労働委員会裁判例データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  横浜地裁令和4年(行ウ)第40号
ハートフル記念会不当労働行為救済命令取消請求事件 
原告  X法人(「法人」) 
被告  神奈川県(代表者兼処分行政庁 神奈川県労働委員会) 
補助参加人  Z組合(「組合」) 
判決年月日  令和6年5月29日 
判決区分  棄却 
重要度   
事件概要  1 本件は、①法人が、組合と協議せずに、相互で確認していた「確認書」記載の労働協約の解約を通知したこと、②B1施設に掲示板を設置しないこと及びB2施設の掲示板を利用させないこと、③組合が団体交渉を申し入れたところ、法人が、事務折衝の担当者をA分会長以外とするよう求めたことが不当労働行為に当たる、として救済申立てがなされた事案である。

2 神奈川県労働委員会は、①について労働組合法第7条第3号に該当する不当労働行為であると判断し、法人に対し、労働協約の解約がなかったものとしての取扱い及び文書交付を命じ、その余の申立てを棄却した。

3 法人は、これを不服として横浜地裁に行政訴訟を提起したところ、同地裁は、法人の請求を棄却した。  
判決主文  1 原告の請求を棄却する。

2 訴訟費用及び補助参加費用は原告の負担とする。 
判決の要旨  1 争点1(本件救済申立ての労働委員会規則33条1項7号該当性)について
 組合は、本件救済申立事件において、神奈川県労委に対し、その指示により、郵便物を受け取るための連絡先を伝えており、その連絡先に神奈川県労委からの郵便物が届いていることが認められる。
 したがって、神奈川県労委と組合は、本件救済申立事件において連絡不能であったとはいえず、本件救済申立ては労働委員会規則33条1項7号の「申立人の所在が知れないとき」には該当しない。

2 争点2(法人による本件協約の解約が労組法7条3号の不当労働行為に当たるかどうか)について
(1) 法人は、組合からB1への掲示板設置の要求をされ、更にその要求に1週間以内に回答するよう求められたのに対して、法人の施設における掲示板使用の根拠となる本件協約につき解約予告の通知をしている。また、法人は、本件協約の解約理由として、本件確認書に押印された法人代表者印が真正なものではないこと及び本件協約の内容が現状を反映していないことを理由としているところ、法人は、組合からB1への掲示板設置の要求をされてから本件解約予告通知をするまでの間に、上記法人代表者印の真偽や本件協約の内容変更について組合と協議をしていない。そして、法人が12年間の長期にわたり存在してきた本件協約を直ちに解約しなければならない合理的な理由もうかがわれない。
 本件協約の解約により、組合は、法人から掲示板の使用等の便宜供与を受けられなくなる可能性が生じ、ひいては組合の運営に支障を生じる結果となり得ることを踏まえると、法人が上記のとおり組合と協議することも合理的理由もなく一方的に本件協約を解約したことは、組合の組織を弱体化させる意図のもとにされた支配介入であり、労組法7条3号の不当労働行為に当たるというべきである。

(2) これに対し、法人は、組合に対し、令和3年3月9日付け回答書を送付して、本件解約予告通知によりもうけられた90日の猶予期間内に、組合と協議する意向を示しているにもかかわらず、本件命令部分(本件救済命令のうち、取消訴訟の対象となっている部分)に関しては、この重要な事実が考慮されていない旨主張する。
 しかし、本件解約予告通知書は、その記載内容を見ると、法人が労組法15条3項の規定に基づき本件確認書の解約を予告し、その効力発生日が同条4項の規定に基づき90日後であることを示したものにとどまり、猶予期間内に組合と協議する意思を示したものとはいえない。また、法人は、令和3年3月9日付け回答書において、組合と協議する意思を示しているものの、組合からの本件解約予告通知の撤回要求には応じておらず、その後、組合からの再度の撤回要求にも応じていないから、法人は、本件解約予告通知後も、本件協約を少なくともいったん解約する意向を変えていないというべきである。
 そして、本件解約予告通知によって猶予期間経過後には本件協約が解約される状況にあり、現に新たな協約が締結されることなく猶予期間が経過したことも考慮すると、法人が主張する上記事情によって、本件協約の解約が不当労働行為に当たるとの判断に誤りがあるとはいえず、法人の上記主張は、結論に影響を及ぼすものではない。

3 争点3(本件命令部分に係る裁量権の逸脱又は濫用の有無)について
 法人は、本件命令部分は、法人に対し、本件協約の解約をなかったものとして取り扱うことを命じ、実情を反映していない本件確認書全体の効力を再度発生させるものであり、正常な集団的労使関係の回復を図るための最小限の手段とはいえず、著しく不合理なものであるから、その内容が裁量権の逸脱又は濫用に当たる旨主張する。
 本件においては、本件協約の解約予告により、法人と組合の労使関係の悪化がより深刻化したものと認められるから、正常な集団的労使関係秩序の迅速な回復を図るための端的かつ最小限の手段として、本件協約の解約がなかったものとして取り扱う、すなわち法人と組合が改めて本件協約の改訂について協議をすることができる状態に戻す措置は合理性を有するというベきであり、少なくとも不合理とはいえない。
 したがって、本件命令部分は、裁量権を逸脱又は濫用するものということはできない。

4 争点4(本件命令部分に係る手続上の違法の有無)について
(1) 法人は、本件救済申立事件において、本件協約に基づく組合の掲示板使用による法人の業務上の支障については、法人と組合の間で全く争点化されておらず、主張が尽くされていない事由であったのに、かかる事由を法人による支配介入を認めるための主たる理由の一つとした本件命令部分には、手続上の違法がある旨主張する。
 証拠によれば、本件命令部分に関しては、法人の本件協約に基づく便宜供与について法人に業務上の支障はなかった旨認定されている。
 しかし、本件救済申立事件において、本件解約予告通知が労組法7条3号の不当労働行為に当たるかどうかを判断するに当たり、本件協約に基づく組合の掲示板使用による法人の業務上の支障については、法人が第一次的には主張立証すべきことというべきである。そうであるとすれば、本件救済申立事件の審査において、法人から、組合の掲示板使用により業務上の支障が生じたとの事情は主張立証されなかったことを踏まえて、業務上の支障がなかったと認定したことに手続上の違法があるとはいえない。

(2) 法人は、本件命令部分に関し、本件協約に基づく組合の掲示板使用について業務上の支障が生じたなどの事情が主張されていないとの事実が認定されているとすれば、当事者が主張していない事実が認定されたものであり、本件命令部分は、弁論主義に反し違法である旨主張する。
 しかし、労働委員会の不当労働行為審査手続は、その結果が公益にも影響を及ぼすものであり、弁論主義は妥当しないと解されるから、法人の上記主張は理由がない。

5 結論
 よって、法人の請求は理由がないからこれを棄却する。 
その他   

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顛末情報
事件番号/行訴番号 命令区分/判決区分 命令年月日/判決年月日
神奈川県労委令和3年(不)第16号 一部救済 令和4年4月8日
東京高裁令和6年(行コ)第180号 棄却 令和6年12月19日
 
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