労働委員会命令データベース

(この事件の全文情報は、このページの最後でご覧いただけます。)

[命令一覧に戻る]  [顛末情報]
概要情報
事件番号・通称事件名  大阪府労委平成28年(不)第39号
不当労働行為審査事件 
申立人  X組合(「組合」) 
被申立人  会社Y(「会社」) 
命令年月日  平成30年11月9日 
命令区分  全部救済 
重要度   
事件概要   本件は、被申立人が、組合員1名に対し、①再雇用時の雇用契約に当たり、グロッサリー部門の一部を担当業務とし、基本給を172,500円、1日の就業時間を7時間30分、職務手当を不支給としたこと、②時間外勤務を禁止する指示を行ったこと、③平成28年夏期賞与について、他の再雇用された社員よりも低い金額を支給したことが不当労働行為であるとして、救済申立てがあった事件で、大阪府労働委員会は、会社に対し、当該組合員の再雇用後の職務、基本給等を定年退職時の職務等級が同等であった者と均衡を失しないよう決定すること、賃金及び時間外勤務手当の差額支給並びに①及び②について文書の手交及び掲示を命じた。 
命令主文 
1 被申立人は、申立人組合員A2の再雇用後の職務、基本給、就業時間及び職務手当について、職能資格等級は3等級、基本給は月額200,000円、職務手当は月額50,000円をそれぞれ超えない範囲で、平成28年4月15日前に再雇用されたシニア嘱託社員のうち、定年退職時に、職能資格等級が申立人組合員A2と同等の5等級であった者との均衡を失しないよう、決定しなければならない。
2 被申立人は、申立人組合員A2に対し、前項により決定された労働条件で就労していれば得られたであろう賃金相当額(平成28年夏期賞与を含む。)と既支払額との差額及び平成28年4月15日前に再雇用されたシニア嘱託社員のうち、定年退職時に、職能資格等級が申立人組合員A2と同等の5等級であった者の同年6月l6日以降の、時間外勤務手当の平均額(ただし、月40時間相当額を上回らない額)と既支払額との差額を支払わなければならない。
3 被申立人は、申立人に対し、下記の文書を速やかに手交するとともに、縦2メートル×横1メートル大の白色板に下記の文書と同文を明瞭に記載して、(略)被申立人の本部建物の正面玄関付近の従業員の見やすい場所に2週間掲示しなけれぱならない。


年  月  日
組合
 執行委員長 A1様
会社
 代表取締役B1

 当社が行った下記の行為は、大阪府労働委員会において、労働組合法第7条第1号及び第3号に該当する不当労働行為であると認められました。今後、このような行為を繰り返さないようにいたします。
(1) 貴組合員A2氏との定年後のシニア嘱託社員としての雇用契約に当たり、同氏をグロッサリー部門の一部の担当とし、基本給を172,500円、1日の就業時間を7時間30分、職務手当を不支給としたこと。
(2) 平成28年6月14日に、貴組合員A2氏に対し、会社本部の役職者が、同月l6日からは残業しないで帰るよう指示したこと。
(3) 平成28年夏期賞与について、貴組合員A2氏に対し、他のシニア嘱託社員よりも低い金額を支給したこと。 
判断の要旨  1 争点1(会社が、A2組合員との定年後のシニア嘱託社員としての雇用契約に当たり、A2組合員をグロッサリー部門の一部の担当とし、基本給を172,500円、1日の就業時間を7時間30分、職務手当を不支給としたことは、組合員であるが故の不利益取扱いであるとともに、組合に対する支配介入に当たるか。)について

