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広報誌「厚生労働」

ニッポンの仕事、再発見!

建築板金工

薄い金属板の加工から取り付けまで、屋根や外壁、雨樋などの工事・リフォームを手がけるのが建築板金工。銅板鍛金技法の技術がある建築板金工は、一般住宅だけでなく寺社の仕事も請け負うことができ、美術作品も創作する。

金属板を手作業で成形・加工 銅板鍛金技法に手腕を発揮する

菅原光夫
すがわら・みつお
1946年、岩手県生まれ。15歳のときに上京し、東京都千代田区の江野澤板金に弟子入り、住み込みで修業する。23歳で独立し、千葉県八千代市大和田で開業。27歳のとき、八千代市村上に移転し現在に至る。建築板金一級技能士。昨年、「現代の名工」に選定される。

技術力のある建築板金工は、屋根や外壁、雨樋のほか、優れた美術作品もすべて手作りで仕上げます。既製品を取り付ける作業が仕事の中心になっている今、菅原光夫さんは、一から製品を作り上げていくという建築板金工が本来あるべき姿を貫いています。

屋根や外壁から装飾品まで 手がける製品は幅広い

 菅原さんは15歳で親方のもとに弟子入りして以来、70歳になる現在まで建築板金工一筋に歩んできました。銅やステンレスなどの薄い金属板を切ったり曲げたり叩いたりすることで成形し、所定の場所に取り付けるまでの一連の作業を行うのが建築板金工です。屋根や外壁、雨樋、厨房用金物、天蓋、排気筒のほか装飾品など、手がける製品は多岐にわたります。
 取り付けまでが仕事ですから、たとえば外壁にタイルを貼ることも。最近は金属製のベースを取り付けた上からタイルを貼るため、ベースの取り付けからタイル貼りまでを行います。ベースを正確に取り付けないと、タイルの並びも美しく仕上がらないからです。このように金属を扱う作業はすべて建築板金工がこなしています。
 「近年はハウスメーカーの住まいが多くなり、それに伴い既製品を使うようになってきているため、単なる取り付け屋になってしまっている板金工が多いんですよ。そういう仕事ばかりしていると技術を磨くことはできません」
 菅原さんは、基本的にすべての製品を自分の手で作り上げます。1枚の銅板を木槌や金槌で叩いて形成していく「銅板鍛金技法」に卓越した技能を持っており、この技は風格と美しさが求められる寺社建築には欠かせません。
 「一般住宅ではカラー塗装したガルバリウム鋼板を使うことが多く、これは打った釘が見えてもかまいません。しかし、寺社の場合は見た目の美しさが重要なので、『隠し釘』といって釘が見えないように打ちます。銅を扱うには技術力が必要なんですよ」
 いい仕事をして正当な対価をいただくのがポリシーだと語る菅原さんは、満足できる仕事ができたときに大きな喜びを感じるそうです。
 「納得できる仕上がりになるまで徹底的に取り組むと、手間がかかります。手間をかけた分、儲かるわけではありませんが、儲けより、いかに納得できる仕事をするかが重要なんです。仕事とは、そういうものではないでしょうか」
 菅原さんは、プロとしての誇りと責任を胸に刻みつけて、日々仕事に取り組んでいます。唯一苦労されているのは、都市部で顕著に見られる人間関係の希薄さによる仕事のしにくさです。
 「私たちが現場作業をするのは住宅街が多く、道路に駐車して作業するにも配慮が必要です。近所同士のコミュニケーションがなくなっているからなんですね。仕事がやりにくい世の中になりました」

特殊な技術を求められるときに備えて若手は技術・応用力を磨いておくべき

 般若や恵比寿・大黒などの装飾品の創作にも手腕を発揮し、優れた造形美を生み出している菅原さんは、銅板加工美術展で千葉県板金工業組合理事長賞の受賞や千葉県の卓越した技能者に選ばれるなど高い評価を得ています。その技術を次世代に継承するため、組合の銅板加工美術展で若手を指導することに力を注いでおり、後進の育成こそが今後自身が取り組むべき目標だと考えています。
「取り付け屋になっている板金工が多いので、技術力の高い板金工を育てていかなければなりません。美術作品を作ることによって、さまざまな技術が習得できますし、応用力も身につき技術の幅が広がります。特殊な技術を求められる仕事が来たときに備えておくことが、若手には重要だと思いますね。寺社の場合は尺貫法を用いるので、その知識も必要です」
 菅原さんには後継ぎがいないため、意欲のある若手には自分の技術を惜しみなく注ぎ込み、どんな仕事にも対応できる人材を育てたいと語ります。  自身も常に学ぶことを忘れません。たとえば、旅行に行ったときも、その地の建築板金工がどんな仕事をしているのか気になり、寺社だけでなく街並みを眺めて勉強する機会にしているとか。
 菅原さんは、「現代の名工」に選定されたことより、同業者の組織である組合から推薦されたことが何よりもうれしいと語ります。
「長年やってきて、ホントによかったと思いますね。同業者が認めてくれた技術を若手に継承し、後進の育成に貢献することが私の務めだと考えています」

<写真キャプション>
現在取り組んでいる仕事は稲荷神社の屋根。製品が小さく、曲線のパーツが多いので、作業は難しい。また、参拝客が間近で目にするため、より丁寧な仕上がりが求められる。もちろん隠し釘を使用

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