労働委員会命令データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  大阪府労委平成26年(不)第73号
不当労働行為審査事件 
申立人  X1組合(「組合」) 
被申立人  Y1会社、Y2会社 
命令年月日  平成28年3月25日 
命令区分  一部救済 
重要度   
事件概要   本件は、被申立人Y1会社及びY2会社が、申立人組合員1名の負傷に関する団体交渉の申入れに対し、使用者に当たらないこと、団体交渉に応じるべき事項に該当しないなどとしてこれに応じないことが不当労働行為であるとして、申立てのあった事件である。
 大阪府労委は、Y2会社に対して、団交応諾と文書手交を命じ、Y1会社に対する申立てを棄却した。  
命令主文  1 被申立人有限会社Y2会社は、申立人が平成26年11月14日付け及び同月27日付けで申し入れた、安全配慮義務とその責任についての団体交渉に応じなければならない。
2 被申立人有限会社Y2会社は、申立人に対し、下記の文書を速やかに手交しなければならない。

記(省略)

3 被申立人Y1会社に対する申立てを棄却する。 
判断の要旨  1  Y2会社は、組合の平成26年11月14日付け及び同月27日付けの団交申入れについて、D組合員の労働組合法上の使用者に当たるか。そうであるとすれば、各団交申入れに対するY2会社の対応は、正当な理由のない団交拒否に当たるか、について、以下判断する。
 本件団交申入れについて団交が開催されていないことは当事者間に争いがない。また、D組合員は、別組合とY2会社との間の労供協約〔職業安定法第45条に基づく労働者供給事業に関する労働協約〕により、Y1会社が所有する生コン工場に出社し、ミキサー車のドライバーとして就業していたこと、26.9.13事件〔D組合員が殴打等を伴うトラブルにより負傷した事件〕時、Y2会社がD組合員の労働組合法上の使用者に該当していたこと、本件団交申入れ時において、D組合員とY2会社との間に雇用関係がないことについても当事者間に争いがない。
 ところで、労働組合法第7条第2号にいう使用者が雇用する労働者とは、原則的には、現に当該使用者が雇用している労働者を前提としているものと解される。しかし、近い過去に労働契約関係が存した場合、当該使用者は、近い過去に存在した労働契約関係の清算に係る事項については、労働組合法上の使用者に当たるというべきである 。
 そこで、本件団交申入れにおける要求事項についてみる 。
ア まず、26.11.14団交申入れのうち、26.11.14分会要求書の「3.会社は、2014年9月13日の暴行事件について、組合に事実検証報告を行い、早急に労災手続きをとること」以外の要求事項についてみると、これらは、現に労働契約があることが前提となる事項であると解されるところ、本件団交申入れ時においては、Y2会社とD組合員との間に雇用関係はなく、また、前記認定によると、同時点ではD組合員は別組合を脱退し、労働者供給事業に基づいてY2会社に雇用される余地もなかったのであるから、これらの要求事項について、Y2会社は、D組合員の労働組合法上の使用者に当たらず、Y2会社に団交応諾義務があるとはいえない。
イ 次に、26.11.14分会要求書の「3.会社は、2014年9月13日の暴行事件について、組合に事実検証報告を行い、早急に労災手続きをとること」及び26.11.27抗議申入書についてみる 。
 前記認定によると、26.11.22回答書には、D組合員は既に労災申請をしているので目的を達しているといえる旨の記載があること、26.11.27抗議申入書には、労災手続の有無は問題ではなく、労働者に対する安全配慮義務、責任に対して交渉を求めているのである旨、26.11.14分会要求書3項で主張する目的を達していない旨記載されていることが認められ、これらのことからすると、組合は、26.11.14分会要求書及び26.11.27抗議申入書により、26.9.13事件におけるY2会社の安全配慮義務とその責任について団交を求めているといえる 。
 しかも、26.9.13事件の時点では、Y2会社が使用者であったことは争いがなく、また、前提事実及び前記認定によると、D組合員は生コンの配送先で26.9.13事件により負傷したこと、26.4.1協約書に作業中の傷害等に関しては原則としてY2会社が処理する旨の条項があること、からすると、26.9.13事件におけるY2会社の安全配慮義務とその責任については、近い過去に存在した労働契約関係の清算に係る事項であることから、Y2会社は、この点に関し、D組合員の労働組合法上の使用者に当たり、また、この事項については、義務的団交事項であるといえる。
