1)目的
2)検討の経過
1.現状と課題
2.施策展開における今後のあり方
1)生徒・企業が互いに納得のいく仕事や企業、人材を選べる仕組みの整備
(a)地域経済団体と連携したキャンペーンの実施
(b)夏休み期間を利用した職場見学会の開催
(c)ジョブフェア(仮称)の開催
(d)ホームページなどでの事業や仕事内容等の情報提供
(e)地域求職活動援助事業の活用
3)キャリア形成の観点からの教育・職業能力開発等の基盤の整備
1)目的
これまで円滑に行われてきた高校から職業生活への移行に変化が生じている。
社会・経済状況の変化を背景に、需要側である企業においては、依然として定期一括採用が中心ではあるが、学卒労働力、とくに高卒者に対する求人が大幅に減少しつつある。また、供給側の高卒者においては、少子化による人口の減少に加え、大学等への進学率の高まりによる就職希望者の減少傾向が顕著である。このように高卒労働力については、需給双方において減少がみられるようになってきている。
さらに近年指摘されているのが、高校卒業後に無業者となる者やいわゆるフリーターと呼ばれる不安定就労者となる者の増加と、高校卒業後に就職しても早期に離職してしまう者の増加などである。また、若年層の完全失業率自体も、他の年齢層に比べて高水準で推移している。
このような状況を背景に、高校から職業生活への移行のあり方が問われるようになってきている。これまで大量の就職希望者を短期間でマッチングできる仕組みとして非常にうまく機能してきたと考えられてきた、高校と企業との信頼関係に基づく高卒者の就職あっせんの仕組みが、社会・経済環境の変化にともない、生徒と仕事のミスマッチの発生や卒業後の無業者・フリーターの増加につながっているという可能性が指摘されている。
いずれにせよ、このような若年層の持続的な完全失業率の高まりや高校卒業後の無業者・フリーターの増加は、技能形成、能力開発に重大な支障を生むと懸念されるのみならず、時間の経過とともに失業者の多いコーホートがそのまま高い年齢層に移っていくことで、マクロレベルでの労働生産性や活力の維持など、経済や社会全体への影響が生ずる可能性も考えられる。したがって、学卒者の高校から職業生活への円滑な移行を図り、若年期に適切なキャリアを形成して、産業界の基幹的な人材として活躍できる環境を整備していくことは、行政にとって、重要な課題と思われる。
そこで、高校生活から職業生活への移行について実態を把握し、課題を明らかにするための調査を行うと共に、現状の分析を踏まえて、新規高卒者の就職支援対策等について検討を行うことを目的に、厚生労働省が文部科学省と共同で設置したものが「高卒者の職業生活の移行に関する調査研究会」である。
2)検討の経過
本研究では、まず文部科学省が先に実施した「高校生の就職問題に関する検討会議」における検討状況を振り返るとともに、高校生の職業生活への移行に関するその他の既存研究等の整理を行い、それを踏まえた上で、新規高卒者の就職支援のあり方等について検討・分析を重ねてきた。これに加えて、高校生の職業生活への移行実態を把握するために厚生労働省独自の複数回アンケート調査も実施した。
また、昨年7月には中間報告を行うとともに、これに対する各方面からの意見を聴取し、今後の施策展開におけるあり方について検討を深めてきた。本報告書は、そういったこれまでの検討の結果についてとりまとめたものである。
なお、本研究では、6回の研究会と13回の専門部会を開催し、現在の高卒者の職業生活への移行に関する問題点の整理や、現行の就職に関する慣行等の実態の把握、今後の支援のあり方やその方策について検討を行ってきた。また、アンケート調査については、専門部会(一部は日本労働研究機構)で企画・設計し、在校生調査部分を厚生労働省が、また卒業生調査部分を日本労働研究機構がそれぞれ実施した。
(高卒者における卒業後の進路)
高等学校進路別卒業者数の推移を見ると、平成4年をピークに卒業者数が年々減少するなかで、大学等進学者数はほぼ横這いで推移しており、この結果、進学率は毎年のように上昇を続けている。一方、就職者数は平成2年をピークに年々減少の一途をたどり、卒業者に占める就職者の割合も毎年低下を続けている。高等学校卒業者の就職率は、昭和40年には60%を超えていたのが、平成13年には18.4%と2割を下回る水準にまで低下した。また、近年、無業者比率はほぼ10%にも達している(図表1)。
