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広報誌「厚生労働」

ニッポンの仕事、再発見!

《木製建具製造工》

 戸や襖、障子など木製の建具を制作する職人。材木を機械で切断し、ノミ・カンナなどを使って加工していく。小さな木の部材を組み合わせて模様をつくる組子細工を施すこともある。木の特性や木目の生かし方、デザイン力も問われる。

厚さ1mm前後の天然木による組子細工が描き出す繊細で美しい世界

川口秀丸
かわぐち・ひでまる
 1943年、愛知県生まれ。中学を卒業した58年から建具屋で技術を習得。64年に独立して「川口木工所」を開業。25歳のときに組子細工と出会って独学で技術を習得。88年、全国建具展示会で内閣総理大臣賞を受賞。90年、技能グランプリで優勝。2015年、「現代の名工」に選定される。

 日本の住まいに欠かせないのが木製の建具です。なかでも、細い木を使って美しい模様を描く組子細工を施した建具は、生活に彩りを添えます。
川口さんは、木の色合いを生かしつつ多彩な文様を用いて、繊細で美しい建具を生み出しています。

木の色や質感を最大限に活用 木のパーツが20万個を越えることも

 木造の建具製造のなかでも、まるで、細い木を編み込むようにつくられた繊細で美しい組子細工は、川口秀丸さんが得意とする伝統的な技術です。厚さ1.5mmから0.5mmと細く切った木に溝や穴、ホゾ(突起)などを施し、カンナなどで微調整しながら一本一本組み付けています。室町時代から続く、日本独特の装飾技術です。さまざまな大きさの「麻の葉」「梅鉢」「亀甲」「胡麻柄」といった伝統ある文様を組み合わせ、時には富士や扇、雲、水の流れといったものを表現することも。直線的な幾何学模様なのに、温かみのある柔らかなデザインを生み出します。
 最も重要なのが、三つ組手という模様の土台となる木をはめ込む作業。「これが、縦、横、斜めすべてにまっすぐ通っていないと美しい仕上がりにならないんです」と、川口さんは説明します。組子細工は精度が重要。ちょっとした狂いが全体に影響します。「使うのは国産の檜と杉だけです。赤みのある天竜杉や茶色っぽい蓬莱杉、1000年以上地中に埋もれていた深い緑色の神代杉。こうした木の自然な色もデザインに生かしています」
 そのため、木材の仕入れも重要な仕事。実際には切ってみないと細部までわからないため、木の皮や年輪の詰まり、切り口などさまざまな観点からチェックをして入札します。時には、1立方メートルの木材が500万円ほどの価格になることもあるそうです。また、小さな木のパーツは、機械を工夫しないと切り出せません。湿度によって木の扱いも変化し、道具の刃の切れ味によっても仕上がりが変わります。細部にまでこだわった配慮をすることで、初めて美しい組子細工が仕上がるのです。
 作業は、デザインの考案からスタート。原寸大の図面をつくり、必要なパーツを切り出して組んでいきます。作品によっては、パーツの数が20万個を超え、完成までに1年以上かかることもあるとか。「パーツの数を考えると気が遠くなることもありますよ。でも、丁寧な仕事をするほど、仕上がりも、お客さんが作品を見る目も変わることを知っています。完成したときの喜びは何ものにも代えがたいものです」
 川口さんのこだわりは、「あくまでも生活の一部となる作品」をつくること。生活に溶け込みつつ、「これいいね」と言われるような、目立ちすぎない美しいデザインをめざしています。

独学で得た技術を息子へ伝承 史上初! 親子二代で賞獲得

 川口さんは独学で組子細工の技術を習得しています。21歳で独立したものの急速に仕事が減り、なんとかしたいと技能検定試験を受けたとき、審査員に「あなたの技術は早くて正確で美しい。組子細工をしてみたらどうか」と言われたことが転機となりました。
 とはいえ、誰もそのつくり方や必要な道具を教えてくれません。他の職人の技術や道具を見て学ぶしかないと考え、27歳のころから技能グランプリに出場し続けて技を身につけ、独自のデザインを追求しました。そのかいあり、45歳のときについに、全国建具展示会で最高賞の内閣総理大臣賞を受賞したのです。
 川口さんの技術が定評を得はじめたころ、別の道へ進もうとしていた息子の博敬さんが、「親父の仕事を継ぎたい」と申し出てきました。「正直、悩みましたね。でも、“親父が元気なうちに技術を引き継ぎ、伝統を守りたい”という息子の意思を尊重しました」。その博敬さんも、2011年の全国建具展示会で内閣総理大臣賞を受賞。親子二代の受賞は史上初のこと。さらに、昨年の同展示会でも受賞し、同じ事業所で3回も内閣総理大臣賞を受賞するという快挙を成し遂げています。
 川口さんは、博敬さんについて「当木工所独自の展示会を開催したり、フェイスブックで情報発信したり。さすがだなと思うことはたくさんあります」と目を細めます。博敬さんがストラップの組子細工や、0.3oの三つ組手といった新しいことに挑戦する姿も頼もしく感じています。
 昨年、「現代の名工」に選定されたことで、川口さんの制作意欲はますます高まっています。「人と同じものはつくりたくない。正確さにこだわりながら、すっきり見える美しいデザインを極めていきたいと考えています」

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