労働委員会裁判例データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  東京高裁令3年(行コ)第65号せたがや白梅救済命令取消請求控訴事件 
控訴人  X法人(「法人」) 
被控訴人  東京都(同代表者兼処分行政庁 東京都労働委員会) 
被控訴人補助参加人  Z組合(「組合」) 
判決年月日  令和3年10月13日 
判決区分  棄却 
重要度   
事件概要  1 本件は、法人が、①組合分会書記長Aに対し役職手当を支給しなかったこと等、②役職手当の不支給に関連して開催された3回の団交においてとった対応が、不当労働行為であるとして救済申立てがあった事案である。
2 東京都労働委員会は、上記①及び②の一部につき不当労働行為が成立するとした上で、役職手当等の支払い、文書交付等を命じ、その余の申立てを棄却した。
3 法人は、これを不服として、東京地裁に行政訴訟を提起したが、同地裁は、法人の請求を棄却した。
4 法人は、これを不服として、東京高裁に控訴したが、同高裁は、法人の請求を棄却した。 
判決主文  1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用(補助参加によって生じた費用を含む。)は控訴人の負担とする。
 
判決の要旨   当裁判所も、当審における控訴人の主張を考慮しても、控訴人の請求は理由がないものと判断する。その理由は、次のとおり訂正するほかは、原判決の「事実及び理由」欄の第3に記載のとおりであるから、これを引用する。
(注:以下の要旨は、訂正を反映したもの。)
1 争点(1)(役職手当不支給につき労組法7条1号前段の不当労働行為が成立するか)
 法人と組合は、平成26年9月の分会結成以降、分会長らに対する解雇等に関し、民事訴訟及び不当労働行為救済手続において係争状態にあり、その後、本件役職手当が不支給となった平成29年4月の約2か月前までには和解によってその多くが解決していたものの、前件の申立てのうち分会長らに関する申立て(高裁和解が成立していたものの、前件申立ての一部として係属していた。)は未だ係属中であった。また、施設利用者によって分会の組合員に対する否定的評価が記載された貼紙が法人の施設内に掲示されたことにつき、組合が法人に対し抗議等を行ったほか、高裁和解による副分会長の復職に際し、同人が施設利用者の家族会に挨拶した際に家族会から否定的な反応が生じた際、事前の打合せ等とは異なる状況となったにもかかわらず、法人関係者等が家族会からの発言を制止しなかったことを組合が問題視するなどしていたのであって、法人と組合は、前記のとおり同年2月の中労委和解において、和解条項を受諾していたにもかかわらず、なおも双方の対立関係が必ずしも解消されたとまではいえない状況にあったと認められる。加えて、法人は、分会結成前に生じたAの施設利用者への有形力の行使等について懲戒処分を行わなかったにもかかわらず、中労委和解の直前である平成29年1月末にAが私物を洗濯機で洗濯した行為について懲戒処分としてのけん責処分を行っており、けん責処分が法人における懲戒処分のうち最も軽い処分であることを考慮しても、その後の法人とAの関係が少なくとも通常の労使関係程度には修復されたと認めることも直ちには困難である。
 Aは、分会結成以来の組合員で、分会唯一の常勤職員として分会の書記長という職にあり、別件申立てにおいては、法人はAのパワーハラスメントを主張し、Aはそれを契機として約8か月にわたって休職したほか、組合はAに作業指導等の業務を担当させないこと等が不利益取扱いに当たると主張するなど、組合が法人による不当労働行為の対象であるとして強く救済を求めていた人物の一人であった。

