労働委員会命令データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  愛知県労委令和5年(不)第4号
不当労働行為審査事件 
申立人  Xユニオン(組合) 
被申立人  Y1会社・Y2会社・Y3会社 
命令年月日  令和7年1月20日 
命令区分  一部救済 
重要度   
事件概要   本件は、①令和4年12月8日の団体交渉におけるY1会社及びY3会社の代表取締役並びにY2会社の監査役であるB1(以下「社長B1」)の対応、②組合が令和5年3月1日付けで申し入れた団体交渉について、社長B1が開催場所を「日進本社」と称する場所に指定したことで当該団体交渉が開催されなかったことが不当労働行為に当たる、として救済申立てがなされた事案である。
 愛知県労働委員会は、Y1会社及びY2会社に関し、①について労働組合法第7条第2号及び第3号、②について、開催場所を日進本社に指定し、開催場所の再協議に係る回答を行わなかったことが同条第2号に該当する不当労働行為であると判断し、両会社に対しそれぞれ、(ⅰ)団体交渉において、合意形成に向けて誠実に応じなければならないこと、(ⅱ)団体交渉の申入れがあったときは、組合と誠実に協議して開催場所を決定しなければならないこと、(ⅲ)文書交付を命じるとともに、Y3会社に対する申立てを棄却した。 
命令主文  1 Y1会社は、組合との団体交渉において、合意形成に向けて誠実に応じなければならない。

2 Y1会社は、組合から団体交渉の申入れがあったときには、団体交渉の開催場所につき、組合と誠実に協議して決定しなければならない。

3 Y1会社は、組合に対し、下記内容の文書を本命令書交付の日から7日以内に交付しなければならない。
当社が、令和4年12月8日の団体交渉において、年末賞与に係る協議に誠実に対応しなかったことが労働組合法第7条第2号及び第3号に、貴組合が令和5年3月1日付けで申し入れた団体交渉について、開催場所を日進本社に指定し、同月15日付け「団体交渉の場所について」と題する書面による開催場所の再協議に係る回答を行わなかったことが労働組合法第7条第2号に、それぞれ該当する不当労働行為であると愛知県労働委員会によって認定されました。
今後、このような行為を繰り返さないようにいたします。
 年 月 日
Xユニオン
 執行委員長 A1様
Y1会社       
代表取締役 B1

4 Y2会社は、組合との団体交渉において、合意形成に向けて誠実に応じなければならない。

5 Y2会社は、組合から団体交渉の申入れがあったときには、団体交渉の開催場所につき、組合と誠実に協議して決定しなければならない。

6 Y2会社は、組合に対し、下記内容の文書を本命令書交付の日から7日以内に交付しなければならない。
 当社が、令和4年12月8日の団体交渉において、年末賞与に係る協議に誠実に対応しなかったことが労働組合法第7条第2号及び第3号に、貴組合が令和5年3月1日付けで申し入れた団体交渉について、開催場所を日進本社に指定し、同月15日付け「団体交渉の場所について」と題する書面による開催場所の再協議に係る回答を行わなかったことが労働組合法第7条第2号に、それぞれ該当する不当労働行為であると愛知県労働委員会によって認定されました。
 今後、このような行為を繰り返さないようにいたします。
 年 月 日
Xユニオン
 執行委員長 A1様
Y2会社       
代表取締役 B2

7 Y3会社に対する申立てを棄却する。 
判断の要旨  1 令和4年12月8日の団体交渉(以下「4.12.8団体交渉」)における社長B1の対応は、Y1会社、Y2会社又はY3会社との関係において、労働組合法第7条第2号及び第3号の不当労働行為に該当するか(争点2)

(1)4.12.8団体交渉における社長B1の対応

 社長B1は、Y1会社の代表取締役であり、Y2会社の監査役である。
 この点、監査役は、本来、会社の経営判断を行う者ではなく、経営陣から独立して、その業務を監査する立場にある者であるところ、社長B1は、Y2会社の従業員の雇用契約期間や賞与の決定という経営面に関与しており、また、組合からの要求・協議事項に対する回答について、Y2会社に係る部分も含めて最終的に内容を決定していることからすれば、実質的には、Y2会社の経営陣である。
 したがって、4.12.8団体交渉における社長B1の対応は、Y1会社及びY2会社の対応といえる。

