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広報誌「厚生労働」

ニッポンの仕事、再発見!

紳士服注文仕立職

 スーツやコート、礼服など、客から注文を受けて紳士服を仕立てる。テーラーとも呼ばれ、採寸から型紙起こし、裁断、縫製までの一連の作業を行う。

30カ所以上採寸するからこそ生まれる高いフィット感

中田 雅頼
なかた・まさより

1937年、愛媛県生まれ。中学卒業後、松山市の仕立屋に就職し8年間修業。23歳のときに上京、さらに修業を積み、1年半後に兄弟子とともに独立。84年、最初の店舗「テーラー中田」を西東京市に開店。東京洋服技能士会会長を務めながら全国洋服技能士会連合会を設立し、会長として8年間在任。2016年、「現代の名工」に選定される。
(テーラー中田 住所:東京都西東京市ひばりが丘北1‐7-14)

中田雅頼さんは紳士服仕立職として、長年にわたりオーダーメイドの紳士服づくりに携わってきました。
客の体型に合わせて丁寧につくられた服は、体にフィットして着心地がよく、見た目もしなやかです。
上質な紳士服はどのように生まれるのか、お伺いしました。

採寸データと型紙は客のカルテ 数年後の注文にスムーズに対応

 60年以上にわたり、紳士服の仕立職一筋に打ち込んできた中田雅頼さん。15歳のとき、生まれ育った愛媛県松山市の仕立屋に下働きとして就職するまで、仕立職という職業があることも知りませんでした。親方のもとで修業を積み、その後、さらなる技術習得のために上京。高い技能を有する仕立職として独立し、70代後半になった今も現役で活躍しています。
 中田さんが「現代の名工」に選定された大きな理由は、体型把握能力と採寸・製図技術の高さです。その人の体にフィットし、かつ動きやすい紳士服をつくる技能が評価されたわけです。
 「仕立職として喜びを感じるのは、注文してくださったお客さまに満足していただき、私も職人の目で見て、よくできたと納得できる紳士服が仕上がったときですね」
 そのために重要なのは採寸、型紙起こし、裁断です。注文された服を仕立てる方法は、胸寸(胸度)式と短寸式の2つ。胸寸式の場合は、身長○cmの人は胸囲が○cm、と最大公約数が決まっているので、胸囲、肩幅、ウエスト、お尻まわり、ズボン・上着丈など数カ所しか採寸しません。そして、ベースとなる型紙を布の上で動かし、その人の体型に合うようにサイズ調整しながら裁断します。これを応用裁断といいます。胸寸式は採寸箇所が少ないため、どうしても直しが多くなります。
 一方、短寸式の場合は、客の体を30カ所以上、細かく採寸して型紙を起こしたうえで裁断するので、直しが少なく、胸寸式では得られないフィット感を提供できます。
 「その人の体に合った紳士服を仕立てるには、胸寸式と短寸式を併用したほうがうまくいきます。ただ、短寸式は高い技術力が要求されるので、採用している仕立職は少ないですね」
 もちろん、中田さんは短寸式を完璧にマスターしています。だからこそ、長年にわたりリピーターの顧客を獲得しているのです。客の体から採寸したデータは、病院でいえばカルテのようなものですから、それをもとに起こした型紙と一緒に永久保存しています。その数は数千枚にものぼります。
 「お客さまのカルテと型紙を保存しておけば、数年後に注文があってもスムーズに仕立てに入れます。体形が多少変わっていても、胸囲とウエストサイズの増減が5cm以内なら仮縫いせずに、型紙の操作だけで仕立てることができます。部位によっては8〜10cm以内の増減でも対応可能です」
 仕立職は、ファッションの流行にも敏感でなければなりません。紳士服の場合は、狭い肩幅、短い上着丈、細いズボンが、いまどきのスタイル。デザインがどんなに変化しても、技術力があれば、写真や絵を見て型紙を起こすことができるといいます。
 「流行のデザインでも、ご年配の方にはお勧めできません。無理に勧めると必ず直しが出ますからね。仕立職はお客さまの要望に応えることが大切で、流行を押し付けてはいけないんです」

仕立て職養成機関が開講 新人の育成に本腰を入れる

 安価な既製服が氾濫している今、オーダーメイドを手がける仕立職の仕事は減少しています。仕立職そのものも激減しており、中田さんが今年6月まで理事長を務めていた東京都洋服商工協同組合に所属している仕立職は、全盛期は4,000人以上でしたが、現在は300人を下回っています。
 中田さんは中央技能検定委員や技能グランプリの競技委員などを務め、熟練技術者への新技術の指導などにも取り組んできました。これからは、一から新人を育成しないと、仕立職は先細りになる一方だと危機感を募らせます。そこで、同組合では仕立職養成のための教育機関を設け、来年4月開講を目指しています。
 「これまでは徒弟制度のなかで親方が仕立職を養成してきましたが、今後は組織で取り組まないと。一人前の技術を習得すれば、大きなテーラーに就職したり、仕立技術をベースにしてデザイナーの道に進むことも可能です」
 中田さんは、仕立職に完璧というゴールはない、それでも、この仕事を続ける限り完璧を追求したいと語ります。中田さんの後を追いかけていく新人仕立職の誕生を期待します。

中田 雅頼さん

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