なお、高等学校卒業者の進路状況は、地域による違いも大きい。例えば、都道府県別の無業者比率を見ると、10%を超える高い水準の県が多く見られる一方で、依然として5%を下回る水準を維持している県も複数見られるなど、地域により状況の異なる様子が確認できる(図表2)。
(高卒者に対する就職決定率の推移)
次に、高等学校卒業者の就職内定状況の推移(文部科学省調査)を見ると、平成13年度12月末現在で67.8%と、過去最低を記録した一昨年度を大幅に下回る状況となっている。なお、就職決定率を男女別に見ると、男子よりも女子の方がより厳しい状況にあると言える(図表3)。
(高卒者の離職率の高さ)
このように、就職することが非常に厳しくなっている一方で、高卒就職者の離職率も高い水準で推移している。新規学卒就職者(高校卒)の離職率の推移を見ると、就職後1年以内に約4人に1人が離職、また、3年以内では約半数の者が離職している状況である(図表4)。
(いわゆるフリーターや無業者の増加)
高卒者に限らず、若年層全体の就業問題として、学卒無業者やフリーターの増加が近年指摘されている。フリーターについては、平成12年度版労働白書では平成9年に151万人と推計されている。また、日本労働研究機構の調べでは、平成12年には193万人という推計がなされている。さらに、先に見たとおり高校卒業時点で進学も就職もしない学卒無業者の比率は卒業者の約1割にも達している。
このような状況の中、卒業時まで次の進路が決まらない、また、卒業と同時にひとたび就職してもすぐに離職してしまう者が、無業者やフリーターへと流れているなど、すなわち、高校卒業が無業者やフリーターの入り口の1つとなっている可能性が指摘されている。なお、本研究会において実施したアンケート調査では、就職活動をしたものの卒業年の3月時点で未内定の生徒のうち、2割程度の人は今後の進路として「フリーターになる」ことを選択肢の1つとして考えているという結果であった(参考資料 図表1)。
(2)高校生の就職をめぐる環境の変化
(高卒者に対する労働需要の減少と変化)
高卒者に対する求人数が減少している。平成13年度11月末現在においては、この時期としては初めて求人倍率が1倍を下回るという高卒者にとって大変厳しい状況となっている。また、求人数の減少のみならず、求人職種についても変化が見られる。以前であれば事務職や販売職等での募集も多く見られたが、最近では事務職・販売職での求人が減少し、求人職種が技能工に偏ることとなっているため、結果として技能工として就職する者は全体の4割以上を占めるに至っている。高卒者に対する求人数の減少は、企業における経営環境の厳しさを背景としているが、ホワイトカラー分野での求人数の減少は、IT化の進展などによる補助的業務の減少や、業務の高度化・複雑化に伴う大卒者等の高学歴人材へ需要のシフトが要因になっていると考えられる(図表5、図表6)。これについては、今春の新規学卒者の就職内定率が、高校では前年を下回っているにもかかわらず、一方、大学等については前年を上回っているという結果からも推測される。
なお、アンケート調査では、就職活動中に「希望する職種の求人が少ない」と感じた人の方がそうでない人よりも多い傾向が見られたが、それはこのような背景によるところが大きいと考えられる(参考資料 図表2)。
(求人企業規模の中小企業化)
求人企業の規模にも変化が見られる。以前では従業員規模の大きな大企業からの求人も見られたが、近年は求人企業が中小企業にシフトしてきている。また、新規学卒者(高校卒)の企業規模別就職先構成比を見ても、平成6年以降、従業員300人未満の企業が6割以上を占め続けており、平成12年には72.3%に達した(図表7)。
(企業から見た高校生)
また、以前は金の卵とも呼ばれ、非常に重要視されてきた高卒人材であるが、近年では質的面についても、企業側が厳しい見方をするようになってきている。
たとえば日本経営者団体連盟が東京経営者協会に加盟する東京都内の企業を対象に平成13年1月に実施した「高校新卒者の採用に関するアンケート調査」の結果によると、採用(応募)者に対し、「勤労観、職業観」、「コミュニケーション能力」、「基本的な生活態度、言葉づかい、マナー」などの面で不満を感じている企業が多くなっている。
(意識面での変化)