 法人が、役職手当不支給についての書面への署名捺印に応じた常勤職員には役職手当の支給を継続した一方で、労働条件の改善や法人の経営努力が必要であると述べて署名捺印に応じなかったAに対してのみ、本件役職手当不支給に至った。また、平成29年3月に開催された法人の社員総会においては、役職手当の支給について審議されておらず、平成29年度及び平成30年度の活動予算書においても人件費について減額を予定していない状況にあったことからすれば、上記の社員総会に付議すべき事項を議決した理事会においても、法人の事業計画に含まれる役職手当の不支給について議決したものと認めることができず、そうであれば、法人は、Aに対し、法人における内部の意思決定を正規に経て作成されたものとは認めることができない書面を示し、もって、Aに役職手当の不支給に同意するように求めている。さらに、その後の団体交渉において、Aに支給していた役職手当はB主任が出向した際にAを主任代行に任命したことから支給を開始したものであり、B主任が出向先から復帰した際に本来支給をやめるべきであったが忘れていた、直ちに役職を外してもよかったが、そのままにしておいたなど、一貫性のない回答を行っている。
 以上によれば、組合員であるAに経済的不利益を負わせ、事業場から分会やAの影響力を排除するためにされたものと認めるのが相当であり、不当労働行為意思に基づく不利益取扱いであるといえる。
2 争点(2)(3回の団交における法人の対応につき労組法7条2号の不当労働行為が成立するか)
(1) 第1回団交
 法人の第1回団交における回答や交渉態度は、組合において、従前の説明内容との間に齟齬があるため、当然抱いてしかるべき疑問、問題点を指摘したのに対し、自らの主張の根拠についての具体的な説明や論拠に基づく反論により見解の対立の解消を目指し、交渉を通じた合意による解決に向けて誠実に団交に対応したと評価することはできず、団体交渉において誠実に交渉に当たるべき義務に違反したものというべき。
(2) 第2回団交
 法人は、役職手当不支給が降職に伴うものとすると時期的に疑問がある旨の組合の指摘に対し、役職手当の支給はそのままにしておいた旨回答するにとどまり、B主任の復帰後3年4か月にわたって役職手当の支給を継続したことについて合理的な説明をせず、降職辞令が出されていない点の指摘に対しても、Aに言ってあると述べ、組合からA本人は聞いていない旨の指摘についても、Aに伝えた旨を繰り返し、他の職員に対する発表についても、職員名簿を見れば理解できる旨回答したものであり、法人において、Aに対して役職を外れることを伝えた事実は認められないにもかかわらず、法人は、虚偽の事実を含む回答を行ったものと認めるのが相当であることを踏まえると、法人の第2回団交における回答や交渉態度は、自らの主張の根拠についての具体的な説明や論拠に基づく反論をすることにより見解の対立の解消を目指し、交渉を通じた合意による解決に向けて誠実に団体交渉に対応したと評価することはできず、団地交渉において誠実に交渉に当たるべき義務に違反したものというべき。
 なお、法人は、当審においても、第1回団交及び第2回団交において誠実対応した旨を主張するが、前記に判示したとおりであるから、採用することはできない。
(3) 第3回団交
 第3回団交は、第1回団交及び第2回団交とは異なり、主として役職手当不支給の議論を予定していたわけではなく、組合は、できれば団交において交渉で解決を図りたい旨要求していたものの、従前の経緯からすれば、団体交渉により解決する可能性が乏しいことを踏まえて救済申立てをしたことがうかがわれ、法人がAに役職手当を支払わない回答は変わらない旨回答していることやその応答が団体交渉冒頭の30秒程度であったことも踏まえると、第3回団交における法人の対応は、役職手当不支給を団体交渉において取り上げることを拒否したとみることはできず、交渉を通じて合意による解決を図ろうとする誠実な対応ではなかったと評価することはできない。
3 以上によれば、本件役職手当不支給について労組法7条1号前段の、第1回団交及び第2回団交における法人の対応について同条2号の不当労働行為が成立するとした救済命令の判断は正当であり、救済命令の救済方法も相当であるから、救済命令に取り消すべき違法はなく、本件控訴は理由がないから棄却する。 
その他   

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顛末情報
事件番号/行訴番号 命令区分/判決区分 命令年月日/判決年月日
東京都労委平成30年(不)第12号 一部救済 令和元年11月5日
東京地裁令和2年(行ウ)第44号 棄却 令和3年2月22日
 
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