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広報誌「厚生労働」
<第1特集>
「過労死等防止啓発月間」に改めて身につけよう! 過労死等防止のための基礎知識
2014年11月1日に施行された「過労死等防止対策推進法」により、11月が「過労死等防止啓発月間」と定められています。
多くの方は「過労死」を他人事のように感じているかもしれませんが、実はとても身近な問題です。
その一方、過労死等の要因となる長時間労働は依然として改善されていません。
本特集では、過労死等を防止するために、事業主・労働者ができること、国が取り組んでいることを紹介します。
<Introduction>
過労死はなぜ起きる?
過労死等を防ぐために、まず、その原因や実態について、一緒に学びましょう。
過労死等の重大な要因は長時間にわたる過重労働
そもそも「過労死」とはどのようなものをいうのでしょうか。過労死等防止対策推進法では、「業務における過重な負荷による脳血管疾患・心臓疾患を原因とする死亡」「業務における強い心理的負荷による精神障害を原因とする自殺による死亡」「死亡には至らないが、これらの脳血管疾患・心臓疾患、精神障害」を過労死等と定義しています。
過労死等の最も重大な要因とされているのが、長時間にわたる過重な労働で、これは疲労の蓄積をもたらし、健康障害のリスクを高めます。具体的には脳血管・心臓疾患の発症リスクの増大が指摘されています。
では、実際にどれくらい過労死等が発生しているのでしょうか。脳血管・心臓疾患にかかる労災の請求件数は、2016年は825件で、支給決定(認定)件数が260件。そのうち、死亡は107件でした。同請求件数は、過去10年間、700件台後半〜900件台前半で推移しています。
精神障害にかかる労災の請求件数ですが、2016年は1,586件、支給決定(認定)件数が498件。そのうち、自殺(未遂を含む)は84件でした。この同請求件数は、おおむね年を追うごとに増えています。
ここで、労働基準監督署による書類送検事例と労災認定事例を見てみましょう。
1つ目は、違法な長時間労働による書類送検事例です。タクシー会社A社の運転手Bさんが脳梗塞を発症。A社は
2つ目は、長時間にわたる過重な労働による過労死に関する労災認定事例です。美容関係の資格学校で働いていたCさんは、上司から2カ月間で、新たな資格制度の対策コースの企画と模擬試験の問題作成をするように命じられました。2カ月間では到底間に合わせられないと訴えたものの聞いてもらえず、Cさんは時間外労働や休日出勤を繰り返し、1カ月の時間外労働は200時間を超えました。3日ぶりに帰宅したCさんは自死。労働基準監督署はCさんが発症した精神障害を、過重労働が原因として労災認定しました(2つの例はパンフレット「長時間労働の削減に向けて」より)。
仕事による過労から命を落としたり、健康を損なうことは、本人はもとより、その家族や友人にとっても計り知れない苦痛であるとともに、社会にとっても大きな損失です。また、過労死等が発生し、当該企業において長時間にわたる過重な労働を行わせていた場合、労働基準監督署による監督指導が実施され、法律違反が認められれば是正勧告がなされます。重大・悪質な違反については、捜査・書類送検がされる場合があります。その結果、刑事罰が科されたり、厚生労働省ホームページで事業場名が公表されることがあります。
さらに、民事訴訟が提起され、多額の賠償金の支払いを求められる恐れもあります(図表)。
<Part1>
過労死等を防止するためのポイント
過労死等を防止するためには、事業主・労働者側それぞれが意識的に長時間労働の削減などに取り組む必要があります。 Part1では、具体的な過労死等の防止策を解説します。
まず、過労死等を防ぐための対策を自社で行っているか、次のチェックリストで確認してみましょう。
□36協定を労働者に周知している
□長時間労働を減らしている
□労働者の心身の健康維持・増進に努めている
□ワーク・ライフ・バランスのとれた職場環境づくりをしている
□年次有給休暇の取得を推進している
□ストレスチェックを実施している
□パワーハラスメント対策をしている
□労働者に労働条件や健康管理に関する相談窓口の連絡先を周知している
いかがでしたか。一つでもチェックがつかなかった項目がある人は、ぜひ次に紹介する対策を参考に改善に取り組みましょう。
[1] 36協定(時間外・休日労働協定)の周知
まず、事業主は、労働者の労働時間を適正に把握し、適切に管理しなければなりません。
法定労働時間は原則、1日8時間、週40時間と決まっています。もし、労働者にこれを超えて時間外労働をさせる場合、もしくは休日労働をさせる場合は、労働基準法第36条に基づいて、「36協定」を過半数労働組合と結ばなければなりません。過半数労働組合がない場合には、労働者の過半数を代表する者と結びます。締結内容は労働基準監督署長に届け出る必要があります。36協定を適切に結ぶためにも、労働者に対して同法の周知を行いましょう。届け出後は、締結内容を見やすい場所に掲示し、労働者に周知しましょう。
○労働条件に関する総合情報サイト 「確かめよう労働条件」
[2] 長時間労働の削減
