労働委員会裁判例データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  横浜地裁令和5年(行ウ)第40号
古川不当労働行為救済命令取消請求事件 
原告  個人事業主X 
被告  神奈川県(代表者兼処分行政庁 神奈川県労働委員会)  
被告補助参加人  Z組合(組合) 
判決年月日  令和6年9月18日 
判決区分  棄却 
重要度   
事件概要  1 本件は、組合が、店舗の業務運営終了及び整理解雇の実施を議題とする11回目の団体交渉を申し入れたところ、個人事業主Xが、殊更に大きな声を出し、過度に威圧的・攻撃的な言辞を用いて威圧しようとする行為や、Xの代理人弁護士の発言を妨害する行為をしないとの組合の確約(以下「本件確約」という。)がなければ団体交渉に応じないとし、団体交渉が開催されなかったことが不当労働行為に当たる、として救済申立てがなされた事案である。

2 神奈川県労委は、労組法第7条第2号に該当する不当労働行為であると判断し、Xに対し、①団体交渉申入れに対し、本件確約がないことを理由に拒否してはならないこと、②文書交付を命じた。

3 Xはこれを不服として横浜地裁に行政訴訟を提起したところ、同地裁はXの請求を棄却した。 
判決主文  1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は、補助参加によって生じた費用を含め、原告の負担とする。 
判決の要旨  1 争点に対する判断(「正当な理由」(労組法7条2号)について)
ア 団体交渉は、誠実に、平和的かつ秩序ある方法で行われなければならず、労組側の言動が社会通念の許容する正当な権利行使の範囲を逸脱する場合には、法律上又は憲法上の権利として保護されないから、使用者が労組側にそのような不相当な言動をしないことの確約を求めることも許容されるものと解される。
 もっとも、労組法7条2号の趣旨に照らせば、使用者の判断のみによって団体交渉を拒否し得るものとすることは相当でない。
 したがって、使用者が、過去の団体交渉における労組側の不相当な言動をもって、その言動をしないことの確約がなければ団体交渉に応じないとの対応をすることが許容される余地があるとしても、その対応について「正当な理由」(労組法7条2号)があるといえるためには、団体交渉その他の使用者と労組との交渉における態様等諸般の事情を考慮し、労組側の言動が社会通念の許容する正当な権利行使の範囲を逸脱するものであり、将来の団体交渉においても同様の言動がなされる蓋然性が高いと認められることを要すると解するのが相当である。
イ これを本件についてみるに、組合の東京都本部副委員長であったA6は、計3回の団体交渉において、机を叩いたり、強い口調で必要以上に大きな声を出したり、Xの代理人弁護士に発言権はないなどと述べてXの代理人弁護士の発言を遮ったりすることを繰り返したことが認められる。A6の上記各言動は、Xに対し要求を通そうとする場面や、Xの代理人弁護士が発言しようとした場面、組合側が追及を受けた場面にみられ、A6が自己の主張を通そうとしてしたものと推察されるところ、団体交渉として求められる誠実で平和的かつ秩序ある方法とはいえず、団体交渉における言動としての相当性を欠くものである。
 また、団体交渉において、当事者が自ら発言するか、当事者から委任を受けた弁護士が発言するかは、当該当事者に委ねられたことであり、当事者から委任を受けた弁護士が当該当事者の発言を止めることもまた、当該当事者に委ねられたことである。したがって、相手方において、当事者が自ら発言せず、委任を受けた弁護士が発言しようとしたからといって、その発言を認めないと主張したり、その発言を遮ったりするような言動もまた、団体交渉における言動としての相当性を欠くものである。
 さらに、本件団体交渉ではXの代理人弁護士が発言する場面が多数あったところ、一部場面を除き、組合がXの代理人弁護士の発言を認めないなどと述べたことは認められないのであって、このことからも、A6が組合の都合に応じてXの代理人弁護士の発言を妨げたものと評価せざるを得ず、このような言動は、団体交渉における誠実さを欠き、団体交渉における言動としての相当性を欠くといわざるを得ない。
 加えて、A6の上記各言動は、各回約90分のうち各数分程度に及び、長いものでは合計約9分だったことを考えると、相当執拗に繰り返されていたもので、その限りにおいては、A6に誠実に団体交渉を行う意思があったのか、疑問を抱かせるものといわざるを得ない。XがA6の上記各言動を問題視することは理解できる。
 そうであるとしても、A6による上記各言動も、一定の時間の経過後には概ね収まっていて、その前後には、団体交渉としての一定の交渉や議論がなされており、上記各回の団体交渉の終了時には次回の団体交渉に向けた調整がされているのであって、本件団体交渉は、全体としてみれば、団体交渉としての実質を失うことなく進行していたと評価できる。
 そうすると、A6による上記各言動があったことを踏まえても、本件団体交渉における組合側の言動は、全体としてみれば労組側の言動として社会通念の許容する正当な権利行使の範囲を逸脱するものとまではいえないし、将来の団体交渉において、労組側の言動として社会通念の許容する正当な権利行使の範囲を逸脱する態様の言動がなされる高度の蓋然性が認められるともいえない。
 したがって、Xが、A6による上記各言動を前提として、本件確約がなければ団体交渉に応じないとした対応に「正当な理由」(労組法7条2号)があるということはできない。
2 結論
 以上によれば、本件救済命令は適法であって、Xの請求は理由がないからこれを棄却する。 
その他   

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顛末情報
事件番号/行訴番号 命令区分/判決区分 命令年月日/判決年月日
神奈川県労委令和4年(不)第1号 全部救済 令和5年4月21日
 
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