労働委員会裁判例データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  東京高裁令和6年(行コ)第180号
ハートフル記念会不当労働行為救済命令取消請求控訴事件 
控訴人  X法人(「法人」) 
被控訴人  神奈川県(代表者兼処分行政庁 神奈川県労働委員会) 
被控訴人補助参加人  Z組合(「組合」) 
判決年月日  令和6年12月19日 
判決区分  棄却 
重要度   
事件概要  1 本件は、①法人が、組合と協議せずに、相互で確認していた平成21年8月21日付け「確認書」(本件確認書)記載の労働協約(本件協約)の解約を通知した(本件解約予告通知)こと、②法人が、B1施設に掲示板を設置しないこと及びB2施設の掲示板を利用させないこと、③組合が団体交渉を申し入れたところ、法人が、事務折衝の担当者をA分会長以外とするよう求めたことが不当労働行為に当たる、として救済申立てがなされた事案である。

2 神奈川県労委は、①について労組法7条3号に該当する不当労働行為と判断し、法人に対し、本件協約の解約がなかったものとしての取扱い及び文書交付を命じ、その余の申立てを棄却した。

3 法人はこれを不服として横浜地裁に行政訴訟を提起したところ、同地裁は法人の請求を棄却した。

4 法人はこれを不服として東京高裁に控訴したところ、同高裁は控訴を棄却した。
 
判決主文  1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用(補助参加によって生じた費用を含む。)は控訴人の負担とする。
 
判決の要旨  1 当裁判所も、法人の本件請求は理由がないと判断する。その理由は、次のとおり原判決を補正し(略)、後記2において当審における法人の補充主張に対する判断を加えるほかは、原判決のとおりであるから、これを引用する。

2 当審における法人の補充主張に対する判断
(1) 本件確認書が真正に成立したとは認められないとの主張について
ア 法人は、組合が提出する鑑定結果回答書は、法人が提出する簡易印影鑑定書と比較して本件確認書の法人押印部分の印影に関する評価が真逆だと指摘し、上記回答書で用いられた鑑定資料の法人押印部分の印影は本件確認書の法人押印部分の印影と同一ではない疑いがあるなどと主張する。
 本件確認書の法人押印部分の印影に関し、上記回答書と上記鑑定書の記載のちがいは、印影の鮮明さに関する各鑑定者の主観的評価を示したものにすぎない上、上記鑑定書の鑑定資料(本件確認書)はデジタルデータとされていることにも照らすと、上記各評価の相違が、鑑定資料となる印影の同一性に疑義を生じさせるほどの事情になるとはいえない。
イ 法人は、本件確認書には、組合による年間の施設設備及び施設備品の利用料を2万円とする旨記載されているが、それでは法人に多額の負担を強いることになり、不合理である旨主張する。
 しかし、平成16年頃以降、数百枚以上の印刷がされた記録が残されているところ、法人としても、本件確認書を作成する前から、組合活動に伴って相当量の「印刷」がされることを容認していたと考えられる。そうすると、本件確認書において、印刷機の利用を含めて、組合による年間の施設設備及び施設備品の利用料を2万円と定めたことが直ちに不合理な取り決めであったとはいい難い。
ウ 法人は、本件確認書の内容は、組合による法人の施設設備及び施設備品の利用実態と合致しない部分も多々ある旨主張し、本件確認書に記載された年間の施設設備及び施設備品の利用料2万円は1回しか支払われていないなどと指摘する。
 しかし組合は、平成23年11月、法人に2万円を支払ったほか、A分会長が、平成26年3月頃、法人に利用料2年分の4万円を支払う旨申し出て本件確認書写しを提示したが、法人がその受領を拒否し、結果的に利用料2万円が1回しか支払われていないことをもって、本件確認書の内容が実態と合致しないことを裏付ける事情になるとまでは評価し難い。

(2) 本件協約の解約は労組法7条3号の不当労働行為に当たらないとの主張について
 法人は、本件協約が解約されても掲示板や印刷機が利用できなくなるものではなく、組合活動に支障は出ないから、本件協約の解約が支配介入に該当する余地はない旨主張する。
 しかし、本件確認書の作成以前に掲示板や印刷機の利用が認められたことがあったとしても、本件確認書において、改めて組合が掲示板及び印刷機を利用できる旨の定めが置かれたもので、法人は現時点において本件確認書は現状を反映していないなどとしてその内容に疑問を呈していることからすると、法人が、本件協約が解約された場合にも当然にそれらの利用を認めるかは疑問である。かえって法人としては、本件協約の解約によって掲示板、印刷機等の利用を当然には認めない趣旨であると理解するのが自然である。
 したがって、法人の上記主張は採用できない。
 また法人は、新たな協約が締結されることなく本件解約予告通知の猶予期間(令和3年5月20日まで)が経過したのは、法人の同年4月6日付け回答書に対し組合が回答せず交渉を打ち切ったからにすぎないとも主張する。
 しかし、組合が法人に対し、本件協約の解約は不当労働行為に当たるとの前提から、直ちにこれを撤回した上で実情を踏まえた協約の改訂を行う余地があるとしていたのに対し、法人は、本件解約予告通知後も、本件確認書の成立の真正を強く争い、本件協約を少なくとも一旦解約する意向を変えず、同年4月6日の回答書にも本件解約予告通知の撤回申入れには何ら回答していなかったのであり、この経過は原判決で説示したとおりである。
 以上の経過によると、法人が、組合の申入れに対し解約の主張を維持して何らの回答をしなかったことは合理的な対応といえず、上記主張には理由がない。

3 以上によれば、法人の請求を棄却した原判決は相当であって、本件控訴は理由がないからこれを棄却する。 
その他   

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顛末情報
事件番号/行訴番号 命令区分/判決区分 命令年月日/判決年月日
神奈川県労委令和3年(不)第16号 一部救済 令和4年4月8日
横浜地裁令和4年(行ウ)第40号 棄却 令和6年5月29日
 
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