労働委員会裁判例データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  大阪地裁令和3年(行ウ)第156号
兵庫県/兵庫県立こども病院不当労働行為命令取消請求事件 
原告  兵庫県(「県」) 
被告  大阪府(代表者兼処分行政庁 大阪府労働委員会) 
被告補助参加人  Z1組合、Z2分会(「組合ら」) 
判決年月日  令和5年9月6日 
判決区分  棄却 
重要度   
事件概要  1 本件については、組合らが、県病院局長及び県立B病院長に対し、地方公務員法の改正(以下「本件法改正」という。)により令和2年4月から会計年度任用職員制度が導入されることによる非常勤職員等の労働条件の変更に関して、非常勤職員の任用の在り方の変更や条例化の際には団体交渉を行うこと、現行の賃金や勤務条件の切下げを行わないこと、制度切替えによる雇止めを行わないこと、正規職員との均等待遇を行うこと等、看護補助職員の令和2年4月以降の勤務条件に関する要望(以下「本件要求事項」という。)を記載した要求書を提出し、団体交渉を行うことを要求した。
 しかし、県病院局長及びB病院長らが、①職員に対する説明会において組合らとの協議で交付した書面以上の内容が記載された資料により説明を行ったこと、②令和元年9月4日の協議において、交渉ではなく説明の場であるとして対応し、組合らと誠実に協議を行わなかったこと、③その後、令和元年10月1日以降、本件要求事項を協議事項とする団体交渉を開始しなかったこと、④本件要求事項に関して、別組合とは団体交渉で合意するなどしたことがそれぞれ不当労働行為に当たる、として令和元年12月25日に救済申立てがなされた事案である。
2 大阪府労委は、B病院に対する申立てに関し、同病院は不当労働行為命令の名宛人たる法律上独立した権利義務の帰属主体と認めることはできないとして却下した上で、県に対する申立てに関し、②及び③について労組法7条2号に該当する不当労働行為であると判断し、県に対し、文書の速やかな交付を命じ、その余の申立てを棄却した。
3 県は、これを不服として、大阪地裁に行政訴訟を提起したところ、同地裁は、県の請求を棄却した。
判決主文  1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用(各補助参加によって生じた費用を含む。)は原告の負担とする。
判決の要旨  1 争点① 義務的団交事項該当性について

 会計年度任用職員は本件法改正により新たに創設された制度であり、その任用に当たっては、改めて競争試験又は選考を実施する必要があるとされていたことが認められる。本件法改正は、会計年度任用職員を創設して任用、服務規律等の整備を図るとともに、特別職非常勤職員の任用要件の厳格化を行い、会計年度任用職員制度への必要な移行を図ることを内容とするものである。
 そして、県においては、組合らの本件要求事項を会計年度任用職員の勤務条件に係る問題と位置付け、関係条例の可決後は看護補助職員を始めとする全ての非常勤職員について会計年度任用職員として任用することを前提とした試算を行っていたことに加え、実際に、引き続き任用されることを希望した本件病院の看護補助職員の全員が会計年度任用職員として任用されたとの事実に照らすと、本件法改正前に特別職非常勤職員として勤務していた本件病院の看護補助職員は、令和元年8月及び9月の時点において、令和2年4月1日以降も勤務継続を希望する場合、会計年度任用職員として県に任用される可能性が極めて高かったというのが実態ということができる。
 そのような実態を踏まえると、本件要求事項に係る会計年度任用職員の勤務条件は、組合らの構成員たる本件病院の看護補助職員の勤務条件に関する事項に当たるというべきである。

 そして、会計年度任用職員の勤務条件は、県において判断、決定すべきものであることは県も認めるところであって、県において処分可能なものに当たるといえる。
 以上によれば、会計年度任用職員の勤務条件は義務的団交事項に該当し、県は、本件要求事項に係る団体交渉に応じる義務があったと認められる。

2 争点② 9月4日協議における県の対応が正当な理由のない団体交渉拒否といえるか

ア 労組法上の団体交渉といえるかについて

 県は、9月4日協議について、組合らは、非組合員にも参加を呼び掛けており、組合らが求めていたのは労組法上の団体交渉ではないから、団体交渉の拒否と評価される前提を欠く旨主張する。
 しかし、組合らが求めていたのが団体交渉であることは明らかであるところ、非組合員が同席する可能性があったからといって、その協議が直ちに労組法上の団体交渉でなくなるものではないから、県の上記主張は理由がない。

