1)目的
2)検討の経過
1.現状と課題
2.施策展開における今後のあり方
1)生徒・企業が互いに納得のいく仕事や企業、人材を選べる仕組みの整備
(a)地域経済団体と連携したキャンペーンの実施
(b)夏休み期間を利用した職場見学会の開催
(c)ジョブフェア(仮称)の開催
(d)ホームページなどでの事業や仕事内容等の情報提供
(e)地域求職活動援助事業の活用
3)キャリア形成の観点からの教育・職業能力開発等の基盤の整備
1)目的
これまで円滑に行われてきた高校から職業生活への移行に変化が生じている。
いずれにせよ、このような若年層の持続的な完全失業率の高まりや高校卒業後の無業者・フリーターの増加は、技能形成、能力開発に重大な支障を生むと懸念されるのみならず、時間の経過とともに失業者の多いコーホートがそのまま高い年齢層に移っていくことで、マクロレベルでの労働生産性や活力の維持など、経済や社会全体への影響が生ずる可能性も考えられる。したがって、学卒者の高校から職業生活への円滑な移行を図り、若年期に適切なキャリアを形成して、産業界の基幹的な人材として活躍できる環境を整備していくことは、行政にとって、重要な課題と思われる。
そこで、高校生活から職業生活への移行について実態を把握し、課題を明らかにするための調査を行うと共に、現状の分析を踏まえて、新規高卒者の就職支援対策等について検討を行うことを目的に、厚生労働省が文部科学省と共同で設置したものが「高卒者の職業生活の移行に関する調査研究会」である。
2)検討の経過
本研究では、まず文部科学省が先に実施した「高校生の就職問題に関する検討会議」における検討状況を振り返るとともに、高校生の職業生活への移行に関するその他の既存研究等の整理を行い、それを踏まえた上で、新規高卒者の就職支援のあり方等について検討・分析を重ねてきた。これに加えて、高校生の職業生活への移行実態を把握するために厚生労働省独自の複数回アンケート調査も実施した。
なお、本研究では、6回の研究会と13回の専門部会を開催し、現在の高卒者の職業生活への移行に関する問題点の整理や、現行の就職に関する慣行等の実態の把握、今後の支援のあり方やその方策について検討を行ってきた。また、アンケート調査については、専門部会(一部は日本労働研究機構)で企画・設計し、在校生調査部分を厚生労働省が、また卒業生調査部分を日本労働研究機構がそれぞれ実施した。
1.現状と課題
1)現状認識
(1)高卒者の就職状況等
(高卒者における卒業後の進路)
(高卒者に対する就職決定率の推移)
(高卒者の離職率の高さ)
(いわゆるフリーターや無業者の増加)
(2)高校生の就職をめぐる環境の変化
(高卒者に対する労働需要の減少と変化)
(求人企業規模の中小企業化)
(企業から見た高校生)
(意識面での変化)
(3)高卒者の就職の仕組み
(選考開始期日等)
(就職慣行)
(民間職業紹介事業者における取扱い)
2)現状の問題点
(1)高卒者の就職を取り巻く環境変化への対応
高卒者の就職を取り巻く環境が非常に厳しくなっているのは先に述べたとおりであるが、求人規模の縮小をはじめ、さまざまな指標が悪化の一途をたどりはじめるのがバブル経済の崩壊以降であることなどから、高卒者の就職環境悪化の最大の要因が景気の低迷や雇用環境の構造的変化にあることがうかがえる。
(2)現行の就職の仕組みにおける問題
(3)職業意識形成上の問題
就職する高校生の資質や能力については、先に見たとおり企業側から厳しい見方もされるようになってきている。
3)改善への視点と慣行の見直し
上記のような現状認識および問題点を踏まえた上で、本報告書では高校から職業生活への移行期のあり方について、次のような観点から考える。
(1)改善への視点
上記のような現状認識に立ち、問題点の改善を図るためには、文部科学省「高校生の就職問題に関する検討会議報告」で指摘されているように、生徒の意思等に基づく選択・決定を一層重視するとともに、採用選考機会を拡充するという視点が大切だろう。そうすることで、生徒の職業意識を高めるとともに、生徒側にとっては、複数の就職機会の中から希望に合致した職業を選択できる機会の拡充に、企業側にとっては、適正なコストで、求人ニーズに適した生徒を選択、採用できる環境の整備につなげていくことが可能になると考えられる。
(2)慣行の見直しについて
慣行の見直しについては、文部科学省検討会議報告にもあるように、地域の実情を踏まえ、学校・企業等が相互の理解を深めながら、見直し・改善について検討することが現実的であり、理解も得られやすいと考えられる。
(3)その他の視点
(1)、(2)のような、高卒者の職業移行のあり方に直接焦点を当てる視点とは別に、職業移行の問題を、高校卒業以後も続くより長期的な問題と考えるならば、生涯にわたるキャリア形成がなされるような能力開発や教育に関する環境を整備していくという視点も重要である。
本章では、各地域がそれぞれの事情にあわせて問題点の是正から取り組めるよう、施策を提示している。具体的には、生徒・企業が互いに納得のいく仕事や企業、人材を選べる仕組みの整備にあたっての選択肢を提示しているほか、就職を円滑に実現するためのさまざまな方策、キャリア形成の観点からの教育・職業能力開発等の基盤の整備などをあわせて提案している。
1)生徒・企業が互いに納得のいく仕事や企業、人材を選べる仕組みの整備
<就職慣行の見直し等>
はじめに
社会・経済状況の変化を背景に、需要側である企業においては、依然として定期一括採用が中心ではあるが、学卒労働力、とくに高卒者に対する求人が大幅に減少しつつある。また、供給側の高卒者においては、少子化による人口の減少に加え、大学等への進学率の高まりによる就職希望者の減少傾向が顕著である。このように高卒労働力については、需給双方において減少がみられるようになってきている。
さらに近年指摘されているのが、高校卒業後に無業者となる者やいわゆるフリーターと呼ばれる不安定就労者となる者の増加と、高校卒業後に就職しても早期に離職してしまう者の増加などである。また、若年層の完全失業率自体も、他の年齢層に比べて高水準で推移している。
このような状況を背景に、高校から職業生活への移行のあり方が問われるようになってきている。これまで大量の就職希望者を短期間でマッチングできる仕組みとして非常にうまく機能してきたと考えられてきた、高校と企業との信頼関係に基づく高卒者の就職あっせんの仕組みが、社会・経済環境の変化にともない、生徒と仕事のミスマッチの発生や卒業後の無業者・フリーターの増加につながっているという可能性が指摘されている。
