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概要情報
事件番号・通称事件名  東京地裁令和4年(行ウ)第241号
全日本海員組合不当労働行為救済命令取消請求事件 
原告  X従業員組合(「X組合」) 
被告  国(処分行政庁 中央労働委員会) 
被告補助参加人  Z組合(「Z法人」) 
判決年月日  令和5年1月12日 
判決区分  棄却 
重要度   
事件概要  1 Z法人の再雇用職員規定においては、原則として満65歳に達した日の属する月の末日で再雇用契約が終了する旨の定めがあるが、実際には、再雇用契約終了後も雇用を継続される従業員が存在した。
 Z法人の従業員(Z法人の専従者であり、同法人に事務職員又は再雇用職員として雇用されている者)らが結成したX組合の組合員A2は、同人が満65歳に達した日の属する月の末日である平成28年10月31日をもって再雇用契約(以下「本件再雇用契約①」という。)が終了したが、Z法人は、11月1日以降、同人の雇用を継続しなかった(以下「本件雇止め①」という。)。
 また、X組合の組合長A1は、同人が満65歳に達する日の属する月の末日である29年8月31日をもって再雇用契約(本件再雇用契約②)が終了するのに先立ち、9月1日以降の雇用継続を繰り返し求めたが、Z法人は、同日以降、同人の雇用を継続しなかった(以下「本件雇止め②」という。)。
 本件は、ⅰ)Z法人が、A2の雇用を継続しなかったこと(以下「本件雇止め①」という。)は、同人がX組合に加入したこと及びX組合が労働委員会に救済を申し立てたことを理由とした不利益取扱い並びにX組合の運営に対する支配介入に当たるか否か、ⅱ)Z法人が、A1の雇用を継続しなかったこと(以下「本件雇止め②」という。)は、同人がX組合の組合員であること、同人が正当な組合活動をしたこと及び従業員組合が労働委員会に救済を申し立てたことを理由とした不利益取扱い並びにX組合の運営に対する支配介入に当たるか否かが、それぞれ争われた事件である。
2 初審東京都労委は、Z法人に対し、不利益取扱い及び支配介入に当たる不当労働行為であるとして、文書の交付・掲示を命じた。X組合及びZ法人は、これを不服として、それぞれ再審査を申し立てた。
3 中労委は、初審命令を一部変更し、Z法人に対し、組合長A1について文書交付及び掲示を命じ、その余の申立てを棄却した(以下「本件救済命令」という。)。X組合は、これを不服として、東京地裁に行政訴訟を提起した。
4 東京地裁は、X組合の請求を棄却した。
 
判決主文  1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用(補助参加によって生じた費用を含む。)は原告の負担とする。
 
判決の要旨  1 争点(1) 本件雇止め①の不当労働行為(労組法7条1号、3号)該当性について
(1)X組合は、Z法人がなした本件雇止め①はX組合の組合員であることを理由にA2を不利益に取扱い、X組合の運営に対する支配介入を行ったものといえるから、労組法7条1号及び同条3号の不当労働行為に該当する旨を主張するので、以下検討する。
ア 労組法7条1号該当性について
 本件再雇用契約①については、契約締結の当初から更新しないことが合意されていたほか、Z法人においても、上記の前提で同契約の締結後にA2の後任者を探し、その旨を福岡市港湾局の担当者にも伝え、実際に本件再雇用契約①の期間満了前にはA2の後任者の選定に着手するなど、本件再雇用契約①は更新しないという一貫した人事計画を有していたといえ、このようなZ法人の方針は、B1部長がA2からX組合に加入した旨を平成28年9月9日に通告された前後を通じて変わりはなかったことが認められる。
 この点、Z法人は、A2の退職日までにC3会館における同人の後任者が手配できなくなった後もA2に対して本件再雇用契約①の更新や出向の延長について打診していないが、A2は従前からB1部長に対し、再雇用後の給料等の減少について不満を訴えて平成28年10月末日をもって退職することを告げていたことからすれば、Z法人としてもA2が同年11月以降の雇用の継続を希望しているとは認識していなかったものと認められるから、A2の後任者が手配できなくなった後にA2に対し雇用継続の打診をしなかったことがX組合ないしX組合の組合員であったA2に対する嫌悪を理由とするものであったとは認め難いものといわざるを得ない。
 以上によれば、Z法人が本件再雇用契約①の期間満了に際しA2の雇用を継続しなかったこと(本件雇止め①)が、A2がX組合の組合員であることの故をもって行われたとは認められない。したがって、本件雇止め①が労組法7条1号の不当労働行為に該当する旨のX組合の主張は採用することができない。

イ 労組法7条3号該当性について
 前記アにおいて認定し説示したとおり、本件雇止め①は、A2がX組合の組合員であるが故に行われたものとはいえず、A2から本件再雇用契約①の更新について特に更新の申出がされたこともうかがわれず、本件再雇用契約①が労働契約法19条により更新される余地もないといえるから、A2の雇用を継続しなかったことがX組合を弱体化させるものとは認められない。
 したがって、本件雇止め①が労組法7条3号の不当労働行為に該当する旨のX組合の主張は採用することができない。

