労働委員会命令データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  大阪府労委令和元年(不)第41号
兵庫県/兵庫県立こども病院不当労働行為審査事件 
申立人  X1組合・X2分会(組合ら) 
被申立人  Y1県・Y2病院 
命令年月日  令和3年11月26日 
命令区分  一部救済 
重要度   
事件概要   本件は、Y1県及びY2病院が、地方公務員法の改正により令和2年4月から会計年度任用職員制度が導入されることによる非常勤職員等の労働条件の変更に関して、①職員に対する説明会において組合らとの交渉で交付した書面以上の内容が記載された資料により説明を行ったこと、②団体交渉において、交渉ではなく説明の場であるとして対応し、組合らと誠実に協議を行わなかったこと、③その後、同事項を協議事項とする団体交渉を開始しなかったこと、④同事項に関して、別組合とは団体交渉で合意するなどしたことがそれぞれ不当労働行為に当たる、として救済申立てがなされた事案である。
 大阪府労働委員会は、Y2病院に対する申立てに関し、同病院は不当労働行為命令の名宛人たる法律上独立した権利義務の帰属主体と認めることはできないとして却下した上で、Y1県に対する申立てに関し、②及び③について労働組合法第7条第2号に該当する不当労働行為であると判断し、Y1県に対し、文書の速やかな交付を命じ、その他の申立てを棄却した。 
命令主文  1 Y2病院に対する申立てを却下する
2 Y1県は、X1組合及びX2分会に対し、下記の文書を速やかに手交しなければならない。
 年 月 日
X1組合
 執行委員長 A1様
X2分会
 分会長   A2様
Y1県         
病院事業管理者 B

 当県が、令和元年9月4日に開催された団体交渉において誠実に対応しなかったこと及び同年10月1日以降、平成31年4月26日付け要求書に係る団体交渉を開催しなかったことは、大阪府労働委員会において労働組合法第7条第2項に該当する不当労働行為であると認められました。今後、このような行為を繰り返さないようにいたします。
3 組合らのその他の申立てを棄却する。 
判断の要旨  1 Y2病院は、被申立人適格を有するか(争点1)

 病院は地方公共団体たる県の設置する病院事業に係る組織の一つに過ぎず、不当労働行為救済命令の名宛人たる法律上独立した権利義務の帰属主体と認めることはできない。したがって病院に対する申立ては、その余を判断するまでもなく、労働委員会規則第33条第1項により却下する。
 なお、組合らは、朝日放送事件最高裁判決〔注 平成7年2月28日 最高裁判所第三小法廷判決〕を引用した主張も行なっているが、当該事件は、独立した権利義務の帰属主体ではない者の被申立人適格を問題とする本件とは事案が異なり、当該組合の主張は採用できない。

2 県らが、1.8.15説明会において1.8.7制度概要資料を配布し、同書面に基づく説明を行ったことは、組合らに対する支配介入に当たるか(争点2)

 組合らは、組合らに令和元年8月7日に開催された協議(以下「1.8.7協議」)で示された1.8.7協議資料(病院局)には看護補助職員の賃金しか記載されていなかったにもかかわらず、看護補助職員を対象として同年8月15日に開催された説明会(以下「1.8.15説明会」)において提示された1.8.7制度概要資料には行政職等の賃金も記載されており、このような県らの行為は、組合無視・否認に貫かれた団交権を否認する不当労働行為であると同時に、組合への信頼を失墜させ、職場労働者の団結を破壊する行為であり、支配介入に当たる旨主張する。
 しかし、組合の31.4.26要求書には、看護補助職員等の非常勤嘱託員に係る要求事項の記載があり、1.8.7協議は、組合らの組合員である労働者の労働条件等に関する説明・協議を行う場であったのだから、県が同協議において、看護補助職員を含む技能労務区分のみを記載した1.8.7協議資料(病院局)を配布し、説明を行ったことに問題があるともいえないし、実際、同協議において、組合らが技能労務職以外の区分の資料を求めた事実は認められない。
 一方、1.8.7制度概要資料は、県が、病院を含む全県立病院に対し、会計年度任用職員制度の対象職員である非正規職員に対して説明を行うよう依頼して配布したものである以上、全ての区分についての記載があるのは当然であるといえ、たまたま病院が6回行った説明会のうちの1回である1.8.15説明会における対象職員が看護補助職員であったとしても、全ての区分に関する記載がある資料を使用して説明することに何ら不自然な点はない。
 そうすると、県が1.8.15説明会において、1.8.7協議で組合に示したものとは異なる書面を用いて説明を行ったことについては、不合理とはいえないのであるから、組合らを無視及び否認し、組合らの団結力及び組織力等を損なうおそれのある行為であったとはいえず、したがって、組合に対する支配介入に当たるとはいえない。