イ 雇用する労働者の代表(労組法7条2号)といえるかについて

 県は、令和元年8月7日以降、組合らの組合員にB病院の看護補助職員が含まれていたかが不明であり、組合らが「使用者が雇用する労働者の代表」とはいえず、団体交渉義務の前提を欠く旨主張する。
 しかし、8月7日協議において、分会長が、協議に出席したB病院の看護補助職員2名が組合員であることを前提として両名の賃金がどうなるかについての質問を行い、これを受けたB病院総務部長も、両名が組合員であることを前提とした対応をしたことに照らすと、8月7日協議の時点において、組合らにはB病院の看護補助職員である組合員が属していたものと認められる。
 したがって、県の上記主張は理由がない。

ウ 誠実交渉義務違反について

 9月4日協議において、県は、一貫して会計年度任用職員の勤務条件は組合らとの間の団体交渉事項には当たらないとの認識を示しながら、県の予定している制度の内容を説明するとの姿勢を示したことが認められ、その間、組合らが看護補助職員の賃金設定が実質的に賃下げとなるとの理解に基づき、賃金設定の再検討を行った上で再度交渉を行うよう求めても、県側の考え方を整理して再度説明する旨繰り返し述べるにとどまったことが認められる。
 かかる県の交渉態度に照らすと、同日の協議において、県において組合らの要求について真摯に検討していたとは認め難く、県の対応は、使用者の対応として誠実さを欠いたものと評価せざるを得ない。
 よって、9月4日協議における県の対応は誠実交渉義務に反したものといえるから、正当な理由なく団体交渉を拒否したものと認めることが相当である。

3 争点③ 令和元年10月1日以降の県の対応が正当な理由のない団体交渉拒否といえるかについて

 県は、9月30日協議において組合らからB病院の看護補助職員の給与、勤務条件等について引き続きの検討を求められ、改めて説明するとした後、組合らから度重なる要求を受けながら、具体的な理由を説明しないまま、令和元年12月4日に至るまで協議の日程調整を行わず、さらに、同月9日にいったんは次回協議日程を同月26日と設定したものの、県が求める双方3名までとの参加人数の条件を組合らが受け入れなかったことを理由として、同月25日、予定された協議を一方的に延期としたことが認められる。
 そうすると、県は、組合らの求めにかかわらず、約2か月の間団体交渉の日程調整に応じず、さらに、一度設定した協議日程を一方的に延期したのであるから、かかる一連の経緯に照らし、団体交渉を拒否したものといえる。
 この点、県は、日程調整を行わなかった期間について、多数の非常勤職員の給与等の条件について再検討するという作業を行いながら、関係機関との調整を行っており、検討の具体的な状況を組合らに説明できる状況になかった旨主張する。
 しかし、団体交渉が合意達成の可能性を模索して相手方の主張を理解、納得することを目指して行われるべきものであることに照らすと、県側の説明の準備が整っていないことのみを理由とし、かつ、日程調整を行えない具体的な理由を説明することのないまま日程調整を行わなかったことについて、正当な理由があるということはできない。
 また、県は、9月4日協議及び9月30日協議に非組合員である看護補助職員が多数参加していたと考えられる状況の下で、参加人数の制限を提案することには必要性と合理性があった旨主張する。
 この点、上記各協議において、非組合員の発言により正常な協議の進行が害されたとの事実はうかがわれない本件において、参加人数をわずか3名に限定することの合理性は見出しがたい。
 そうすると、県が求めた開催条件自体に合理性がない以上、組合らがこれを拒んだことを理由として協議の開催を延期したことについても、正当な理由があるとはいえないというべきである。
 よって、令和元年10月1日以降、組合らが救済申立てに至るまでの県の一連の対応についても、正当な理由のない団体交渉拒否と認めることが相当である。

4 結語
 以上によれば、本件救済命令に県主張の違法はなく、県の請求は理由がないから、これを棄却する。
その他   

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顛末情報
事件番号/行訴番号 命令区分/判決区分 命令年月日/判決年月日
大阪府労委令和元年(不)第41号 一部救済 令和3年11月26日
 
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