長時間労働は、過労死等を引き起こす要因の一つです。そのため、国は2020年までに週労働時間60時間以上の雇用者の割合を5%以下とする目標を定めています。事業主には、この目標を踏まえて、自社の長時間労働の削減に向けて努力することが求められています。
具体的な削減方法については、「労働時間等見直しガイドライン(労働時間等設定改善指針)」で紹介されていますので、ぜひ参考にしてください。
適切な労働時間で働き、きちんと休むことで、労働者の仕事に対するモチベーションを高めることにより業務効率が上がり、生産性が向上し、企業の成長・発展にもつなげられます。また、離職率低下も期待できます。ぜひ、長時間労働の削減に努めましょう。
[3] 労働者の健康づくりに向けた積極的な支援
事業主には、労働者の健康づくりに向けた積極的な支援が求められます。たとえば、労働者が適切な睡眠時間を確保するためには、長時間労働を減らす必要があります。身体の健康を維持するには、生活習慣病の予防などに取り組むように働きかけることも効果的です。裁量労働制の対象労働者や管理・監督者に対しても、事業主は健康確保の責任を負っており、業務の状況を的確に把握したうえで、医師による面接指導など、必要な措置を講じましょう。
労働者自身も意識的に自らの健康管理に努めましょう。
[4] ワーク・ライフ・バランスのとれた働き方の推進
皆さんは、「ワーク・ライフ・バランス(仕事と生活の調和)」という言葉を聞いたことがありますか? これは、国民一人ひとりがやりがいや充実感を感じながら働き、仕事上の責任を果たすとともに、家庭や地域生活などにおいても、子育て期、中高年期といった人生の各段階に応じて多様な生き方が選択・実現できる社会のこと。過労死等の防止のためには、これまでの働き方を改め、ワーク・ライフ・バランスのとれた働き方に変える必要があります。長時間労働や休日出勤が続き、休暇が取得できない状態になると、労働者の身体的・精神的な健康状態や精神状態が悪化し、さらには仕事に対する意欲や効率が下がってしまう恐れもあります。
労働者が仕事にやりがいを感じ、充実した生活を送るには、適切な労働時間で効率的に仕事を進め、きちんと休暇を取得することが大切です。事業主は、その実現へ向け職場環境・業務体制の整備を進めましょう。
[5] 年次有給休暇の取得促進
「6カ月間の継続勤務」「全労働日の8割以上の出勤」という条件を満たすと、労働者は年次有給休暇を取得できる権利を得ます。正職員だけではなく、パートやアルバイトも同様です。労使で話し合い、年次有給休暇の計画的な取得を促進しましょう。
[6] ストレスチェックの実施
仕事や職業生活に強い不安や悩み、ストレスを感じている労働者は5割以上という調査結果があります(平成28年労働安全衛生調査(実態調査))。
労働者自身が自分のストレスに気づき、対処することが、心の健康を保つ第一歩です。
2015年12月から、ストレスチェックを実施することが事業者の義務になりました(労働者数50人未満の事業場の場合は、当分の間努力義務)。これは、毎年1回、労働者のストレスの程度を把握し、労働者自身のストレスへの気づきを促すとともに、職場環境の改善につなげることによって、メンタルヘルス不調を未然に防止することを主な目的としたものです。ストレスチェックを通じて、職場におけるメンタルヘルス対策が推進されることが期待されています。
○働く人のメンタルヘルス・ポータルサイト「こころの耳」
[7] パワハラの防止
パワハラ(パワーハラスメント)は、うつ病などのメンタルヘルス不調の原因となります。パワハラとは、同じ職場で働いている人に対し、職務上の地位や職歴などの職場内での優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて精神的・身体的苦痛を与える行為や、職場環境を悪化させる行為のこと。発生させないために、まずは予防に取り組みましょう。
予防策には次の5つがあります。
・組織のトップがメッセージを発信する
トップが、職場のパワハラはなくすべきであると明確に宣言する。
・ルールを決める
就業規則にパワハラに関連する規定を設ける。労使協定を締結する。その予防・解決についての方針やガイドラインを作成する。
・実態を把握する
従業員アンケートを実施する。
・教育する
パワハラ防止につながる研修を実施する。
・周知する
組織の方針や取り組みについて、労働者への周知・啓発を行う。
もし、パワハラが発生した場合は、解決に向けて、次の取り組みを実施しましょう。
・相談や解決の場を提供する
企業内外に相談窓口を設ける。職場の対応責任者を決める。外部専門家と連携する。
・再発防止のための取り組みを行う
パワハラ行為者に対する再発防止研修などを行う。
[8] 相談窓口を活用する
労働者の皆さんがもし、心身の不調を感じた場合は、家族や友人、上司や同僚など、周りの人に相談しましょう。また、国や民間団体はさまざまな相談窓口を設け ていますので、お気軽にご相談ください。
自身の健康だけではなく、家族や同僚、部下の様子にも気を配りましょう。「あれ? いつもと様子が違う」と感じたら、相談窓口を利用するように勧めるなど、適切な対処をお願いします。
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