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広報誌「厚生労働」

特集1
なくそう パワハラ
働きやすい職場環境に見直そう

パワーハラスメント(パワハラ)は、働く人の尊厳や人格を傷つけるうえ、生産性の低下やイメージの悪化などで企業自体にも大きな損失を与えます。2016年度に実施された「職場のパワーハラスメントに関する実態調査」では、過去3年間にパワハラを受けたことがあると答えた従業員は32.5%に上ることが明らかになりました。そこで、昨年3月に働き方改革実現会議で策定された「働き方改革実行計画」では、「職場のパワーハラスメント防止を強化するため、政府は労使関係者を交えた場で対策の検討を行う」こととされました。こうした背景を踏まえ、本特集では、パワハラの定義から現状、企業の防止策まで、パワハラ防止のために知っておきたいポイントを取り上げます。

Part1 パワハラの実態と国の動向

厚生労働省の「職場のパワーハラスメント防止対策についての検討会」の座長を務めた、中央大学大学院戦略経営研究科教授の佐藤博樹さんに、パワハラの定義や実態について伺いました。


佐藤博樹

中央大学大学院戦略経営研究科(ビジネススクール)教授
さとう・ひろき●1953年、東京都生まれ。81年、一橋大学大学院社会学研究科博士課程単位取得退学後、雇用職業総合研究所(現・労働政策研究・研修機構)研究員、東京大学社会科学研究所教授などを経て、2014年から現職。

職場のいじめ・嫌がらせの相談件数は増加傾向

 今年3月30日に「職場のパワーハラスメント防止対策についての検討会」の報告書がまとまりました。同検討会が設置されたのは、昨年3月28日に策定された「働き方改革実行計画」に、「職場のパワーハラスメント防止を強化するため、政府は労使関係者を交えた場で対策の検討を行う」ことが盛り込まれたためです。
 とはいえ、これまで何も対策をとってこなかったわけではなく、2011年度から「職場のいじめ・嫌がらせ問題に関する円卓会議」(以下、円卓会議)で議論をし、パワハラの防止・解決に向けた提言を出しています。これを踏まえ、厚生労働省委託事業として啓発用ポータルサイト「あかるい職場応援団」を開設。社内研修用資料や、現状を把握するためのアンケート実施マニュアルなどを開発し、ダウンロードして活用できるようにしてきました。
 こうした活動によって、パワハラ防止に取り組む企業が増えてきたのは間違いないでしょう。しかし、企業規模間格差は大きく、中小企業の取り組みは遅れています。
 さらに、全体的に取り組みは進んできてはいるものの、都道府県労働局への職場のいじめ・嫌がらせに関する相談件数は年々増加傾向にあります(図表)。ただし、このなかには、確認したところ最終的にはいじめや嫌がらせではなかったものや、企業からの自社の取り組み方に関する相談も入っています。とはいえ、全体的に増加傾向にあるのは間違いありません。
 そうしたなかで、今回の検討会が開かれ、現状よりもパワハラ対策を進める必要があると、労使が共通認識を持つことができたと言えます。

検討会の報告書でパワハラの要素を3つ提示

 円卓会議ワーキング・グループの報告書では、職場のパワハラの行為類型として、「暴行・傷害(身体的な攻撃)」「脅迫・名誉棄損・侮辱・ひどい暴言(精神的な攻撃)」「隔離・仲間外し・無視(人間関係からの切り離し)」「業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制、仕事の妨害(過大な要求)」「業務上の合理性なく、能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じることや仕事を与えないこと(過小な要求)」「私的なことに過度に立ち入ること(個の侵害)」の6つを挙げました。
 今回の検討会の報告書ではさらに、職場のパワハラの要素として、次の3つを明示しました。すなわち、「優越的な関係に基づいて(優位性を背景に)行われること」「業務の適正な範囲を超えて行われること」「身体的もしくは精神的な苦痛を与えること、または就業環境を害すること」です。
 6つの行為類型が行われても、この3つの要素が揃わないと、パワハラに該当しない場合もあります。ですから、今回の検討会の報告書によって、企業はパワハラ防止対策に取り組む際に、どのような行為がパワハラに当たるのかを理解しやすくなったと言えるでしょう。

対策を進めるには中小企業への支援が必要

 今回の検討会の報告書でパワハラ防止対策として挙がったのが、「@行為者の刑事責任、民事責任(刑事罰、不法行為)」「A事業主に対する損害賠償請求の根拠の規定(民事効)」「B事業主に対する措置義務」「C事業主による一定の対応措置をガイドラインで明示」「D社会機運の醸成」です。このうち1つを選んで行うのではなく、複数を実施することも想定されています。
 ただ、それぞれメリットもデメリットもあります。@を選んだ場合、パワハラに該当する行為の範囲をかなり限定しなければ、誰もが刑事責任や民事責任を問われてしまいます。一方、範囲を限定すれば、それに当てはまらない行為はパワハラではないと見なされます。
 いずれの防止策を選んだとしても、中小企業で取り組みを進めるにあたっては、何らかの支援が必要です。その一つは、人的な支援です。中小企業がパワハラに専門的な対応ができる人材を雇用したり、外部の専門家に依頼したりするには費用の面などで難しい場合もあります。ですから、外部研修や個別紛争の斡旋などの支援が求められるでしょう。
 もちろん、中小企業も社内でアンケートをとって実態を把握して対策をとるなど、パワハラが起きないように取り組む必要があります。また、たとえば、社員同士でも世代が異なると価値観が異なることを実感してもらえるような研修も効果的でしょう。
 今回の検討会では、顧客や取引先からの著しい迷惑行為も議題にあがりました。たとえば、訪問介護の利用者がホームヘルパーに対して暴言を吐いた場合、その家族にそうした行為があったことを伝える、あるいは担当のホームヘルパーを代えるといった対策が考えられます。
 しかし、電車の乗客による駅員への迷惑行為などは、勤務先の企業がすべてを解決できるかというと、なかなか難しいでしょう。ですから、迷惑行為はしてはいけないと、社会的に利用者教育をしていく必要があると考えられます。

働きやすい職場づくりでパワハラの温床を排除

 経営者のなかには「うちの会社にはパワハラはありません」と言う人もいますが、どんなに対策をしても起きる可能性があると思って対応することは必要です。もし、パワハラ防止対策を進めずにパワハラが起きた場合、被害者だけではなく、職場全体のモチベーションが下がります。被害者が離職する、被害者から損害賠償を請求される可能性もあります。また、今後の人材確保にも悪影響が出ることが考えられるでしょう。
 パワハラが最も多く発生しているのは、上司と部下の間です。上司として業務上の指揮命令や育成のために部下に伝えたことを、部下がパワハラと受け取ってしまうことがあります。たとえば、部下が忙しいときに別の仕事を依頼する場合、単に「やれ」とだけしか言わなければ、パワハラだと受け取られるかもしれません。「今、忙しいと思うけど、この仕事をやったら君にとってプラスになるよ」と意図を説明すれば、部下も納得するはずです。こうした事態を防ぐには、円滑なコミュニケーションが求められます。
 パワハラが起きやすい職場には、忙しくて労働時間が長い、管理職の責任の比重が重いなどの特徴があります。ですから、パワハラを起こした本人だけに責任があると考えずに、職場環境や人事管理のあり方を改善することが大切です。働きやすい職場にすれば、パワハラが起きないだけではなく、生産性も高まります。

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