また、昨年7月には中間報告を行うとともに、これに対する各方面からの意見を聴取し、今後の施策展開におけるあり方について検討を深めてきた。本報告書は、そういったこれまでの検討の結果についてとりまとめたものである。
高等学校進路別卒業者数の推移を見ると、平成4年をピークに卒業者数が年々減少するなかで、大学等進学者数はほぼ横這いで推移しており、この結果、進学率は毎年のように上昇を続けている。一方、就職者数は平成2年をピークに年々減少の一途をたどり、卒業者に占める就職者の割合も毎年低下を続けている。高等学校卒業者の就職率は、昭和40年には60%を超えていたのが、平成13年には18.4%と2割を下回る水準にまで低下した。また、近年、無業者比率はほぼ10%にも達している(図表1)。
なお、高等学校卒業者の進路状況は、地域による違いも大きい。例えば、都道府県別の無業者比率を見ると、10%を超える高い水準の県が多く見られる一方で、依然として5%を下回る水準を維持している県も複数見られるなど、地域により状況の異なる様子が確認できる(図表2)。
次に、高等学校卒業者の就職内定状況の推移(文部科学省調査)を見ると、平成13年度12月末現在で67.8%と、過去最低を記録した一昨年度を大幅に下回る状況となっている。なお、就職決定率を男女別に見ると、男子よりも女子の方がより厳しい状況にあると言える(図表3)。
このように、就職することが非常に厳しくなっている一方で、高卒就職者の離職率も高い水準で推移している。新規学卒就職者(高校卒)の離職率の推移を見ると、就職後1年以内に約4人に1人が離職、また、3年以内では約半数の者が離職している状況である(図表4)。
高卒者に限らず、若年層全体の就業問題として、学卒無業者やフリーターの増加が近年指摘されている。フリーターについては、平成12年度版労働白書では平成9年に151万人と推計されている。また、日本労働研究機構の調べでは、平成12年には193万人という推計がなされている。さらに、先に見たとおり高校卒業時点で進学も就職もしない学卒無業者の比率は卒業者の約1割にも達している。
このような状況の中、卒業時まで次の進路が決まらない、また、卒業と同時にひとたび就職してもすぐに離職してしまう者が、無業者やフリーターへと流れているなど、すなわち、高校卒業が無業者やフリーターの入り口の1つとなっている可能性が指摘されている。なお、本研究会において実施したアンケート調査では、就職活動をしたものの卒業年の3月時点で未内定の生徒のうち、2割程度の人は今後の進路として「フリーターになる」ことを選択肢の1つとして考えているという結果であった(参考資料 図表1)。
高卒者に対する求人数が減少している。平成13年度11月末現在においては、この時期としては初めて求人倍率が1倍を下回るという高卒者にとって大変厳しい状況となっている。また、求人数の減少のみならず、求人職種についても変化が見られる。以前であれば事務職や販売職等での募集も多く見られたが、最近では事務職・販売職での求人が減少し、求人職種が技能工に偏ることとなっているため、結果として技能工として就職する者は全体の4割以上を占めるに至っている。高卒者に対する求人数の減少は、企業における経営環境の厳しさを背景としているが、ホワイトカラー分野での求人数の減少は、IT化の進展などによる補助的業務の減少や、業務の高度化・複雑化に伴う大卒者等の高学歴人材へ需要のシフトが要因になっていると考えられる(図表5、図表6)。これについては、今春の新規学卒者の就職内定率が、高校では前年を下回っているにもかかわらず、一方、大学等については前年を上回っているという結果からも推測される。
なお、アンケート調査では、就職活動中に「希望する職種の求人が少ない」と感じた人の方がそうでない人よりも多い傾向が見られたが、それはこのような背景によるところが大きいと考えられる(参考資料 図表2)。
求人企業の規模にも変化が見られる。以前では従業員規模の大きな大企業からの求人も見られたが、近年は求人企業が中小企業にシフトしてきている。また、新規学卒者(高校卒)の企業規模別就職先構成比を見ても、平成6年以降、従業員300人未満の企業が6割以上を占め続けており、平成12年には72.3%に達した(図表7)。
また、以前は金の卵とも呼ばれ、非常に重要視されてきた高卒人材であるが、近年では質的面についても、企業側が厳しい見方をするようになってきている。
たとえば日本経営者団体連盟が東京経営者協会に加盟する東京都内の企業を対象に平成13年1月に実施した「高校新卒者の採用に関するアンケート調査」の結果によると、採用(応募)者に対し、「勤労観、職業観」、「コミュニケーション能力」、「基本的な生活態度、言葉づかい、マナー」などの面で不満を感じている企業が多くなっている。
意識の面でも変化が見られるようになってきている。世の中全体としても、終身雇用制に代表されるような日本的雇用慣行が崩れ、離職・転職は珍しいことではなくなってきているが、そのためか、生徒自身も、最初の就職先に定年まで勤め上げるという意識は薄れてきている。また、アンケート調査によると、将来の職業生活について「仕事以外に生きがいをもちたい」、「安定した職業生活を送りたい」のほかに、「専門的な知識や技術をみがきたい」、「自分に合わない仕事ならしたくない」と考えている人も非常に多くなっている(参考資料 図表3)。
このほか、いわゆるフリーターや無業者も数が増えて今では珍しくなくなっているが、生徒自身、高校卒業後フリーターや無業者になることに対して抵抗感が小さくなっていることも指摘できる。
現在、高卒者の就職あっせんについては、早期採用選考を防止し、求人秩序を確立することにより、授業時数を確保するなど高等学校教育の充実を図るとともに生徒の適正な推薦・選考が行われるよう、下記のような選考開始期日等にそって行われている。これらの選考開始期日等は、全国高等学校長協会や主要経済関係団体の意見を踏まえて決められ、厚生労働省と文部科学省との共同通知という形で周知されている。この枠組みにそって、高等学校とハローワーク(公共職業安定所)の分担・連携による就職あっせんが行われてきた(図表8)。
採用選考期日等を設定することについては、その是非も含めて、文部科学省の「高校生の就職問題に関する検討会議」においても、十分な検討がなされたが、高校側、企業側ともにその意義を認めている状況等を踏まえ、改めてその必要性を指摘している(図表9)。
