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ニッポンの仕事、再発見!

《画工》 広くは絵を描くことを仕事とする人を指すが、画工の「工」は「匠」を意味するため、狭義では工芸的技法を駆使して芸術作品を制作する者を意味する。

日本で唯一の和紙ファイバーアートで自然の命の輝きをいきいきと表現

日本の伝統的工芸品の和紙を用いて作品を制作するのが「和紙ファイバーアート」。
渡会不二男さんは、染色した和紙をちぎって貼っていくことによって樹木などの自然物をいきいきと描き出します。
そこには、一般的なちぎり絵とは比べものにならない超絶技法がありました。生命力あふれる作品は、どのようにして生まれるのでしょうか。

渡会不二男(わたらい・ふじお)
1941年、東京都生まれ。47歳で食品会社を退職し、自ら考案した和紙ファイバーアートの制作に専念する。82年、第32回新協美術展に入選。その後、個展を精力的に開催。2002年、ルーマニア大統領に作品を寄贈し、顕彰を受ける。15年、「現代の名工」に選定される。

画材は楮100%の手すき和紙毛足の長さが技法を可能に

 手すき和紙ならではの長い繊維を活かして、筆で描いたような風合いに仕上げる「和紙ファイバーアート」。このアートを開発したのが渡会不二男さんです。

 渡会さんが和紙に出会ったのは、約30年前の45歳のとき。仕事で訪れた埼玉県小川町でつくられている「細川紙」(国の重要文化財に指定)に強く惹かれ、試行錯誤しながら細川紙を使った和紙ファイバーアートの制作をスタート。2年後には勤めていた食品会社を退職して、その制作に専念するようになりました。水彩画を趣味で描いていたとはいえ、まさかアート制作が仕事になるとは思ってもいなかったとか。

 和紙ファイバーアートは、多彩な色に染めた和紙を少しずつちぎっては貼っていくという根気のいる作業を繰り返すことによって完成します。和紙が絵の具であり、指が筆そのもの。最も難しいのは、貼りムラがないように色をつなげていくことです。

 「ちぎったときの毛足の長さを利用して色をつないでいくので、繊維が長い楮100%の手すき和紙でなければ制作できません。微妙に異なる色をつなげていくことができ、重ねて貼って、乾いてくると下の色がうっすら現れてくる手法もあります。1o以下のずらしが勝負なんですよ」

 長年、取り組んできたことにより高度な技を獲得できたのですが、いまだに色の表現には苦労するそうです。自分が表したい色が何度試しても出ないときもあれば、試行錯誤の末にようやく納得できる表現に至ったにもかかわらず、夢中になって貼っていたために手法を覚えておらず、再現が困難になってしまうこともあります。新しい表現の獲得はそれほど難しいのです。
「今までと同じことをやっていては進歩がありません。進歩するためには色に100%を求めず、技術や工夫によって表現を豊かにしていく必要があります。和紙ファイバーアートに終わりはありません。常に挑戦していきたいですね」

 渡会さんは樹木など自然物を題材にしています。100号の大きな作品もあれば、色紙などの小さな作品もありますが、どんな作品でも、決して手を抜くことはありません。たくましく生きる命のエネルギーが見る者に伝わってくるのは、絵に向き合う覚悟があればこそ。まさに真剣勝負の世界です。
「生きているものを生きているように描くために命を吹き込みたい。たとえば、厳しい環境で育った木は厳しい表情をしています。古木は洞になっても堂々とした姿で生きています。その精気をとらえて表現したいんです」

 使う色を決めるなどの段取りをしたら、もう迷いはなし。自信を持って、和紙をちぎっては貼っていき、絶対にはがしません。後戻りをしないからこそ、自然界のいきいきとした命の息吹が画面にあふれるのでしょう。

生徒たちを後継者として育て高齢者には創作の楽しさを伝えたい

 渡会さんが日課にしているのはデッサンです。やればやっただけ上達するといいます。「デッサンするときの鉛筆の動きは、和紙をちぎるときの動きと同じです。ですから、デッサンが描けないと和紙も扱えないと思っています」

 現在、工房と千葉県柏市の教室で約20人の生徒に和紙ファイバーアートを指導しており、デッサンの大切さを伝えています。しかし、自分でデッサンして作品に仕上げることができるのは、今のところ一番弟子の一人だけ。ほとんどの生徒は渡会さんのお手本どおりに完成させることを目標にしており、デッサンから本格的に学ぼうとする生徒は少ないとのことです。

 「和紙ファイバーアートは、私がゼロからの発想で考えたものですが、企業秘密は一切ありません(笑)。この手法を広めていきたいと思っていますが、後継者の養成となると、なかなか…」

 渡会さんは後継者の養成に取り組むだけでなく、創作する楽しみをより多くの人たちに伝える試みにも挑戦しようとしています。今後は、「老人ホームなどで、高齢者の方々に和紙ファイバーアートの指導をしたいと考えています」と語ります。


樹木の画を制作中の渡会さん。染色した和紙を小さくちぎって、少しずつ重ねながら貼っていく。この樹木はオオシラビソで、樹皮が横に走っている。樹木ごとに特徴があるため、樹木を描くには樹種の知識が必要となる
渡会さんが使用しているのは「細川紙」。長い毛足が特徴の楮100%の手すき和紙だからこそ、ちぎって貼っていくことによって色をつなげていくことができる

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