(2)以上によれば、本件雇止め①は労組法7条1号及び3号の不当労働行為に該当しないから、これと同趣旨の判断を内容とする本件救済命令は正当である。

2 争点(2) 本件雇止め②の不当労働行為性に関する本件命令書の理由の記載に違法があるかについて
(1)X組合は、本件救済命令がA1に関する本件雇止め②を不当労働行為と認定した理由を、Z法人が本件雇止め②を行ったことそのものではなく、A1の「雇用継続の必要性につき検討せず、これにより雇用継続の可能性を遮断したこと」としたことは、Z法人の不当労働行為を矮小化するものであるほか、X組合の救済方法としてX組合が求めていたA1の原職復帰や本件再雇用契約②の更新時から原職復帰までの未払賃金相当額の支払を不要とした理由を的確に示すものとはいえないから、中労委の判断及び処分理由の摘示ないし説明として不十分である旨を主張する。

(2)本件救済命令は、A1に係る本件雇止め②に至る事実経過を詳細に認定した上で、「Z法人が、A1組合長の65歳以降の雇用継続について、その必要性の検討すら行わず、これにより雇用継続の可能性を遮断したことは、同人が組合の組合員であること、同人が正当な組合活動をしたこと及び従業員組合がA1組合長の雇止めに関してZ法人を被申立人として労働委員会に不当労働行為救済申立てを行ったことを理由とする不利益取扱いに当たるから、労組法第7条第1号及び第4号の不当労働行為に該当」し、「従業員組合の組合長である同人をZ法人から排除することによって、従業員組合の組織及び活動を弱体化させるものと認められ、労組法第7条第3号の不当労働行為にも該当する」旨を処分理由として記載していることが認められる。
 このような理由の付記は、本件雇止め②が不当労働行為に該当するとして救済を求めたX組合の初審申立て及び再審査申立てに対する中労委の判断過程及び結論の根拠を摘示したものとして当事者であるX組合及びZ法人においても十分に了知し得るものであると認められる。
 したがって、本件雇止め②に係る中労委の判断の理由付記に手続上の違法があるとはいえず、X組合の上記主張は採用することができない。

3 争点(3) 本件救済命令に係る救済方法の選択に関する中労委の判断に裁量権の逸脱・濫用があるかについて
(1)X組合は、本件雇止め②の時点で、A1においては本件再雇用契約②が更新されるものと期待することについて合理的な理由があり、本件再雇用契約②については労働契約法19条に基づき平成29年9月1日以降も更新されていたものであって、本件雇止め②もZ法人の従業員としての地位を有していたA1について継続雇用を否定したという点において労組法7条1号、3号及び4号の不当労働行為を構成するというべきであり、その救済方法としては、A1の原職復帰とそれまでのバックペイをZ法人に命ずる必要があったから、本件救済命令において上記の救済方法を選択しなかった中労委の判断には、裁量権を逸脱し、又は濫用した違法がある旨を主張するので、以下検討する。

(2)Z法人とA1との間では、かねてからその労働条件等のほかZ法人の組織運営に関連する紛争が絶えず、訴訟や救済申立てが繰り返されるなど鋭利な労使間対立が続いていたところ、本件再雇用契約②において満65歳に達した後の再雇用はしない旨の契約を締結していたとしても、Z法人においては65歳以降の従業員についても臨時雇用職員として採用される者が一定数存在し、A1についても臨時雇用職員として雇用を継続することが定型的に全く想定し得なかったともいえないにもかかわらず、Z法人においてA1の再雇用の可否について検討した形跡は全くなく、本件再雇用契約②の締結後はA1の雇用継続を一貫して否定するという対応であったといえる。
 このようなZ法人のA1に対する対応を全体としてみれば、Z法人においては、A1がX組合の組合員であること及び正当な組合活動をしたこと並びにA1が代表者を務めるX組合が労働委員会に対し救済を申し立てたことを理由としてA1ないしX組合に対する強い排除意思を抱き、いかなる役職や形態であろうとも本件再雇用契約②に係る雇用期間が満了する平成29年8月31日をもってA1との雇用関係を一切解消するという方針の下、A1の雇用の必要性の有無すら検討しないまま雇用継続の可能性を遮断して本件雇止め②に及んだものと認められる。
 このことは、A1がX組合の組合員であること及び正当な組合活動をしたことの故をもってなされた不利益取扱いであるといえ、X組合の組合長であるA1をZ法人から排除することによってX組合の組織及び活動を弱体化させるものとして、労組法7条1号、3号及び4号の不当労働行為に該当するものと認めるのが相当である。

