概要情報
事件番号・通称事件名 |
東京高裁令和7年(行コ)第31号
ジャパンビジネスラボ不当労働行為救済命令取消請求控訴事件 |
控訴人 |
国 (処分行政庁 中央労働委員会)
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控訴人補助参加人 |
Z1組合(「組合」)、Z2(個人) (併せて「組合ら」) |
被控訴人 |
Y会社(「会社」) |
判決年月日 |
令和7年5月22日 |
判決区分 |
棄却 |
重要度 |
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事件概要 |
1 Z2は、正社員として会社が運営するコーチングスクールのコーチだったところ、育児休業取得後の職場復帰に当たり、子を保育園に入園させられる見通しが立たなかったことから、会社と、週3日勤務で契約期間1年間の契約社員とする雇用契約を平成26年9月に締結した。
その直後、職場復帰したZ2が、会社に対し、子の保育園入園が可能になったとして正社員に変更するよう求めたところ、会社は現時点では応じられないとし、Z2は組合に加入した。
2 本件は、会社が、①Z2との雇用契約を正社員契約に変更しなかったこと、②Z2に業務改善指示書等を交付したこと、③第1回団体交渉(平成26年10月)及び第2回団体交渉(同年12月)において誠実に対応しなかったこと、④Z2との雇用契約を更新しなかったことが不当労働行為であるとして、救済申立てがあった事案である。
3 東京都労委は、上記②③の行為が不当労働行為であるとして、会社に対し、文書交付を命じるとともにこれを履行したときの報告を命じ、その余の申立てを棄却した。
4 会社及び組合らは、これを不服としてそれぞれ再審査を申し立てたところ、中労委は、上記③中の第2回団体交渉における会社の対応についてのみ不当労働行為に該当すると判断し、初審命令を一部変更し、会社に対しこれについての組合への文書交付を命じ、その余の申立てを棄却した。
5 会社はこれを不服として東京地裁に行政訴訟を提起したところ、同地裁は会社の請求を認容し、救済命令の一部(上記4の、会社に文書交付を命じた部分)を取り消した。
6 中労委はこれを不服として、東京高裁に控訴したところ、同高裁は中労委の控訴を棄却した。 |
判決主文 |
1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人の、当審における補助参加によって生じた費用は補助参加人らの各負担とする。 |
判決の要旨 |
1 当裁判所も、会社の請求は理由があると判断する。その理由は、次のとおり補正し(略)、後記2を付加するほかは、原判決「事実及び理由」第3の1ないし3に記載のとおりであるから、これを引用する。
2 当審における中労委及び組合らの補足的主張に対する判断
⑴ 第1回団体交渉における合意事項
組合らは、第1回団体交渉において、会社が、Z2を時短勤務正社員とすることを前提に、具体的なスケジュールを回答することになったことは事実であるから、これを前提とする組合側出席者の対応に誤りはないと主張する。
しかし、第1回団体交渉の冒頭や中盤での発言はさておき、終盤において、会社が第2回団体交渉までに文書で回答すべき内容について協議している場面において、会社は、Z2にクラスを担当させられない理由が解消されない限り、正社員とする時期を明らかにすることはできない旨述べ、これに対し、組合側出席者が、会社に対し、持ち帰って検討するよう繰り返し求めたため、会社は、持ち帰って検討する態度は示したものの、それでもなおZ2を正社員とすることやその時期を回答することについては明言しなかったのであり(引用に係る原判決「事実及び理由」(補正後のもの。以下「原判決」という。)第3の1⑷エ)、会社が、第1回団体交渉において、Z2を時短勤務正社員とすることを前提に、具体的なスケジュールを回答することになったとは認められない。
したがって、組合らの主張は採用できない。
⑵ C2(会社から交渉権限の委任を受けた特定社会保険労務士)の発言について
中労委及び組合らは、第2回団体交渉時のC2の発言(以下「C2発言①」という。)及び発言時のC2の態度は、いたずらに組合側出席者の反発を招き、交渉を混乱させるものであって、団体交渉の円滑な進行を意図的に妨害するものであったと主張する。
しかし、団体交渉の場で新たな主張・意見を述べることは制限されず、新たな主張・意見であることを非難された場合に、これに反論すること自体は許されるのであるから、C2発言①の発言内容そのものに誤りはないこと、C2発言①は、組合側出席者が、会社の認識と異なり、かつ、客観的事実にも反する前提に基づく交渉態度をとる中で、組合側出席者の誤った認識に基づく発言に沿って団体交渉が進むことを正す趣旨で発せられたものとみるべきであることからすると、挑発的で不穏当な発言であることは否定できないものの、この発言により、直ちに会社の交渉態度が不誠実であるとまで判断されるものではないことは、原判決第3の2⑶アに判示のとおりである。
したがって、中労委及び組合らの主張は採用できない。
⑶ B2発言について
中労委及び組合らは、第2回団体交渉時のB2の発言(以下「B2発言」という。)は、いたずらに組合側出席者の反発を招き、交渉を混乱させるものであって、実際にB2発言に引き続いてされたC2の発言(以下「C2発言②」という。)によって協議は紛糾したことからすれば、団体交渉の円滑な進行を意図的に妨害するものであったと主張する。
しかし、B2発言は、文言上は、Z2にクラスを担当させない理由を文書で回答する旨の合意を反故にしても差し支えないとの意図を持っていると疑われてもやむを得ない発言ではあるものの、実際には、平成26 年11月19日付けの回答書には、Z2にクラスを担当させない理由が記載されており、会社としては、第2回団体交渉までに、文書による回答を一応したという認識であったこと、回答内容としても不十分なものであったとは認められないこと、説明を尽くしたいのになかなか説明させてもらえないという不満を背景にした発言であり、B2発言をもってB2に誠実に交渉する意思がなかったと評価することはできないことを考慮すると、B2発言をもって、会社が組合との間の合意事項を反故にするような交渉態度であったとは認められず、B2発言から直ちに誠実交渉義務に違反するとはいえないことは、原判決第3の2⑶イに判示のとおりである。