現在の選考開始期日等
6月20日
ハローワークにおける求人の受付開始
7月1日
ハローワークの確認を得た求人票による学校での求人の受付開始
9月5日
学校の推薦、応募書類の提出開始
9月16日
企業等の選考開始
高校生の就職については、選考開始期日等を背景として、数十万の求職とこれを大幅に上回る求人とを短期間で円滑に結びつける上で、また、可能な限り多くの生徒に均しく希望する事業所や職種に応募することができるようにする上で、指定校制、一人一社制、校内選考といった慣行が一定の役割を果たしてきた。
しかしながら、高校生の就職を取り巻く環境が大きく変化する中、これらの慣行がもたらす弊害も出てきている。
平成11年の職業安定法の改正に伴い、民間紹介事業者の行う学卒紹介については、事務職、販売職の職業の紹介も可能となった。
しかしながら、実際には、民間による新規高卒者に対する職業紹介は進んでいない。
また、こうした中、企業は求人数の絞り込みとあわせて、採用する人材に対して早期戦力化が可能となる人材を求める傾向が見られる。高卒者に対する求人の減少の背景にはこうした要因があると推察される。
しかしながら、このまま高卒者求人が減少を続け、雇用機会が縮小していくことは、今後の経済や社会全体にとっても望ましいことではない。将来を担う人材を育てるという観点から、これ以上の求人規模の縮小を回避するための何らかの方策を今後検討していく必要があるだろう。またその中で、企業側には即戦力を求めるだけではなく、これまでのような新規高卒者の採用と育成もあわせて継続することが期待されるところである。
現行の仕組みの下では、原則として一度に1社にしか応募できないため、学校の指導の下、応募先企業を絞り込むことになる。特に求人数よりも希望者数が多かった場合は、校内選考を経てそれぞれの生徒の応募先が決められることが多いが、その際、ややもすると生徒の希望や適性にあった職業・就職先、あるいは生徒自身が納得した職業・就職先を選定する視点が軽視され、生徒の成績や出欠状況のみを重視した選考になっていないか、ということが指摘されるようになってきている。また、こうした状況の中で、生徒も企業を十分に研究せずによく知らないまま応募をしてしまっているとの指摘もある。
このようなプロセスが、短期間で大量の求人・求職に対し効率的なあっせんを実現している一方で、必ずしも生徒が納得した上でのあっせんを実現していない、あるいは適性のあった生徒を紹介できていないというミスマッチを生み出している可能性がある。
なお、アンケート調査によると、高校卒業後すぐに収入をともなう仕事に就いた人のうち、高校当時の進路選択(仕事の選択や職業生活)について「満足している」と回答した人は過半数に満たなかったほか、「別の会社を選んだ方がよかった」と回答した人が2割に達した。また、最初についた仕事をすでに辞めた人の退職理由について見ると、「労働時間が長かったり不規則だった」に次いで「仕事が自分に合わなかった」を挙げる人が多くなっている(参考資料 図表4、図表5)。
また、一人一社の応募先が、校内選考により割り当てられるため、特に求人数自体が少ない現在では、学業成績や出欠状況のみを重視した校内選考が行われると、推薦されにくい生徒が生じてしまうことが挙げられる。さらに、こうしたことから、当初は就職を希望していても、自分の学業成績や出欠状況から判断して、自ら応募することをあきらめてしまう生徒も少なくないと指摘されている。このような事態が卒業後の無業化、フリーター化につながっていく可能性も指摘されている。
なお、アンケート調査では、就職活動中に「学校の指導で希望する会社を受けられない」と「とても感じた」人及び「少し感じた」人はあわせて2割弱程度であった(参考資料 図表2)。
このように、高校生の職業意識の形成が十分なされていないのは、日常的な教育や、社会の中で生徒の職業意識を形成していくシステムができていないところに起因するものも大きいと考えられる。まず、学校の指導自体が、就職先の紹介、あっせんや、履歴書の書き方や面接試験の受け方などが中心となり、たとえば入学時からの計画的・継続的な指導により生徒の職業意識を形成していくような体制には必ずしもなっていないことがあげられる。そのために大きな役割を果たすと考えられる体験活動についても、その意義や必要性の認識等が十分ではない学校もあることなどが指摘できる。
さらには、高校生を含む若年層の職業意識の形成は、将来を担う若者を育てるという意味で、単に学校だけではなく社会の問題でもある。しかしながら、そのような問題意識が社会全体で共有されているとは言い難く、社会として生徒の職業意識を形成していくような仕組みやシステムも十分には形成されていない。
なお、新規高卒者の採用に当たっては、本人の適性、能力等を中心として行い、定時制課程及び通信制課程の卒業者と全日制課程の卒業者との間の差別的な取扱いや、同和地域の卒業者に対する差別的な取扱いが行われないよう、また、男女雇用機会均等法の趣旨に添った採用活動が行われるとともに、障害者に対しては格別の考慮がなされるよう配慮することが求められるところであり、引き続きこうしたことを踏まえた関係者の取組が大切である。
これら(1)から(3)の視点を踏まえた施策を検討し実施していくことで、まずは高卒者を含めた若年層の効率的な人的資源の活用・開発が促されることが望まれる。さらには、そのことが定着率の向上、転職コストの削減などにつながっていくことが期待される。
なお、上記の視点を踏まえつつ、当面の施策を次章で検討していくが、その際、より現実味のある施策とするために、本研究会では(1)地域の実情に即して実行すること(ただし各地域の実情が他の地域に公開されるようにする)、(2)対応のメニュー化を行うこと、(3)問題点の是正から取り組むこと、(4)当面の施策が目標とすべき方向への確かな前進となることの4点に留意した。
2.施策展開における今後のあり方
(1)採用選考期日等全国的な取り決めについての透明性の確保 (2)各高校における求人の一層の共有化の推進 (3)地域の状況を踏まえた就職の仕組みや就職支援についての検討の場の設置 (4)地域の状況を踏まえた応募・推薦方法の見直し |
(1)採用選考期日等全国的な取り決めについての透明性の確保
選考開始期日の設定等新規高卒者の就職に関する基本的な取り決めについては、全国高等学校長協会や主要経済団体の意見を踏まえて、厚生労働・文部科学両省の通知によって行ってきたが、今後は、一層透明性を高めるため、基本的な取り決めについては「高等学校就職問題検討会議」(仮称)を両省が共同で設置し、この会議を通じ多面的に検討していくことが適切である。
