労働委員会命令データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  東京地裁平成29年(行ウ)第88号
オーケーリース不当労働行為救済命令取消請求事件
原告  有限会社X(「X社」) 
被告  国(処分行政庁・中央労働委員会) 
被告補助参加人  Z1労働組合関西地区生コン支部(「Z1組合」) 
判決年月日  平成30年2月26日 
判決区分  却下・棄却 
重要度   
事件概要  1 本件は、組合員A1が負傷した平成26年9月13日の暴行事件(「本件出来事」)について、組合からなされた平成26年11月14日付け及び同月27日付けの本件各団交申入れに対し、X社及びC1社が① 現在、雇用関係にある組合員がいないこと、② 組合員は既に労災申請をしているので目的を達しているといえることを理由に団交に応じなかったことから、組合が大阪府労委に救済を申し立てた事件である。
2 初審大阪府労委は、X社に団交応諾及び文書手交を命じ(それぞれ「本件団交応諾命令」、「本件文書手交命令」)、C1社に対する申立てを棄却する命令を交付したところ、これを不服として、X社及び組合は、本件再審査を申し立てた。
3 中労委は本件各再審査申立てをいずれも棄却する旨の本件命令を発したところ、X社は、本件命令が違法である旨を主張して、その取消しを求めて東京地裁に訴訟を提起した。
4 東京地裁は、取消しを求める部分を却下するとともに、X社のその余の請求を棄却した。 
判決主文  1 本件訴えのうち中央労働委員会が平成29年1月11日付けでした平成28年(不再)第17号事件に係る命令中の大阪府労働委員会平成26年(不)第73号事件に係る救済命令の主文第1項についての再審査の申立てを棄却した部分の取消しを求める部分を却下する。
2 本件訴えに係る原告の請求のうちその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用は,補助参加によって生じた費用を含め,原告の負担とする。 
判決の要旨  1 まず,争点①(本件損害賠償請求訴訟判決の確定に伴い,本件命令の拘束力が失われたかどうか)について,判断する。
(1) 労働委員会による救済命令の発令の後に事情変更があった場合において,当該救済命令の内容とされた使用者の義務の履行がその事柄の性質上客観的に不可能となり,その履行が救済の手段・方法としての意味を失ったときには,当該救済命令は,当然にその使用者に対する拘束力を失うものというべきであり,このようなときには,当該使用者には,当該救済命令の取消しを求める法律上の利益が存せず,当該取消しの訴えの利益が失われるものと解される(最高裁判所平成7年2月23日第一小法廷判決・民集49巻2号393ページ,最高裁判所平成24年4月27日第二小法廷判決・民集66巻6号3000ページ参照)。
(2) 上記(1)において説示したところを踏まえ,本件損害賠償請求訴訟判決の確定という本件命令の発令の後の事情変更に伴い,まず,本件命令のうちの本件団交応諾命令の拘束力が失われたかどうかについて,検討する。
 組合員A1が本件出来事による負傷の原因についてX社のA1に対する安全配慮義務違反に基づく損害賠償の履行を求めて提起した訴訟について,本件命令が発令された後に,本件出来事に係るX社の安全配慮義務違反を否定してA1の請求を棄却する旨の判決(「本件損害賠償請求訴訟判決」)が確定したというのであるから,本件団交応諾命令がいう本件出来事におけるX社の安全配慮義務とその責任については,X社とA1の間で,本件出来事に関するX社の安全配慮義務の違反がないという結論により,既判力を持って法的な解決がされたと評するほかない。そうすると,本件団交応諾命令がいう本件出来事におけるX社の安全配慮義務とその責任については,本件損害賠償請求訴訟判決が確定した後は,X社とZ1組合の間の団体交渉によって解決することが相当な事項とはいうことができず,むしろ,公法上の義務を課して本件団交応諾命令をX社に更に履行させることは,団体交渉の結果として,X社に法的義務のない行為の履行を強いることになるおそれすら否定することができないものである。
  したがって,本件団交応諾命令は,その内容とされたX社の義務の履行が救済の手段・方法としての意味を失ったものというべきである。そうすると,現時において,本件団交応諾命令は,その拘束力を失っており,X社には,本件命令のうちの本件団交応諾命令に関する再審査の申立てを棄却した部分の取消しを求める旨の請求に係る訴えについては、法律上の利益が存せず、訴えの利益を欠くものということになる。
(3) 次に,本件命令のうちの本件文書手交命令の拘束力が失われたかどうかについて,検討する。
  X社は,現にZ1組合の組合員にX社から雇用されている者がおらず,かつ,Z1組合によって唯一問題とされていた本件出来事におけるX社の安全配慮義務違反としての責任がない旨の本件損害賠償請求訴訟判決が確定したことから,今後にX社がZ1組合との間で労使関係の維持,改善を目的とする団体交渉を行うことは考えられず,本件文書手交命令の履行がその意義を失っている旨を主張している。
  しかしながら,X社は生コンの製造,販売等を行う会社であり,Z1組合は多数の運輸・建設関連及び一般の労働者で組織される労働組合であるところ,それぞれ,現在もこれらの会社又は労働組合として存続しているものである。そうすると,現時においてX社から雇用されるZ1組合の組合員がおらず,また,本件損書賠償請求訴訟判決が確定したとしても,Z1組合が今後にX社から雇用された労働者をその組合員として獲得する可能性が全く存在しないということはできないし,その獲得に伴い,X社とZ1組合との間の集団的労使関係が生じ,その正常な秩序の回復,確保を図ることが可能となる場合もあり得るものと考えられるから,本件文書手交命令の履行が救済の手段・方法としての意義を失ったとまではいうことができなぃ。
