事件番号・通称事件名 |
東京都労委平成27年(不)第71号
ジャパンビジネスラボ不当労働行為審査事件 |
申立人 |
X1組合(「組合」)・X2(個人) |
被申立人 |
Y会社(「会社」) |
命令年月日 |
令和2年7月21日 |
命令区分 |
一部救済 |
重要度 |
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事件概要 |
会社と期間の定めのない雇用契約を締結する正社員であったX2
は、会社が運営するコーチングスクールの英会話コーチとしてクラスを担当していた。
X2は、平成25年1月から産前産後休業及び育児休業を取得したが、職場復帰に当たり、子を保育園に入園させられる見通し
が立たなかったため、26年9月1日、会社との間で、契約期間を26年9月2日から27年9月1日までの1年間とし、雇用形
態を週3日勤務の契約社員とする雇用契約を締結した。
契約社員として職場復帰したX2は、26年9月8日、子の保育園への入園が可能になり、週5日勤務することが可能になった
として、雇用契約を期間の定めのない正社員に変更するよう会社に求めた。
9月19日の会社との面談において、X2は、改めて雇用契約を正社員に変更するよう会社に求めたが、会社は、現時点では契
約の変更に応じられないと回答した。
10月9日、組合は、会社に対し、X2の組合加入を通知するとともに、団体交渉を申し入れ、同月30日及び12月2日に団
体交渉が開催されたが、会社は、X2の正社員への契約変更には応じなかった。
10月22日、同月25日、同月29日及び11月1日、会社は、X2に対し、同人の言動について改善指導を行う趣旨の業務
改善指示書等合計19通を交付した。
27年7月11日、会社は、X2に対し、自宅待機を命じた。
7月31日、会社は、X2に対し、9月1日をもって同人との雇用契約関係を終了させる旨の雇用期間満了通知書を送付した。
組合らは、会社に対し、X2の雇用継続等を求めたが、会社は、これに応じず、9月1日をもって同人の雇用契約期間が満了し
た。
本件は、以下の点が争われた事案である。
1 会社の以下の行為が、それぞれX2が組合員であるが故の不利益取扱い及び組合の運営に対する支配介入に当たるか否か。
ア X2との間の雇用契約を正社員契約に変更しなかったこと。
イ 会社が26年10月22日、同月25日、同月29日及び11月1日にX2に対して業務改善指示書等を交付したこと。
ウ 27年9月1日の雇用契約期間満了に当たり、X2との雇用契約を更新しなかったこと。
2 26年10月30日及び12月2日の団体交渉における会社の対応が、不誠実な団体交渉に当たるか否か。
東京都労働委員会は、会社に対し、1イについて労組法第7条第1号及び第3号並びに2について同条第2号にそれぞれ該当す
る不当労働行為であるとして、文書の交付を命じ、その他の申立てを棄却した。 |
命令主文 |
1
被申立人会社は、本命令書受領の日から1週間以内に、下記内容の文書を申立人組合及び同X2に交付しなければならない。
記
年 月 日
組合
執行委員長 A 殿
X2 殿
会社
代表取締役 B
当社が平成26年10月22日、同月25日、同月29日及び11月1日に貴組合の組合員X2氏に対して業務改善指示書等を
交付したこと並びに貴組合との間で同年10月30日及び12月2日に開催した団体交渉における当社の対応は、東京都労働委員
会において不当労働行為であると認定されました。
今後、このような行為を繰り返さないよう留意します。
(注:年月日は文書を交付した日を記載すること。)
2 被申立人会社は、前項を履行したときは、速やかに当委員会に文書で報告しなければならない。
3 その余の申立てを棄却する。 |
判断の要旨 |
1 会社がX2との間の雇用契約を正社員契約に変更しなかったこと
が、同人が組合員であるが故の不利益取扱い及び組合の運営に対する支配介入に当たるか否か。
X2の雇用契約は、希望すれば直ちに契約社員から正社員に変更するものではなく、クラススケジュールなど諸般の事情を踏ま
えた上で、会社との合意により契約変更する可能性があるというものであった。
会社がX2を正社員に契約変更しないこと及び同人にクラス担当をさせないこととした理由には、同人の言動を殊更に悪く解釈
したり、同人の言動に対する過剰な反応といえるものも含まれるなど、疑問の余地がないとはいえない。
しかし、会社がX2を正社員に契約変更できないとする主たる理由であるところの、同人にクラス担当を任せられないという会
社の判断は、組合が同人の加入を通知する前からのものであり、会社がその後も同人にクラスを担当させるとの判断に至らなかっ
たことについても、同人が組合員であることが理由であるとみることは困難であるから、会社が同人との間の雇用契約を正社員契
約に変更しなかったことは、同人が組合員であるが故の不利益取扱いであるということはできず、組合の運営に対する支配介入に
も当たらない。
