労働委員会裁判例データベース

(この事件の全文情報は、このページの最後でご覧いただけま す。)

[判例一覧に戻る]  [顛末情報]

概要情報
事件番号・通称事件名  大阪地裁平成30年(行ウ)第194号
サンプラザ不当労働行為救済命令取消請求事件 
原告  株式会社X(「会社」) 
被告  大阪府(同代表者兼処分行政庁 大阪府労働委員会) 
被告補助参加人  Z労働組合(「組合」) 
判決年月日  令和元年10月30日 
判決区分  棄却 
重要度   
事件概要  1 本件は、会社が、組合員Aについて、①従前の例よりも低い労働 条件(本件再雇用条件)で定年後再雇用したこと、②残業を禁止する指示(本件残業禁止指示)を行ったこと、③平成28年夏期 賞与として他の再雇用社員より低い金額を支給したこと(本件賞与減額支給)が、それぞれ不当労働行為に当たるとして、救済申 立てがあった事件である。

2 大阪府労働委員会は、いずれも不当労働行為に当たるとして、会社に対し、当該組合員の再雇用後の職務、基本給等を定年退 職時の職能資格等級が同等であった者と均衡を失しないよう決定すること、賃金及び時間外勤務手当の差額支給並びに文書の手交 及び掲示を命じた(本件救済命令)。

3 会社は、これを不服として、大阪地裁に行政訴訟を提起したが、同地裁は、会社の請求を棄却した。 
判決主文  1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用(補助参加によって生じた費用を含む。)は,原告の負担とする。 
判決の要旨  1 争点1(本件再雇用条件の不当労働行為該当性)について
(1) 本件再雇用条件が労組法7条1号の不利益取扱いに該当するかについて
 Aに対する本件再雇用条件は,賃金額が他のシニア嘱託社員より低額となっており,賃金額において明らかに不利益な労働条件 といえる。また,本件再雇用条件は,担当職務が他のシニア嘱託社員より著しく限定され,拘束時間は他のシニア嘱託社員より長 くなっており,他のシニア嘱託社員より担当職務や労働時間の面でも不利益な労働条件といえる。以上に加え,Aは,本件再雇用 条件について異議を述べていたことをも考慮すれば,本件再雇用条件は,Aに対する不利益取扱いに当たる。
(2) 本件再雇用条件は,Aが組合員であることを理由とする不利益取扱いであり,支配介入であるといえるかについて
ア 仮に,高年法の改正により,事実上いかなる低評価の者であっても定年後再雇用を拒否できなくなったとしても,同改正法が 施行されたのは平成25年4月1日以降であるところ,その後,Aに対して再雇用条件を提示した平成28年4月に至るまでの間 に,会社において上記の場合の再雇用条件を検討し,決定していたことをうかがわせる証拠はない。また,Aより後に再雇用され たシニア嘱託社員に本件再雇用条件が適用されているわけではなく,その適用基準を明確に定めた規定も見当たらない。そうする と,会社のAに対する本件再雇用条件の適用は合理的理由に基づくものとの主張は不自然かつ不合理なものといわざるを得ない。
イ 平成25年夏期から平成27年年末までのAの人事評価は,最終評価がd又はeと,標準であるcより低いものであった。し かし,上記期間のAの評価表には,比較的詳細な店長評価が記載されているものの,店舗運営評価や最終評価についての記載がな く,店長評価がc以上であるにもかかわらず,店舗運営評価や最終評価がd以下とされている理由も不明であることに照らせば, 上記期間のAの人事評価が客観的に明確な基準に基づいて公正にされたものであることには疑問がある。また,定年前のAの副店 長としての人事評価が低評価であったことをもって直ちに,担当社員としてグロッサリー部門の一部のみの担当とすることに合理 性があるということはできない。そして,Aの定年退職時の役職は精肉部門マネージャー等であったこと,Aの配属店舗にも精肉 部門は存在し,嘱託社員以外はパートタイマーしかいなかったこと,当時,嘱託社員は平均月75時間程度の残業を行っていたこ と,Aは,再雇用された後も約2か月間,同部門の業務を行っていたこと,A以外にシニア嘱託社員が部門の一部を担当する例は ないことを総合すると,当時,会社が精肉部門の生鮮センターへの集約化方針を進めていたことを考慮しても,Aを再雇用する 際,店舗の精肉部門ではなく,グロッサリー部門の一部の担当としたことに合理性があるということはできない。
ウ Aは結成当時から組合の副執行委員長等の役職を務めていたところ,Aが再雇用された平成28年4月当時,組合は会社を被 申立人として不当労働行為救済命令申立てを3年連続で申し立てており,Aも組合側の証人として証言を行うなどし,いずれも救 済命令が発出されていたこと,組合員の申告に基づき,会社は労働基準監督署から未払残業代につき是正勧告を受けたこと,Aを 含む組合員が会社に対して未払残業代の支払を求める民事訴訟が係属していたことに照らせば,平成28年4月当時,会社と組合 とは深刻に対立している状況にあり,会社は組合やその役員として積極的な活動を行っていたAを嫌悪していたものと認められ る。
エ Aに対する本件再雇用条件については,不利益な取扱いをすることに合理的な理由があったということはできず,また,その 当時,会社と組合との間には深刻な対立状況があったことなどを総合考慮すると,会社は,Aが組合員であることを理由として, 同人に対して本件再雇用条件という不利益な取扱いをしたものと認めるのが相当である。また,会社は,Aが組合員であることを 理由として不利益な取扱いをしたものであるところ,組合員が定年後再雇用に当たってこのような取扱いを受けるとすれば,組合 員の組合活動意思が萎縮し,組合活動一般に対して制約的効果が及ぶものであり,このような取扱いにより,会社内の組合員を減 少させ,もって組合の組織の弱体化を意図したものというべきであるから,本件再雇用条件は,組合に対する支配介入に当たると いえる。

