事件番号・通称事件名 |
東京都労委平成29年(不)第79号
全日本海員組合不当労働行為審査事件 |
申立人 |
X組合 |
被申立人 |
Y組合 |
命令年月日 |
令和元年12月17日 |
命令区分 |
全部救済 |
重要度 |
|
事件概要 |
Y組合の再雇用職員規定においては、原則として満65歳に達した
日の属する月の末日で再雇用契約が終了する旨の定めがあるが、実際には、再雇用契約終了後も雇用を継続される従業員が存在し
た。
Y組合の従業員(Y組合の専従者であり、同組合に事務職員又は再雇用職員として雇用されている者)らが結成したX組合の組
合員A2は、同人が満65歳に達した日の属する月の末日である平成28年10月31日をもって再雇用契約が終了したが、Y組
合は、11月1日以降、同人の雇用を継続しなかった。
また、X組合の組合長A1は、同人が満65歳に達する日の属する月の末日である29年8月31日をもって再雇用契約が終了
するのに先立ち、9月1日以降の雇用継続を繰り返し求めたが、Y組合は、同日以降、同人の雇用を継続しなかった。
本件は、①Y組合が、A2の雇用を継続しなかったことは、同人がX組合に加入したこと及びX組合が労働委員会に救済を申し
立てたことを理由とした不利益取扱い並びにX組合の運営に対する支配介入に当たるか否か、②Y組合が、A1の雇用を継続しな
かったことは、同人がX組合の組合員であること、同人が正当な組合活動をしたこと及び従業員組合が労働委員会に救済を申し立
てたことを理由とした不利益取扱い並びにX組合の運営に対する支配介入に当たるか否かが、それぞれ争われた事案である。
東京都労働委員会は、Y組合に対し、不利益取扱い及び支配介入に当たる不当労働行為であるとして、文書の交付・掲示を命じ
た。 |
命令主文 |
1
被申立人Y組合は、本命令書受領の日から1週間以内に、下記内容の文書を申立人X組合に交付するとともに、同一内容の文書を55センチメートルX80センチメートル(新聞
紙2頁大)の白紙に、楷書で明瞭に墨書して、被申立人Y組合本部の従業員の見やすい場所に、10日間掲示しなければならな
い。
記
年 月 日
X組合
組合長 A1 殿
Y組合
組合長 B1
当組合が、①貴組合の組合員A2氏の平成28年10月31日付再雇用職員労働契約終了に当たり、同氏の雇用を継続しなかっ
たこと及び②貴組合の組合長A1氏の29年8月31日付再雇用職員労働契約終了に当たり、同氏の雇用を継続しなかったこと
は、東京都労働委員会において不当労働行為であると認定されました。
今後、このような行為を繰り返さないよう留意します。
(注:年月日は文書を交付又は掲示した日を記載すること。)
2 被申立人Y組合は、前項を履行したときは、速やかに当委員会に文書で報告しなければならない。 |
判断の要旨 |
1 Y組合が、A2の雇用を継続しなかったことは、同人がX組合に
加入したこと及びX組合が労働委員会に救済を申し立てたことを理由とした不利益取扱い並びにX組合の運営に対する支配介入に
当たるか否か(争点1)
ア 再雇用契約等終了年齢に達した従業員の雇用継続について
(ア)Y組合には、再雇用職員又は継続雇用職員としての雇用が終了した以降も従業員の希望で雇用が継続されるという制度は存
在しない。
しかし、一方では、18年以降、再雇用契約等終了年齢に達した従業員24名のうち、少なくとも8名が臨時雇用職員として雇
用されている事実が認められる。
(イ)Y組合は、臨時雇用職員採用の一般基準を設けず、その都度、個別事情やその必要性を判断して決定しており、従業員の能
力や資質及び職務内容、後任者の有無、出向先との関係等を考慮した上で裁量の下に判断していると理解されるが、Y組合が出向
者の後任を選定できなかった場合には、出向先との関係を考慮して、適宜、雇用を継続し、出向先の運営に支障を来さないよう配
慮していたものといえる。
イ A2の雇用を継続しなかったことについて
Y組合は、福岡市に、A2の後任者を用意することを伝えていたが、A2との再雇用契約を終了する28年10月31日の直前
である同月11日になって、後任者を手配することができなくなり、福岡市に後任者の手配を預けることとなった。Y組合は、こ
の経緯をA2に伝えることはなかった。
しかし、①28年3月の時点で福岡市港湾局の担当者は、A2の仕事ぶりを高く評価し、同人の出向の継続を希望する旨を述べ
ていたこと及び②Y組合とC1会館との間で締結された同人の出向契約における出向期間は、その変更協議の余地は認められてい
たものの28年4月1日からの1年間とされていたことを踏まえると、Y組合は、A2との雇用契約終了の直前で後任者を手配で
きなくなった以上、C1会館や福岡市の意向を確認し、同人の雇用継続が可能であればこれにより出向者の不在を暫定的に補うの
が、出向先との良好な関係を維持する観点からも当然に期待される対応であったというべきである。ところが、Y組合は、10月