また、この会議には、行政関係者のほか、全国高等学校長協会や主要経済団体が加わることが必要である。
なお、この会議での検討は、検討された結果やその結果に至る過程が公開されることをを前提とすべきである。
このほか、このような場を活用して、文書募集の期日などについても関係者の間で意見調整を進めていくことが求められる。
(2)各高校における求人の一層の共有化の推進
どのような学校に対して求人募集を行うかについての決定は企業の自由な採用選考の一環として行われるものであり、また、各学校が長年に渡って築きあげてきた企業との信頼関係という側面もあることから、一概に否定されるべきものではない。しかしながら、均等な就職機会の確保といった観点からは必ずしも望ましいものではなく、また、最近では、求人の減少に伴って、一部の伝統ある専門高校に指定校求人が偏り、そうでない学校との格差が一層著しくなってきているとの指摘もある。
従来からハローワークでは、求人先を指定する求人者に対して、就職機会の均等を確保する観点から「指定しない学校からの応募、選考の機会を与える」よう助言・指導等が行われてきているが、引き続き、企業に対して理解・協力を強く求めていくべきである。ただし、その職種や具体的な仕事内容から、その学校や学科の指定等に一定の合理性が認められる場合があることに留意する必要がある。
さらに、従来と同様に求人者に対する指導等を行うだけではなく、新規高卒者求人関係の情報ネットワークを整備し、求人を一カ所に申し込むだけで、各高校への求人情報の提供が一括してできるようにすることや二次募集の際の情報提供を簡便化すること等によって、求人者の負担を軽くし、高校を限定しない求人を増やし、生徒の就職機会の均等を図っていくことが重要である。
(3)地域の状況を踏まえた就職の仕組みや就職支援についての検討の場の設置
選考開始期日等については、全国的なルールとして定めていくことが望ましいが、就職慣行については、その有り様も地域によって大きく異なっているため、その見直しを行う際には、地域差を考慮する必要がある。全国一律のルールをすべての地域に適用することに理解を得ることは難しく、決して妥当な方法とはいえない。また、元々、企業と学校の間において派生してきた慣行を一律に禁止することは新たな規制を設けることにもつながる。このため、高卒者の就職あっせんをどのような仕組み・ルールで実施していくのか、基本的には各地域(都道府県)ごとに検討する場を設け、地域自らが仕組み・ルールを決めていくことが適当であろう。
具体的には、各都道府県ごとに、新規高卒者の就職あっせんについて、どのような方式で行い、どのように支援をしていくのかを、都道府県(雇用対策主管部署、私立学校主管部署)、学校、地元企業を含め関係者が集まって検討していく「都道府県高等学校就職問題検討会議」(仮称)を都道府県労働局と教育委員会が共同で設置することが考えられる。当会議の場では各都道府県における基本的な仕組みやルールの他に、例えば、職場見学会の実施方法等新規高卒者の就職支援の詳細についても地域の状況にあわせて具体的な提案を行うようにしていくことが望ましい。
なお、このような形で具体的な施策を決めていく際には、その検討の過程や結果を報道やホームページを利用して公表していくことが、情報公開の観点からだけではなく、地域におけるコンセンサスの形成の観点からも重要である。
また、最近は就職の地元志向が強まっているとはいえ、地域の労働市場を超えて県外に就職する生徒も少なくないことから、他地域からの意見を検討の過程にフィードバックすること、また会議の場で決まったそれぞれの地域の具体的な施策を他地域にも周知するなど他地域との理解・調整を推進することが、広域調整という観点から欠かせないであろう。
(4)地域の状況を踏まえた応募・推薦方法の見直し
高校からの応募・推薦の多くは、指定校制と密接に結びついた形で一人一社制や校内選考によって行われている。最近では、指定校からの応募であっても採用されない場合がみられること等を踏まえ、複数応募・推薦を前提とする仕組みへと見直していくことが必要である。見直しの方向性としては、上記(1)及び(3)の前提を踏まえた上で、当面、現行の採用選考開始期日等(求職者の推薦開始日=9月5日、選考開始及び内定開始日=9月16日)の枠組みを維持しつつ、各地域がそれぞれの実情に応じて、下記の選択肢のいずれかを選択することが妥当であろう(選択肢についてはいずれも、地域的・部分的に実施しているものを参考に作成した)。
地域によっては、検討の結果、当面、学校の推薦は一人について一社までという従来通りの方法をとることもあり得るが、その場合にあっては、今後の具体的な改善の方向性を示すべきである。
イ 一次募集の時点から複数応募・推薦を可能にする。ただし、応募数は限定する (2〜3社まで)。 ロ 一次募集までは1社のみの応募・推薦とする。それ以降(例えば、10月1日以降)は複数応募・推薦を可能にする。 |
(複数応募・推薦における基本的考え方)
上記選択肢では、複数応募・推薦を認めてはいるものの、二次募集以降のみ、あるいは2〜3社を上限とするなど、限定的なものとなっている。その理由としては、たとえ現行の採用選考期日の枠組みを踏まえた上であっても、一次募集の段階から応募・推薦企業数の制約を完全に撤廃すると、場合によっては応募倍率が著しく上昇する一方で、複数の内定を得る生徒と一つも内定が得られない生徒が多く発生し、現行の仕組みに比べて一次募集段階での内定充足率が大幅に低下する可能性が生じるためである。仮にそうした状態となった場合、短期間で内定を得ることができる生徒数が減少したり、内定を得るまでの期間が長期化したりすることになるなど、就職協定撤廃後の大学生の就職活動と同じ状況になることが予想される。
(二次募集以降に複数応募・推薦を行う選択肢)
選択肢ロについては、一次募集(9月5日の推薦から9月16日以降の内定開始日まで)までは従来通りの方法で生徒1人につき1社のみの応募・推薦とし、それ以降、例えば10月1日以降は複数応募・推薦を可能にするという選択肢である。この選択肢は、職場見学会等を大規模に実施することにより、期日までの推薦は一人一社であっても、事前に生徒が企業を良く吟味検討して応募できるようにした上で、期日後については、一次募集において内定とならなかった生徒の二次募集以降の複数応募・推薦を可能にするものである。