2 争点2(本件残業禁止指示の不当労働行為該当性)について
(1) 本件残業禁止指示が不利益取扱いに当たること
 本件残業禁止指示によって,Aは,残業により相応の割増賃金等を会社から得ることが一切できなくなり,経済的に大きな打撃 を受けるものといえるから,これがAに対する不利益取扱いに当たることは明らかである。
(2) 本件残業禁止指示は,Aが組合員であることを理由とする不利益取扱いであり,支配介入であるといえるかについて
ア Aがシニア嘱託社員として勤務を開始した平成28年4月頃,Aの配属店舗の精肉部門のパートタイマー1名が病気で休職し ていたため,Aは,グロッサリー部門の一部の業務の他に精肉部門での業務及びそれに必要な残業を会社から指示され,同年6月 頃まで月約40時間の残業を行ったこと,同月に上記パートタイマーが復帰した後,店長は,Aに対し,精肉部門の応援業務を行 う必要がなく,残業の必要もない旨述べたことが認められる。しかしながら,上記パートタイマーの復帰当初は短時間勤務であっ たことに照らすと,復帰により直ちに精肉部門の応援業務を行う必要がなくなったと解することはできない。また,Aは,定年退 職前,上記店舗の精肉部門のマネージャーを兼務していたところ,Aの定年退職後,同部門のマネージャーが新たに配属された形 跡はないこと,上記パートタイマーの復帰後,精肉部門には,嘱託社員とパートタイマー2名が配置されていたところ,同嘱託職 員は,同年7月からの約5か月間に月75時間程度という相当長時間の残業を行っていたことを踏まえると,上記パートタイマー が復帰した後,精肉部門が従前の人的体制で対応でき,応援を全く要しない状況であったとまでは認められない。そうすると, パートの復帰により,Aが残業してまで同部門の応援に行く必要がなくなったとの本件残業禁止指示の合理的理由に関する会社の 主張は採用の限りではない。
イ 本件残業禁止指示に合理的な理由があったとは認められないことに加え,本件残業禁止指示に至る経緯,とりわけ,①本部か らの残業禁止指示は,Aに対して行われたものが最初であったこと,非組合員である5名に対して本部から残業禁止指示がされた のは,本件残業禁止指示の4か月以上後であったこと,②本件残業禁止指示がされた当時,組合は,未払残業代につき労働基準監 督署に申告を行い,会社は是正勧告を受けたほか,Aを含む組合員から未払残業代を請求する訴訟を提起されていたこと,③会社 は,本件残業禁止指示の約1か月前に,組合が申し立てた不当労働行為救済申立てにつき,一部救済命令を受けていること,④上 記のとおり,当時,会社と組合とは深刻に対立している状況にあり,会社は組合やその役員として積極的な活動を行っていたAを 嫌悪していたものと認められることを総合すると,会社は,Aが組合員であることを理由として,同人に対して本件残業禁止指示 という不利益な取扱いをしたもの(労組法7条1号)と認めるのが相当である。
ウ 上記イのとおり,会社は,Aが組合員であることを理由として,同人に対して本件残業禁止指示という不利益な取扱いをした ものであるところ,組合員がこのような取扱いを受けるとすれば,組合員の組合活動意思が萎縮し,組合活動一般に対して制約的 効果が及ぶものであり,このような取扱いにより,会社内における組合員を減少させ,もって組合の組織の弱体化を意図したもの というべきであるから,本件残業禁止指示は,組合に対する支配介入に当たる。