20日以降、同会館や福岡市に同人の出向を継続させることについての意向を確認せず、他方、A2に対しても雇用継続の意向を
打診せず、また、同人に上記情報を一切提供していない。
このようなY組合の対応は、極めて不自然である。
ウ 以上を総合的に勘案すると、Y組合が、A2の出向先に対し、後任者の手配ができないにもかかわらず、従前の対応とは異な
り、これに何の配慮を示さないまま、同人に一切の違絡を取らず、同人の雇用を継続しなかったことは、同人が、激しく対立する
X組合に加入したため、これを排除する意思に基づいたものといわざるを得ず、同人がX組合に加入したことを理由とする不利益
取扱いに当たるとともに、組合員を排除することによりX組合の弱体化を企図した支配介入にも当たる。
エ なお、A2の組合加入から再雇用契約が終了するまでの間に、X組合が労働委員会に不当労働行為救済申立てを行った事実は
認められないので、Y組合の上記行為は、X組合が労働委員会に救済を申し立てたことを理由とする不利益取扱いには当たらな
い。
2 Y組合が、A1の雇用を継続しなかったことは、同人がX組合の組合員であること、同人が正当な組合活動をしたこと及び従
業員組合が労働委員会に救済を申し立てたことを理由とした不利益取扱い並びにX組合の運営に対する支配介入に当たるか否か
(争点2)
ア 再雇用契約等終了年齢に達した従業員の雇用継続について
Y組合においては、再雇用契約等終了年齢後の従業員の雇用をさらに継続する制度は設けられていないが、宿泊施設等に出向中
の従業員が再雇用契約等終了年齢を迎えたとき、出向先やY組合の事情や必要性に応じ、職務内容や出向先との関係等も考慮し
て、個別に雇用継続の可否を裁量的に判断しており、少なくとも、Y組合が出向者の後任を選定できなかった場合には、適宜、雇
用を継続し、出向先の運営に支障を来さないよう配慮していたものといえる。
イ A1の雇用を継続しなかったことについて
(ア)Y組合は、A1との再雇用契約が終了する日の3か月前である5月31日に、書面で、同人に対し雇用終了を確認した。他
方、A1は、6月21日の団体交渉以降、雇用の継続を強く求めたが、Y組合は、これを拒否した。
(イ)Y組合は、A1に対し再雇用契約終了の通知をした5月31日の時点で、後任者の選定作業に入っていたか否かは不明であ
り、ましてや、前年10月のA1の雇用契約終了の際には、適切な後任者を選定できない事態を発生させ、出向先に少なからず迷
惑を生じさせていたのであるから、この時点で、A1の雇用継続を延長しなければならない事態は全くないと判断できる状況には
なかったというほかない。
そうすると、A1に対し、再雇用契約が終了する8か月前に、殊更に書面により再雇用契約の終了を告げたのは、長年にわたっ
てY組合の現執行部と対立してきた同人との雇用契約を終了させる強い意欲があったからと推測される。
(ウ)Y組合も、再雇用予定者ではないB2は、自らが出向することを予想していない可能性があったことから、同人に対しては
再雇用予定者に対するより早い時期に出向を打診したことを認めているところ、B2のように執行部員の中堅として地方支部副支
部長を務めている者を宿泊施設に出向させる人事は、執行部員が潤沢であった往時はともかくとして、執行部員の減少による組合
活動の停滞に危惧の声が上がっている近時においては極めて異例のことといわざるを得ず、現に、宿泊施設に55歳未満の現役執
行部員が出向している例は、本件結審日現在、存在しない。
(エ)
一方、A1は、C2会館の黒字化に貢献し、同会館との関係にも特に問題はなかったと認められるから、同会館への出向継続の意思を表示していたA1を排除してまで、B2を同
会館に出向させ、A1との雇用契約を終了させる措置は、その合理性に多大の疑問を抱かせるものである。A1及びX組合とY組
合との泥沼化した対立状況を踏まえると、結局、B2の出向措置は、A1をY組合から排除することを目的とした不合理な人事措
置であるといわざるを得ない。
そうすると、Y組合は、本来であれば、A1の後任者の手配は困難な状況であって、同人の雇用継続を検討すべきところ、合理
性に疑問のあるB2の出向措置人事を行うことによって、A1の雇用を継続しなかったものということができる。
ウ したがって、Y組合が、A1の雇用を継続しなかったことは、X組合の組合長である同人を確実に排除するためであったとい
うほかなく、同人がX組合の組合員であること及びX組合がY組合を被申立人として労働委員会に不当労働行為救済申立てを行っ
たことを理由とする不利益取扱いに当たるとともに、組合員を排除することによりX組合の弱体化を企図した支配介入にも当た
る。 |
掲載文献 |
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