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広報誌「厚生労働」

ニッポンの仕事、再発見!

《和服仕立職》

反物を裁断・縫製して、着物、羽織、袴、和装コートなどの和服に仕立てる。一般の人の和服だけでなく几帳、神主の装束、僧侶の袈裟、時代衣装など、手掛ける領域は広い。洋裁と異なり、すべて手縫いが基本である。

ふたつと同じ着物はないため高度な知識と技術、探究心が求められる

岩本好司
いわもと・こうじ
1957年、東京都生まれ。大学卒業後、森岡和裁にて住み込み修業したのち、後継者として岩本和裁に入社。2001年、国家検定の和裁技能検定1級取得。03年、職業指導員免許(和裁)取得。09年、全国技能士会連合会マイスター。10年、東京都優秀技能者、13年、ものづくりマイスター。一昨年、「現代の名工」に選定される。岩本和裁で教育・指導をしているほか、各種勉強会、講習会を通して後進の育成に取り組んでいる。

お正月や成人式、冠婚葬祭などの機会に着物姿の人を目にすると、華やかで端正な趣に、伝統衣装の「美」を改めて見直す人もいるでしょう。 和服仕立職3代目の岩本好司さんは、古来の伝統の技を継承しつつも、和裁の可能性を追求、新しい着物文化の発展に貢献しています。

プロの仕立職には、考え工夫する力が不可欠

 岩本好司さんは、祖父の代から営んできた和裁仕立業の3代目。小学3年生のときに初めて針を持ち、運針3mが日課だったといいます。中学以降は和裁から離れたものの、大学卒業後に高名な和服仕立師のもとに住み込みで弟子入りし、修業の道に入りました。
「当時は、見て覚えろの時代、先生が縫っている様子を見せてもらうだけでした。着物には随所に留めというものがあり、これは着物の急所というべき重要なポイントなのですが、留めの場所1カ所を見極める力をつけ、自分のものにするのに3年かかりました」
 4年半の修行を経て、実家の岩本和裁に戻り、さらに経験を重ね、3代目を引き継ぎました。自身の体験から、岩本和裁でお弟子さんを指導する立場になって以降も、プロをめざす人にはあえて手取り足取り教えません。
「プロをめざす人と、趣味として和裁を学びたい人とでは指導法が違います。私が指導している人のほとんどは『自分で着物を縫いたい』『孫に縫ってあげたい』という目的で習いにきていますから、そういう方々には即技術を教えます。しかし、着物を縫ってお金をいただくプロになるには相当の技能だけでなく、自分で考えながら工夫をしていく力が必要不可欠です。生半可な気持ちでは務まりません」
 和裁仕立職の場合、国家検定の和裁技能検定1級合格は難関ですが、1級を取得したことに満足していては一人前の和裁仕立職にはなれないといいます。それはあくまでも出発点で、着物、羽織、袴、和装コートはもちろんのこと、几帳、神主の装束、僧侶の袈裟など専門性の高いものまで、和装全般をこなせるのがプロだからです。あわせて、絹、綿、麻など生地の特性を知りつくし、生地に合った縫い方をすることが求められます。
 また、着物は8つのパーツからできており、裁断する際、いかに柄をきれいに配置するかが重要です。そこにこの仕事のおもしろさがあるそうです。
「着物の生地は大量生産していないため、ふたつと同じものはありませんし、思い出の着物を仕立て直す場合も、代わりの生地はないので仕立職に失敗は許されない。高度な知識と技術、探究心が必要になってくるのです」

体の3カ所のサイズ情報だけでフィットする着物を仕立てる

 仕立職の腕の見せどころは、いかに客の体に合った着物を仕上げられるかだといいます。身長と裄(首の付け根から手首までの長さ)、胴の一番太い部分、この3カ所のサイズの情報だけで、たとえ本人に直接会わなくても仕立てられるというのですから驚きです。それだけに、岩本さんが最もやりがいを感じるのは、「着やすかった」と言われたときです。
 現代の名工の表彰理由は、特注品の仕立てにおいて幅広い知識と技術を有していることです。特に袴では馬乗り、仕舞などあらゆる種類の知識があり、さらに、襞(ヒダ)の折り方を数値化し、位置を正確に決められる技法を考案したことが高く評価されました。
「着物を縫うときは勘も必要ですが、勘の継承は容易ではありません。そこで祖父は、早く正確に作るために勘を数値化したのです。ここは○pと数字で教えれば、早く覚えられ作業を容易にするので、私も祖父の考え方を受け継いでいます。でも、これはあくまで趣味で和裁をする人対象の技術の範ちゅうです。プロは自分で考えないと」
 岩本さんは和装コートも得意としており、基本の衿以外の変わり衿創作に卓越した技能を発揮しています。
 近年、着物を着る人は増えていますが、多くはレンタルで、高価な着物を仕立てる人は少なくなっています。しかし、着物は日本の伝統文化と切っても切れないもの。岩本さんの客は、日本舞踊や琴の家元、歌舞伎役者など、伝統文化を担っている人が中心です。
「着物を着る方が増えているのはうれしいですが、一般の方の生活には根付いていません。江戸時代には、今のような和装のルールはなく、着方は自由でした。たとえば、雨が降ったときは大切な着物が濡れないように、上から浴衣を羽織っていました。伝統的な着物を継承していくことは大切ですが、その一方で、格式ばらずに気軽に着られる世の中になってほしいですね」

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