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広報誌「厚生労働」

第2特集 働く・育てる・生きるの今 『厚生労働白書』から見る日本人と社会保障

厚生労働省は、2017年10月24日に『平成29年版 厚生労働白書』を公表しました。今回のテーマは「社会保障と経済成長」です。急速に少子高齢化が進むなか、日本の社会保障制度の持続可能性には危険信号がともっていますが、社会保障と経済成長を一体として考えることが課題を乗り越える鍵になります。そこで同白書では、成長という視点から社会保障のあり方について検討するうえで基礎となる材料を提示しています。これをもとに、社会保障制度の今後のあり方を考えてみましょう。

Part1 社会保障を知ることは「日本の今」を知ること

人生には、ケガや病気、失業、高齢などさまざまなリスクがあります。そうしたリスクに直面した際に、生活の安定と安心をもたらしてくれるのが、社会保障制度です。社会保障制度の現状から、「日本の今」を見てみましょう。

1 日本の現状とは

社会保障費に占める「高齢」が増加傾向

 社会保障制度の役割は、「個人の力だけでは備えることに限界がある生活上のリスクに対して、幾世代にもわたる社会全体で、国民の生涯にわたる生活を守ること」です。保健・医療や福祉、年金、雇用保険など、カバーする分野は多岐にわたります。
 国民経済に占める社会保障給付費の割合は戦後、社会保障制度の発展に伴い、大きな伸びを示しました。1990年代以降は、高齢化の進展による給付対象者の増加などの影響により、社会保障給付費はさらに増えています。
 社会保障制度の政策分野別社会支出の推移を見ると、近年は高齢世代向けの支出である「高齢」(老齢年金等)が増加傾向にあります(図表PDF参照 [1,088KB])。一方、現役世代向けの社会保障支出「家族」(児童手当等)や「積極的労働市場政策」(教育訓練給付等)の割合は、ヨーロッパ諸国と比較すると低水準です。
 少子高齢化の進展で、高齢者一人を支える現役世代の人数は大きく減っています(図表PDF参照 [1,088KB])。一方で、環境を整えるなどして、若者や女性、高齢者の労働参加を適切に進めることができれば、非就業者一人に対する就業者の人数の増加を見込めます。
 こうした現状を踏まえ、国は2016年6月2日に「ニッポン一億総活躍プラン」を閣議決定し、「成長と分配の好循環」メカニズムという考えを提示しました。これは、成長の果実で子育て支援など社会保障制度の基盤を強化し、それがさらに経済を強くするというものです。成長という視点から社会保障を考えた場合、経済成長を主に支える現役世代が、自分のキャリア形成や子どもへの教育投資を十分にできるような生活の安定の実現や、女性や高齢者、障害者など誰もが労働参加できるような基盤づくりが求められています。

高齢世代は現役世代並みの等価所得を確保

 次に、国民生活の現状です。1世帯あたりの平均総所得金額は2000年以降、高齢者世帯、現役世帯(児童のいる世帯)ともに、おおむね横ばいの状態が続いています(図表PDF参照 [1,088KB])。しかし、現役世帯よりも相対的に所得の低い高齢者世帯の割合が急増しているため、全世帯の平均総所得金額は長期的に減少傾向にあります。一人あたりの所得水準(等価可処分所得1)は、世帯主が30歳代と70歳代、40歳代と60歳代はそれぞれほぼ同水準で、高齢者世帯が現役世帯並みの所得を得ていることがわかります。各世帯の総所得のここ20年の変化を見ると、世帯主が40歳代の世帯では、世帯所得の低い単独世帯やひとり親世帯の割合の増加や、相対的に世帯所得の高い三世代世帯の割合の減少で、300万円未満の低所得世帯の割合が増えています。ただし、2012年以降は、この割合は減少しています。高齢者世帯では、公的年金制度の成熟化により低所得世帯の割合が減少し、中所得世帯の割合が増加。所得分布のばらつきは縮小傾向にあります。
 全人口の等価所得の格差(ジニ係数)については、当初所得2は高齢化などにより拡大傾向にあります(図表PDF参照 [1,088KB])。しかし、社会保障や税などの再分配により、再分配所得3の格差は1998年以降縮小しています。
 また、全人口・現役世代(18〜64歳)・子ども(17歳以下)の相対的貧困率は、ともに直近では低下しています。

社会保障は税より所得格差の改善度が大きい

 「就業形態別 現金給与総額の年次推移」を見ると、就業形態計の賃金は、高齢者を中心としたパートタイム労働者の増加により、長期的に減少した後、2014年以降は増加に転じています(図表PDF参照 [1,088KB])。
 男女・年齢階級別では、30〜40歳代の男性一般労働者の所定内給与額がバブル崩壊を契機とした採用抑制などで長期的に減少後、2014年以降増加しています。女性は、男性の所定内給与額を下回っているものの、いずれの年齢階級でも長期的には増えています。
 最後に、所得再分配の動向を見てみましょう。「当初所得金額階級別 1世帯あたり受給額・負担額(2013年)」によると、当初所得金額が100万円未満の世帯で10万円程度の負担で200万円程度の給付、同500万円ほどの世帯で負担と給付が同程度、同1,000万円ほどの世帯で200万円程度の負担で100万円程度の給付となっています(図表PDF参照 [1,088KB])。所得再分配による等価所得の格差(ジニ係数)是正効果は近年、高齢化などにより高まっています。この社会保障制度による所得格差の改善度は、税による改善度よりも大きいのです。
 以上のことから、日本の所得再分配機能は、公的年金制度や医療保険制度、介護保険制度などが中核となり、相対的に給付・負担面ともに現役世代に比べて高齢世代に手厚いものとなっています。しかし、今後は、世代や世帯の構造ごとに、それぞれの世帯の状況をよりきめ細やかに見て再分配政策を考えるとともに、現役世代の所得向上支援や全世代型の社会保障への転換を推し進めていくことが大切です。

  • 1:「等価可処分所得」とは、1世帯あたりの可処分所得を世帯員数の平方根で割ったものである。「可処分所得」とは、総所得から税金及び社会保険料を控除したものである。なお、総所得とは、当初所得に、社会保障による現金給付額を加えたものである。
  • 2:「当初所得」とは、雇用者所得、事業所得、農耕・畜産所得、財産所得、家内労働所得、雑収入、私的給付(仕送り、企業年金、生命保険金等)の合計額をいう。つまり、社会保障による再分配前の所得であるということもできる。
  • 3:「再分配所得」は、当初所得に、社会保障による現金給付と現物給付を加え、税金及び社会保険料を控除した所得である。
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    (発行元の(株)日本医療企画のページへリンクします)

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