概要情報
事件番号・通称事件名 |
東京高裁令和6年(行コ)第269号
古川不当労働行為救済命令取消請求控訴事件 |
控訴人 |
個人事業主X |
被控訴人 |
神奈川県(代表者兼処分行政庁 神奈川県労働委員会) |
被控訴人補助参加人 |
Z組合(「組合」) |
判決年月日 |
令和7年4月23日 |
判決区分 |
棄却 |
重要度 |
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事件概要 |
1 本件は、組合が、店舗の業務運営終了及び整理解雇の実施を議題とする11回目の団体交渉を申し入れたところ、個人事業主Xが、殊更に大きな声を出し、過度に威圧的・攻撃的な言辞を用いて威圧しようとする行為や、Xの代理人弁護士の発言を妨害する行為をしないとの組合の確約(以下「本件確約」という。)がなければ団体交渉に応じないとし、団体交渉が開催されなかったことが不当労働行為に当たる、として救済申立てがなされた事案である。
2 神奈川県労委は、労組法第7条第2号に該当する不当労働行為であると判断し、Xに対し、①団体交渉申入れに対し、本件確約がないことを理由に拒否してはならないこと、②文書交付を命じた。
3 Xはこれを不服として横浜地裁に行政訴訟を提起したところ、同地裁はXの請求を棄却した。
4 Xはこれを不服として東京高裁に控訴したところ、同高裁はXの請求を棄却した。
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判決主文 |
1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用(補助参加によって生じた費用を含む。)はXの負担とする。 |
判決の要旨 |
1 当裁判所も、原審と同じく、Xの請求は理由がないものと判断する。その理由は、次のとおり補正し(略)、下記2のとおりXの当審における補充主張に対する判断を付加するほか、原判決の「第3 当裁判所の判断」記載のとおりであるから、これを引用する。
2 Xの当審における補充主張に対する判断
(1) Xは、本件団体交渉における組合の対応は、極めて非常職かつ反社会的で、実質的には脅迫と考えられる行為にまで及び、X代理人弁護士の発言を封じることを試みたものであって、平和的かつ秩序ある方法で冷静に使用者と話し合うつもりなど毛頭ないところ、組合側の言動が社会通念の許容する正当な権利行使の範囲を逸脱するものかどうかの判断に当たっては、これらの事実をより重視し、斟酌すべき旨を主張する。
この点、第6回、第8回及び第10回団体交渉におけるA6前副委員長の言動には、団体交渉における誠実さを欠き、団体交渉における言動として相当性を欠く部分があったといわざるを得ないことは、上記引用に係る原判決第3の2⑴ウにおいて判示したとおりである。
もっとも、A6前副委員長が第6回団体交渉で行った約8分間にわたる相当性を欠く言動は、第6回団体交渉の直前にXがA1分会長に対して発令した本件配転命令の法的根拠に関するやりとりの場面で出現したものであるところ、本件配転命令に関しては、①Xは就業規則を作成しておらず、②A1分会長及びX間の社員雇用契約書にも、配置転換に係る約定の記載はなく、③X訴訟代理人が法的根拠とした「労使慣行」は、配置転換命令の法的根拠に係る主張としては必ずしも一般的なものとはいい難いにもかかわらずXは第6回団体交渉でその主張に係る労使慣行の存在を基礎付けるような資料を提示した説明をしていなかったという事情があったことが認められる。このような配転命令の権限に関する客観的事情や、第6回団体交渉における具体的な経過を勘案するならば、本件配転命令の法的根拠に関するXの交渉態度が不十分であるとの評価を受けるのもやむを得ない面があり、この点を考慮すると、その協議の過程でA6前副委員長の言動に強い口調が混じり、ある種糾問的なものが含まれたとしても、社会的相当性を著しく欠くとまではいえないというべきである。
また、第6回団体交渉での本件店舗の業績の検証におけるA6前副委員長の言動も、本件従業員らの勤務場所を直接的に左右する本件店舗の閉鎖を議題とする局面であり、資料の提出要請を含め、組合側が強い口調で追及することにもやむを得ない面がある上、上記のような言動が出現した時間も約1分間であり、90分間行われた第6回団体交渉の進行を大きく阻害するようなものとはいえない。
さらに、第8回団体交渉及び第10回団体交渉でのA6前副委員長の言動(X訴訟代理人の発言を大声で制限するものなど)は、未払賃金の請求、本件従業員らの勤務態度及び本件店舗の業績に係るやりとり並びに第10回団体交渉における本件業務委託契約の契約内容の開示に係るやりとりがされた場面におけるものであるが、いずれも約1分間程度のものであり、これにより第8回及び第10回の各団体交渉の進行が阻害されたとまでは認められない。
以上に加え、第6回、第8回及び第10回の各団体交渉においても、各回の団体交渉の終了時には、X及び組合ともに、交渉の継続を前提に次回の団体交渉に向けた調整がなされていることを踏まえると、組合の交渉態度が、正常な団体交渉の継続を大きく妨げ、社会通念の許容する正当な権利行使の範囲を逸脱するものであったとまでは認めるに足りない。
したがって、A6前副委員長の言動に関する評価に関しXが主張する点は必ずしも当を得ず、組合の交渉態度が社会通念の許容する正当な権利行使の範囲を逸脱するものとまではいえないとの判断を左右するものとはいえない。
(2) そして、Xの当審における他の主張に、上記引用に係る原判決の認定判断を左右するものが含まれているとは認められない。
3 結論
以上の次第で、本件控訴は理由がないので、主文のとおり判決する。 |
その他 |
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