広報誌「厚生労働」

光ファイバケーブルのほか、旧来の銅線（メタル）ケーブルの配線・接続など、有線による情報ネットワーク施工を行う。インターネットの普及により需要が高まっている。

一本一本を手でコツコツつなぐ　銅線ケーブル技術を極める

佐川三千男
さがわ・みちお
1955年、福島県生まれ。71年、いわき専修訓練校（当時）を卒業後、協和電設（現協和エクシオ）に入社。情報ネットワークの配線・接続などの工事に従事。2004年、中央技術研修センタ所長に就任し現在に至る。昨年、「現代の名工」に選定される。

通信インフラの整備により、情報ネットワークの恩恵に浴している私たち。
有線の場合、光ファイバケーブルが主流ですが、旧来の銅線ケーブルもまだ使われています。
佐川三千男さんは銅線ケーブル技術の第一人者。その保守管理のため、後進への技術の継承が自身の使命だと語ります。

　現代の私たちの便利な生活を支える電話やインターネットなどの情報ネットワーク。このネットワークは、情報配線施工工が通信ケーブルの施工・配線・保守などを行うことで維持されています。佐川三千男さんは、情報配線施工工として、20年にわたって現場での工事に携わり、現在は中央技術研修センタの所長を務めています。
　近年は、有線による情報ネットワークの主流は光ファイバケーブルですが、佐川さんがこの仕事に就いたときは銅線（メタル）ケーブルの時代。昨年、「現代の名工」に選定されたのは、銅線の配線や接続に関する卓越した知識・技能を認められたからです。
「昔は、各家庭やビルにまで銅線をコツコツと手でつないでいたんですよ。銅線は一本のケーブルの長さが200mとか250mと決まっているため、その間隔でマンホールを出たり入ったり、電柱に上ったり下りたり（笑）。銅線の数が多いケーブルの場合は、接続作業が1カ所につき三人で取り組んでも、3日ぐらいかかりましたね。現在、主流となっている光ファイバケーブルの場合は2〜3kmを一度に引けるので施工は大変ですが、接続部分が少なく、機械による接続のため、作業が随分楽になりました」
　現在、光ファイバケーブルが主流とはいえ、銅線ケーブルも少なからず残っています。家庭の固定電話だけでなく、有線による情報ネットワークで各家庭にサービスを提供している企業なども銅線ケーブルの回線を使用しているとのこと。光ファイバケーブルが普及する前のADSLも銅線ケーブルで、現在もこの回線を使っている企業・家庭も少なくありません。銅線ケーブル一筋に取り組んできた佐川さんの技術は、今後も社会にとってなくてはならないものなのです。
　「今は光ファイバの時代ですから、新たに銅線を引くことはありません。しかし、銅線が現役として使われている限り、保守は必ず必要になります。1本の銅線が切れただけで通信に支障を来し、多くの方々に迷惑をかけることになりますからね。ですから、若手も光ファイバの技術だけでなく、銅線の技術もマスターしておかなければならないのです。光ファイバと銅線、両方を配線・接続できる技術を持っていないと一人前とはいえないでしょう」

　光ファイバの技術に関しては、若手が育っており若手が中心となって工事に取り組んでいますが、今後も銅線を保守管理していくためには、銅線の配線・接続技術も若手に継承していくことが必要です。しかし、若手が実際に銅線工事を行う機会は非常に少ないという問題があります。
　「光ファイバが主流ですから、銅線工事の需要は減っています。若手に銅線技術を指導しても、それを活かす場がない。つまり、なかなか現場体験を積めないんですよね。技術を身につけるためには、実際に現場で学ぶことが大切なのですが……」
　現代の名工に選定されたことにより、佐川さんは、自身を育ててくれた会社に感謝するとともに、今まで以上に後進の育成に励まなければという使命感を抱くようになったといいます。
　「光ファイバの工事と異なり、銅線の工事は私のような年配の人間にしかできないのが現状。若手を育てていかないと、銅線にトラブルが生じたときに対応できなくなってしまいます。これまでも随分若手を指導してきましたが、銅線の技術者が十分に育っているとはいえません。今61歳ですが、働ける限り少しでも多くの若手に銅線の技術を伝えていきたい。今の目標はそれしかありません」
　佐川さんは、自身の知識や技術を活かし長年にわたって若手や次代の指導者の育成に努めてきました。2年に一度行われる技能五輪国際大会において4大会連続で情報ネットワーク施工職種の金メダリストを輩出するなど、技術の指導に定評があります。日本人は100％の結果、できを求め技術を高めます。佐川さんは、銅線ケーブル技術を熟知した数少ない指導者として、これからも金メダルに値する有能な情報配線施工工を育成してくれることでしょう。