治療によりエイズの発症を防げば、感染していない人と同じくらい長く健康的に生活できるようになりました。
 HIVはヒトの免疫力を低下させるウイルスで、免疫の仕組みの中心であるヘルパーTリンパ球(CD4細胞)という白血球などに感染します。感染してもすぐに症状が出るわけではありません。なかには、感染後2〜4週間で発熱やリンパ節の腫れ、頭痛などの風邪に似た症状が出る人もいますが、多くの人は無症状です。2〜8週間で血液中にHIVの抗体ができ、その後数年間の潜伏期間に入ります。この期間、自覚症状はありません。
 しかし、気づかないうちにHIVは、体を病気から守っている免疫力を低下させていきます。免疫力が低下すると、本来であれば自分の力で抑えることができる病気(日和見感染症など)を発症することがあります。そうした病気のうち、カンジダ症やニューモシスティス肺炎などの23の指標疾患のいずれかを発症した場合、エイズと診断されます。
 HIVに感染したら、抗HIV薬を服用する治療をします。今のところ、完治する薬はできていませんが、医学の進歩により、1日1剤を1錠服用するだけの治療法も出てきました。HIV感染の有無は検査(抗体検査)でしかわからないので、感染の可能性がある場合はきちんと検査を受け、もし感染していたらすぐに治療を始めることが大切です。ただし、初期は、検査をしても感染しているかどうかがわかりません。感染の可能性がある機会から3カ月以上経ってから検査を受けましょう。検査場所などについてはPart3で取り上げます。

新規報告者のうち3割がエイズ発症後感染に気づく

 昨年の新規報告件数は、HIV感染者が976件(前年1011件)で、2007年以降、初めて1,000件を下回りました(図表1)。

図表1 新規HIV感染者およびエイズ患者報告数の年次推移

エイズ患者は413件(同437件)で、こちらは2006年以降、毎年400件以上報告されています。年齢別に見ると、新規エイズ患者は30歳以上の人が多く、50歳以上の人が29%を占めていました。昨年のHIV感染者・エイズ患者の新規報告件数のうち約3割は、エイズを発症してからHIV感染に気づいたケースです。これは、自分自身がHIVに感染していることに気づいていない人が多くいる可能性を示しています。
 HIVは感染力が弱く、社会生活のなかでうつることはほとんどありません。主な感染経路は、次の3つです。

(1)性行為による感染
 HIVは血液や精液、膣分泌液に多く含まれており、性行為により、相手の性器や肛門、口などの粘膜や傷口を通じて感染します。最も多い感染経路です。

(2)血液を介した感染
 HIVが混入した血液により感染します。違法薬物の回し打ちなどによる注射器具の共有などで感染するケースです。
 血液製剤については、製造の際にHIVの検査が行われています。1999年に核酸増幅検査が導入されて、その後も検査精度の向上の取り組みがなされています。
現行の血液製剤からの感染の可能性は極めて低くなっています。

(3)母子感染
 もし母親がHIVに感染している場合、妊娠中や出産時に子どもに感染することがあります。母乳によって感染するケースも。ただし、抗HIV薬を服用する、母乳を与えないなどの対策により、子どもへの感染を1%以下に抑えることができるので、感染した方で妊娠を希望する方や妊娠中の方は医師に相談しましょう。
 昨年の新規HIV感染者(2017年)の感染経路を見ると、同性間の性的接触が72.6%、異性間の性的接触が15.3%、静注薬物使用と母子感染がそれぞれ0.3%でした(図表2)。
感染を防ぐ方法についてもPart3で紹介します。

図表2 2017年に報告された新規HIV感染者の感染経路内訳

不安に感じた際の相談先

 もしHIVに感染した可能性があったら、どうすればよいのでしょうか。全国にある保健所では、HIVに関する相談ができます。また、エイズ治療拠点病院が全国に約380施設あり、ここでも治療や相談に対応します。
 治療費を心配される人もいると思いますが、通常の保険診療の枠組みに加え、高額療養費制度や自立支援医療等の自己負担を軽減する仕組みがあります。そういった情報も保健所やエイズ治療拠点病院等で聞くことができます。

妊娠中の女性は特に梅毒に注意

 性感染症とは、性的接触によって感染する病気です。これには、性器の接触に加え、オーラルセックス(口腔性交)やアナルセックス(肛門性交)などが含まれます。性感染症を他人事のように感じている人もいるかもしれませんが、誰もが感染する可能性のある病気です。
 性感染症には、梅毒、性器クラミジア感染症、淋菌感染症、性器ヘルペスウイルス感染症、尖圭コンジローマ、B型肝炎などがあります。そのなかで特に最近、報告数が増えているのが、梅毒です。2017年の報告件数は5,820件(暫定値)で、44年ぶりに5,000件を上回りました(図表3)。年齢別に見ると、若い女性や若い男性、中年男性に多い傾向があります。

