労働委員会裁判例データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  大阪地裁令和5年(行ウ)第15号
不当労働行為救済申立棄却命令取消請求事件 
原告  X組合(「組合」) 
被告  大阪府(代表者兼処分行政庁 大阪府労働委員会) 
被告参加人  株式会社Z(「会社」) 
判決年月日  令和5年10月26日 
判決区分  棄却 
重要度   
事件概要  1 本件は、組合が、現職死亡した組合員に関する事項(以下「本件各申入事項」という。)についての団体交渉を申し入れたところ、会社がこれに応じなかったことが労組法7条2号及び3号の不当労働行為に当たる、として救済申立てがなされた事案である。
2 大阪府労委は、申立てを棄却した。
3 組合は、これを不服として大阪地裁に行政訴訟を提起したところ、同地裁は、組合の請求を棄却した。
 
判決主文  1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用(参加によって生じた費用を含む。)は原告の負担とする。
 
判決の要旨  1 判断枠組み

 労組法7条2号は、使用者が雇用する労働者の代表者と団体交渉をすることを正当な理由なく拒むことを不当労働行為として禁止しているところ、これは、使用者に労働者の団体の代表者との交渉を義務付けることにより、労働条件等に関する問題について労働者の団結力を背景とした交渉力を強化し、労使対等の立場で行う自主的交渉による解決を促進し、もって労働者の団体交渉権(憲法28条)を実質的に保障しようとしたものと解される。
 このような労組法7条2号の趣旨に照らすと、誠実な団体交渉が義務付けられる義務的団交事項とは、労働組合の構成員である労働者の労働条件その他の待遇や団体的労使関係の運営に関する事項であって、使用者に処分可能なものをいうと解するのが相当である。

2 検討

(1) 本件各申入事項が義務的団交事項に当たるかについて

 本件各申入事項は、A組合員の死亡が業務に起因する可能性があるとして、A組合員の就労状況や死亡原因を解明するために、A組合員の就労状況に関する資料の開示、パワハラの有無に関する再調査やコロナ発生前後及びダイヤ改正前後における作業内容の変化の有無等を求めるものである。
 しかし、本件申入れ時点において、A組合員は既に死亡しており、もはや組合に会社の社員である組合員は存在しなかったから、本件各申入事項は、A組合員の死亡原因の解明等を目的とするものと解しても、会社における将来の労働条件の維持改善を目的とするものと解しても、組合の組合員の労働条件その他の待遇には当たらず、もとより団体的労使関係の運営に関する事項に当たらないから、本件各申入事項は、いずれも義務的団交事項に当たらないというべきである。

(2) 組合の主張の検討

ア 「団体交渉の目的は、労働協約締結や具体的要求に直接向けられたものに限定されるものではなく、労使が相手方に経過説明等を求め、相互の意思疎通の手段としても重要な役割がある。A組合員の死亡は業務に起因する可能性があり、労働条件の維持改善のため、その就労状況及び死亡原因の解明は組合及び組合の組合員らの重大な関心事項である。」とする組合の主張について

 任意的団体交渉を含む団体交渉の意義と義務的団交事項の範囲とは別の問題であり、団体交渉の意義から直ちに義務的団交事項の範囲が導かれるものではなく、A組合員の就労状況や死亡原因の解明が組合及び組合の組合員の重大な関心事項であるからといって、直ちにそれが義務的団交事項に当たるということはできない。

イ 「A組合員は、死亡するまで会社に雇用されて就労していたものであり、死亡により雇用契約は終了するが、労災適用の可能性、安全配慮義務による損害賠償請求権発生の可能性が消滅するものではなく、解決すべき問題が一切消滅したとすることはできない。」とする組合の主張について

 A組合員の遺族は、A組合員の死亡について、労災申請をしない意向を有しており、会社に対する安全配慮義務違反による損害賠償請求権を行使する意向を有していることもうかがわれないから、A組合員に係る労災申請や安全配慮義務違反による損害賠償請求権が行使される可能性は極めて乏しく、組合の主張は前提を欠いている。
 この点を措き、A組合員の死亡に伴う個別の権利義務の承継の問題が生じ得るとしても、前記(1)で説示したところに照らすと、これが義務的団交事項に当たるということはできない。

ウ 「C1会社は、会社の株式を100%保有し、役員も派遣し、会社の経営を実質的に支配している。C1会社は、会社及び株式会社C2(以下「C2会社」という。)を含め、C1グループとして一体的な経営をしており、そのことを標榜している。会社やC2会社の主要な業務は、列車清掃であり、C1会社の鉄道運行そのものに組み込まれ、不可分のものである。C1会社は運行ダイヤを決定するが、これは直ちに会社及びC2会社の清掃業務に直接的に影響し、会社及びC2会社の労働者の労働条件、労働安全に関係する。これらのことからすると、C1会社と会社及びC2会社との関係は、経営戦略として行われる管理、監督の域にとどまるものではなく、直接的な支配というべきであり、C1グループと雇用される労働者の関係においては、労使関係の観点において一体性が認められる。」とする組合の主張について

 C1会社は、会社の株式を100%保有していること、C1会社で役員等を務めた者が会社の役員に就任していること、C1会社は、「駅・運輸サービス関係会社グループの再編について」と題するニュースリリースにおいて、グループ会社を再編し、C1会社及び当該グループ会社が一体となって、高品質なサービスを提供するよう努める意向を表明していることが認められるが、これらは、いずれも経営戦略の域を出るものではなく、C1会社と会社及びC2会社の経営が一体としてなされていることの根拠となるものではない。
 また、C1会社が列車の運行ダイヤを決定し、これが会社及びC2会社の清掃業務に直接影響を及ぼすことがあるとしても、そのことをもって、直ちに会社やC2会社の労働条件や労働安全に関する事項が決定付けられるものではなく、会社やC2会社はこれらを独自に決定し得るから、C1会社と会社及びC2会社の関係が労使関係の観点において一体とみることはできない。
 本件全証拠によっても、C1会社と会社及びC2会社が経営的に一体であるとか、労使関係の観点において一体であると認めることはできない。

エ したがって、組合の上記各主張はいずれも採用できない。

(3) まとめ

 以上のとおり、本件各申入事項は、いずれも義務的団交事項に当たらず、本件団交拒否が正当な理由のない団交拒否(労組法7条2号)に当たるということはできない。そして、上記説示に照らせば、本件団交拒否が支配介入(同条3号)に当たるという余地はない。
 したがって、本件棄却命令は適法である。

3 結論

 よって、組合の請求は理由がないから、これを棄却する。
 
その他   

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顛末情報
事件番号/行訴番号 命令区分/判決区分 命令年月日/判決年月日
大阪府労委令和3年(不)第9号 棄却 令和4年8月1日
 
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