2 会社が平成26年10月22日、同月25日、同月29日及び11月1日にX2に対して業務改善指示書等を交付したこと
が、同人が組合員であるが故の不利益取扱い及び組合の運営に対する支配介入に当たるか否か。
ア 会社が、業務改善指示書等を理由として、X2に対し、懲戒処分等を行った事実は認められないが、業務改善指示書等の交付
や同人がこれら書面に従わないことを、会社が同人の正社員への契約変更を認めない理由や雇用契約を更新しない理由としている
ことからすれば、これらの書面の交付が同人にとって不利益な取扱いであることは明らかである。
イ 会社が、これまで書面による従業員への注意指導を行っていなかったにもかかわらず、十分な手続も踏まず多くの書面を一括
交付するという不自然な方法により、10月22日、同月25日、同月29日及び11月1日にX2に対して業務改善指示書等を
交付したことは、同人が組合に加入し、正社員への契約変更を求める同人の要求が組合との交渉事項となったことを理由とした不
利益取扱いであるとともに、組合との団体交渉に先立ってこれらの書面を交付することにより、団体交渉を優位に進めようとする
ものであるから、組合の運営に対する支配介入にも該当する。
3 会社が27年9月1日の雇用契約期間満了に当たり、X2との雇用契約を更新しなかったことは、同人が組合員であるが故の
不利益取扱い及び組合の運営に対する支配介入に当たるか否か。
ア 会社は、X2が組合に加入する前の26年9月19日の面談において、同人との信頼関係が失われており同人にクラスを任せ
られないと判断していたものであり、その後の同人の言動からも、同人との間の信頼関係が失われ、同人に安心して業務を任せる
ことができないとの従前の認識を覆すに至らなかったものと認められる。マスコミへの情報提供や無断録音行為、業務外メールな
どのX2の行為は、組合活動とは無関係とはいえないものの、会社が組合加入前から同人の行為は会社との信頼関係を失わせるも
のと認識していたことからすれば、同人が組合員であることや同人の行為が組合活動と関係することの故に、会社が同人の行為を
問題視したとみることは困難であり、むしろ、マスコミへの情報提供等の同人の行為そのものを問題視したとみるのが相当であ
る。
イ 一方で、会社が26年10月22日、同月25日、同月29日及び同年11月1日にX2に対して業務改善指示書等を交付し
たことは、同人が組合に加入し、正社員への契約変更を求める同人の要求が組合との交渉事項となったことを理由とした不利益取
扱いであるとともに、組合の運営に対する支配介入にも該当する。また、会社がX2との雇用契約を終了することを決定した当
時、会社がX2を正社員に契約変更しないことや、同人に対する自宅待機命令等を巡って会社と組合との労使関係は対立的な状態
にあった。
しかし、これらのことを考慮してもなお、会社が27年9月1日付雇用契約期間満了に当たり、X2との雇用契約を更新しな
かったことは、組合加入前に同人にクラスを任せられないと判断した会社の従前の認識が、その後の同人の言動からも覆るに至ら
なかったためであると認められ、その会社の認識の是非はともかくとして、少なくとも、同人が組合員であること又は同人の組合
活動を理由としたものであるとまではいえない。したがって、会社が同人との雇用契約を更新しなかったことが、同人が組合員で
ある故の不利益取扱いに当たるということはできないし、組合の運営に対する支配介入に当たるともいえない。
4 26年10月30日及び12月2日の団体交渉における会社の対応は、不誠実な団体交渉に当たるか否か。
ア 2回の団体交渉を通じてみると、X2の正社員への契約変更については、会社が団体交渉での発言を翻したとまではいえず、
双方の立場の違いから議論がかみ合わない中、会社は、組合らの質問に的確に答えていないところもあったが、会社の認識や立場
について一定程度の説明は行っているともいえる。
しかし、X2にクラスを担当させない理由については、会社は、一定程度の説明は行ったものの、文書回答している旨を繰り返
し述べて具体的な説明を回避しようとしたり、ほかにも多分幾つも理由がある、全てではないが、「とりあえず」などと暖昧な説
明を行ったりしており、組合の理解を得ようと努力していたと評価することはできない。
業務改善指示書等については、会社は、第1回団体交渉では、議題に上ることを想定していながら、あえて交渉することを避け
ており、第2回団体交渉では、説明すべき立場にあったにもかかわらず、むしろ組合が事前に質問しておくべきであったなどと操
り返して、説明を尽くす努力を怠っていたものといわざるを得ない。
また、会社の交渉態度は、団体交渉に臨む姿勢として問題がある。
イ 以上からすれば、26年10月30日及び12月2日の団体交渉における会社の対応は、組合の理解を得るよう十分な説明に
努めたということはできず、不誠実な団体交渉に当たるといわざるを得ない。 |
掲載文献 |
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