図表3 梅毒の発生報告数の年次推移

 梅毒は、梅毒トレポネーマを病原体とする病気で、性行為による感染が主です。感染すると、時期によって次のような症状が出ます。

(1)感染後約3週間
 陰部や口唇部、口腔内、肛門などの感染した部位に赤くて硬いしこりやただれができたり、股の付け根の部分(鼠けい部)のリンパ腫が腫れます。痛みがなく、治療をしなくても症状は自然に消えます。しかし、症状がなくなっても病原体は体内に残っているので、性行為などによってパートナーなどに感染させてしまう危険性があります。

(2)感染後数カ月
 治療しないまま3カ月以上経つと、病原体が血液により全身に運ばれます。それにより、手のひらや足の裏をはじめとした体全体に、「バラしん」と呼ばれる薄赤い発疹が出るケースがあります。これは、治療をしなくても消えることがありますが、治ったわけではなりません。
 また、発熱や全身の倦怠感などの症状も現れることがあります。
 アレルギーや風しん、麻しんなどに間違えられることがあるので、不安に思った方は、医師にその旨を伝えましょう。この時期に治療をしないと、数年後に複数の臓器に障害が起きることもあります。

(3)感染後数年
 皮膚や筋肉、骨などにゴムのような腫瘍(ゴム腫)が発生したり、心臓や血管、脳などの重要な臓器に病変が生じることがあり、場合によっては命に関わることもあります。
 加えて、妊婦が梅毒に感染すると、早産や死産を引き起こすことがありますし、胎児が先天梅毒にかかる可能性があります。先天梅毒の症状は、生後まもなくの場合は水疱性の発疹や全身性のリンパ節腫脹などです。乳幼児期に症状が出なくても、学童期以降に難聴などの症状が現れることもあるので、妊娠を希望する、または妊娠中の女性は特に注意が必要です。

再感染することもあるので予防は怠らないように

 もし梅毒に感染したら、抗菌薬を服用する治療をします。場合によっては入院して、抗菌薬を点滴することもあります。症状が消えても治ったとは限らないので、医師の指示をよく聞いて、処方された抗菌薬を必ず服用しましょう。治療中は、ほかの人へ感染させる可能性があるので、性行為は避けてください。
 梅毒は、完治後も繰り返し感染することのある感染症です。治療が済んだからといって油断せず、感染予防に努めましょう。
 また、性感染症に感染すると、粘膜に炎症を起こしやすくなるため、HIVに感染するリスクも高くなります。ですから、まずはかからないように予防に努めることが大事です。こちらの予防方法もPart3で紹介しています。

Column:ほかにもある! 注意したい性感染症

 HIVや梅毒以外にも、注意すべき主な性感染症として性器クラミジア感染症と淋菌感染症があります。

<性器クラミジア感染症>

 若い女性に多い性感染症で、クラミジア・トラコマチスが病原体です。感染しても自覚症状が乏しいので、感染に気づかずにパートナーにうつしてしまうケースもあります。不妊の原因になったり、妊娠中の女性の場合は早期流産を引き起こすこともあるので、注意が必要です。感染すると、次のような症状が出ます。

【男性】

  • 排尿時に軽い痛みがある
  • 尿道からうみが出たり、かゆくなる

ただし、症状が現れる人は、感染者のうちの半分くらいです。

【女性】

  • 初期のおりものに変化があったり、軽い下腹部の痛みが生じるくらいで、症状はほとんど出ない。
  • 進行すると不正出血につながったり、性交時に痛みが生じる

 感染の有無をチェックする検査では、尿や分泌物、おりものを調べます。血液検査も行いますが、過去に感染した経験がある人は、いま感染していなくても陽性と出る場合があります。
 感染がわかったら、抗菌薬を使って治療をします。治療をすれば治りますが、再び感染することもあるので気をつけましょう。

<淋菌感染症>

 淋菌が原因で起こる感染症で、性行為以外ではほとんど感染しません。性器クラミジア感染症と同様、不妊の原因になることもあります。感染すると、次のような症状が出ます。

【男性】

  • 排尿時に激しい痛みがある
  • 尿道から、白みがかったやや黄色いうみが出る
  • 精巣のあたりが腫れて熱が出る

【女性】

  • 初期におりものが増える、熱が出る、下腹部の痛みが生じる
  • 進行すると不正出血につながったり、性交時に痛みが生じる

 感染の有無は、尿や分泌物、おりものを調べて判断します。
 感染していれば、抗菌薬を使って治療をします。治りますが、再び感染することもあるので、感染しないように予防を心がけましょう。

  • 続きを読む
    (発行元の(株)日本医療企画のページへリンクします)

ホーム > 報道・広報 > 広報・出版 > 広報誌「厚生労働」 > 特集 守りたい、自分自身と大事な人の未来 エイズ・性感染症を正しく知る

ページの先頭へ戻る