意識の面でも変化が見られるようになってきている。世の中全体としても、終身雇用制に代表されるような日本的雇用慣行が崩れ、離職・転職は珍しいことではなくなってきているが、そのためか、生徒自身も、最初の就職先に定年まで勤め上げるという意識は薄れてきている。また、アンケート調査によると、将来の職業生活について「仕事以外に生きがいをもちたい」、「安定した職業生活を送りたい」のほかに、「専門的な知識や技術をみがきたい」、「自分に合わない仕事ならしたくない」と考えている人も非常に多くなっている(参考資料 図表3)。
このほか、いわゆるフリーターや無業者も数が増えて今では珍しくなくなっているが、生徒自身、高校卒業後フリーターや無業者になることに対して抵抗感が小さくなっていることも指摘できる。
(3)高卒者の就職の仕組み
(選考開始期日等)
現在、高卒者の就職あっせんについては、早期採用選考を防止し、求人秩序を確立することにより、授業時数を確保するなど高等学校教育の充実を図るとともに生徒の適正な推薦・選考が行われるよう、下記のような選考開始期日等にそって行われている。これらの選考開始期日等は、全国高等学校長協会や主要経済関係団体の意見を踏まえて決められ、厚生労働省と文部科学省との共同通知という形で周知されている。この枠組みにそって、高等学校とハローワーク(公共職業安定所)の分担・連携による就職あっせんが行われてきた(図表8)。
採用選考期日等を設定することについては、その是非も含めて、文部科学省の「高校生の就職問題に関する検討会議」においても、十分な検討がなされたが、高校側、企業側ともにその意義を認めている状況等を踏まえ、改めてその必要性を指摘している(図表9)。
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(就職慣行)
高校生の就職については、選考開始期日等を背景として、数十万の求職とこれを大幅に上回る求人とを短期間で円滑に結びつける上で、また、可能な限り多くの生徒に均しく希望する事業所や職種に応募することができるようにする上で、指定校制、一人一社制、校内選考といった慣行が一定の役割を果たしてきた。
しかしながら、高校生の就職を取り巻く環境が大きく変化する中、これらの慣行がもたらす弊害も出てきている。
(民間職業紹介事業者における取扱い)
平成11年の職業安定法の改正に伴い、民間紹介事業者の行う学卒紹介については、事務職、販売職の職業の紹介も可能となった。
しかしながら、実際には、民間による新規高卒者に対する職業紹介は進んでいない。
(3)職業意識形成上の問題
就職する高校生の資質や能力については、先に見たとおり企業側から厳しい見方もされるようになってきている。
このように、高校生の職業意識の形成が十分なされていないのは、日常的な教育や、社会の中で生徒の職業意識を形成していくシステムができていないところに起因するものも大きいと考えられる。まず、学校の指導自体が、就職先の紹介、あっせんや、履歴書の書き方や面接試験の受け方などが中心となり、たとえば入学時からの計画的・継続的な指導により生徒の職業意識を形成していくような体制には必ずしもなっていないことがあげられる。そのために大きな役割を果たすと考えられる体験活動についても、その意義や必要性の認識等が十分ではない学校もあることなどが指摘できる。
さらには、高校生を含む若年層の職業意識の形成は、将来を担う若者を育てるという意味で、単に学校だけではなく社会の問題でもある。しかしながら、そのような問題意識が社会全体で共有されているとは言い難く、社会として生徒の職業意識を形成していくような仕組みやシステムも十分には形成されていない。
上記のような現状認識および問題点を踏まえた上で、本報告書では高校から職業生活への移行期のあり方について、次のような観点から考える。
慣行の見直しについては、文部科学省検討会議報告にもあるように、地域の実情を踏まえ、学校・企業等が相互の理解を深めながら、見直し・改善について検討することが現実的であり、理解も得られやすいと考えられる。
本章では、各地域がそれぞれの事情にあわせて問題点の是正から取り組めるよう、施策を提示している。具体的には、生徒・企業が互いに納得のいく仕事や企業、人材を選べる仕組みの整備にあたっての選択肢を提示しているほか、就職を円滑に実現するためのさまざまな方策、キャリア形成の観点からの教育・職業能力開発等の基盤の整備などをあわせて提案している。
1)生徒・企業が互いに納得のいく仕事や企業、人材を選べる仕組みの整備
