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広報誌「厚生労働」

特集 自分や大切な人を守る きちんと知っておこう!薬物の怖さ

「1回だけなら大丈夫」
「合法ハーブなら問題ない」−。

そんな誤った知識から違法薬物に手を出し、脳や身体に大きなダメージを負ったり、周囲に危害を加えたりするケースが、若者を中心に後を絶ちません。
大麻事犯では、近年若者の検挙者数が増加しており、ゲートウェイドラッグとも言われる大麻の乱用をきっかけに覚醒剤に手を染めてしまう人もいます。

自分自身や大切な人を守るためにも、
薬物の怖さについて正しい知識を身につけましょう。

実録!本当に怖い薬物乱用の話

最近では次のような青少年による薬物関連の事件が起きています。

岐阜県下呂市内で、高校1年生の女子生徒が母親に連れられ、警察署に出頭しました。その手には、覚醒剤と注射器が入ったポーチがありました。(2016年1月)

京都市内にある小学校の教師のもとにやってきた、小学6年生の男児。その口から飛び出したのは、「高校生の兄が自宅に所持していた大麻を複数回吸った」という驚きの告白でした。(2015年11月)

長崎市内で、大麻を所持していた男子高校生7人が大麻取締法違反の疑いで書類送検されました。所持理由は、「みんなで吸うため」でした。(2017年3月)

Part1:インタビュー

麻薬取締官が語る薬物乱用の現場
覚醒剤事犯の再犯率は60%以上 エスカレートすると家庭崩壊に

薬物乱用者を取り締まる麻薬取締官。薬物乱用の現状をはじめ、乱用者を直接相手にしてきた麻薬取締官だからこそわかる薬物乱用の本当の怖さについてうかがいました。

(関東信越厚生局 麻薬取締部 調査総務課長)石井 昭彦

石井 昭彦いしい あきひこ   (関東信越厚生局 麻薬取締部 調査総務課長)

インターネット経由で会社員などの購入が増加

−覚醒剤や大麻の所持・使用での逮捕がテレビや新聞でたびたび報道されています。薬物乱用の現状を教えてください。

石井●日本で最も乱用されているのは覚醒剤で、次いで大麻になります。そのほかに、危険ドラッグと呼ばれるものも増えてきています。
 大麻は海外の一部では医療用として使用を認めている国があり、「害がない」と言う人もいますが、日本をはじめ多くの国では医薬品としての使用を認めていませんし、違法薬物として取り締まりを行っています。大麻に手を出してしまった人が、「覚醒剤の乱用防止のポスター」を見て、「覚醒剤はよくないですよね」と言うのを聞いたことがあります。彼らのなかには、「大麻は覚醒剤とは違う」「覚醒剤よりは安全なもの」という誤った認識があるようです。
 また、危険ドラッグは法律をかいくぐるため、次から次へと新しいものが出てきます。「やっても捕まらない」「たばこに比べて体に害はない」「漢方と一緒」などの売り文句で安心してしまい、手を出す人も少なくありません。しかし、厳しい検査により、危険ドラッグの取り締まりは年々強化されてきています。
 薬物乱用が大きな社会問題となったのは、2014年6月に東京・池袋で起きた、薬物乱用者による自動車運転死傷事件です。この事件が、薬物乱用の恐ろしさを、改めて社会に広めました。私たち麻薬取締官も、この事件をきっかけに、薬物乱用取り締まりに関しての対策を強化してきました。その効果もあり、現在は危険ドラッグの販売店舗はゼロです。

−どのような人が購入しているのでしょうか。彼らの特徴に変化はありますか。また、入手手段としてはインターネット経由が多いのでしょうか。

石井●確かに、店舗販売がなくなったことから、以前のように安易に購入できる対面式の販売はなくなりました。しかし、インターネットでの購入が普及しても、危険ドラッグの利用のきっかけのほとんどは以前と同様、友人・知人の勧めです。
 店舗がなくなったことで、いつ、どんな人が薬物を手にしているのかが見えにくくなりました。以前は“不良”と言われるような人たちが乱用者に多かったのに対して、現在は会社員が週末のごほうびとして吸引しているなどの事例も出てきました。

