労働委員会命令データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  神奈川県労委令和3年(不)第16号
ハートフル記念会不当労働行為審査事件 
申立人  X組合(組合) 
被申立人  Y法人(法人) 
命令年月日  令和4年4月8日 
命令区分  一部救済 
重要度   
事件概要   本件は、①法人が、組合と協議せずに、相互で確認していた「確認書」記載の労働協約の解約を通知したこと、②C1施設に掲示板を設置しないこと及びD施設の掲示板を利用させないこと、③組合が団体交渉を申し入れたところ、法人が、事務折衝の担当者を分会長A以外とするよう求めたことが不当労働行為に当たる、として救済申立てがなされた事案である。
 神奈川県労働委員会は、①について労働組合法第7条第3号に該当する不当労働行為であると判断し、法人に対し、労働協約の解約がなかったものとしての取扱い及び文書交付を命じ、その余の申立てを棄却した。 
命令主文  1 法人は、令和3年2月19日付けで行った、組合と法人との平成21年8月21日付け「確認書」記載の労働協約の解約をなかったものとして取り扱わなければならない。
2 法人は、本命令受領後、速やかに下記の文書を組合に交付しなければならない。
 当法人が、令和3年2月19日付けで行った、平成21年8月21日付け「確認書」記載の労働協約の解約は、労働組合法第7条第3号に該当する不当労働行為であると神奈川県労働委員会において認定されました。
 今後、このような行為を繰り返さないようにいたします。
  
令和 年 月 日
 X組合
  分会長 A殿
Y法人      
理事長 B
3 その余の申立てを棄却する。 
判断の要旨  1 本件申立てが、労働委員会規則第33条第1項第7号に定める「申立人の所在が知れないとき」に該当するか否か(争点1)

 労働委員会規則第33条第1項第7号に規定される「申立人の所在が知れないとき」とは、一般に、労働委員会と申立人とが連絡不能であるときをいい、このような場合は申立人が当初の救済を求める意思を放棄したものと認められ、申立ては却下を免れない。
 組合は、連絡先として「横浜市神奈川区M町○丁目○-○-○」を当委員会へ申し出ており、実際に当該住所へ郵便物は届いていることから、当委員会と組合とが連絡を取ることは可能であり、同号に規定される「申立人の所在が知れないとき」には当たらない。

2 法人が、平成21年8月21日付け「確認書」を解約したことは、労組法第7条第3号に該当する支配介入に当たるか否か(争点2)

(1)平成21年8月21日付け「確認書」(以下「21.8.21確認書」)には、組合掲示板の使用等の便宜供与について記載されており、同書の内容で組合と法人との間で労働協約が締結されたものと解される(以下「本件協約」という)。本件協約によって組合の使用が認められた掲示板は、組合の存立・維持・運営を図るうえで必要不可欠な組合活動の一環として組合と組合員との連絡や情宣活動等に用いられるものであるから、本件協約を解約することは、組合の存立・維持・運営に大きな支障をきたすことは避けられない。
 したがって、労組法上、有効期間の定めがない労働協約について、当事者の一方から解約することが認められているとしても、使用者が長期間にわたって便宜供与を認めてきた労働協約を合理的な理由なく一方的に解約するような場合には、組合組織の弱体化を意図した支配介入に当たるものと解される。

(2)法人は、本件協約を解約するに至った理由として、令和3年3月9日付け回答書(以下「3.3.9回答書」)において、21.8.21確認書に押印された代表者印の真偽に疑いがあることや同書の記載内容が現在の状況と全くそぐわないこと等を述べている。
 しかし、本件協約の有効性に疑義があるのなら、有効性を疑う根拠について主張した上で組合と協議することは可能であるところ、法人が本件協約の有効性について組合と協議したことは、証拠上認められない。
 また、21.8.21確認書の内容が現在の状況に合致するよう、本件協約の改廃について組合と労使協議することは可能である。しかしながら、法人は令和3年2月19日付け解約通知よりも前に、本件協約に基づく便宜供与の在り方について組合との協議の機会をまったく設けないまま、本件協約を一方的に解約している。

(3)本件協約に基づく組合の掲示板の使用については、業務上の支障が生じたなどの事情が(法人から)主張されていないなど、解約通知の時点で、本件協約を解約すべき業務上の必要性及び緊急性といった合理的な理由を見いだすことができない。
 それにもかかわらず、法人は、いっさい労使協議を経ることなく、本件協約を一方的に解約するに至っている。したがって、法人が21.8.21確認書を一方的に解約したことは、組合組織の弱体化の意図のもとに行われた労組法第7条第3号の支配介入に当たると解される。

3 法人が、C1施設へ掲示板を設置しないこと及びD施設の掲示板を利用させないことは、労組法第7条第3号に該当する支配介入に当たるか否か(争点3)