(一次募集時からの複数応募・推薦を行う選択肢)
一方、選択肢イは、ロとは異なり、一次募集の段階から複数応募・推薦を可能にするが、応募・推薦可能な企業数は2〜3社程度に限定するというものである。
応募・推薦可能企業数を限定することは、就職活動が長期にわたり、高校教育への影響が懸念されるため、発達過程にある生徒にとっても過重な負担が生じることを避けることを念頭においている。複数応募・推薦は可能であるが、限定されることから、ロの場合と同様に職場見学会の実施等による生徒自身による事前の吟味検討が重要である。
(校内選考)
事前の職場見学や複数応募・推薦の方式を導入することで、生徒が納得する形でのあっせんが行われることになると思われるが、これと平行して、従来、ややもすれば、学業成績に偏りがちであった校内選考のあり方も「進路選択は生徒自らの意志と責任で行う」という基本に立ち返ることが望まれる。
また、このためには、生徒の職業意識の形成が進むよう早い段階から取り組みを行っていくことが重要である。
(新たな応募・推薦の方式を導入するに当たっての留意点)
生徒の選択肢を広げるという観点からは、ロよりもイの方式がより望ましいものである。二次募集から複数応募・推薦を可能にするという選択肢が比較的移行しやすいが、一次募集時から複数応募・推薦を可能とするという選択肢を導入する際には、さらに以下の事項を考慮すべきである。
第一に、複数応募・推薦に伴う就職活動の長期化をできるだけ回避し、就職活動による授業時間への影響を最小限にしなければならない。そのために応募企業数を制限するという方式を用いているが、新規高卒者求人関係情報ネットワークの整備により、未充足の求人について、リアルタイムでの情報提供を実施する等、現在は各学校ごとに集めている二次募集の情報が得やすくなるといった措置が必要である。
次に、企業の求人時期との調整が必要であろう。現在のように、採用選考開始日当日にほとんどの企業の選考が集中している状況のままでは、複数応募・推薦を認めたとしても、仕組みとしては事実上機能しない可能性もある。したがって、生徒側、企業側双方の採用選考機会を拡充するという観点から、複数応募・推薦が機能するよう日程についてのさらなる検討を行う必要があろう。具体的には、一次募集期間である9月16日から9月30日までの間に、できるだけ複数の選考日を企業側が設定することと、その日程を9月5日の推薦開始日前に開示することが望ましい。高校や職業安定機関から、地元の経済団体等を通じて、複数応募の趣旨を説明し、応募機会の拡大に協力が得られるよう企業に働きかけていくことが重要だろう。
三番目に、複数応募・推薦を可能とした場合でも、企業側としては単願者を優先するか、併願者も可とするかの選択は自由であり、学校側もそれを知って生徒の理解を得た上で推薦をすることが重要であるため、企業の採用についての考え方が分かるような情報が提供されるよう努力していくことが大切であろう。
四番目に、前年度の募集人数、応募者数、採用者数などの情報を明らかにして、次の年の就職指導に役立てられるように配慮することも大切であろう。もちろん、応募倍率だけで生徒の応募先を決めるような指導は慎まなければならないが、一方で前年度の実績が指導の際に有用な情報となり得ることもまた事実である。そこで、仕事の内容や会社の概況など企業側のより一層の情報提供とあわせて、前年度実績を求人票に記入するよう依頼し、仕事の内容の面からも、採用の難易度の面からも、両方から生徒が情報を得て判断できるようにして、納得ずくで応募先を選定できるようにすることが望ましい。
最後に、現行の仕組みでは、企業側も自社にあった生徒を自ら選考する余地が小さいというデメリットはあるものの、一方で内定辞退者を補充するリスクもほとんどなく、低コストで良質な新卒者を確保することが可能であった。その点に、高卒求人の魅力を感じていた企業も少なくないと言われる。それが、複数応募・推薦が可能となることで内定辞退者の数は増加し一次募集時点での内定充足率が低下し、二次募集のコストがかかるなど、企業側の負担が大きくなり、これに伴い現在でも減少傾向にある高卒求人がさらに縮小されてしまうことも懸念される。そのような事態をできるだけ招かないよう、求人情報ネットワークの整備によって、採用コストの軽減を図るとともに、企業側に理解を求めさらに、高卒者の人材としての魅力を訴えていくことが重要であろう。
<新たな職業紹介経路等への対応>
(1)民間資源の活用(民間職業紹介や紹介予定派遣の活用モデルの提案) (2)学校における新規高卒者に対する有期雇用への条件付き職業紹介の検討 |
生徒と企業が互いに納得のいくマッチングを実現する方策としては、就職慣行の見直しを検討することのほかに、新たな雇用形態・雇用経路へ柔軟に対応していくことで、高校生が応募可能な求人先を広げていくことも大切である。新規高卒者への求人は、現在その規模自体が縮小しているのみならず、職種の面でも偏りが生じていることは先に触れたとおりである。それが、質量ともに高校生の職業選択を制約している面があることは否めない。そこで、高校卒業後に就職する生徒が選択可能な機会を求人数や求人の質の面から広げていく方法の一案として、下記の2点について検討を進めることを提案したい。
(1)民間資源の活用(民間職業紹介や紹介予定派遣の活用モデルの提案)
民間職業紹介事業者による紹介は、採用選考開始期日等について、ハローワークおよび学校が行う職業紹介の日程に沿ったものとなるよう配慮することと、求人情報等を提供する際には生徒が在籍する学校を通じて行うようにすること等を踏まえることで現在でも可能である。また、試用期間のないまま、いきなり期間の定めのない正社員として雇用することには、経済状況が厳しい中では、企業側も慎重にならざるを得ない。そこで、求人数の拡大という観点から、紹介予定派遣も就職経路として検討に値するものである。
しかし、現実には新規高卒者に対する民間職業紹介事業者の本格的な参入はまだ行われていない現状にある。民間職業紹介事業者が高校と協力して実施する新規高卒者の職業紹介や紹介予定派遣の活用について、行政としてモデル例を提案し、民間による職業紹介機能の活性化を図っていくことが考えられる。
また、各都道府県に社会福祉事業従事者の確保を図ることを目的に都道府県社会福祉協議会や市町村社会福祉協議会が無料職業紹介事業の許可を受け、福祉人材センターや福祉人材バンクを設置している。介護や福祉事業の従事者の需要は今後増大していくことが見込まれることから、高校においてもこれら福祉人材センターとの連携を具体化していくことが望まれる。