したがって、中労委及び組合らの主張は採用できない。
⑷ C2発言②について
中労委及び組合らは、C2発言②は、けんか腰で組合側出席者を挑発し続けているだけで、交渉を進展させる働きは全くしておらず、実際にC2発言②の最中及び直後には協議が紛糾したことからすれば、団体交渉の円滑な進行を阻害したことは明らかであると主張する。
しかし、「団交を進めてくださいよ。」との発言は、紛糾しかねない状況を改善する趣旨で発せられたものであり、実際に、その後は、会社が示したZ2にクラスを担当させない理由等についての協議に変わり、双方が同じ点について主張を繰り返すだけの状況から交渉が進展したと認められること、「話を妨害しているのはあなたじゃないですか。」、「あなたが的確な質問をしてないから話が困窮するんですよ。」といった発言は、組合側出席者の発言に呼応して発言内容が過激なものとなったと評価することができ、上記発言単体でC2の交渉態度の不誠実性を評価することは相当ではないことを考慮すると、C2発言②が団体交渉を紛糾させたとまではいえず、会社に誠実交渉義務違反があるとはいえないことは、原判決第3の2⑶ウに判示のとおりである。
したがって、中労委及び組合らの主張は採用できない。
⑸ 第2回団体交渉全体を通じた会社の交渉態度について
ア 組合らは、第2回団体交渉では、会社の役員や従業員ではなく、第1回団体交渉にも出席していないC2らが、会社側の発言の過半を占めるほどに交渉に口をはさみ続けたことにより、協議が紛糾し、円滑な交渉が阻害されたと主張する。
また、中労委は、C2らは、「勝手に感想述べなくていいですよ、団交だから。」、「不当労働行為って言えば何でも通ると思っているんじゃないのか、勘違いしちゃだめだよ。」などと、組合側出席者を馬鹿にする発言を繰り返し、挑発し続け、団体交渉の進行を阻害した旨主張する。
しかし、C2らは、第2回団体交渉の前に、会社の幹部と面談したり、平成26年11月19日付け回答書の作成に関与したりしているから、これまでの経過を相当程度把握した上で、第2回団体交渉に出席していたものと認められる。
また、C2らの発言の中には、中労委が指摘するように、組合側出席者を挑発したりする不適切なものも含まれているものの、これらは、「前回も予習してこなかったけれど、今回も予習してない。宿題も予習もしてない。」、「迷惑しているんですよ。」、「お互いに確認事項を勝手に反することが不当労働行為ですよ。」といった組合側出席者の発言を受けてのものであり、会社の立場からすれば、誤った事実に基づく正当とはいえない批判に対する反論として述べられたものであって、組合側出席者の厳しい対応に呼応して発言が過激になったものと評価することができる。
また、C2らの発言は、組合側出席者を挑発したりする不適切なものばかりではなく、会社の意見を代弁する発言、組合側出席者から出た質問や疑問について会社に回答を促す発言、組合側出席者の認識や意図を確認する発言、会社と組合らの意見の相違する部分を顕在化させるために、双方の主張を要約したり、議論を整理したりする発言など、第2回団体交渉を円滑に進めるための発言も多く含まれており、上記の不適切な発言の存在を考慮しても、C2らの発言によって、第2回団体交渉全体を通じて円滑な交渉が阻害されたとまでは認められない。
したがって、組合らの主張は採用できない。
イ 中労委は、第2回団体交渉の冒頭部分では、C2発言①、B2発言及びC2発言②など、会社側出席者が、組合側出席者を茶化したり挑発したりする発言を意図的に繰り返し、これにより協議が紛糾し、団体交渉の円滑な進行が大きく阻害された旨主張する。
しかし、第2回団体交渉の冒頭部分で、協議が紛糾したのは、①会社が、第1回団体交渉で書面回答する旨合意した事項について、平成26年11月12日まで猶予することを求めながら、同日までに書面回答しなかったこと、②会社が、同月19日、Z2を時短勤務正社員とする具体的なスケジュールについての回答はせず、反対に正社員とする予定がない旨の書面回答をしたこと(原判決第3の1⑸アないしウ)の2点が大きな要因となっていると認められるところ、①については、同月12日までに書面回答をしなかった会社に責任があるといえるものの、②については、会社が、第1回団体交渉において、Z2を正社員とする具体的なスケジュールを示すことを約束した事実はないにもかかわらず、組合側出席者が、会社がこれを約束していたかのように主張して会社を非難したものであり、組合らに責任があるといえ、第2回団体交渉の冒頭部分で協議が紛糾した原因が、専ら会社側出席者にあると評価することはできない。
したがって、中労委の主張は採用できない。
ウ 中労委及び組合らは、その他にも、会社側出席者による不適切な発言がされた際に、他の会社側出席者が発言を制止したり、訂正したりしたことはないことなどを指摘して、会社が、組合側出席者を納得させるための努力をしておらず、合意達成の可能性を模索する義務を怠ったとして、第2回団体交渉における会社の対応は、交渉態度において不誠実であったと主張する。
しかし、中労委及び組合らが主張する事情などを踏まえても、第2回団体交渉におけるC2らの発言を含む会社の一連の対応が、誠実交渉義務に反すると評価することはできない。
3 結論
会社の請求を認容した原判決は相当であって、本件控訴は理由がないから、これを棄却する。
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その他 |
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