(1)採用選考期日等全国的な取り決めについての透明性の確保 (2)各高校における求人の一層の共有化の推進 (3)地域の状況を踏まえた就職の仕組みや就職支援についての検討の場の設置 (4)地域の状況を踏まえた応募・推薦方法の見直し |
(3)地域の状況を踏まえた就職の仕組みや就職支援についての検討の場の設置
イ 一次募集の時点から複数応募・推薦を可能にする。ただし、応募数は限定する (2~3社まで)。 ロ 一次募集までは1社のみの応募・推薦とする。それ以降(例えば、10月1日以降)は複数応募・推薦を可能にする。 |
(複数応募・推薦における基本的考え方)
上記選択肢では、複数応募・推薦を認めてはいるものの、二次募集以降のみ、あるいは2~3社を上限とするなど、限定的なものとなっている。その理由としては、たとえ現行の採用選考期日の枠組みを踏まえた上であっても、一次募集の段階から応募・推薦企業数の制約を完全に撤廃すると、場合によっては応募倍率が著しく上昇する一方で、複数の内定を得る生徒と一つも内定が得られない生徒が多く発生し、現行の仕組みに比べて一次募集段階での内定充足率が大幅に低下する可能性が生じるためである。仮にそうした状態となった場合、短期間で内定を得ることができる生徒数が減少したり、内定を得るまでの期間が長期化したりすることになるなど、就職協定撤廃後の大学生の就職活動と同じ状況になることが予想される。
(二次募集以降に複数応募・推薦を行う選択肢)
選択肢ロについては、一次募集(9月5日の推薦から9月16日以降の内定開始日まで)までは従来通りの方法で生徒1人につき1社のみの応募・推薦とし、それ以降、例えば10月1日以降は複数応募・推薦を可能にするという選択肢である。この選択肢は、職場見学会等を大規模に実施することにより、期日までの推薦は一人一社であっても、事前に生徒が企業を良く吟味検討して応募できるようにした上で、期日後については、一次募集において内定とならなかった生徒の二次募集以降の複数応募・推薦を可能にするものである。
(一次募集時からの複数応募・推薦を行う選択肢)
一方、選択肢イは、ロとは異なり、一次募集の段階から複数応募・推薦を可能にするが、応募・推薦可能な企業数は2~3社程度に限定するというものである。
応募・推薦可能企業数を限定することは、就職活動が長期にわたり、高校教育への影響が懸念されるため、発達過程にある生徒にとっても過重な負担が生じることを避けることを念頭においている。複数応募・推薦は可能であるが、限定されることから、ロの場合と同様に職場見学会の実施等による生徒自身による事前の吟味検討が重要である。
(校内選考)
事前の職場見学や複数応募・推薦の方式を導入することで、生徒が納得する形でのあっせんが行われることになると思われるが、これと平行して、従来、ややもすれば、学業成績に偏りがちであった校内選考のあり方も「進路選択は生徒自らの意志と責任で行う」という基本に立ち返ることが望まれる。
また、このためには、生徒の職業意識の形成が進むよう早い段階から取り組みを行っていくことが重要である。
(新たな応募・推薦の方式を導入するに当たっての留意点)
生徒の選択肢を広げるという観点からは、ロよりもイの方式がより望ましいものである。二次募集から複数応募・推薦を可能にするという選択肢が比較的移行しやすいが、一次募集時から複数応募・推薦を可能とするという選択肢を導入する際には、さらに以下の事項を考慮すべきである。
第一に、複数応募・推薦に伴う就職活動の長期化をできるだけ回避し、就職活動による授業時間への影響を最小限にしなければならない。そのために応募企業数を制限するという方式を用いているが、新規高卒者求人関係情報ネットワークの整備により、未充足の求人について、リアルタイムでの情報提供を実施する等、現在は各学校ごとに集めている二次募集の情報が得やすくなるといった措置が必要である。
次に、企業の求人時期との調整が必要であろう。現在のように、採用選考開始日当日にほとんどの企業の選考が集中している状況のままでは、複数応募・推薦を認めたとしても、仕組みとしては事実上機能しない可能性もある。したがって、生徒側、企業側双方の採用選考機会を拡充するという観点から、複数応募・推薦が機能するよう日程についてのさらなる検討を行う必要があろう。具体的には、一次募集期間である9月16日から9月30日までの間に、できるだけ複数の選考日を企業側が設定することと、その日程を9月5日の推薦開始日前に開示することが望ましい。高校や職業安定機関から、地元の経済団体等を通じて、複数応募の趣旨を説明し、応募機会の拡大に協力が得られるよう企業に働きかけていくことが重要だろう。