(2)労働組合法第7条第2号及び第3号の不当労働行為該当性

ア Y1会社及びY2会社の従業員の昼食のとり方に係る協議及びY2会社の安全配慮義務に係る協議において、社長B1の対応に目立ったものはなかった。

イ 組合員A2の有給休暇の取扱いに係る協議において、執行委員長A1が、Y2会社からA2に対する有給休暇に関する支払に係る計算書を組合に対して送付してもらえるか尋ねたところ、Y2会社の代表取締役並びにY1会社及びY3会社の取締役であるB2(以下「社長B2」)は、組合に対して当該計算書を送付しない旨を回答し、社長B1もこれと同趣旨の回答をした。
 これについて、社長B1の当該対応は、執行委員長A1と社長B2との協議の過程で付随的にされたものにすぎず、不誠実な対応とまでは評価できない。

ウ 年末賞与に係る協議において、社長B1は、執行委員長A1に対し、「君が出してきたやつに対して、永遠にこれからはマイナスだ」「来年5,000円上げてくれ」って言ったら「マイナス5,000円」などの発言(以下「本件発言」)を始め、「関係ない。君に対してはマイナスだ」「君のそれに対してはペケだと」などと回答し、A1が要求を出せば全てマイナスという答えを出す旨を述べるなど、組合の要求や主張を完全に否定する対応に終始しているだけでなく、A1が経営状況の赤字や黒字について再度尋ねた際、「赤、黒、抹茶!」と回答するなど、組合の要求や主張を茶化すような態度を取っている。

エ 団体交渉は、労働組合及び使用者が、交渉事項に係るお互いの主張を交わし、それらについて検討を行うことによって合意を形成していく過程である。このことからすれば、組合の要求や主張に対する社長B1の「ゼロ回答」の対応は、年末賞与に係る合意形成の可能性を失わしめるものであり、団体交渉の一方当事者としての姿勢や態度として、誠実さに欠けるものといわざるを得ない。

オ したがって、4.12.8団体交渉における社長B1の対応は、Y1会社及びY2会社との関係において、労働組合法第7条第2号の不当労働行為に該当する。

カ 社長B1が「A1が組合の執行委員長であると、組合と誠実に団体交渉を行うことができない」旨を証言していることからすると、4.12.8団体交渉における本件発言を始めとするB1の一連の対応は、専ら執行委員長A1に対する嫌悪の情に基づき、Y1会社及びY2会社が組合との団体交渉を誠実に行わないことを企図してされたものと評価できることから、Y1会社及びY2会社との関係において、労働組合法第7条第3号の不当労働行為に該当する。

2 組合が令和5年3月1日付けで申し入れた団体交渉について、社長B1が当該団体交渉の開催場所を「日進本社」と称する場所に指定したことは、Y1会社、Y2会社又はY3会社との関係において、労働組合法第7条第2号の不当労働行為に該当するか(争点3)

(1)組合とY1会社及びY2会社は、第1回団体交渉及び第3回団体交渉を愛知県日進市の公会堂、第2回団体交渉を名古屋港湾会館で開催した後、平成30年5月11日の合意書の作成から4.12.8団体交渉までの間、少なくとも18回の団体交渉を、組合の組合員5名が就業する中川営業所の近辺にあるD喫茶店で開催した。

(2)4.12.8団体交渉において、団体交渉の開催場所について、執行委員長A1が、「近くでやることは要求しとく」と述べたことに対し、社長B1は、「そんなものはどうでもいい、金がないっていうふうだったら日進だ、ていう風になる。俺が出る時は」と述べるなどのやりとりがあった。

(3)組合は、令和5年3月1日付け「団体交渉申込書」(以下「5.3.1申込書」)をファクシミリで送付し、Y1会社及びY2会社に対し、団体交渉の開催場所について「D喫茶店あるいは当組合事務所あるいは中川営業所」とすることを要求した。