(3)X組合の主張に対する判断
ア 前記(2)の認定に対し、X組合は、本件雇止め②の時点で、A1においては本件再雇用契約②が更新されるものと期待することについて合理的な理由があり、本件再雇用契約②については労働契約法19条に基づき平成29年9月1日以降も更新されていたといえるから、本件雇止め②は、Z法人の従業員としての地位を有していたA1について継続雇用を否定したという点において不当労働行為を構成する旨を主張する。
 A1は本件再雇用契約②においてZ法人との間で契約期間を平成29年8月31日までとし、以降の更新は行わない旨を合意しており、Z法人も、同年5月31日の時点で、C1会館のA1の後任者が決まっていなかったものの、A1に対し、本件再雇用契約②に係る雇用期間が同年8月31日をもって満了する旨を通知し、B1部長も同年6月21日の団体交渉においてX組合からA1について65歳以降の雇用継続を申し入れられたのに対し、契約の更新はしない旨をその場で断言したこと、Z法人においては、定年退職した後の再雇用を経て満65歳に達した従業員であっても、臨時雇用職員としてZ法人と雇用契約を締結した者がいるものの、臨時雇用職員の採用は特に制度化されたものではなく、中央執行委員会が個別の事情やその必要性を判断し、個別の契約により労働条件を定めていたことが認められる。また、Z法人において臨時雇用職員として採用される者の割合が相当程度に高いともいえない。
 これらの諸事情によれば、本件雇止め②の時点(平成29年8月31日時点)において、A1が本件再雇用契約②につき、労働契約法19条2号所定の労働契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由があったとまでは認め難いものといわざるを得ない。
 したがって、A1について平成29年9月1日以降もZ法人との雇用契約が継続していたとは認められず、X組合の上記主張は、その前提を欠くものであり、採用することができない。

イ X組合は、A1には本件再雇用契約②が更新されることについて合理的な期待があった旨を主張する。
 しかしながら、前記アにおいて認定し説示したとおり、Z法人の再雇用職員規定等においては、従業員の再雇用の終期は満65歳に達した日の属する月の末日までとする旨が定められ、満65歳以降の従業員の再雇用については、Z法人に特段の制度や規定は存在せず、65歳以降の再雇用契約については、Z法人の中央執行委員会が個別の事情やその必要性を判断し、個別の契約により労働条件を定めていたこと、本件再雇用契約②においても、平成29年8月31日の雇用期間の満了後に契約の更新は行わない旨が合意されていたことに加え、Z法人の従業員において、満65歳を超えて雇用契約を更新することが常態化していたことを認めるに足りる的確な証拠もないことを併せれば、A1につき、C1会館の館長としての実績や職務遂行の実績が評価されていたことや、Z法人において、一定数の者が満65歳を超えて臨時雇用職員として採用されていたことを考慮しても、本件雇止め②の時点(平成29年8月31日時点)において、A1において本件再雇用契約②が更新されるものと期待することについて合理的な理由があったとまでは認め難いものといわざるを得ない。したがって、X組合の上記主張は採用することができない。

(4)以上によれば、本件雇止め②の時点(平成29年8月31日時点)において、A1につき本件再雇用契約②が更新されるものと期待することについて合理的な理由があったとまでは認め難いものといわざるを得ないから、中労委が本件再雇用契約②が更新されていることを前提とせずに救済命令を発したことには裁量権の逸脱又は濫用がある旨のX組合の主張は、その前提を欠くものであり採用することができない。
 むしろ、前記(2)において認定し説示したとおり、Z法人がA1の平成29年9月1日以降の雇用継続の必要性につき検討すら行わずこれにより雇用継続の可能性を遮断したことは労組法7条1号、3号及び4号の不当労働行為に該当するところ、これを前提としてされた別紙主文のとおりの本件救済命令は、上記の不当労働行為を踏まえ、X組合の組合活動一般に対する侵害を除去し、正常な集団的労使関係秩序の迅速な回復、確保を図るための措置として適切であるから、中労委が本件救済命令においてA1の原職復帰及び本件再雇用契約②の更新時から原職復帰までの未払賃金相当額の支払をZ法人に命じなかったとしても、そのことをもって裁量権が是認される範囲を超え、又は著しく不合理であって濫用にわたるものであるとは認められない。

4 小括
 以上のとおり、本件救済命令の判断は正当であり、本件救済命令が定めた救済方法も相当であるから、本件救済命令に取り消されるべき違法はないというべきである。以上のほか、X組合のその余の主張も、いずれもZ法人に係る不当労働行為の成否及び本件救済命令の相当性についての認定判断を左右するに足りるものとは認められない。

5 結論
 よって、X組合の請求は理由がないからこれを棄却する。
 
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顛末情報
事件番号/行訴番号 命令区分/判決区分 命令年月日/判決年月日
東京都労委平成29年(不)第79号 全部救済 令和元年12月17日
中労委令和2年(不再)第2・5号 一部変更 令和4年2月16日
 
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