三番目に、複数応募・推薦を可能とした場合でも、企業側としては単願者を優先するか、併願者も可とするかの選択は自由であり、学校側もそれを知って生徒の理解を得た上で推薦をすることが重要であるため、企業の採用についての考え方が分かるような情報が提供されるよう努力していくことが大切であろう。
四番目に、前年度の募集人数、応募者数、採用者数などの情報を明らかにして、次の年の就職指導に役立てられるように配慮することも大切であろう。もちろん、応募倍率だけで生徒の応募先を決めるような指導は慎まなければならないが、一方で前年度の実績が指導の際に有用な情報となり得ることもまた事実である。そこで、仕事の内容や会社の概況など企業側のより一層の情報提供とあわせて、前年度実績を求人票に記入するよう依頼し、仕事の内容の面からも、採用の難易度の面からも、両方から生徒が情報を得て判断できるようにして、納得ずくで応募先を選定できるようにすることが望ましい。
最後に、現行の仕組みでは、企業側も自社にあった生徒を自ら選考する余地が小さいというデメリットはあるものの、一方で内定辞退者を補充するリスクもほとんどなく、低コストで良質な新卒者を確保することが可能であった。その点に、高卒求人の魅力を感じていた企業も少なくないと言われる。それが、複数応募・推薦が可能となることで内定辞退者の数は増加し一次募集時点での内定充足率が低下し、二次募集のコストがかかるなど、企業側の負担が大きくなり、これに伴い現在でも減少傾向にある高卒求人がさらに縮小されてしまうことも懸念される。そのような事態をできるだけ招かないよう、求人情報ネットワークの整備によって、採用コストの軽減を図るとともに、企業側に理解を求めさらに、高卒者の人材としての魅力を訴えていくことが重要であろう。
<新たな職業紹介経路等への対応>
(1)民間資源の活用(民間職業紹介や紹介予定派遣の活用モデルの提案) (2)学校における新規高卒者に対する有期雇用への条件付き職業紹介の検討 |
生徒と企業が互いに納得のいくマッチングを実現する方策としては、就職慣行の見直しを検討することのほかに、新たな雇用形態・雇用経路へ柔軟に対応していくことで、高校生が応募可能な求人先を広げていくことも大切である。新規高卒者への求人は、現在その規模自体が縮小しているのみならず、職種の面でも偏りが生じていることは先に触れたとおりである。それが、質量ともに高校生の職業選択を制約している面があることは否めない。そこで、高校卒業後に就職する生徒が選択可能な機会を求人数や求人の質の面から広げていく方法の一案として、下記の2点について検討を進めることを提案したい。
(1)民間資源の活用(民間職業紹介や紹介予定派遣の活用モデルの提案)
民間職業紹介事業者による紹介は、採用選考開始期日等について、ハローワークおよび学校が行う職業紹介の日程に沿ったものとなるよう配慮することと、求人情報等を提供する際には生徒が在籍する学校を通じて行うようにすること等を踏まえることで現在でも可能である。また、試用期間のないまま、いきなり期間の定めのない正社員として雇用することには、経済状況が厳しい中では、企業側も慎重にならざるを得ない。そこで、求人数の拡大という観点から、紹介予定派遣も就職経路として検討に値するものである。
しかし、現実には新規高卒者に対する民間職業紹介事業者の本格的な参入はまだ行われていない現状にある。民間職業紹介事業者が高校と協力して実施する新規高卒者の職業紹介や紹介予定派遣の活用について、行政としてモデル例を提案し、民間による職業紹介機能の活性化を図っていくことが考えられる。
また、各都道府県に社会福祉事業従事者の確保を図ることを目的に都道府県社会福祉協議会や市町村社会福祉協議会が無料職業紹介事業の許可を受け、福祉人材センターや福祉人材バンクを設置している。介護や福祉事業の従事者の需要は今後増大していくことが見込まれることから、高校においてもこれら福祉人材センターとの連携を具体化していくことが望まれる。
(2)学校における新規高卒者に対する有期雇用への条件付き職業紹介の検討
学校における新規高卒者への職業紹介は、制度上、雇用期間の定めのない求人に限定されるものではないが、実際上は、新規高卒者の将来に渡る職業生活を考慮し有期雇用の求人に対する紹介は浸透していない。生徒にとって将来のキャリア形成につながっていくと思われる場合の有期雇用の求人(例えば、正社員への登用制度があって、かつ、1年契約でフルタイム勤務の求人)の紹介を積極的に行っていくかについて、以下に示すプラス面とマイナス面を踏まえた上で検討していくべきである。