  したがって,本件命令のうちの本件文書手交命令に関する再審査の申立てを棄却した部分の取消しを求める旨の請求に係る訴えについては,その訴えの利益を欠いているということはできない。
2 上記1の争点①に対する判断を踏まえ,本件命令のうちの本件文書手交命令に関する再審査の申立てを棄却した部分の適法性に関連し,続いて,争点②(本件各団交申入れに対するX社の対応が労組法第7条第2号の規定に違反するものかどうか)について,判断する。
(1) X社は,本件出来事はX社の業務とは何ら関連性がない私怨又はA1に起因する自招行為に基づくものであって,X社が本件各団交申入れに応ずる義務を負うような事項ではなく,また,X社に安全配慮義務とその責任が存しないことが客観的に明らかであるから,X社が本件各団交申入れに応ずる義務はない旨を主張している。
(2) しかしながら,A1は、本件出来事の時においてX社の指揮命令を受けてその業務に従事していたものであり,本件出来事の発生に先立つ出来事からも,本件出来事とA1が従事していたX社の業務との関連性を直ちに否定することができるようなものではなかったということができる。加えて,X社は、A1がした療養補償給付の請求に関し,X社が把握している本件出来事の状況の詳細等について東近江労働基準監督署長から報告を求められたことに対し,X社が行った平成26年10月21日付け報告をみると,当該報告の時において,X社が有していた本件出来事に関する確たる証拠はなく,X社も本件出来事の正確な状況を把握することができていなかったものであると解されるから,その直後である本件各団交申入れがあった時においても,同様の状況にあったと推認することができる。
  これらの事情によれば,本件各団交申入れの時において,A1及びZ1組合とX社との間では,本件出来事についてX社がA1に対して安全配慮義務違反に基づく責任を負わないことが客観的に明らかであったとは,到底いうことができない。
(3) 加えて,A1がX社の業務に従事する根拠となった訴外組合とX社との間の労働協約中に作業中の傷害等に関しては原則としてX社が処理する旨の定めが存在していたことをも考慮すれば,本件各団交申入れの時においては,本件出来事に関するX社のA1に対する安全配慮義務違反としての責任については,労組法上の使用者として,原告が団体交渉に応ずる義務を負っていたというべきである。
(4) そして、X社は,本件各団交申入れに対して団体交渉に応じなかったものであり,本件全証拠によっても,このようなX社の対応を正当化する根拠があったことをうかがわせる事情は全く認めることができない。
  そうすると,X社が本件各団交申入れに応じなかったことは,労組法第7条第2号の規定に違反するものというほかない。
3 最後に,争点③(本件命令が発せられた時のA1のZ1組合における地位及びその影響いかん)について,判断する。
  X社は,本件命令が発令された平成29年1月11日より前に,A1がZ1組合の組合員たる資格を喪失しているから,本件命令が発令された時において,X社が本件各団交申入れに応ずる義務を負う余地はない旨を主張しているところ,当該主張は,本件命令が発令された時においてZ1組合が救済の利益を欠いていた旨を主張するものと解することができる。
  しかしながら,X社が本件各団交申入れに応じなかったことが労組法第7条第2号の規定に違反することは上記2の争点②に対する判断において説示したとおりであるところ,本件文書手交命令については,A1の個人的な権利利益の回復を目的とするものではなく,専らX社が本件各団交申入れに応じなかったことによって生じたZ1組合の組合活動一般に対する侵害の除去,予防を目的とするものと解されるから,A1が事後的にZ1組合の組合員たる資格を喪失したとしても,Z1組合がこれを求めることに影響を及ぼすものではないと解される(最高裁判所昭和61年6月10日第三小法廷判決・民集40巻4号793ページ参照)から,Z1組合の救済の利益が消滅するものではない。
  したがって,上記のX社の主張は,本件命令の発令の時においてA1がZ1組合の組合員たる資格を喪失していたかどうかについての検討をするまでもなく,採用することができない。
4 以上、検討したところによれば,本件命令のうちの本件文書手交命令に対する再審査の申立てを棄却した部分は,適法である。
5 結論
  以上によれば,本件訴えのうちの本件団交応諾命令(本件初審命令の主文第1項)に係る再審査の申立てを棄却した本件命令の取消しを求める部分は不適法であり,その余の部分に係る請求(本件文書手交命令(本件初審命令の主文第2項)に対する再審査の申立てを棄却した本件命令の取消しを求める請求)は理由がない。
  よって,本件訴えのうちの当該不適法な部分を却下するとともに,その余の部分に係るX社の請求を棄却することとし,主文のとおり判決する。 
その他   

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顛末情報
事件番号/行訴番号 命令区分/判決区分 命令年月日/判決年月日
大阪府労委平成26年不73号 一部救済 平成28年3月25日
中労委平成28年(不再)第17・18号 棄却 平成29年1月11日
 
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