ホーム > 報道・広報 > 広報・出版 > 広報誌「厚生労働」 > ニッポンの仕事再発見:浸染工 福田 義久さん

広報誌「厚生労働」

ニッポンの仕事、再発見!

《浸染工》

糸や布を染液に浸して染める職人。浸染の特性は、均一に染めることができ、色も安定しやすく色落ちしにくいこと。製品になる前の原料に色をつける「先染め」と、製品の一部を染める「後染め」がある。

手染めで求められた色を光沢まで正確に再現

福田 義久
ふくだ・よしひさ

1949年、京都府生まれ。京都市立洛陽工業高等学校色染科卒業。有限会社若宮染工で3年修業し、実家の福田染工に戻る。2003年、伝統工芸士に認定、12年、糸染師として京都府伝統産業優秀技術者に選定される。16年、「現代の名工」に選定される。
(福田染工 住所:京都市上京区寺之内通千本東入上る西入井田町949番地)

西陣織は、先染めした糸で帯や着物を織ります。
その糸に色をつけるのが、浸染工の仕事です。
浸染工には、求められる色を正確に再現する技術が必要です。
手作業での浸染で高い再現度を誇る福田義久さんに、この仕事の魅力を伺いました。

構成要素や見え方など色には緻密な計算が必要

 染料が入った液を糸に浸透させ、染めるのが浸染工の仕事です。
 浸染工である福田義久さんは福田染工の3代目として、現在も糸を手染めしています。依頼者から、色見本をもらい、その色に染めるのが主な仕事であり、正確に再現できる技量が求められます。
 依頼を受けたら色見本に合った染料の配合を考えます。液に色をつける際はさじ加減が難しく、腕が問われます。液に色がついたら、糸にかけて染めていき、色が入ったと判断したところで、一度取り出します。絞り、色がどれだけついているか、また再現できているのかを確認します。
「たとえば、糸を赤に染める場合も、さまざまな赤があります。角度によって黄色く見える赤や、少し青みが入った赤などがあり、単に赤ければよいというわけではありません。色を構成している要素や光沢などをきちんと計算しなければ、同じ色は再現できません」
 色をつけたら、数回に分けて微調整をしていきます。確認の際は、絞って水気を切りますが、それでも完全に乾いた状態にはなりません。そのため、乾いた状態を計算して色をつけます。自然光の下と、電灯の下では、色の見え方が違うことがあり、依頼された糸に光を当てながら見え方を確認しています。
 糸に色がついたら水洗後、専用の液に浸し、色落ちしないようにします。その後、脱水をし、1日から1日半ほどかけて干し、乾いたら完成です。
 福田さんは夫婦で、糸を染めています。糸は染料の入った液を吸っているので、重くなります。よりムラなく染めるため、2人で染める糸を持ち、作業をしているのです。同じタイミングで糸を持ち上げ、息ぴったりの動きで色づけをしていきます。色の見極めは義久さんがします。染める量が多いときには、機械も活用します。
 浸染工のやりがいについて、「外での作業なので、夏は暑く冬は寒いなかで行うなどの大変さがあります。さらに、染料液を吸った糸は重く、重労働でもあります。それでも、色を再現できて相手に喜んでもらえたときは、やりがいを感じますね」と話します。

浸染への興味を引き出すため作品の出展や技術向上に励む

 福田さんは、西陣織に使用される糸を染めています。西陣織の場合、布の一部に色をつけるのではなく、先染め糸で織ります。そのため、デザインの段階からどの ような色の糸がどれくらい必要なのかを打ち合わせします。西陣織は作業工程が細かく分かれており、浸染はその一部です。
「ほかの工程に迷惑がかからないように丁寧な仕事を意識しています」。指定された糸に色をつけ、次の工程の織る作業がしやすいように糸を整えて渡すのです。こうした配慮が大切だといいます。
 多くの人に浸染に興味を持ってもらうため、作品の出展などにも積極的に取り組んでいます。作品は、毎年写真を1枚選び、その色味を染めた糸だけで再現するというものです。風景をもとに作成することが多く、写真選びには苦労しつつも、楽しみながらつくっているとか。
 また、技術の向上にも励んでいます。本来であれば、色を再現するにあたっては、どこで見ても同じ色に見えなければなりません。しかし、あえて違う見え方になるような技術を生み出しています。 「自然光の下で見ると紺に近いのに、電灯の下だと茶色に見えるなど、色そのものの見え方が変わることを、受け取り手も面白いと思ってくれる場合があります」。色の再現という、本質的な技術を絶えず磨き続けながら、新しいことにも取り組んでいるのです。
 現在は、国産の糸が減り、ブラジルやベトナム、中国など外国産の糸がほとんど。こうした状況に寂しさを感じながらも、福田さんは西陣織や和装を発展させていくことを今後の目標としています。
「職業訓練の場で技術指導をしていました。手染めの職人が減っているので、業界全体を盛り上げつつ、浸染工をめざす人だけでなく、西陣織や和装に関わる職業を志す人が多く出てきてほしいと願っています」

福田 義久さん

ホーム > 報道・広報 > 広報・出版 > 広報誌「厚生労働」 > ニッポンの仕事再発見:浸染工 福田 義久さん

ページの先頭へ戻る