3 1.9.4協議における県らの対応は、不誠実団交に当たるか(争点3)

(1)31.4.26要求書の要求事項が義務的団交事項に当たるか
 令和元年9月4日に県らと組合らとの間で行われた協議(以下「1.9.4協議」)が31.4.26要求書に記載された要求事項について行われた点については、当事者間で争いがないところ、県は、従来の看護補助職員業務に従事する者を会計年度任用職員として任用する行為は、新たに創設された職への新規の採用に該当するものであるから、義務的団交事項には該当しない旨を主張する。
 しかし、同要求書の要求事項は、任用根拠の変更により身分が変更されることを受けて、看護補助職員等が会計年度任用職員として任用された場合の労働条件に関すること等であったといえることなどからすると、同要求書の要求事項である看護補助職員等の会計年度任用職員として任用された場合の労働条件については、県が判断し、決定しうるものであり、県らが「使用者の裁量が認められない事由」とする事項を除けば、県が処分可能な事項であったといえる。
 さらに、県も看護補助職員らも、会計年度任用職員制度が導入される前から、病院の看護補助職員が令和2年4月1日以降も引き続き会計年度任用職員として任用される可能性が高いと考えていたとみることができ、実際に、数十名の看護補助職員のほとんどが会計年度任用職員として任用されていることからも継続して雇用される可能性は極めて高かったといえる。
 これらを総合的に勘案すると、形式的には令和2年4月以降の会計年度任用職員としての任用は、新たに創設された職への新規の任用ではあるが、実質的には、現在任用されている看護補助職員が、特に中断をはさむこともなく引き続き会計年度任用職員として任用される可能性が高く、31.4.26要求書の要求事項は、その次年度も任用される可能性が極めて高い看護補助職員である組合員の労働条件に関すること等であり、さらに県に処分可能な事項もあったのであるから、それらがいずれも義務的団交事項であることは明らかである。
 そして、同要求書の要求事項が義務的団交事項である以上、1.9.4協議は県らが主張するような説明会ではなく、団交であったといえる。県は、組合らが求めていたのは非組合員が参加する状況での協議ないし交渉であり、労働組合法上の「団交」とは認められない旨も主張するが、組合は、一貫して団交を求めていた旨主張しているのだから、当該県の主張も認められない。

(2)1.9.4協議のやり取りにおける県の各対応
 県は、組合らが求めた月額賃金が下がることの理由の説明は、一定行っているとみることができ、その説明に組合らが納得していないとしても、県が回答を拒否したとみることはできない。
 また、組合は「休暇・休業」についての説明も終わっていないのに、9月の県議会に提案する旨述べたことも問題視するが、1.9.4協議はその後、紛糾することなく終了しており、そもそも9月の県議会で提案、可決された条例には、県立病院の職員については、会計年度任用職員の給与の種類や「給与は、その職務と責任の特殊性及び職員の給与との均衡を考慮したものでなければならない」といった基準しか定められておらず、実際の給与表は令和2年3月末の「管理規程」によって決定されていたことを考え併せると、当該県の対応をもって、交渉が不十分なまま、結論を押し付けたものとみることもできない。

(3)1.9.4協議における県の交渉態度
 県は、1.9.4協議において、その議題は義務的団交事項に当たらず説明会である旨繰り返し述べ、また、その前提で対応していたといえる。
 使用者からみれば、団交は、使用者が相手方たる労働組合が団体交渉権の主体であると認めた上で何らかの合意形成に向けて行う交渉でなければならない。そうであるとすれば、県が、 1.9.4協議における個別の対応において一定の説明を行っていたとしても、組合らに対し、同協議は「団交」ではなく「説明会」であるという態度を示し続け、「説明会」に終始してきたことは、説明のみを行えばよいとして交渉を通じて何らかの合意に至る可能性を初めから除外する姿勢で臨んだと考えられ、県の対応は不誠実な交渉態度であったといわざるを得ない。

(4)以上のとおりであるから、同協議における県の対応は、労働組合法第7条第2号に該当する不当労働行為である。

4 令和元年10月1日以降、県らが31.4.26要求書に係る団交を開催しなかったことは、正当な理由のない団交拒否に当たるか(争点4)

