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広報誌「厚生労働」

特集1 誰もが働ける社会をめざして障害者雇用を進めよう

障害の有無にかかわらず、現代社会において社会的・経済的に自立するうえで、雇用・就業機会の確保は必要不可欠です。障害者の雇用・就業を促進するため、障害者の雇用の促進等に関する法律(昭和35年法律第123号)において、事業主に対して、法定雇用率に応じて、障害者を雇用することを義務付けています。
障害の特性を考慮して雇用することで、障害者はそれぞれの能力を発揮できるだけではなく、雇用した企業にもさまざまなメリットが生まれます。
2013年に同法が改正され、障害者の雇用義務の対象に精神障害者が追加されたことに伴い、今年4月から法定雇用率が引き上げられました。この機会に、障害者雇用に取り組みませんか。

Part1事例:先進企業を拝見!

障害者雇用に積極的に取り組んでいる企業に、雇用する際の工夫や、雇用によるメリットなどを伺いました。


事例1:株式会社ローランズ(東京都渋谷区)
愛される人材を育てるため配慮はしても優遇はしない


代表取締役の福寿満希さん

株式会社ローランズ
●業種:生花業、飲食業、就労継続支援事業(A型)
●社員数:60人
●障害者社員:45人(知的障害者2人、身体障害者4人、精神障害者37人、難病2人)
   (2018年4月6日現在)

どこまで配慮すべきか明確なルールを決める

 株式会社ローランズは、生花店を都内に3店舗展開(原宿店にはカフェを併設)しています。そのうち、駒込店と原宿店は就労継続支援事業(A型)です。約60人のスタッフのうち75%が障害のある方で、その9割が精神障害者です。彼らは、花チーム、カフェチーム、ウェブチーム、アトリエチーム、配送チームに分かれて仕事をしています。責任者として各チームに健常者のスタッフが配置されていますが、サブ責任者は障害者のスタッフが務めます。
 代表取締役の福寿満希さんが大切にしているのは、「働き続けられるようにすること」です。障害者のスタッフのなかには、仕事でつまずくと簡単に「辞めます」と言ってしまう人もいます。「障害があるスタッフには、経験の少なさから困ったときに思い浮かぶ選択肢が少なく、辞めることが最善の方法だと考えてしまう人もいます。そこで、『ほかにもこんな選択肢がある』と提示するようにしています」
 福寿さんは学生時代に特別支援学校の教員免許を取得していますが、ほかの健常者のスタッフのなかには、これまで障害者と働いたことがない人もいます。そこで週に1回、1時間半から2時間かけて行う責任者会議で、困ったことがあれば共有し話し合うようにしています。
 話し合ったことの一つが、「配慮」についてです。働くうえで困難が生じた場合、どこまでが配慮でどこからが優遇かについて、これまで明確なルールが決まっていませんでした。スタッフ間で話し合い、半年前から「健常者も障害者も関係なく、役割は違えど、社会人として許されること、許されないことの基準は対等である」と決めました。
 たとえば、精神障害があるスタッフが心の体調不良で無断で遅刻をした際、それは障害の有無関係なくビジネスマナーとして許されないことを伝え、無断での遅刻がないよう努力してもらうように働きかけます。
 また、情報量が多過ぎると混乱して業務に支障が生じるスタッフに対しては、障害の有無にかかわらず配慮が必要だと判断。たとえば出荷用の切り花の長さを均等にするために作業台に測定用の目盛りを刻み、情報量は最小限にして作業しやすいよう工夫しました。
「ローランズを経て一般就労した後も、そこで必要とされる、愛される人材になってほしいので、障害を言い訳にせず、どう工夫して仕事に取り組んでいくか考えてもらえるように、配慮はするが優遇はしないと決めています」と福寿さん。今後、就労継続支援事業(A型)で運営している店舗を一般企業として運営できるように発展させ、現在のスタッフを継続して雇用していきたいと考えています。



