事件番号・通称事件名 |
東京都労委平成30年(不)第12号
せたがや白梅不当労働行為審査事件 |
申立人 |
X組合(「組合」) |
被申立人 |
Y法人(「法人」) |
命令年月日 |
令和元年11月5日 |
命令区分 |
一部救済 |
重要度 |
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事件概要 |
平成26年9月5日、法人の職員らは、組合に加入し、組合の分会
を結成した。
29年3月28日から4月にかけて、法人は、財政上の理由から役職手当を1年間支給停止することについて、支給対象者全員
に対して同意を求めたところ、分会書記長のA2のみ同意しなかった。その後、法人は、A2に対し、4月分給与から役職手当
5,000円を支給しなくなった。組合と法人とは、11月27日、12月20日及び30年3月19日にA2の役職手当不支給
について団体交渉を行ったが合意に至らなかった。
本件は、①法人が、29年4月分給与以降、A2に対し、役職手当5,000円を支給していないことが、同人が組合員である
ことを理由とした不利益な取扱いに当たるか(争点1)、②A2の役職手当不支給に係る29年11月27日、12月20日及び
30年3月19日の団体交渉における法人の対応は正当な理由のない団体交渉拒否又は不誠実な団体交渉に当たるか(争点2)が
争われた事案である。
東京都労働委員会は、法人に対し、①について不利益取扱い、②の一部について不誠実な団交に当たる不当労働行為であるとし
て、文書の手交及び①の是正を命じ、その他の申立てを棄却した。 |
命令主文 |
1
被申立人法人は、申立人組合の分会書記長A2に対し、平成29年4月分以降の月額5,000円の役職手当不支給をなかったものとして取り扱い、同月分以降の役職手当等を支
払わなければならない。
2 被申立人法人は、本命令書受領の日から1週間以内に、下記内容の文書を申立人組合に交付しなければならない。
記
年 月 日
組合
執行委員長 A1殿
法人
理 事 長 B1
当法人が、貴組合の分会書記長A2氏に対し、平成29年4
月以降、月額5,000円の役職手当を支給しなかったこと、貴組合との間で29年11月27日及び12月20日に行った同氏に対する役職手当不支給を議題とする団体交渉に
おいて、誠実な対応を行わなかったことは、東京都労働委員会において、不当労働行為であると認定されました。
今後、このような行為を繰り返さないよう留意します。
(注:年月日は文書を交付した日を記載すること。)
3 被申立人法人は、前各項を履行したときは、速やかに当委員会に文書で報告しなければならない。
4 その余の申立てを棄却する。 |
判断の要旨 |
1 法人が、29年4月分給与以降、A2に対し、役職手当
5,000円を支給していないことが、同人が組合員であることを理由とした不利益な取扱いに当たるか(争点1)
法人の挙げる降職の理由は、いずれも不自然であり、A2への事前の説明がないなど、手続の面でも不自然な対応がみられるの
であって、本件役職手当の不支給が降職を理由とするものであるか否か自体が疑問であるといわざるを得ない。
そして、超過勤務手当の固定支給の廃止及び役職手当の支給停止に同意するお願いの書面への署名捺印について、A2以外の常
勤職員は応じたが、同人のみが応じなかったところ、法人は、署名捺印した常勤職員には、役職手当の支給停止を実施せず、署名
捺印に応じなかった同人に対しては、役職手当の支給をやめたという経緯がある。
これらに加え、当時、緊迫した労使関係が継続していたことや、A2が紛争の中心人物の一人であった等の事情も総合考慮する
と、本件役職手当の不支給は、分会書記長である同人が、労働条件の改善や法人の経営努力が必要であるなどと組合の立場からの
要求を掲げてお願いの書面の署名捺印を拒否したことを法人が嫌悪してなされたものといわざるを得ない。
したがって、法人が、A2に対し、本件役職手当を不支給としたことは、同人が組合員であることを理由とした不利益取扱いに
当たる。
2 A2の役職手当不支給に係る29年11月27日、12月20日及び30年3月19日の団体交渉における法人の対応は正当