(4)その後、5.3.1申込書の内容について、主に社長B1及び社長B2との間で協議を行った結果、組合に対し、団体交渉の開催場所を日進本社とする旨を連絡することが決定された。
 令和5年3月15日、執行委員長A1が所長B3の携帯電話に架電したところ、B3は、組合が5.3.1申込書で申し込んだ団体交渉について、「社長B1が日進本社で行うと言っている」旨を述べた。

(5)上記(4)について、社長B1はY1会社の代表取締役、社長B2はY2会社の代表取締役であり、また、所長B3はY1会社及びY2会社における団体交渉の窓口を担当していたことからすれば、団体交渉の開催場所を日進本社に指定し、B3に上記(4)の指示を行ったのは、Y1会社及びY2会社の行為といえる。

(6)また、組合は、令和5年3月15日付け「団体交渉の場所について」と題する書面(以下「5.3.15書面」)を送付し、Y1会社及びY2会社に対し、日進本社で団体交渉を行うことは不合理で受け入れられない旨を伝えたほか、同年3月20日正午までにD喫茶店、組合事務所など、労使が合意できる就業場所に近い場所を調整するよう、開催場所の再協議を要求した。
 これに対し、Y1会社及びY2会社は、同日までに回答を行わなかった。

(7)これら状況からすれば、Y1会社及びY2会社は、4.12.8団体交渉の時点において、団体交渉の開催場所を日進本社とすることを組合が受け入れられない旨を承知の上で、これを一方的に指定し、5.3.15書面に対する回答を行わないことをもって、開催場所の再協議に応じないという態度を明確にしたといわざるを得ない。このことは、実質的に団体交渉を拒否したものと評価できる。

(8)したがって、組合が5.3.1申込書で申し入れた団体交渉について、Y1会社及びY2会社が開催場所を日進本社に指定し、5.3.15書面による開催場所の再協議に係る回答を行わなかったことは、正当な理由のない団体交渉拒否と認められ、労働組合法第7条第2号の不当労働行為に該当する。

3 Y3会社は、Y1会社又はY2会社の従業員である組合の組合員の労働組合法上の使用者に該当するか(争点1)

(1)Y3会社で就労する組合の組合員

 少なくとも令和4年以降、組合の組合員のうち、Y3会社で就労する者はいない。

(2)争点2に係るY3会社の不当労働行為該当性

 4.12.8団体交渉は、Y1会社及びY2会社の2社合同で開催されており、所長補佐B4は、2社の代表者として指名されている。
 また、4.12.8団体交渉は、Y1会社及びY2会社宛てに送付された令和4年11月1日付け「団体交渉申込書」などに記載された要求事項等に沿って協議が行われており、その内容は、2社の従業員の労働条件等であったことから、いずれも2社で判断できることであった。
 そして、4.12.8団体交渉における社長B1の対応は、Y1会社においては、代表取締役としての対応であり、Y2会社においては、名目上、監査役ではあるものの、実質的には、経営陣としての対応であったといえる。
 これらから、4.12.8団体交渉における社長B1の対応は、Y1会社及びY2会社の2社の対応として評価すればよく、ほかにY3会社の対応として評価できるような事実は認められない。
 したがって、争点2において、Y3会社の労働組合法第7条第2号違反は成立し得ず、また、Y3会社が組合の弱体化を企図して行ったと評価できるような事実も認められないから、同条第3号違反も成立し得ない。

(3)争点3に係るY3会社の不当労働行為該当性

 労働組合法第7条第2号は、正当な理由のない団体交渉拒否を禁止しているところ、当該行為の主体となり得る使用者は、労働組合から団体交渉申入れを受けた者に限られる。
 この点、5.3.1申込書及び5.3.15書面はY1会社及びY2会社宛ての書面であって、Y3会社は、団体交渉申入れを受けておらず、実態としてY3会社が対応したとみられるような事実も認められない。したがって、争点3において、Y3会社の労働組合法第7条第2号違反は成立し得ない。

(4)以上から、争点2及び争点3について、Y3会社の労働組合法上の使用者性を判断する必要はない。 

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