事例2:株式会社三越伊勢丹ホールディングス(東京都新宿区)
付帯業務を担うことで会社の生産性がアップ


株式会社三越伊勢丹ソレイユ代表
取締役社長の四王天正邦さん

 株式会社三越伊勢丹ホールディングス
●業種:百貨店業他
●特例子会社名:株式会社三越伊勢丹ソレイユ
●社員数(三越伊勢丹ソレイユ):96人(2018年4月現在)
●障害者社員(同):90人(重度身体障害者6人、重度知的障害者77人、軽度知的障害者6人、精神障害者1人)
●雇用率(グループ全体):2.28%(2017年6月現在)

高い職業能力でこなす100種類以上の業務

 株式会社三越伊勢丹ホールディングス(以下、本社)では、2004年に障害者の雇用率が1.93%から1.70%に低下したことを機に、障害者雇用の見直しが図られました※。新たに障害者を雇用しようとしても、多くの企業が障害者雇用に積極的に取り組んでいたため、十分な人材を確保できませんでした。そんなときに着目したのが、知的障害者の雇用です。
 2004年に株式会社伊勢丹ソレイユ(当時)を設立し、2005年に特例子会社の認可を取得しました。株式会社三越伊勢丹ソレイユの代表取締役社長の四王天(しおうでん)正邦さんは次のように話します。
「当時、障害者雇用というと知的障害者ではなく、身体障害者がほとんどでした。しかし、知的障害者も高い“職業能力”を持っていると感じました。知的障害を持つ従業員にはもちろん、身体障害を持つ従業員にも当社では本業に関わる業務をしっかり担ってもらい、利益をもたらす一員として活躍してもらっています」
 同社の落合センターには、84人の障害者がいます。その9割が中・重度の知的障害者です。ここでは、三越や伊勢丹の各店舗で使用するギフト用のリボンや箱の作製、伝票へのスタンプ押しなど100種類以上の業務をシフト制で担当。単純反復作業が得意な彼らは高い精度を保ちながら、これらを行えます。特定の業務を受け持つのではなく、全員がどの仕事でもできるようにしています。そうすることで、忙しい時期や欠員が出たときにもお互いにフォローができるのです。
 これまでこうした付帯業務は、各店舗の販売担当の従業員がこなしていました。障害者が担うことで、本来の業務である接客業に専念でき、会社全体の残業時間も減っています。
 知的障害者の雇用を始めてから13年が経った現在も、当初から働き続けている障害者が多くいます。「これまで周りから多くのことを『できない』と決めつけられたり、言われたりしてきた彼らが、ここではできることが増え、誉められる経験を重ねています。それが、やりがいにもなっているようで、具合が悪ければ休むように伝えているのに、熱があっても出社する人もいます」と、四王天さんは従業員の意欲の高さを語ります。

※株式会社伊勢丹と株式会社三越が2008年に経営統合し、現株式会社三越伊勢丹ホールディングスになりました。2004年時は、株式会社伊勢丹として実施しました。

障害者に偏見を持たず可能性を奪わない

 同センターには指導員として、12人のスタッフがいます。うち9人が本社からの出向社員で、自ら異動を希望して配置された人が多いとのこと。「指導員になるには、百貨店業務を知っていれば問題はありません。障害者の可能性を奪ってしまわないよう、偏見を持たないことが第一です」
 障害者の採用時に重視しているポイントは3つあるそうです。[1]自己実現のために給料を欲する意欲、[2]できなくてもやり続ける姿勢、[3]指導員の指示に素直に従う態度――。
「働く目的をきちんと持ってもらうことが大切です。また、仕事は、始めのうちはできなくても当然です。それを投げ出さずに続けられる力が、必要になります。そのため、教えてくれる人の指示を素直に聞く力もないと。雇用するにあたり、2週間の実習体験でこの点を見極めています」
 同社に就職して13年目の志村さんは、「楽しいけど、仕事なので疲れることもあります。すべての仕事ができますが、(伝票に)日付のスタンプを押すのが得意です。苦手なのは、ビニール袋を分ける仕事です」と、笑顔で話します。

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