(有期雇用への紹介のプラス面とマイナス面)
有期雇用の求人を紹介することのメリットとしては、就職先が決まらないまま卒業して短期のアルバイトや無業者となるよりは、(1)職業意識の形成や職業能力の開発の面でプラスが大きいということ、(2)正社員として働くための職業規律の育成につながるということのほか、(3)長期雇用を前提に正社員として働き続けることを負担に感じる生徒にとっては、1年働いた上で雇用契約を継続するかどうかを選択できる有期雇用の形態の方が、受け入れやすい可能性がある。
一方、マイナス面としては、(1)必ずしも常用雇用につながらないという可能性があること、(2)仮に有期雇用の求人が浸透すると、新規高卒者の求人自体が常用雇用中心から有期雇用の方に大きく移行してしまう可能性があること、(3)正社員として長期間就業することが期待される正規雇用に比べて有期雇用としての就職者の方が、企業が行う教育訓練投資が少なくなる可能性が大きいことなどが挙げられる。
平成13年度は、高卒者の就職環境が特に厳しいことから、厚生労働省では、緊急支援策として、ハローワークの適切な職業指導の下、短期間の試行雇用の機会を活用し、事業主の求める水準と若年求職者の現状の較差を縮小しつつ、その業務の遂行可能性を見極め、その後の正規雇用へつなげていくことを目的とする「若年者トライアル雇用事業」を新規高卒者に対し機動的に適用することとした。このトライアル雇用も有期雇用の活用の一つの形態であり、高卒者への就職あっせんに当たっては、若年トライアル雇用事業の成果を的確に把握しつつ、今後の有期雇用の活用についても検討していくべきであろう。
(1)情報ネットワークの整備による高校における求人情報の共有化の推進 (2)求人企業と生徒との情報交換の機会の拡大 (3)新規高卒者就職関係情報の幅広い提供 (4)企業・職業理解のための職業意識形成の促進 |
(1)情報ネットワークの整備による高校における求人情報の共有化の推進
(3)新規高卒者就職関係情報の幅広い提供
生徒が就職活動中や就職するまでの間に、企業情報だけではなく、一般的な労働市場の現況や職業生活を営むに当たって、必要となる労働関係法令や年金・社会保険制度の知識、ハローワークに関する情報などを得ることができるようにすることが大切である。こういった情報が生徒に対して幅広く提供できるように、たとえばインターネットを通じた新規高卒者に役立つ就職関係情報の提供や、高校で活用できる労働市場の現況や労働関係法令、就職に関する制度などに関する情報が盛り込まれたガイドブック(「高校生就職スタートブック(仮称))の作成などをすすめていくことが必要であろう。
(4)企業・職業理解のための職業意識形成の促進
(2)でふれた職場見学会やジョブフェアの開催は、生徒が就職を希望する企業を直接確かめることで、実際に就職したときのミスマッチを防ぐという意味がある。職場見学会やジョブフェアを通じて得た情報を具体的な就職先選択に役立てていくためには、具体的な就職活動が始まる前に、職業意識の十分な育成・形成を行っておくことが重要である。
<期待できる効果>
インターンシップの効果としては、まず、生徒自身の職業意識の形成に大きく役立つということである。実際に、たとえ短い期間であっても、インターンシップに行く前と後では生徒の意識が変わり就職に対する心構えができてくるなど、その効果は非常に大きいと言われている。さらに、このような実際の職業の経験とそれによる職業意識の形成を通じて、生徒の就業への動機付けが進み、生徒の資質が高まるという点も指摘できる。
このように、インターンシップには大きな効果が期待されている。
<教育プログラムとしてのインターンシップ>
インターンシップは、実際の職業を経験することによって、生徒の職業意識の形成を促す重要な教育プログラムの1つであると位置づけることができる。このため、各学校はインターンシップの実施にあたっては、その他の授業等と同様に、教育課程の中に位置づけて取り組むことが必要である。また、単に受け入れ先企業を見つけてきて生徒を送り出すだけでなく、インターンシップの内容についても企業と協力して検討することが望ましい。