ア A2組合員の再雇用条件が不利であることに合理的理由があるかについて
 会社は、A2組合員の再雇用条件について、当人の能力適性に基づいて雇用条件を決定しており、A2組合員の評価・査定は、組合結成の前から一貫して低く、能力適性が低いから給与が低いにすぎない旨等主張する。
 A2組合員の再雇用される前、平成25年夏期から同27年年末までの人事評価をみると、e評価やd評価はあるものの、A2組合員の役職を再雇用後に3段階も降格したことについて、能力・評価が低いからとすることには疑問が残る。
 精肉部門の経験年数の長いA2組合員を、グロッサリ一部門の一部の担当としたことは、不自然であり、合理的理由はない。
 A2組合員より後に再雇用された2名を除き、他のシニア嘱託社員を、いずれも、1日の就業時間が8時間、休憩時間は1時間として再雇用してきたにもかかわらず、A2組合員の1日の就業時間を、30分短い7時間30分とする一方で、休憩時間を2時間としていることについても、合理的理由は認められず、不自然である。また、上記2名については、A2組合員と同様に1日の就業時間を7時間30分とされているものの、本件申立て以降に採用されたものであり、不自然さに変わりはない。
 したがって能力・適性に基づいて雇用条件を決しているとの会社の主張は採用できない。
イ 不当労働行為意思について
 A2組合員が再雇用された平成28年4月頃の組合と会社の関係をみると、組合は、当委員会に対し、会社を被申立人とする5件の不当労働行為救済申立てを行っており、うち2件は全部救済命令が発出され確定し、残る3件は一部救済命令が発出され、このうち2件が確定、1件が裁判所で係争中であること、当委員会において審査された不当労働行為救済申立事件3件について、A2組合員は組合側証人として証言を行ったこと等が認められるから、組合と会社との間には激しい対立関係があり、A2組合員は積極的に組合活動を行っていたといえる。
 このような事情からすると、会社は、組合及びA2組合員を好ましからざる存在とみていたことが推認できる。
ウ 結論
 会社がA2組合員とのシニア嘱託社員の雇用契約に当たり、不利益な条件としたことについて合理的な理由はなく、また、再雇用当時、会社は組合と激しい対立関係にあり、組合及びA2組合員を好ましからざる存在と認識していたと認められることから、かかる会社の対応は、組合員であるが故にA2組合員を不利益に取り扱うものであり、労働組合法第7条第1号に該当する不当労働行為である。
 また、会社がA2組合員について不利益な再雇用条件としたことは、組合結成時から副執行委員長や特別執行委員に就いてきたA2組合員に対し、このような不利益な再雇用条件で再雇用を行うことによって、定年後も会社でシニア嘱託社員としての就労を希望する組合員を萎縮させ、今後の組合の活動に影響を及ぼすとともに、会社への組合活動による影響力を減じさせるといえることから、組合に対する支配介入であって、労働組合法第7条第3号に該当する不当労働行為である。
2 争点2(平成28年6月14日に、会社が、A2組合員に対し、本件残業禁止指示を行ったことは、組合員であるが故の不利益取扱いであるとともに、組合に対する支配介入に当たるか。)について
 会社は、残業禁止指示を、非組合員に対しても行っているものの、いずれも本件申立て後のことである。会社が、A2組合員が応援を指示されていた精肉部門の従業員が恒常的に長時間の残業を行っている中、A2組合員に対してのみ、本部から本件残業禁止指示を行ったことは、未払い残業代をめぐって会社と係争中にあった組合員を嫌悪して行われたものとみるのが相当である。
 したがって、会社がA2組合員に対し、本件残業禁止指示を行ったことは、組合員であるが故の不利益取扱いであるということができ、労働組合法第7条第1号に該当する不当労働行為である。
 また、組合の副執行委員長等に就いてきたA2組合員に対し、本件残業禁止指示を行い残業させないよう徹底したことは、他の従業員に対する見せしめとして、組合活動を抑圧排除しようとして行われたものであり、会社への組合活動の影響力を減じさせているといえることから、組合に対する支配介入であって、労働組合法第7条第3号に該当する不当労働行為である。

3 争点3(平成28年夏期賞与について、会社がA2組合員に対し、他のシニア嘱託社員よりも低い金額を支給したことは、組合員であるが故の不利益取扱いであるとともに、組合に対する支配介入に当たるか。)について
 会社におけるシニア嘱託社員の賞与の決定方法には、人事評価段階ごとにベース金額が設定されているものの、個々の事情を勘案してベース金額を加減する際、会社の恣意が入る余地が大きいものであった上、会社が平成28年夏期賞与として、A2組合員に対し、他のシニア嘱託社員よりも低い金額である45,000円を支給したことについて、合理的な理由はなく、組合を嫌悪した会社がA2組合員を不利益に取り扱ったといえ、労働組合法第7条第1号に該当する不当労働行為である。
 さらに、会社は、A2組合員に対し、他のシニア嘱託社員よりも低い金額である45,000円を支給するという不利益取扱いを行うことによって、組合活動を萎縮させ、組合の弱体化を図ったということができ、かかる会社の対応は、労働組合法第7条第3号に該当する不当労働行為である。 
掲載文献   

[先頭に戻る]

顛末情報
事件番号/行訴番号 命令区分/判決区分 命令年月日/判決年月日
大阪地裁平成30年(行ウ)第194号 棄却 令和元年10月30日
大阪高裁令和元年(行コ)第170号 棄却 令和2年5月28日
 
[全文情報] この事件の全文情報は約533KByteあります。また、PDF形式になっていますので、ご覧になるにはAdobe Reader(無料)のダウンロードが必要です。