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広報誌「厚生労働」

ニッポンの仕事、再発見!

《特殊電子部品製造工》

 スーパーコンピュータや宇宙開発、軍事・防衛など特殊な用途の電子機器に使われる電子部品を開発・製造する。特殊電子部品はその時々の先端材料・先端設備を利用し、一点物も多いため、一般的な電子商品よりも高い精度が求められる。

高精度の電子部品を開発・製造 基盤技術の進歩に大きく貢献

大塚 隆
おおつか・たかし

1964年、神奈川県生まれ。84年、高校卒業後、日本電気株式会社に入社。基礎研究所材料研究部に配属され、低温同時焼成ガラスセラミック多層配線基板の開発に従事。大型コンピュータ、人工衛星等に使われたガラスセラミック多層配線基板の実用化に携わった。現在はリチウムイオン二次電池の開発を担当。2016年に「現代の名工」に選定される。(日本電気株式会社 住所:神奈川県相模原市中央区下九沢1120)

一般的な電子部品は身近な電子機器に使用されていますが、大塚隆さんが開発・製造してきた電子部品は、特殊な用途の電子機器に使われます。より高い精度が求められ、開発・製造には卓越した技能が不可欠です。特殊電子部品製造工としての苦労や、やりがいをお聞きしました。

次世代リチウムイオン二次電池で夢の電気自動車実用化へ

 大塚隆さんは、日本電気株式会社に入社以来33年間にわたり特殊電子部品製造工として研究所に勤務、研究開発に専念してきました。
 特殊電子部品とは、一般的な電子部品以外のこと。一般的な電子部品は、日常的に使用する電子機器に使われているため、家電量販店などで販売されています。
 一方、大型コンピュータやスーパーコンピュータ、宇宙開発や軍事・防衛など特殊な用途に使われているのが特殊電子部品です。生活になじみはありませんが、以前は特殊電子部品だったものが、技術の進歩によって次第に一般的な電子部品として生活のなかに浸透していくこともあります。たとえば、スマートフォンは現代の生活に欠かせないツールになっていますが、使用されている電子部品はかつて特殊電子部品でした。
 大塚さんが、これまでに携わってきたもののひとつが、低温同時焼成ガラスセラミック多層配線基板(LTCC)の製造及び実装技術の開発です。
「セラミックは茶碗などの焼き物をつくる際は、1,000〜2,000度の高温で焼き固めますが、セラミック基盤の場合は、この温度では電線などの金属が溶けてしまいます。溶かさずに焼成するためには、低温で焼き固める技術が必要で、それを可能にしたのがLTCCです」
 低温同時焼成によって金属的なものと絶縁体を同時に焼くことが可能になったため、1990年ごろから電子機器のほか無線機やバッテリーなどの製品が小型化したといいます。大塚さんは、先端技術のなかで最も強化しなければならない基盤技術の進歩に大きく貢献してきたのです。
 現在、次世代のリチウムイオン二次電池の開発に取り込んでいます。従来の電池はモバイル機器や電気自動車などに使われており、部品機能をさらに高めることが求められています。
「たとえば電気自動車の場合、現在、市場に出ているものは、1回の充電で200kmくらいしか走ることができませんが、開発中のリチウムイオン二次電池が製品化されれば、航続距離が2倍以上になるんですよ。2022年までの製品化をめざしています」
 自動車にリチウムイオン二次電池をたくさん積めば長距離を走ることができますが、その方法では自動車のサイズが大きくなってしまい実用的ではありません。サイズを変えずに5人が乗れる電気自動車をつくるための電池を開発しているのです。
「現時点では、まだ半分の段階にも至っていません。失敗したり、うまくいったり、一喜一憂しながら取り組んでいます」

開発は常にトライ&エラー 変化を見逃さずに挑み続ける

 最先端の電子部品開発に取り組み続けていますが、製品化に至るまでには、多くの労力と時間を費やしてきました。
「LTCCは、完成までに5〜6年かかりました。焼成炉から取り出したら基盤がバラバラに割れていたという経験は何度もしましたね。地球観測用の人工衛星に搭載する三次元メモリーモジュールを開発していたときは、基盤の焼き上がりの寸法精度を高くするのが難しく、4年くらいかかりました」
 開発に、失敗はつきもの。しかし、製品開発を求められている以上、断念することはありません。
「失敗の原因はどこにあったのかを推測して、新たな方法を試す。トライ&エラーの繰り返しです。完成したときは、もちろんうれしいですが、製品になったときの喜びのほうがもっと大きいですね。ようやく自分の責任を果たしたという安堵感を覚えます」
 大塚さんが、仕事をするうえで心がけていることは、ちょっとした変化に敏感になること、その変化をメモすることです。
「開発途中の小さな変化に敏感になっていると、どんな条件にすると製品精度が上がるかわかりやすくなります。変化を見逃さないことが成功に結びつく、これを後輩たちにも伝えています。また、私たちの仕事は研究職のオーダーに応えることですが、プラスαの結果を出せるようにすることも重要ですね」
 職人としての厳しい姿勢は、後輩たちの刺激になっているようです。

大塚 隆さん

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