(2)学校における新規高卒者に対する有期雇用への条件付き職業紹介の検討
学校における新規高卒者への職業紹介は、制度上、雇用期間の定めのない求人に限定されるものではないが、実際上は、新規高卒者の将来に渡る職業生活を考慮し有期雇用の求人に対する紹介は浸透していない。生徒にとって将来のキャリア形成につながっていくと思われる場合の有期雇用の求人(例えば、正社員への登用制度があって、かつ、1年契約でフルタイム勤務の求人)の紹介を積極的に行っていくかについて、以下に示すプラス面とマイナス面を踏まえた上で検討していくべきである。
(有期雇用への紹介のプラス面とマイナス面)
有期雇用の求人を紹介することのメリットとしては、就職先が決まらないまま卒業して短期のアルバイトや無業者となるよりは、(1)職業意識の形成や職業能力の開発の面でプラスが大きいということ、(2)正社員として働くための職業規律の育成につながるということのほか、(3)長期雇用を前提に正社員として働き続けることを負担に感じる生徒にとっては、1年働いた上で雇用契約を継続するかどうかを選択できる有期雇用の形態の方が、受け入れやすい可能性がある。
一方、マイナス面としては、(1)必ずしも常用雇用につながらないという可能性があること、(2)仮に有期雇用の求人が浸透すると、新規高卒者の求人自体が常用雇用中心から有期雇用の方に大きく移行してしまう可能性があること、(3)正社員として長期間就業することが期待される正規雇用に比べて有期雇用としての就職者の方が、企業が行う教育訓練投資が少なくなる可能性が大きいことなどが挙げられる。
平成13年度は、高卒者の就職環境が特に厳しいことから、厚生労働省では、緊急支援策として、ハローワークの適切な職業指導の下、短期間の試行雇用の機会を活用し、事業主の求める水準と若年求職者の現状の較差を縮小しつつ、その業務の遂行可能性を見極め、その後の正規雇用へつなげていくことを目的とする「若年者トライアル雇用事業」を新規高卒者に対し機動的に適用することとした。このトライアル雇用も有期雇用の活用の一つの形態であり、高卒者への就職あっせんに当たっては、若年トライアル雇用事業の成果を的確に把握しつつ、今後の有期雇用の活用についても検討していくべきであろう。
(1)情報ネットワークの整備による高校における求人情報の共有化の推進 (2)求人企業と生徒との情報交換の機会の拡大 (3)新規高卒者就職関係情報の幅広い提供 (4)企業・職業理解のための職業意識形成の促進 |
(1)情報ネットワークの整備による高校における求人情報の共有化の推進
現行の就職あっせんの仕組みでは、企業側は6月20日以降に求人票を一度ハローワークに提出して確認を得たあとで、7月1日以降に学校側に求人申込みを行うことになっている。このプロセスは、当該求人が労働関係法令に照らして不適切ではないかきちんと確認するという意味で大切であるが、企業側、特に中小企業にとっては手続が煩雑で負担が大きいという指摘もなされている。
このような中小企業の負担を軽減していく上で有効と考えられるのが、職業安定所で確認をした求人を、例えばインターネット経由で各高校に配信できるような情報ネットワークの整備であろう。インターネットによる求人情報の閲覧は学校への求人申込開始日から可能となるよう取組が進められているが、これが実現すれば、企業から高校への求人手続を簡素化させることができる。
また、高校間での求人の共有も容易となることから、適切に運用されれば、高校間における求人の偏りの改善にもつながり得る。さらに、生徒にとっては職業選択機会の拡充に、企業にとっては適正なコストで採用活動が行えるような環境の整備につながることも期待される。ただし、その仕組みがかえって指定校制の固定化につながらないように十分配慮すべきである。
なお、求人受付自体の電子化を進めることで、求人企業にとっては採用にかかる負担をより一層軽減させることができる。その点についても今後検討をすすめていく必要があろう。
(2)求人企業と生徒との情報交換の機会の拡大
(生徒にとってのメリット)
現行の仕組みの下では、どの生徒がどの企業に応募するのか、学校内での選考を経て決まる場合が多く、実際に応募企業と接触を持つのは採用選考当日であり、面接後短期間のうちに決まってしまう場合が多い。自らが高校卒業後働くことになる企業の実際をほとんど知らないままで就職することになっており、そのような事前情報の不足が、生徒の希望と企業のニーズに齟齬をきたし、就職後の定着率低下の一因となっているとの指摘もある。
したがって、応募前に生徒が、できれば複数の企業について実際に自分の目で確かめた上で、どの企業に応募したいのかを自分自身で選択する機会をあたえることは大切なことであろう。そうすることで、就職した後で「こんなはずではなかった」と不満を抱くことも少なくすることができよう。
(企業側にとってのメリット)
一方、企業側にとっても、自社の経営のあり方や仕事の内容、求める人材に関する情報を積極的に生徒側に提供することで、より自社のニーズにあった人材の応募が期待できるほか、生徒側との誤解を防ぐことができ、それが採用者の定着につながっていくなど、メリットは大きい。
なお、求人企業と生徒の間の情報交換機会を拡大していく上では、企業側が情報を出す際には、可能な限りどの学校の生徒に対しても公平であることが望ましい。前にも述べたように指定校制の合理性を完全に否定するわけではないが、基本的には指定校以外の学校の生徒に対しても情報が提供され応募が可能な仕組みを広げていくことが望ましい。
<方策>
(3)新規高卒者就職関係情報の幅広い提供
生徒が就職活動中や就職するまでの間に、企業情報だけではなく、一般的な労働市場の現況や職業生活を営むに当たって、必要となる労働関係法令や年金・社会保険制度の知識、ハローワークに関する情報などを得ることができるようにすることが大切である。こういった情報が生徒に対して幅広く提供できるように、たとえばインターネットを通じた新規高卒者に役立つ就職関係情報の提供や、高校で活用できる労働市場の現況や労働関係法令、就職に関する制度などに関する情報が盛り込まれたガイドブック(「高校生就職スタートブック(仮称))の作成などをすすめていくことが必要であろう。
(4)企業・職業理解のための職業意識形成の促進
