労働委員会命令データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  神奈川県労委令和4年(不)第1号
古川不当労働行為審査事件 
申立人  X組合(組合) 
被申立人  個人事業主Y 
命令年月日  令和5年4月21日 
命令区分  全部救済 
重要度   
事件概要   本件は、組合が、店舗の業務運営終了及び整理解雇の実施を議題とする11回目の団体交渉を申し入れたところ、個人事業主Yが、殊更に大きな声を出し、過度に威圧的・攻撃的な言辞を用いて威圧する行為や、代理人弁護士の発言を妨害する行為をしないことについての組合の確約がなければ団体交渉に応じないとし、団体交渉が開催されなかったことが不当労働行為に当たる、として救済申立てがなされた事案である。
 神奈川県労働委員会は、労働組合法第7条第2号に該当する不当労働行為であると判断し、Yに対し、①団体交渉申入れに対し、右確約がないことを理由に拒否してはならないこと、②文書交付を命じた。 
命令主文  1 Yは、組合からの団体交渉申入れに対し、「殊更に大きな声を出し、過度に威圧的・攻撃的な言辞を用いて被申立人を威圧する行為、被申立人の代理人弁護士の発言を妨害する行為をしないという確約」がないことを理由に拒否してはならない。

2 Yは、本命令受領後、速やかに下記の文書を組合に交付しなければならない。
 私が、貴組合からの令和3年11月8日付け団体交渉の申入れに対し、団体交渉において、「殊更に大きな声を出し、過度に威圧的・攻撃的な言辞を用いて私を威圧する行為、私の代理人弁護士の発言を妨害する行為をしないという確約」がなければ団体交渉に応じないとした対応は、労働組合法第7条第2号に該当する不当労働行為であると労働委員会において認定されました。
 今後、このような行為を繰り返さないようにいたします。
令和 年 月 日
X組合
中央執行委員長 A1殿
判断の要旨  1 組合の3.11.8団交申入れに対する、3.11.12Y連絡(14)によるYの対応は、正当な理由のない団体交渉拒否に当たるか否か。(争点)

ア Yは、組合の令和3年11月8日の次回団体交渉の日程調整に関するメール(以下「3.11.8団交申入れ」)に対し、令和3年11月12日付け「御連絡(14)」と題する文書(以下「3.11.12Y連絡(14))を通じて、組合に対し、団体交渉を行うにあたり、殊更に大きな声を出し、過度に威圧的・攻撃的な言辞を用いてYを威圧しようとする行為、弁護士Bの発言を妨害する行為に及ばない旨の確約を求めている。
 この点につき、Yは、確約があることを前提に団体交渉に応じる意向はあるのだから団体交渉拒否に当たらないと主張する。
 しかし、同文書の記載〔注1〕は、組合の確約がなければ団体交渉に応じない意向を示すものであり、令和3年11月25日付け「御連絡(16)」と題する文書〔注2〕、令和3年12月4日付け「御連絡(17)」と題する文書〔注3〕において確約が得られないことを理由に日程調整等を拒否していること、令和3年12月23日付け「御連絡(18)」と題する文書においては、誓約書のひな形〔注4〕を送付していることに照らしても、団体交渉を拒否したものといわざるを得ない。
 次に、Yは、3.11.12Y連絡(14)の記載が仮に団体交渉拒否に当たるとしても、殊更に大きな声を出し過度に威圧的・攻撃的な言辞を用いてYを威圧する行為、Bの発言を妨害する行為に及ばない旨の組合の確約がないことを理由に団体交渉を拒否することは、労組法第7条第2号に規定する「正当な理由」があると主張するので、以下検討する。

〔注1〕3.11.12Y連絡(14)の記載(抄)
 「私の代理人弁護士の発言を妨害する行為は、団体交渉の当事者である私の発言を妨害する行為に他なりません。殊更に大きな声を出し、過度に威圧的・攻撃的な言辞を用いて私を威圧しようとする行為や私の代理人弁護士の発言を妨害する行為は、法の下における団体交渉として、社会的に適正かつ相当な範囲・程度を逸脱しているものと考えております。したがいまして、まずもって、そのような行為がなされないこと、の確約を求める次第です。そのうえで、法の下における適正な団体交渉を行うべく、日程調整をさせていただきたく存じます。」

〔注2〕令和3年11月25日付け「御連絡(16)」と題する文書の記載
 弁護士Bへの妨害行為をしないことの確約が得られた段階で、団体交渉の日程調整をする旨記載されていた。

〔注3〕令和3年12月4日付け「御連絡(17)」と題する文書の記載
 3.11.29組合回答書に記載の回答並びに提案〔組合からの質問には、まずYが回答し、同人が回答できない内容についてはYが弁護士Bに回答をさせる旨〕に対する回答及び団体交渉を応諾するための提案として、組合がBの発言を妨害しないことなどが記載されていた。

〔注4〕誓約書のひな形
 「当組合は、貴殿と当組合との団体交渉に際して、貴殿の代理人弁護士の発言を妨害しないことを誓約します。」

イ 組合は、団体交渉において、身体的な暴力行使には及んでいないものの、前副委員長A2が机を叩いたり、強い口調で必要以上に大きな声を出し、Y及び弁護士Bの発言を遮る行為に及んでおり、団体交渉における対応として不穏当であったということは否定し難い。また、A2は、組合の許可がない限りYの代理人に発言権はないとの主張をし、Bの発言を遮っているが、団体交渉において誰が発言するかは各当事者が決めることであり、自身の希望しない交渉担当者の発言を遮ることは、団体交渉の進展や労使関係の構築という点に鑑みても望ましい行為であるとはいい難い。このように、Yが、組合の対応を問題視すること自体は、理解できる部分もある。

ウ しかし、前副委員長A2が弁護士Bの発言を遮るなどした行為は、1回の団体交渉のうち部分的に認められるものに過ぎず、A2の行為が原因でBが全く発言することができなくなったとか、団体交渉を中断したといった事実は証拠上認められない。また、少なくとも第6回〔令和3年7月6日〕、第8回〔同年9月9日〕、第10回〔同年10月20日〕の団体交渉の終了時は、団体交渉が進展する余地がないなどとして団体交渉を打ち切るような状況にもなく、総じて団体交渉自体は正常に進行、継続していたものということができる。
 以上のことからすれば、団体交渉における組合の対応に問題がないとはいえないものの、その後の団体交渉の継続を困難にする程の暴力的言動がなされたとはいえない状況の下で、殊更に大きな声を出し、過度に威圧的・攻撃的な言辞を用いてYを威圧する行為、Yの代理人弁護士の発言を妨害する行為に及ばない旨の確約がないことを理由に団体交渉を拒否することに、「正当な理由」は認められない。よって、3.11.12Y連絡(14)によるYの対応は、正当な理由のない団体交渉拒否に当たる。

2 不当労働行為の成否及び救済の方法

 組合の3.11.8団交申入れに対する、3.11.12Y連絡(14)による対応は、正当な理由のない団体交渉拒否であると認められ、労組法第7条第2号の不当労働行為に該当するので、Yに対し主文第1項のとおり命じることとする。
 また、当委員会からの要望に従い、立会団交に一度は応じているものの、立会団交に至るまでの経緯等の審査の全趣旨に照らし、今後も同様の行為が繰り返されることのないよう、主文第2項のとおり命じることとする。 
掲載文献   

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