労働委員会命令データベース

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概要情報
事件名  ファビルス 
事件番号  福岡労委平成25年(不)第5号 
申立人  福岡地区合同労働組合 
被申立人  株式会社ファビルス 
命令年月日  平成26年4月11日 
命令区分  一部救済 
重要度   
事件概要   被申立人会社が①平成25年度の春闘要求に関し、団交開催前に賃上げに関する具体的回答を示さなかったこと等、②事前に申立人組合と協議することなく、24年度の賃上げを実施したこと、③組合員X2の疾病について労働災害としての取扱いをしないことは不当労働行為であるとして、救済申立てがあった事件である。
 福岡県労委は会社に対し、文書交付を命じ、その余の申立てを棄却した。 
命令主文  1 被申立人株式会社ファビルスは、本命令書写し交付の日から10日以内に次の文書を申立人福岡地区合同労働組合に交付しなければならない。
平成  年  月  日
  福岡地区合同労働組合
    代表執行委員 X1 殿
株式会社ファビルス
代表取締役会長 Y1
   当社が、事前に貴組合と協議することなく平成24年度の賃上げを実施したことは、福岡県労働委員会によって労働組合法第7条第3号に該当する不当労働行為と認定されました。
   今後このような行為を行わないよう留意します。

2 その余の申立てを棄却する。 
判断の要旨  1 平成25年度賃上げ等に関する協議について
 申立人組合は、被申立人会社は「いまだ結論が出ていないので、回答できない」との回答を繰り返し、賃上げ要求等に関する団交に先立って賃上げに関する具体的回答を何ら示さなかった旨主張する。しかし、団交に先立って会社が回答内容を示さなければ、賃上げ等に関する協議ができないというものではないと考えられるし、使用者としては賃上げするかどうか等の判断をあらかじめ示すことが困難な場合もあり得るのであるから、会社が具体的回答を事前に何ら示さなかったことが団交拒否に当たるとの組合の主張は採用できない。
 組合は、会社が団交の交渉員として、賃上げ等について協議・決定できる者を参加させていないと主張する。しかし、会社の労務管理を総括する総務部長Y2が平成13年以降、団交に頻繁に出席し、22年からは団交責任者として出席しており、また、団交で責任のある応答を行っているものと認められるから、組合のこの主張は採用できない。
 組合は、会社が最終的な結論を一方的に押し付け、その後の一切の協議に応じなかったと主張する。しかし、25年4月30日に組合に交付された回答書は、会社が賃上げ等の前に回答を示したものであり、この回答書を前提として、組合と会社との間で協議が開始されるものであるから、この回答をもって会社が最終的な結論を一方的に押し付けたとまで評価することはできない。また、会社は同年7月3日の団交を含む複数回の団交で、上記回答書の内容や会社の経営状況、人件費の状況等について説明している。すなわち、会社は賃上げ等をできない事情について組合に説明し、その根拠を裏付ける資料も提示しているのであって、これらの事実からすれば、会社が組合の要求事項について自らの結論を一方的に押し付け、一切の協議に応じなかったとまで評価することはできない。
 以上のことからすれば、本件協議における会社の対応は団交拒否には該当せず、また支配介入にも該当しない。
2 平成24年度賃上げについて
 平成13年10月11日、組合員X2とX3の賃金・労働条件に関する団交の結果、両人の身分・地位・賃金・労働条件に関する一切の事項については会社が組合と事前に協議した上、決定する旨を内容とする確認書が締結されたことが認められる。そして、組合は、本件確認書が締結されているにもかかわらず、会社が組合に対して何の連絡もなく、話合いもせずに本件賃上げを決定した旨主張する。
 会社が主張するように、本件確認書締結後、組合員の加入・脱退があり、同確認書記載の組合員と現在の組合員には齟齬が生じているから、会社が同確認書が現在も有効であるかどうか疑問を抱いたとしても無理からぬところである。しかし、X2に関しては現在まで継続して組合員の身分を有しているのであるから、本件確認書の効力を否定すべき理由はなく、現在も有効であると考えられる。そうすると、時間的に切迫していたとはいえ、X2の賃金について事前協議を申し出なかった会社の対応は本件確認書に違反するものであるといわざるを得ない。
 よって、会社が事前に組合と協議することなく本件賃上げを実施したことは、組合の存在を軽視ないし無視するものといわざるを得ず、労組法7条3号の不当労働行為に該当する。
3 組合員X2の疾病の労災取扱いについて
 組合は、会社のいじめ・嫌がらせによりX2が休憩室を利用できず、冷暖房のない倉庫の中で凍傷を負うに至ったにもかかわらず、会社は同人の組合活動を嫌悪して、その事実を認めず、労災申請の手続をとろうとしない旨主張する。
 X2の疾病に関して、次のような事実が認められる。①X2の業務内容からすれば、同人の所属する特別清掃班の事務所内で凍傷となるほどの寒冷の状態が生じていたかどうか明らかではない。②平成25年3月25日付け診断書では、凍傷については「疑」とされている一方、これより先に提出された同月11日付け診断書では、病名は「右第3趾壊死(糖尿病による)」とされており、凍傷については全く言及がない。③会社はX2の健康診断個人票を保有しており、同人の糖尿病が相当悪化していることを把握していた。
 以上の事実からすると、会社がX2の疾病を20年来の持病である糖尿病に起因したものであると考えたとしても、無理からぬところである。また、労災保険に関する請求は、本来被災した労働者本人等が自ら行うことが予定されていると解すべきであるところ、X2が請求の手続を行うことが困難である事情は認められないにもかかわらず、同人が請求を行った事実は認められない。さらに、X2が会社に対して保険給付を受けるために必要な事業主としての証明を求めた事実も認められない。
 以上に加え、X2の疾病が会社において業務中の災害により負傷した過去の例と異なるものであることも考慮すると、本件疾病について会社が進んで労災申請手続をとらなかったことをもって、「不利益な取扱い」に該当するとまでは解し難い。したがって、X2の疾病に対する会社の対応は、それが同人の正当な組合活動の故をもってなされたか否かを検討するまでもなく、労組法7条1号の不利益取扱いに該当するとはいえない。また、会社が労災申請手続をとらないことが組合弱体化につながると認められる特段の事情もないことから、同条3号の支配介入にも該当しない。 
掲載文献   

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顛末情報
事件番号/行訴番号 命令区分/判決区分 命令年月日/判決年月日
福岡地裁平成26年(行ウ)第27号(第1事件)、同第46号(第2事件)  棄却・却下 平成27年5月27日
福岡高裁平成27年(行コ)第40号 棄却 平成28年1月26日
 
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