現在、学習指導要領上、インターンシップについてはかなり自由に取り組むことが可能になっており、各学校や受け入れ先企業の実情にあわせて柔軟に対応することができる。企業の幅広い支援を得ながら、インターンシップを推進していくためには、高校生の職業意識の啓発が、企業にとっても重要な課題であるという機運を醸成するとともに、都道府県あるいは地域段階で、受け入れ企業等の開拓・確保やそのリストの作成及び情報提供、さらには生徒・学校の希望と企業の受け入れとのマッチング等を図る仕組みを整えていくことが大切である。既にこのような取組が進められているところもあるが、そうした取組を広く普及・充実させ、インターンシップがより一層円滑に実施できるよう、地域の実情に応じたシステムづくりを進める必要がある。
なお、職業意識形成のためのインターンシップは高校1年生、2年生の頃から取り組むことが望ましい。また、就職を希望する生徒だけではなく、進学を希望する生徒など就職以外の進路を希望する生徒も対象とすべきである。就職か進学か迷っている生徒にとっては、インターンシップはその後の進路を決めていく際に役立つと考えられ、進学を希望する生徒についても、いずれは就職して働くことになるのであり、高校の段階でインターンシップの経験を通じて職業意識を形成していくことは、生徒の将来に役立つことはあっても、無駄になることはないはずである。
<企業の協力を得やすくするために>
(インターンシップのメリットをアピール)
インターンシップは、企業の協力があってはじめて可能となるものである。このため、インターンシップの受け入れが、企業の社会貢献の一つであることや企業にとってのメリットをアピールして理解を得ることが大切である。事実、多くの企業はインターンシップを受け入れることによって職場が刺激を受け、活性化したと評価している。
また、新入社員を育てるということは、教える社員の教育にもつながるという側面があり、インターンシップにより高校生を受け入れることが、新入社員を十分に確保できていない企業にとって社員の教育につながるという効果が期待できる。このようなことをアピールすることによって、インターンシップに前向きに協力してくれる企業を増やしていくことなどが考えられる。
近年は資質などの面で高校生に対して厳しい見方をされることが少なくない。しかし、一方では高卒人材に対し過小な評価がされている可能性もあり、インターンシップを通じて生徒の働きぶりを実際に地域の人に見てもらうことで、高卒人材を見直す絶好の機会となり得る点を訴えていくことが大切である。
(受け入れ企業に対する、受け入れノウハウの提供)
より具体的なインターンシップの受け入れ支援として、協力企業に対して、インターンシップ受け入れノウハウを提供することも必要であろう。既に文部科学省から「高等学校インターンシップ事例集」や協力要請の際のリーフレットが刊行されているが、こうしたことを通して、受け入れを行ったことがある企業での経験等を整理して、インターンシップの受け入れをはじめて行う企業が参考にすることができるようにしていくことも大切である。
(生徒に対するマナー教育の徹底)
受け入れ先企業の負担を少しでも軽くするという意味で、また、インターンシップ効果を拡大する上で、生徒を送り出す前にマナー教育を徹底しておくことも大切である。高校においては、地域や関係機関と連携しながら、マナー教育を充実していくことが重要である。
(自社従業員の子どものための職場見学会の開催を働きかける)
インターンシップの推進のためには、長期的に、インターンシップに対する受け入れ素地を作るという観点も大切である。まずは、保護者が子どもに働く姿を見せるという趣旨で職場見学会の開催を働きかけるということが考えられる。企業の従業員の子どもを中心に、地域の児童・生徒を対象として、職業意識啓発のための職場見学会の開催からはじめ、それを徐々に高校生のインターンシップまでつなげていく。そういった社会的な素地を作ることで、インターンシップに対する企業側の理解もより得やすくなっていくであろう。
3)キャリア形成の観点からの教育・職業能力開発等の基盤の整備
(1)小学校からの発達段階に応じたキャリア教育の推進 (2)時代の変化や産業界のニーズ等を踏まえた教育内容等の改善・充実 (3)学校とハローワーク等関係機関による支援体制の強化 (4)学校を離れた者へのキャリア形成、能力開発、就職活動などへの支援 (5)若年者の職業意識啓発に対する国民的な理解の促進 |
(2)時代の変化や産業界のニーズ等を踏まえた教育内容等の改善・充実