(1)C1施設に掲示板が設置されず、組合が掲示板を利用できないことについて

 C0施設掲示板を所有するのは組合であるところ〔注 C0施設は、令和2年12月に移転し、「C1施設」に名称変更。C0施設の掲示板は移転に際し取り外され、組合が保管〕、本件協約の内容にはC1施設に掲示板を設置することは含まれていないし、C0施設に掲示板が設置されていたとはいえ、C0施設とC1施設とは物理的に異なる施設であるから、C1施設に掲示板を設置するには、掲示板の設置場所や使用方法について、施設管理権を持つ法人との協議や交渉が必要と解される。
 組合が令和3年1月20日付け文書において、C1施設に掲示板を設置するよう要求したことに対し、法人は3.3.9回答書において、本件協約に基づく便宜供与について実情に即した内容になるよう組合と協議したい旨述べている。また、組合は同年3月19日付け文書(以下「3.3.19文書」)において、実情を踏まえた労働協約の改定をすることは否定しないと述べたものの、その後、法人が同年4月6日付け回答書において提案したリモート方式の団体交渉に組合が消極的であったため、本件結審日時点において、C1施設の掲示板についての協議や交渉が実現していない。
 元来、憲法第28条の保障する団体交渉権は、使用者と労働組合が対面で協議や交渉を行うことを想定しており、したがって、たとえば使用者が書面の往復や電話などを通じて協議や交渉を行うことに固執して対面の団体交渉を拒否することは、原則として労組法第7条第2号に該当する正当な理由のない団体交渉の拒否があったものと解される。ただし、当事者が遠隔地に居住し対面での団体交渉を行うことが客観的に困難であるなどの合理的な理由がある場合には、例外的に使用者がリモート方式等の非対面の団体交渉を求めたとしても、ただちに団体交渉の拒否があったものとは解されない場合がありうる。
 本件においては、組合が3.3.19文書で団体交渉を申し入れた時点における新型コロナウイルスの感染状況、法人が老人福祉施設を運営していること、組合員が介護や入居者家族の相談業務に従事していること等を勘案すると、施設内での感染拡大を危惧した法人が、リモート方式での団体交渉を希望したことに一定の合理的な理由があることは否定できない。したがって、組合が早期の解決を望むのであれば、当面の対応としてリモート方式の協議や交渉をまずは行うという選択肢があったといえるが、組合は、「労働委員会の本件に対する見解を得た上でないと実質的な話合いは不可能と考える」等としてリモート方式の団体交渉に消極的であり、このことが問題が解決しなかった一因であることは否定できない。
 したがって、C1施設に掲示板が設置されず、組合が掲示板を利用できなかったことが、ただちに法人の組合の運営に対する支配介入によるものということはできない。

(2)法人が、D施設の掲示板を利用させないことについて

ア 法人は、本件立入り制限(令和2年3月下旬からの新型コロナウイルスの感染拡大を理由とする全ての施設への利用者及び当該施設で働く従業員以外の立入りの制限等をいう)により、施設内への人流を制限している。D施設には組合員が勤務していないから、本件立入り制限によって、組合員がD施設の掲示板に組合新聞等を掲示すること等が、従前と同様にはできない状態となっている。
 しかし、法人が老人福祉施設を運営していること及び本件立入り制限がなされた令和2年3月下旬から4月上旬当時の新型コロナウイルスの感染状況に鑑みると、一定の者の立入りの制限することには相応の理由がある。また、人が本件立入り制限の対象とした施設は法人が運営する全ての施設であるから、組合員がいないD施設を狙い撃ちにしたものとはいえない。これらのことから、法人が本件立入り制限をしたことは、組合を弱体化することを企図してなされたものとはいえず、組合の運営に対する支配介入に当たらない。

イ 組合は、新型コロナウイルス感染防止策を講じた上でD施設の掲示板利用を引き続き認めることは可能であり、全面的に同掲示板の利用を認めないことは合理的な理由がないと主張する。
 確かに、本件立入り制限を前提とするとしても、何らかの方法で組合がD施設の掲示板を使用する方法は考えられるから、本件立入り制限後のD施設の掲示板の利用方法については、新型コロナウイルスの感染拡大防止を踏まえ、労使間の協議や交渉によって決定することが妥当である。しかしながら、法人が提案したリモート方式の団体交渉に組合が消極的であったため、協議や交渉が実現しなかったものであり、前記(1)と同様に、リモート方式の団体交渉に消極的であった組合にも、問題が解決しなかった責任の一因があることは否定できない。
 したがって、法人により、D施設の掲示板を利用させない状態としたとまでは認められない。

(3)以上のとおり、法人がC1施設の掲示板を設置しないこと及びD施設の掲示板を利用させないことは、労組法第7条第3号に該当する組合の運営に対する支配介入には当たらない。

4 法人が、3.3.9回答書において、分会長A以外の者を事務折衝担当者として選任して欲しいと要望したことは、労組法第7条第3号に該当する支配介入に当たるか否か(争点4)

 本来、事務折衝においていかなる者を組合側の担当者とするかは、組合が自主的に決定すべき団結自治に関わる事柄であるから、使用者は原則としてそれに介入することは許されない。とはいえ、本件におけるように交渉議題が多岐にわたり、団体交渉における議論が錯綜することが予想される場合には、交渉議題の事前の整理は団体交渉の円滑化に資するといえるし、そうした目的から、使用者が事務折衝の担当者について意見を述べたからといって、そのこと自体が直ちに組合組織の弱体化を意図したものと解することはできない。
 これらのことから、法人が、分会長A以外の者を事務折衝担当者として選任してほしいと要望したことは、労組法第7条第3号に該当する支配介入には当たらない。 
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