社会から孤立し犯罪に手を染めることも

−薬物乱用が、ほかの犯罪につながることはありますか。どのような段階を踏んで、変化していくのでしょうか。

石井●先に挙げた、東京・池袋の自動車運転死傷事件などのように、薬物乱用で正常な判断ができなくなり事件を引き起こしてしまう場合があります。こうした事件では、関係のない人にまで被害が及んでしまうことも少なくありません。
 また、薬物を得るためにはお金が必要です。自分のお金がなくなると、家族のお金に手をつけるようになり、この時点で、家庭崩壊が始まります。その次に手を出すのは、ほかの人のお金です。こうなってくると、万引きや強盗などの犯罪を起こしたり、薬物を得るために密売側の人間になってしまう場合もあります。

−取り締まっているなかで感じた、薬物乱用の怖さとは?

石井●違法薬物のなかでも、特に覚醒剤乱用の再犯率は60%以上です。麻薬取締官のもとには各地の検挙情報が入ってくるので、「また、この人が捕まったのか」と思うことがあります。
 薬物乱用がエスカレートしていくと、正常な判断ができなくなり、必要最低限の生活を捨ててでも薬物を得ようとします。ほかの麻薬取締官に聞いた事例ですが、薬物乱用者を取り押さえるために家に行った際、水もガスも電気も止められていました。しかも、その乱用者には、子どももいました。そんな時でもなんと薬物だけは持っていたそうです。
 薬物乱用者は、使用を重ねることで、社会の目が段々と厳しくなり、社会から孤立してしまいます。もちろん、社会復帰した人も多くおり、やり直すことは無理ではありません。しかし、何度捕まえても再乱用してしまう人がいることも事実です。
 麻薬取締官としては、再犯しないようにアフターフォローもしていきますが、大前提として薬物に手を出さないことが大切です。

捜査・監督・啓発・相談で薬物乱用を防ぐ

−麻薬取締官の役割・使命を教えてください。

石井●麻薬取締官は、厚生労働省に所属する職員で、全国の地方厚生局に麻薬取締部が設置されています。薬物の乱用による保健衛生上の危害を防止して、公共の福祉の増進を図ることが、麻薬取締官の大きな仕事です。内容は、大きくわけて捜査・監督・啓発・相談の4つです。
 捜査では、規制薬物の捜査はもちろん、医療用麻薬や向精神薬などの監視も行っています。規制薬物に関しては、医療現場で一部有用な薬として流通もしているので、それが適正な流通かを監視することも、麻薬取締官の業務の一つです。立ち入り検査権限を持っているので現場に赴いて、適正に流通しているのかを確認します。
 法律に規定されているのですが、薬物は輸入し製造した後、卸売業者、最終的に医療従事者のもとにいき、患者に処方されます。輸入会社から最後の医療現場に届くまで、立ち入り検査で管理している状況です。薬物に関しては1錠単位、1アンプル単位まで管理しています。紛失した場合は事故届が医療機関から提出され、捜査をします。
 啓発活動としては、薬物に手を出してしまわないように情報の発信を行っています。学校などに講師として行ったり、講師の紹介をしたりしています。
「更生したが、また手を出してしまわないか不安」「家族が薬物を乱用している」など薬物乱用者本人はもちろん、その友人や家族からの相談に応じるのも、大切な仕事です。
 麻薬取締官として、一人でも多くの人に薬物乱用の怖さを知ってもらいつつ、乱用者については厳しく取り締まっていきます。

<現場のリアル>万全の体制で取り押さえるが、時に乱用者は想定外な行動も……(30代女性 麻薬取締官)

 私は、九州厚生局の麻薬取締部を経て、現在は関東信越厚生局で捜査業務に携わっており、これまでにさまざまな薬物乱用者に会いました。
 麻薬取締官は危険な仕事という印象を持たれてしまうこともありますが、実際に危険な目に遭うことはほとんどありません。入念な調査としっかりした準備をして、万全の体制を整えて現場に行くからです。
 確かに、薬物乱用者が錯乱して、どのような行動に出るかわからないという怖さはあります。実際に、小柄な女性乱用者を取り押さえようとしても歯が立たず、3人がかりでやっと制止した経験があります。また、窓から建物の外にある水道管を伝って逃げようとした乱用者もいました。事故のないように注意を払って取り押さえなければならず、一歩間違えば命に関わる大惨事につながる現場を経験したこともありました。

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