な理由のない団体交渉拒否又は不誠実な団体交渉に当たるか(争点2)
ア 11月27日の団体交渉
11月27日の団体交渉において、法人は、A2の役職手当を不支給とした理由について、B2主任が出向先から戻った時に、
役職手当の支給をやめるべきであったが、それを忘れていた、29年4月から支給しないと同書記長にロ頭で説明しているなどと
述べた。
しかし、法人がA2に役職手当の不支給やその理由を事前に説明したとは認められず、また、組合が役職手当の不支給について
文書で質問した際、法人は、上記のような説明をせずに、「H29年4月以降も賃金規程に則って支給しています。」と回答して
いる。その結果として、組合は、A2の役職手当はいずれ従前どおり支払われるものと誤信したことがうかがわれるのであるか
ら、11月27日の団体交渉における法人の上記説明について、従来の説明を変遷させたものと組合が受け止めたとしても無理か
らぬことである。
また、11月27日の団体交渉において、組合は、B2主任が出向先から戻ってきてからも役職手当はしばらく支払われていた
のに、主任代行(副主任)が就業規則に書かれていないからカットするという論理はおかしいと指摘したが、法人は、A2の主任
代行(副主任)は外すということです、と結論を述べるだけであり、組合の理解を得るような説明に努めたとはいえない。
イ 12月20日の団体交渉
12月20日の団体交渉においても、法人は、A2の役職手当を不支給とした理由について、B2主任が出向先から戻ってきた
ことで同書記長の主任代行(副主任)の役職の根拠はなくなっている、今年4月に役職から外すという判断をしたので役職手当を
支給する根拠がないと説明した。これに対し、組合は、B2主任が出向先から戻ってきたのは25年頃であり、なぜそのときに辞
令を出して、役職を外さなかったのかと質問したが、法人は、そのままにしておいた、直ちに終えてもよかったが、そのままにし
ておいた、などと述べただけであった。このような説明では、B2主任が25年9月に戻ってきてからも3年4か月間にわたって
A2に役職手当の支給を継続してきた経緯や、それを29年4月になって不支給とした理由の説明として、十分であるとは到底い
えない。
加えて、前記のとおり、法人がA2に役職手当の不支給やその理由を事前に説明したとは認められないにもかかわらず、組合
が、辞令も出さずに役職手当を不支給とするのはおかしいと指摘すると、法人は、A2には役職を外れていただくことをお知らせ
している、同人に役職を外すことを言ってあるなどと述べ、それ以上交渉を進めようとはしなかった。
ウ 以上のとおり、11月27日及び12月20日の団体交渉における法人の対応からは、交渉によって問題を解決しようとして
臨んでいたとみることはできず、法人が、A2に対して29年3月まで役職手当の支給を継続した経緯や、それを不支給とした理
由などについて、組合の理解と納得を得るべく誠実に団体交渉を行ったということはできない。
エ 30年3月19日の団体交渉
法人は、団体交渉の中で、組合がこれまでの回答が変わらないか確認したことに対し、A2に対する役職手当の問題について
は、当委員会において解決したいとの意向を示しただけであるし、同人への役職手当は支払わないという自らの回答が変わらない
旨も回答しているのであるから、法人が同人の役職手当の問題について、団体交渉で取り上げることを拒否したとまでみることは
できない。そして、このやり取りは団体交渉の冒頭30秒ほどのやり取りにすぎないことも考慮すると、こうしたやり取りをもっ
て、法人の対応が、正当な理由のない団体交渉拒否であるとか、不誠実な団体交渉であるとか評価することはできない。
オ 結論
以上のとおり、A2の役職手当不支給を議題とする、29年11月27日及び12月20日の団体交渉における法人の対応は、
不誠実な団体交渉に当たるが、30年3月19日の団体交渉における法人の対応は、正当な理由のない団体交渉拒否及び不誠実な
団体交渉のいずれにも当たらない。 |
掲載文献 |
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