(2)でふれた職場見学会やジョブフェアの開催は、生徒が就職を希望する企業を直接確かめることで、実際に就職したときのミスマッチを防ぐという意味がある。職場見学会やジョブフェアを通じて得た情報を具体的な就職先選択に役立てていくためには、具体的な就職活動が始まる前に、職業意識の十分な育成・形成を行っておくことが重要である。
<期待できる効果>
インターンシップの効果としては、まず、生徒自身の職業意識の形成に大きく役立つということである。実際に、たとえ短い期間であっても、インターンシップに行く前と後では生徒の意識が変わり就職に対する心構えができてくるなど、その効果は非常に大きいと言われている。さらに、このような実際の職業の経験とそれによる職業意識の形成を通じて、生徒の就業への動機付けが進み、生徒の資質が高まるという点も指摘できる。
このように、インターンシップには大きな効果が期待されている。
<教育プログラムとしてのインターンシップ>
インターンシップは、実際の職業を経験することによって、生徒の職業意識の形成を促す重要な教育プログラムの1つであると位置づけることができる。このため、各学校はインターンシップの実施にあたっては、その他の授業等と同様に、教育課程の中に位置づけて取り組むことが必要である。また、単に受け入れ先企業を見つけてきて生徒を送り出すだけでなく、インターンシップの内容についても企業と協力して検討することが望ましい。
現在、学習指導要領上、インターンシップについてはかなり自由に取り組むことが可能になっており、各学校や受け入れ先企業の実情にあわせて柔軟に対応することができる。企業の幅広い支援を得ながら、インターンシップを推進していくためには、高校生の職業意識の啓発が、企業にとっても重要な課題であるという機運を醸成するとともに、都道府県あるいは地域段階で、受け入れ企業等の開拓・確保やそのリストの作成及び情報提供、さらには生徒・学校の希望と企業の受け入れとのマッチング等を図る仕組みを整えていくことが大切である。既にこのような取組が進められているところもあるが、そうした取組を広く普及・充実させ、インターンシップがより一層円滑に実施できるよう、地域の実情に応じたシステムづくりを進める必要がある。
なお、職業意識形成のためのインターンシップは高校1年生、2年生の頃から取り組むことが望ましい。また、就職を希望する生徒だけではなく、進学を希望する生徒など就職以外の進路を希望する生徒も対象とすべきである。就職か進学か迷っている生徒にとっては、インターンシップはその後の進路を決めていく際に役立つと考えられ、進学を希望する生徒についても、いずれは就職して働くことになるのであり、高校の段階でインターンシップの経験を通じて職業意識を形成していくことは、生徒の将来に役立つことはあっても、無駄になることはないはずである。
<企業の協力を得やすくするために>
(インターンシップのメリットをアピール)
インターンシップは、企業の協力があってはじめて可能となるものである。このため、インターンシップの受け入れが、企業の社会貢献の一つであることや企業にとってのメリットをアピールして理解を得ることが大切である。事実、多くの企業はインターンシップを受け入れることによって職場が刺激を受け、活性化したと評価している。
また、新入社員を育てるということは、教える社員の教育にもつながるという側面があり、インターンシップにより高校生を受け入れることが、新入社員を十分に確保できていない企業にとって社員の教育につながるという効果が期待できる。このようなことをアピールすることによって、インターンシップに前向きに協力してくれる企業を増やしていくことなどが考えられる。
近年は資質などの面で高校生に対して厳しい見方をされることが少なくない。しかし、一方では高卒人材に対し過小な評価がされている可能性もあり、インターンシップを通じて生徒の働きぶりを実際に地域の人に見てもらうことで、高卒人材を見直す絶好の機会となり得る点を訴えていくことが大切である。
(受け入れ企業に対する、受け入れノウハウの提供)
より具体的なインターンシップの受け入れ支援として、協力企業に対して、インターンシップ受け入れノウハウを提供することも必要であろう。既に文部科学省から「高等学校インターンシップ事例集」や協力要請の際のリーフレットが刊行されているが、こうしたことを通して、受け入れを行ったことがある企業での経験等を整理して、インターンシップの受け入れをはじめて行う企業が参考にすることができるようにしていくことも大切である。
(生徒に対するマナー教育の徹底)
受け入れ先企業の負担を少しでも軽くするという意味で、また、インターンシップ効果を拡大する上で、生徒を送り出す前にマナー教育を徹底しておくことも大切である。高校においては、地域や関係機関と連携しながら、マナー教育を充実していくことが重要である。
(自社従業員の子どものための職場見学会の開催を働きかける)
インターンシップの推進のためには、長期的に、インターンシップに対する受け入れ素地を作るという観点も大切である。まずは、保護者が子どもに働く姿を見せるという趣旨で職場見学会の開催を働きかけるということが考えられる。企業の従業員の子どもを中心に、地域の児童・生徒を対象として、職業意識啓発のための職場見学会の開催からはじめ、それを徐々に高校生のインターンシップまでつなげていく。そういった社会的な素地を作ることで、インターンシップに対する企業側の理解もより得やすくなっていくであろう。
3)キャリア形成の観点からの教育・職業能力開発等の基盤の整備
(1)小学校からの発達段階に応じたキャリア教育の推進 (2)時代の変化や産業界のニーズ等を踏まえた教育内容等の改善・充実 (3)学校とハローワーク等関係機関による支援体制の強化 (4)学校を離れた者へのキャリア形成、能力開発、就職活動などへの支援 (5)若年者の職業意識啓発に対する国民的な理解の促進 |
(1)小学校からの発達段階に応じたキャリア教育の推進
生徒の職業意識を高め、生徒の意思等に基づく進路の選択・決定を可能にしていくためには、もちろん高等学校における職業意識形成も大切であるが、それだけでは必ずしも十分とはいえない。高校に入学する前の段階から自らの将来・進路について考えることができるような教育が同じように大切になってくる。
将来の進路・職業を見据えた上で進学する高校を選択したり、高等学校卒業後、自らの適性にあった進路を決定したりできるようになるためには、職業への関心や理解、働くことへの意欲や態度、目的意識の向上をはじめ、望ましい職業観・勤労観や、自らの進路を主体的に選択できる力等を育てていくことが必要であり、より早い段階、すなわち小学校から発達段階に応じて系統的・計画的にキャリア教育を推進することが求められる。