(3)学校とハローワーク等関係機関による支援体制の強化
(4)学校を離れた者へのキャリア形成、能力開発、就職活動などへの支援
高校から職業への移行に際しては、生徒が学校に在籍している間であれば教員による支援・指導を受けることができるが、学校を卒業したあとは、サポートの仕組みがないのが現状である。しかしながら一方では、高校卒業時までに就職先が決まらない者、卒業後も定職に就かない者、就職後短期間のうちに離職する者などは少なくない。こういった人たちこそ、就職活動などの職業移行面のほか、キャリア形成、能力開発などの面でも最も支援を必要としているにもかかわらず、実際は十分な支援体制が整備されていない。このような学校を離れた者に対する効果的な支援を行っていくためには既存の職業安定機関のほか、直前まで在籍しており、その人物について情報の蓄積、指導実績のある学校も含めた支援体制を構築していくことが必要である。
具体的には、未就職卒業者に対して継続して就職活動を支援するために、学校と職業安定機関との連携を強化する。特に、継続的な情報提供や相談体制の確立を重視する。なお、その際には学校と職業安定機関の間での連絡・連携の具体的な手続を明確にすることで、より円滑な支援体制を構築できるであろう。
また、フリーターに対しては、個別の状況等に即したマンツーマンによる相談・指導や講習、訓練、就職後支援を行うといった施策を推進していくことが望まれる。フリーターをやめて就職したいと思ったとき、職業への移行が円滑にすすむよう、フリーターでは身につけることが困難な職業能力を高めるための職業能力開発支援も大切である。
なお、能力開発に関する情報提供や相談等を行い、各労働者のキャリア形成を支援するため、平成13年10月から雇用・能力開発機構都道府県センター内に、「キャリア形成支援コーナー」が設置されているところであるが、これらの者が今後とも、同コーナーを有効に活用することが期待される。
(5)若年者の職業意識啓発に対する国民的な理解の促進
高卒者の職業移行の問題は、わが国における若年層の職業意識醸成のあり方に疑問を投げかけているといえる。そこで、若年層の職業意識啓発がいかに大切なことであるかを、社会全体に訴えかけていくことが重要である。そのためには、若年者の職業意識啓発について、国民全体が考える機会を積極的に作っていくことが望まれる。
その一環として、生徒の保護者に対する意識啓発も重要になってくる。生徒の個性や適性といった点に考慮しない保護者の安易な大学進学志向が生徒の職業への関心や意識の形成を阻んでいる面も伺えるためである。
また、企業側の意識啓発を促すことも非常に大切な点である。高校生をはじめとする、若年者の職業意識啓発に参画することは、企業の社会的責任でもあることを訴え、働きかけていくことが不可欠である。
高校生をはじめとする、若年層の職業移行の問題は、国民全体で検討し取り組んで行くべきテーマであり、この認識を大きな流れとしていくことが現在求められている。
委員
◎ | 佐藤 博樹 | 東京大学社会科学研究所 教授 |
○ | 石田 浩 | 東京大学社会科学研究所 教授 |
○ | 耳塚 寛明 | お茶の水女子大学文教育学部 教授 |
○ | 小杉 礼子 | 日本労働研究機構 主任研究員 |
萩原 信一 | 東京都立新宿山吹高等学校校長 (全国高等学校進路指導協議会会長) |
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○ | 石飛 一吉 | 東京都立新宿高等学校 教諭 |
小林 広三 | 千葉県立千葉工業高等学校 教諭 | |
福本 剛史 | 埼玉県立大宮商業高等学校 教諭 | |
鈴木 正人 | 日本経営者団体連盟教育研修部 部長 | |
棚田 京一 | 前トヨタ自動車株式会社人事部人事室室長(2000年12月まで) | |
唐澤 敬 | 前トヨタ自動車株式会社人事部人事室室長(2001年1月~12月) | |
松永 良典 | トヨタ自動車株式会社人事部人事室室長(2002年1月より) |
行政構成員
梶田 洋二 | 前労働省職業安定局業務調整課長(2000年12月まで) |
山田 道夫 | 前文部省初等中等教育局職業教育課長(2000年12月まで) |
伊岐 典子 | 厚生労働省職業安定局業務指導課長(2001年1月より) |
德久 治彦 | 文部科学省初等中等教育局児童生徒課長(2001年1月より) |