3 争点3(本件賞与減額支給の不当労働行為該当性)について
(1) 本件賞与減額支給が不利益取扱いに該当するかについて
 本件賞与減額支給の支給額(4万5000円)は,平成28年夏期に賞与を支給されたシニア嘱託社員の中で最も低い額であっ たことが認められるから,本件賞与減額支給は,Aに対する不利益取扱いに該当する。
(2) 本件賞与減額支給は,Aが組合員であることを理由とする不利益取扱いであり,支配介入であるといえるかについて
ア Aは,店長から,今後は残業しないよう指示された際,残業一切なしでは困る,残業をする旨回答しているが,その他にAが 店長に対して反抗的態度を取ったことを認めるに足りる証拠はないこと,当時,Aに対して一切の残業を禁止する必要があったと はいえないこと,定年退職前のAに対する人事評価が客観的に明確な基準に基づいて公正にされたものか疑問があることに照らせ ば,本件賞与減額支給に合理性がある旨の会社の主張は,にわかに首肯できない。加えて,シニア嘱託社員に対して支給される賞 与の額は,人事評価の結果のみによって定められているわけではなく,平成28年夏期賞与の場合,Aと同じd評価であって も,19万8000円を支給されたシニア嘱託社員がいるのであって,シニア就業規則に,シニア嘱託社員に対して賞与は原則と して支給しない旨の規定があることを考慮しても,平成28年夏期のAの評価がd評価であったことをもって,本件賞与減額支給 に合理的な理由があったということはできない。 
イ 本件賞与減額支給に合理的な理由があったとは認められないことに加え,Aに対する経済的不利益を伴う本件再雇用条件,本 件残業禁止指示及び本件賞与減額支給が平成28年4月から7月までの約3か月間に立て続けに行われていること,会社は,本件 残業禁止指示の約2週間前である同月1日に,組合が申し立てた不当労働行為救済申立てにつき,救済命令を受けていること,平 成28年4月当時,会社と組合とは深刻に対立している状況にあり,会社は組合やその役員として積極的な活動を行っていたAを 嫌悪していたものと認められることを総合すると,会社は,Aが組合員であることを理由として,同人に対して本件賞与減額支給 という不利益な取扱いをしたものと認めるのが相当である。
ウ 会社は,Aが組合員であることを理由として,同人に対して本件賞与減額支給という不利益な取扱いをしたものであるとこ ろ,組合員がこのような取扱いを受けるとすれば,組合員の組合活動意思が萎縮し,組合活動一般に対して制約的効果が及ぶもの であり,このような取扱いにより,会社内における組合員を減少させ,もって組合の組織の弱体化を意図したものというべきであ るから,本件賞与減額支給は,組合に対する支配介入に当たるといえる。

4 争点4(本件救済命令の内容が裁量権を逸脱・濫用するものか)について
 会社は,本件救済命令の主文1項が,現職時の評価が高く,再雇用後も店長や副店長の職にある者と,現職時の評価が低く,再 雇用後は店長や副店長の職にないAを同じ待遇とせよと命ずる不合理なものである,したがって,これを前提とする本件救済命令 の主文2項及び3項の内容も不当である旨主張する。
 しかしながら,定年退職前のAに対する人事評価が客観的に明確な基準に基づいて公正にされたものか疑問があることからする と,会社の主張はその前提を欠くものといわざるを得ない。また,本件救済命令の主文1項は,Aの再雇用後の労働条件を,「職 能資格等級は3等級,基本給は月額20万円,職務手当は月額5万円をそれぞれ超えない範囲」で,定年退職時に職能資格等級5 等級であったシニア嘱託社員との均衡を失しないよう決定するよう命じているのであって,本件再雇用条件が不当労働行為に当た ることを前提とする救済方法として不合理な内容のものということはできない。本件救済命令の内容に,処分行政庁の裁量権を逸 脱濫用した違法があるということはできない。

5 結論
 以上のとおり,Aに対する本件再雇用条件,本件残業禁止指示及び本件賞与減額支給は,いずれも組合員であるが故の不利益取 扱い(労組法7条1号)に該当する上,組合員の組合活動を萎縮させる支配介入(同条3号)にも該当すると認められるから,こ れらが不当労働行為に当たるとした処分行政庁の判断に違法があるとはいえない。また,上記不当労働行為を是正するための救済 方法として,会社に対し命じた本件救済命令に,裁量権を逸脱,濫用した違法があるともいえない。 
その他   

[先頭に戻る]

顛末情報
事件番号/行訴番号 命令区分/判決区分 命令年月日/判決年月日
大阪府労委平成28年(不)第39号 全部救済 平成30年11月9日
大阪高裁令和元年(行コ)第170号 棄却 令和2年5月28日
 
[全文情報] この事件の全文情報は約584KByteあります。 また、PDF形式になっていますので、ご覧になるにはAdobe Reader(無料)のダ ウンロードが必要です。