ウ ところでY2会社は、26.9.13事件の実態は、D組合員による不当な行為に起因するものでしかなく、 労働契約関係が存在した間に発生した事実を原因とする紛争に値する事実は存しない旨主張する。 確かに26.9.13事件については、双方の陳述が全く相反している。 しかし、Y2会社としては、まず、団交に応じた上で、団交の場でD組合員による不当な行為に起因するものである旨、自らの安全配慮義務に問題がなかった旨説明しなければならないのであるから、これをもってY2会社の団交応諾義務が免ぜられるものではない。
エ 以上のとおりであるから、本件団交申入れのうち、26.9.13事件におけるY2会社の安全配慮義務とその責任については、 Y2会社は、団交に応じるべき立場にあるといえる。
2 Y1会社は、組合の平成26年11月14 日付け及び同月27日付けの団交申入れについて、D組合員の労働組合法上の使用者に当たるか。そうであるとすれば、各団交申入れに対するY1会社の対応は、正当な理由のない団交拒否に当たるか、について、以下判断する。
ア Y1会社とD組合員との間に直接の雇用関係がないことは当事者間に争いがない。
イ しかしながら、雇用主以外の者であっても、労働者の基本的な労働条件等について、 雇用主と部分的とはいえ同視できる程度に現実的かつ具体的に支配、決定することができる地位にある場合には、その限りにおいて、労働組合法上の使用者に当たるというべきである。
 ところで、前記1判断のとおり、本件団交申入れのうち、D組合員の労働組合法上の使用者に当たるY2会社の義務的団交事項は、26.9.13事件における安全配慮義務とその責任に関する事項であるところ、これは、業務指示に付随して発生するものであるから、以下、業務指示に関して、Y1会社が労働組合法上の使用者であるY2会社と同視できる地位にあるかについて検討する 。
 前記認定によると、①主としてD組合員に対し配車指示を行っていたのは、G工場長であること、②G工場長はY2会社の従業員であること、が認められ、これらのことからすると、D組合員はY2会社の業務指示に基づき業務に従事していたとみるのが相当である。
 この点、組合は、Y1会社のE氏も配車指示を行うことがあった旨、同人は生コン車に貯留した残水を処理する場所を指示したり、 構内に水を撒くよう指示したり、ミキサー車の燃料を補給するよう指示したことがある旨主張し、これらをもって、 Y1会社がD組合員に対 し業務指示を行っていた旨主張する。
 しかしながら、E氏が上記配車指示等を行った時期や頻度が判然とせず、E氏が日常的に当該指示を行っていたと認めるに足る疎明はない。
 したがって、D組合員に対する業務指示は、Y2会社が行っていたとみるのが相当であって、Y1会社がD組合員に対し業務指示を行っていた旨の組合主張は採用できず、Y1会社が本件団交申入れに係る安全配慮義務とその責任についてD組合員の労働組合法上の使用者に当たるということはできない。
ウ 組合は、支配企業が従属企業の経営全体に支配的な影響を及ぼしている場合には、支配企業が労働者の労働条件決定やその地位に現実的かつ具体的な影響を及ぼしているとはいえなくとも、支配企業が従属企業と重畳的に使用者となることを認めるべきである旨主張するので、以下、この点について念のため検討する 。
 前提事実及び前記認定によると、Y1会社の従業員がY2会社の代表者であること、Y2会社の事務所はY1会社の事務所内にあること、Y2会社は不動産及び車両を所有していないこと、Y2会社とY1会社との間に業務委託契約が締結されていること、当該契約にはY2会社がY1会社の施設及び付帯設備を無償で利用することを認める旨の条項があること、がそれぞれ認められる。
 これらのことからすると、Y1会社はY2会社に対し一定の影響力を及ぼす地位にあるとはいえる。 しかし、両社の株式関係、経理処理関係等は判然とせず、本件に顕われた事実関係のみでは、Y1会社がY2会社の経営全体に支配的な影響を及ぼしていたとまでは認めることはできず、組合の主張は採用できない。
エ 以上のとおり、Y1会社は、組合の平成26年11月14日付け及び同月27日付けの団交申入れについて、D組合員の労働組合法上の使用者に当たるとはいえないから、その余を判断するまでもなく、この点に関する組合の申立ては棄却する。  
掲載文献   

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顛末情報
事件番号/行訴番号 命令区分/判決区分 命令年月日/判決年月日
中労委平成28年(不再)第17・18号 棄却 平成29年1月11日
東京地裁平成29年(行ウ)第88号 却下・棄却 平成30年2月26日
 
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