(1)県が説明会のための準備期間であったと主張する時期の県の対応について
 前記判断のとおり、31.4.26要求書の要求事項は義務的団交事項であるところ、県は、本件申立てにおいて主張する協議開催ができない合理的理由、すなわち、給与設定の再修正作業を行っており、説明会のための準備期間であったといったようなことを、組合らに説明すら行わないまま、2か月近く31.4.26要求書に係る団交に応じていなかったといえる。

(2)県が主張するところの「人数調整の提案」に係る県の対応について
 県が秩序ある交渉ができなくなることを恐れ、人数についてルール化することを求めることは、一定合理的なものと認める余地があるといえる。
 しかし、団交における交渉人数は、労使協議の上で決めるべき問題であるところ、県は、協議日程について、いったん令和元年12月26日と決定していたにもかかわらず、一方的に参加人数を3名までとすることを条件とし、それに組合が応じないことを理由に日程を延期すると回答している。確かに、組合らの側も交渉参加人数に関する団交ルール作成について、なんら協力的な態度は一切見せておらず、このような態度に問題がないとはいえないが、1.8.7協議などにおいて、大人数が参加したことにより、野次や不規則発言などで交渉の正常な進行が妨げられた事実は認められない以上、組合らがこれに応じなかったことをもってして、団交を拒否する正当な理由ということはできない。
 以上のとおりであるから、県の対応は、正当な理由のない団交拒否に当たるといえ、労働組合法第7条第2号に該当する不当労働行為である。

5 31.4.26要求書に対する県らの対応は、組合間の中立保持義務に違反するものとして組合らに対する支配介入に当たるか(争点5)

(1)1.9.30協議より前の県の対応について
 会計年度任用職員制度に係るC労組と県との協議の日程は、令和元年7月31日、同年8月21日、同年9月2日であり、組合らと県との協議の日程である同年8月7日、9月4日、同月30日より先行しているといえるが、この差が著しく不合理な期間であるとまではいえず、組合らとの協議を意図してことさらに遅らせているとまではいえない。また、当該協議についても組合との協議同様に「説明会」と表現しているのであり、会計年度任用職員制度に係る協議は「説明会」であるというのが、一貫した県の姿勢であることが推認され、組合らとの協議に係る対応と差があるものともいえない。
 また、確かに、令和元年9月6日付けのC労組の機関紙において、令和元年9月2日に第3回交渉を実施し、休暇制度について合意した旨記載されているものの、C労組と県との間で休暇制度について何らかの合意があったとみることはできない。そして、当該休暇制度については、C労組との同年9月2日の協議の2日後の1.9.4協議において組合らに示されているのであるから、情報提供の時期に大幅な差異があったともいえない。
 以上のとおりであるから、1.9.30協議により前の県の対応が中立保持義務違反に当たるとまではいえない。

(2)1.9.30協議以降の県の対応について
 確かに、県は、会計年度任用職員制度における看護補助職員の給与水準を引き上げることについて、C労組には令和元年12月18日に提示し、組合らには、同2年1月7日又は同月8日に提示したとみることができ、県からの提示の時期に差があったと言える。
 しかしながら、同月9日に病院総務部長と分会長が話をして協議の日程を同月26日とすることが決まっているのであるから、県側が意図して組合らとの協議の日程を遅らせていたということはできない。また、同月26日の協議は、最終的には、団交参加人数の点で県と組合らとの間で折り合いがつかず、開催されなかったものの、県が同年1月7日と8日に病院から「『会計年度任用職員の給与・勤務時間について』(病院局)(R1.12.2病院局)」等を提出していることを鑑みると、ことさらC労組を優先し、組合らを差別的に扱ったとまではいえない。
 そうすると、1.9.30協議以降の県の対応が中立保持義務違反に当たるとまではいえない。

(3)以上のとおりであるから、31.4.26要求書に対する県の対応は、組合間の中立義務に違反するものであるとはいえず、この点に係る組合らの申立ては棄却する。
6 救済方法
 組合らは、団交応諾、会計年度任用職員となる組合員の労働条件の変更を誠実団交を経ないで実施することの禁止及び謝罪文の掲示をも求めるが主文2をもって足りると考える。 
掲載文献   

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顛末情報
事件番号/行訴番号 命令区分/判決区分 命令年月日/判決年月日
大阪地裁令和3年(行ウ)第156号 棄却 令和5年9月6日
 
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