労働委員会裁判例データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  名古屋地裁令和7年(行ウ)第11号
不当労働行為救済命令取消請求事件 
原告  X組合(「組合」) 
被告  愛知県(処分行政庁 愛知県労働委員会(「愛知県労委」))
 
被告補助参加人  Z会社 
判決年月日  令和7年10月8日 
判決区分  棄却 
重要度   
事件概要  1 本件は、①令和4年12月8日の団体交渉(「団交」)(「4年12月8日団交」)におけるZ会社及びC1会社の代表取締役並びにC3会社の監査役でもあるB1社長の言動(「本件言動」)、②組合が令和5年3月1日付けで行った団交申込み(「本件団交申込み」)について、B1社長が開催場所を特定の場所に指定したこと等(「本件団交申込みへの対応」)により、当該団交が開催されなかったことが不当労働行為に当たる、として救済申立てがなされた事案である。

2 愛知県労委は、C1会社及びC3会社に関し、①について、労働組合法(「労組法」)7条2号及び3号、②について、開催場所を特定の場所に指定し、開催場所の再協議に係る回答を行わなかったことが同条2号に該当する不当労働行為であると判断し、両会社に対しそれぞれ、(ⅰ)団交において、合意形成に向けて誠実に応じなければならないこと、(ⅱ)団交の申込みがあったときは、組合と誠実に協議して開催場所を決定しなければならないこと、(ⅲ)文書交付を命じるとともに、Z会社に対する申立てを棄却した。(「本件命令」)

3 組合は、これを不服として、名古屋地裁に行政訴訟を提起したところ、同地裁は、組合の請求を棄却した。
 
判決主文  1 原告の請求を棄却する。

2 訴訟費用は原告の負担とする。
 
判決の要旨  1 争点1(本件言動をZ会社の不当労働行為と評価できるか)について
⑴ 4年12月8日団交の申込みの相手方はC1会社及びC3会社であって、同申込みに係る要求事項は両社に関する事項であり、団交の開催に応じて同申込みに沿う形で両社の代表取締役を含む役員及び従業員が出席していることからすると、外観上、4年12月8日団交は、組合とC1会社及びC3会社との間の団交とみるのが相当であるから、特段の事情がない限り、4年12月8日団交における交渉等の行為の主体は、C1会社及びC3会社のいずれか又はその両社と見るべきである。

 そこで本件言動について検討すると、B1社長は、4年12月8日団交の場においてC1会社の代表取締役として参加している旨の発言をしている。また、B1社長は、C3会社の監査役ではあるが、同社の賞与の決定に関与していることからすると、同社の実質的経営陣の一人とみるのが相当である。そして、本件言動は、主にC1会社及びC3会社の賞与の引き上げの交渉をしない旨の内容であるところ、上記賞与について、C1会社及びC3会社は、各会社の代表取締役、取締役又は実質的な経営陣のいずれかに当たるB1社長、C2社長及びC4取締役の3名が、C3会社の営業所でありC1会社が事実上事業で使用していた場所である中川営業所で相談して決定しているから、賞与に関する事項については、C1会社及びC3会社の間で決定しているものとみられ、団交の局面においても、上記両社が交渉等をする権限があるといえる。そうすると、本件言動は、実質においても、C1会社及びC3会社の行為とみることができるのであり、Z会社の行為と評価する特段の事情はなく、Z会社の行為とは認められない。

 組合は、Z会社がC1会社及びC3会社に対して全面的に経営決定権を握っている旨主張し、Z会社らの資本関係や従業員の業務が混然としていることを指摘する。しかし、Z会社らの資本関係や従業員の労務管理、給与関係事務作業等の実態は、各会社の事業活動が密接に関係していることを示すものであるとしても、各会社が内部で個別の経営事項についておよそ決定権を有さず、事実上も決定していないことを直ちに裏付けるものではない。組合は、C1会社及びC3会社の就業規則や賞与等がB1社長らによって一元的に決定されていることを指摘し、現に就業規則がおおむね同一であるほか、B1社長、C2社長及びC4取締役によって同一の賞与体系が決定されているが、B1社長はC1会社の代表取締役及びC3会社の監査役かつ実質的な経営陣の一人として、C2社長はC1会社の取締役及びC3会社の代表取締役として、C4取締役は少なくともC3会社の取締役として、それぞれの地位を有しているのであり、賞与に係る同人らの決定はC1会社及びC3会社の内部の意思決定と見るべきであることは上記のとおりである。また、C1会社及びC3会社は同内容の事業を行っているのであるから、経営陣の顔ぶれが事実上重なるC1会社及びC3会社の間で経営事項の決定が同一となることは不自然とはいえず、Z会社が経営事項を一元的に決定したものとみるべき事情には当たらない。なお、組合は、C3会社については法人格が形骸化しているとも主張するが、組合の主張によっても独自の資産及び人員がいることは明らかであり、法人格の濫用と見るべき事情も認められず、組合の主張は採用できない。

⑵ 上記⑴によれば、本件言動がZ会社の行為であるとは認められないから、Z会社の労組法7条の使用者該当性を判断するまでもなく、本件言動をZ会社の不当労働行為と評価すべきとする組合の主張は採用できない。

2 争点2(本件団交申込みへの対応をZ会社の不当労働行為と評価できるか)について
⑴ 本件団交申込みの相手方はC1会社及びC3会社であり、両社の窓口担当者であるC8所長を通して組合に対し開催場所を日進本社とする旨が伝えられていること、これに対する組合の3月15日付け書面においても宛先はC1会社及びC3会社とされていたことといった行為の外観からすれば、本件団交申込みへの対応は、特段の事情がない限り、C1会社及びC3会社の行為とみるのが相当である。

 そこで検討すると、C1会社の代表取締役であるB1社長とC3会社の代表取締役であるC2社長とが本件団交申込みについて協議した上で団交の開催場所を日進本社とすることを決定し、3月15日付け書面についても、B1社長及びC2社長が対応不要と考えて回答を行わなかったものであるから、本件団交申込みへの対応は、本件団交申込みの相手方とされたC1会社及びC3会社の行為とみるのが合理的であり、Z会社の行為と評価する特段の事情はなく、Z会社の行為とは認められない。

 組合は、Z会社はC1会社及びC3会社に対して全面的に経営決定権を握っているとして、本件団交申込みへの対応についても、Z会社の行為であると主張するが、前記1⑴のとおり、Z会社が組合の主張するような全面的な経営決定権を有するとみることはできず、組合の主張は採用できない。

⑵ したがって、本件団交申込みへの対応がZ会社の行為であるとは認められないから、Z会社の労組法7条の使用者該当性を判断するまでもなく、Z会社の不当労働行為と評価すべきとする組合の主張は採用できない。

3 その他、組合は、本件命令には、Z会社の労組法7条の使用者性を争点に整理しながら同争点について全く判断していない点で著しい行政上の瑕疵がある旨主張するが、前記1及び2によれば、愛知県労委が、本件言動及び本件団交申込みへの対応について、いずれもZ会社の行為に当たらないと判断して、同争点を判断するまでもなくZ会社に対する申立てを棄却した点に誤りはなく、組合の主張は採用できない。

4 結論
 以上によれば、Z会社との関係の申立てを棄却した本件命令に違法はなく、組合の請求は理由がないから棄却することとして、主文のとおり判決する。
 
その他   

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顛末情報
事件番号/行訴番号 命令区分/判決区分 命令年月日/判決年月日
愛知県労委令和5年(不)第4号 一部救済 令和7年1月20日
 
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