労働委員会命令データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  大阪府労委令和3年(不)第9号
不当労働行為審査事件 
申立人  X組合(組合) 
被申立人  Y会社(会社) 
命令年月日  令和4年8月1日 
命令区分  棄却 
重要度   
事件概要   本件は、組合が、現職死亡した組合員に関する事項についての団体交渉を申し入れたところ、会社がこれに応じなかったことが不当労働行為に当たる、として救済申立てがなされた事案である。
 大阪府労働委員会は、申立てを棄却した。 
命令主文   本件申立てを棄却する。 
判断の要旨  1 認定によれば、①組合は会社に対し、令和2年11月4日団交申入れ(以下「団交申入れ」)を行ったこと、②これに対し、会社は、2年11月17日会社回答書(以下「回答書」)により、2年10月14日会合で十分な説明を尽くしており、さらなる団交の必要はないものと考えている旨等を回答したことが認められる。
 そこで、会社が団交申入れに関する団交に応じていないことに正当な理由があるか否かについて、以下検討する。

2 会社は、団交申入れの要求事項は、義務的団交事項に当たらない旨主張するので、以下その点についてみる。

(1)認定によれば、団交申入れの団交事項は、「A組合員の死亡原因の解明」であり、団交申入書に記載された、A組合員についてのマスタースケジュールの提示等の要求事項は、その「A組合員の死亡原因の解明」の手段として求めたものであったということができる。

(2)この点について、会社は、死亡した労働者の「死亡原因の解明」という団交事項は、「労働者の待遇や労使関係上のルールについて合意を達成する」という団交制度の趣旨・目的に照らし、義務的団交事項に当たらないことは明白である旨主張し、組合は、A組合員の在職中死亡事案の原因を解明することは労働組合の義務と考え、団交を申し入れたのであり、会社の責任を明確にし、働きやすい職場にしようとすることは労働組合の当然の要求である旨主張する。
 ところで、使用者が団交を行うことを労働組合法によって義務づけられている事項(義務的団交事項)とは、労働組合の構成員たる労働者の労働条件その他の待遇や当該団体的労使関係の運営に関する事項であって、使用者に処分可能なものをいうものと解されるところ、「A組合員の死亡原因の解明」は、組合員の労働条件その他の待遇に関する事項でもなく、当該団体的労使関係の運営に関する事項でもないことは明らかであり、その点からいえば、団交申入れの団交事項は義務的団交事項であるとは認められない。
 しかしながら、組合が、「A組合員の死亡原因の解明」を追求することを通じて、会社における職場環境の改善を目指していたとみることができれば、当該団交事項が義務的団交事項に当たると解釈することも可能であるといえるところ、組合の主張の中にも「職場環境を守る立場の労働組合」や「残された労働者の職場環境を改善する」などの表現があり、それを意図していたと読み取ることは可能である。
 ただし、そのように解釈した場合においても、当該団交事項が、申立人組合との関係で義務的団交事項に当たるか否かの判断には、団交申入れ時点で、団交により職場環境の改善を求めるべき申立人組合の組合員が、会社に存在していたか否かが関わってくるため、以下その点についてみる。

ア 組合は、会社に現に雇用される組合員が存在しない場合でも、会社が団交申入れに応じる義務がある旨、組合に加入している会社の従業員の有無で団交応諾義務の有無を判断することはできない旨主張するが、そもそも使用者が労働組合との間で団交を義務付けられるのは、原則として当該労働組合の組合員に係る労働条件等についてであり、非組合員の労働条件等はそれ自体としては団体交渉権の範囲外である。
 なお、組合は、会社の社員のうち誰が組合員であるかを確定することは、団交の必須条件ではない旨主張し、会社の従業員の中に、死亡したA組合員以外の組合員が存在したか否かについて明らかにしていない。
 しかし、団交は、使用者とその雇用する労働者の属する労働組合との間で行われるものであるから、団交を申し入れる以上は団交事項の対象を特定する上でも、組合は会社に対し、少なくとも1名以上の組合員が、会社が雇用する労働者の中に存在することを明らかにする必要があるというべきであるところ、会社が回答書において、A組合員以外の組合員が会社に所属していない旨の主張をしていることが認められるのに対し、組合が何らかの反論をしたことは認められないという状況にある以上、会社が団交申入れに関する団交に応じなかったことには正当な理由があったといわざるを得ない。

イ 組合は、①C会社とそのグループ会社とは、人的、資本的に密接なつながりがあり、C会社は、グループ会社の経営に支配力や影響力を行使することを通じて、グループ会社の雇用、賃金その他の労働条件に影響を及ぼしており、会社やD会社は、法人格としては「別会社」に峻別されるかもしれないが、あくまでもC会社を構成するグループ会社の一つであって、これらは本質的には単一の会社である旨、②D会社には組合員が存在しており、同じC会社を構成するD会社と会社は「別会社」ではないので、会社には組合に加入している社員が存在しないから団交応諾義務がないという会社の論理は成立しない旨主張する。
 しかしながら、C会社による資本関係や役員派遣等を通じた関与は、企業グループにおける経営戦略的な観点から親会社が子会社に対して行う管理、監督の域を超えるものであったとまでは認められず、組合の上記①の主張は認められない。その上、D会社に組合員が存在することを理由として、本件団交申入れに対する団交応諾義務が会社に発生するというためには、会社における職場環境がD会社の職場環境を決定しているなど、会社が、D会社で就労する労働者に対し雇用主と同視できる程度に現実的かつ具体的に支配決定できる地位にあるなどの事情が必要であるところ、組合からこのような事情に関する具体的な疎明はなく、組合の上記②の主張についても採用することはできない。

ウ 以上のとおり、本件団交申入れの団交事項を、会社の職場環境の改善に係るものと解したとしても、それが会社にとって義務的団交事項に当たると判断することはできない。

(3)なお、組合は、会社回答書で、会社自身が令和2年10月14日会合は団交であったという理解の上で、「さらなる団体交渉の開催」については拒否をしており、令和2年10月 14日会合という第1回団交を経て、会社は都合が悪くなったので、団交を打ち切ったというのが事実である旨も主張しているところ、確かに、会社は、会社回答書で当該会合を「団交」と呼んでおり、次回以降団交に応じる義務はない旨回答したことが認められる。しかしながら、会社が会社回答書で当該会合をどのように表現していたとしても、本件団交申入れの団交事項が義務的団交事項とは認められない状況においては、会社が一度任意で交渉に応じたからといって、その後も交渉を継続する義務があるとまではいえない。よって、当該事情は会社の団交応諾義務の判断を左右するものではなく、組合の主張は採用できない。

(4)以上のとおりであるから、組合の本件団交申入れの団交事項は、それが、A組合員の死亡原因の解明そのものである場合はもちろん、会社における職場環境の改善を目的としたものと解釈した場合においても、本件団交申入れ時においてAは死亡しており、Aの他に会社に現に雇用されている組合員がいることの疎明もないという状況においては、義務的団交事項とは認められず、会社には団交応諾義務はないというべきである。
 よって、組合の本件団交申入れに対する会社の対応は、正当な理由のない団交拒否に当たらず、また、組合に対する支配介入に当たると認めることもできず、この点に関する組合の申立ては棄却する。 
掲載文献   

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顛末情報
事件番号/行訴番号 命令区分/判決区分 命令年月日/判決年月日
大阪地裁令和5年(行ウ)第15号 棄却 令和5年10月26日
 
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