また、生徒一人一人がこのような資質や能力を身に付けることができるよう、進路指導担当教員等のキャリア・カウンセリング能力の向上、専門的な知識技術をもった外部人材のキャリア・アドバイザーとしての活用などにより、進路指導がよりきめ細かな質の高いものとして機能するようにしていくことが求められる。
(2)時代の変化や産業界のニーズ等を踏まえた教育内容等の改善・充実
(3)学校とハローワーク等関係機関による支援体制の強化
(4)学校を離れた者へのキャリア形成、能力開発、就職活動などへの支援
高校から職業への移行に際しては、生徒が学校に在籍している間であれば教員による支援・指導を受けることができるが、学校を卒業したあとは、サポートの仕組みがないのが現状である。しかしながら一方では、高校卒業時までに就職先が決まらない者、卒業後も定職に就かない者、就職後短期間のうちに離職する者などは少なくない。こういった人たちこそ、就職活動などの職業移行面のほか、キャリア形成、能力開発などの面でも最も支援を必要としているにもかかわらず、実際は十分な支援体制が整備されていない。このような学校を離れた者に対する効果的な支援を行っていくためには既存の職業安定機関のほか、直前まで在籍しており、その人物について情報の蓄積、指導実績のある学校も含めた支援体制を構築していくことが必要である。
具体的には、未就職卒業者に対して継続して就職活動を支援するために、学校と職業安定機関との連携を強化する。特に、継続的な情報提供や相談体制の確立を重視する。なお、その際には学校と職業安定機関の間での連絡・連携の具体的な手続を明確にすることで、より円滑な支援体制を構築できるであろう。
また、フリーターに対しては、個別の状況等に即したマンツーマンによる相談・指導や講習、訓練、就職後支援を行うといった施策を推進していくことが望まれる。フリーターをやめて就職したいと思ったとき、職業への移行が円滑にすすむよう、フリーターでは身につけることが困難な職業能力を高めるための職業能力開発支援も大切である。
なお、能力開発に関する情報提供や相談等を行い、各労働者のキャリア形成を支援するため、平成13年10月から雇用・能力開発機構都道府県センター内に、「キャリア形成支援コーナー」が設置されているところであるが、これらの者が今後とも、同コーナーを有効に活用することが期待される。
(5)若年者の職業意識啓発に対する国民的な理解の促進
高卒者の職業移行の問題は、わが国における若年層の職業意識醸成のあり方に疑問を投げかけているといえる。そこで、若年層の職業意識啓発がいかに大切なことであるかを、社会全体に訴えかけていくことが重要である。そのためには、若年者の職業意識啓発について、国民全体が考える機会を積極的に作っていくことが望まれる。
その一環として、生徒の保護者に対する意識啓発も重要になってくる。生徒の個性や適性といった点に考慮しない保護者の安易な大学進学志向が生徒の職業への関心や意識の形成を阻んでいる面も伺えるためである。
また、企業側の意識啓発を促すことも非常に大切な点である。高校生をはじめとする、若年者の職業意識啓発に参画することは、企業の社会的責任でもあることを訴え、働きかけていくことが不可欠である。
高校生をはじめとする、若年層の職業移行の問題は、国民全体で検討し取り組んで行くべきテーマであり、この認識を大きな流れとしていくことが現在求められている。
現状と課題の章で見たとおり、新規高卒者についてもその労働需要には構造的な変化が生じており、今後も産業構造や企業の雇用システムのあり方に応じて変化していくものと推察される。特に労働力需要そのものが、高卒者からより高学歴者へシフトを続けたり、また学校から輩出される人材の質が、労働力需要からあまりに乖離しているようでは、新規高卒者の就職をサポートする仕組みを充実させたとしても、学校から職業への円滑な移行が実現できないことになる。高卒者に求められる資質や労働市場の動向の把握、労働力需要との乖離を防ぐための高校生や未就職卒業者に対する資質向上方策などのあり方が課題となってくる。
委員
行政構成員
4)中長期的な展望に立った「職業生活への移行」の検討
また、高校生の就職問題の背景には、学校における進路指導のあり方や産業界の需要の変化の他に、家庭や地域社会等の高校生を取り巻く環境や若者文化の影響など複合的な要因があることが考えられる。その意味で、就職問題は、若者が社会の構成員となる過程におこっている「ゆらぎ」の一つの現れであるというとらえ方もできる。次代を担う若者を社会の構成員としてどう迎えていくかという視点から、若者の現状を総合的にとらえ、就職問題をその一環として位置づけて考えていくことが今後重要になると思われる。
このような若年層の職業への移行のあり方及びその支援方策について総合的に検討することが求められる。
なお、その際、その検討に資するような情報や資料が十分には収集・整理されていないというのが実状である。今後は、そういった情報や資料を充実させていくことが必要であろう。例えば、卒業直後の無業期間やアルバイト就業の経験が、その後のキャリア形成にいかなる影響を及ぼすのかなどに関するデータの収集が求められる。
◎
佐藤 博樹
東京大学社会科学研究所 教授
○
石田 浩
東京大学社会科学研究所 教授
○
耳塚 寛明
お茶の水女子大学文教育学部 教授
○
小杉 礼子
日本労働研究機構 主任研究員
萩原 信一
東京都立新宿山吹高等学校校長
(全国高等学校進路指導協議会会長)
○
石飛 一吉
東京都立新宿高等学校 教諭
小林 広三
千葉県立千葉工業高等学校 教諭
福本 剛史
埼玉県立大宮商業高等学校 教諭
鈴木 正人
日本経営者団体連盟教育研修部 部長
棚田 京一
前トヨタ自動車株式会社人事部人事室室長(2000年12月まで)
唐澤 敬
前トヨタ自動車株式会社人事部人事室室長(2001年1月〜12月)
松永 良典
トヨタ自動車株式会社人事部人事室室長(2002年1月より)
◎:主査
梶田 洋二
前労働省職業安定局業務調整課長(2000年12月まで)
山田 道夫
前文部省初等中等教育局職業教育課長(2000年12月まで)
伊岐 典子
厚生労働省職業安定局業務指導課長(2001年1月より)
コ久 治彦
文部科学省初等中等教育局児童生徒課長(2001年1月より)
○:専門部会委員
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