労働委員会関係裁判例データベース

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概要情報
事件名  ファビルス 
事件番号  福岡地裁平成26年(行ウ)第27号(第1事件)、同第46号(第2事件)  
第1事件原告兼第2事件補助参加人  株式会社ファビルス(「会社」) 
第1事件補助参加人兼第2事件原告  福岡地区合同労働組合(「組合」) 
第1事件及び第2事件被告  福岡県(処分行政庁・福岡県労働委員会) 
判決年月日  平成27年5月27日 
判決区分  棄却・却下 
重要度   
事件概要  1 ①会社が、組合の平成25年度の春闘要求に対して、団体交渉開催前に具体的回答を示さず、団交事項について協議・決定する権限を有する者を団体交渉に出席させず、団体交渉において会社の考え方を一方的に押し付け、その後、組合との協議に一切応じなかったこと、及び②会社が平成24年度に組合との事前協議をせずに賃上げを行ったこと、③会社が、組合員A1の疾病について、業務上の疾病(以下「業務災害」という。)としての取扱いをしなかったことが、不当労働行為に該当するとして、申立てのあった事件である。
2 福岡県労委は、②は労組法7条3号の不当労働行為に該当するが、その余は不当労働行為に該当しないとして、組合の申立ての一部を認容し、その余を棄却する旨の本救済命令を発した。
3 これを不服として、会社が、本件救済命令のうち、組合の申立てを認容した部分の取消しを求め(第1事件)、組合が、組合の申立てを棄却した部分の取消しを求めるとともに、救済命令を発することの義務付けを求めた(第2事件)行政訴訟をそれぞれ福岡地裁に提起したところ、同地裁は、会社の請求については、棄却し、組合の請求については、義務付けを求める部分を却下し、その余の請求を棄却した。  
判決主文  1 原告会社の請求を棄却する。
2 原告組合の訴えのうち、処分行政庁に対する命令の義務付けを求める部分を却下する。
3 原告組合のその余の請求を棄却する。
4 訴訟費用は、第1事件については補助参加によって生じたものも含めて原告会社の負担とし、第2事件については補助参加によって生じたものも含めて原告組合の負担とする。  
判決の要旨  2 争点に対する判断
(1) 争点(1) (会社が組合との事前協議をせずに平成24年度賃上げをしたことの不当労働行為(労組法7条3号)該当性等)について
ア 会社の労働協約違反の有無について
(ア) 本件確認書は、組合と会社との間の組合員の労働条件に関する合意を書面化したものであって、有効期間の定めのない労働協約であるといえる。
  有効期間の定めのない労働協約は、当事者の一方が、署名し、又は記名押印した文書によって相手方に予告して、解約することができるが(労組法15条3項)、そのような手続がとられない限りは、有効なものとして存続するというべきであるところ、本件全証拠及び弁論の全趣旨によるも、会社が、有効期間の定めのない労働協約である本件確認書について、労組法所定の解約手続をとったとは認められないから、平成24年度賃上げの時点において、本件確認書の効力が消滅していたと解することはできない。
(イ) 組合が事前協議をせずに行われた賃上げを1度だけ不問にしたという事実のみをもって、組合と会社との間において、上記のような特別な取扱いないし協定等が成立したものと認めることはできず、その他、組合と会社との間において、前同様の協定等がされたものと認めるに足りる証拠はない。
(ウ) したがって、会社が組合との事前協議をせずに平成24年度賃上げを行ったことは、A1の賃金等の労働条件について組合との事前協議をした上で決定しなければならないとする本件確認書中の労使間の合意に反するものであるから、会社の上記行為は、労働協約違反に当たる。労働協約違反は、当該労働協約を締結した労働組合を無視ないし軽視する行為であり、当該労働組合を弱体化させるものであるということができるから、労組法7条3号の支配介入行為に該当する。
イ 会社の支配介入意思について
(イ) 前記アのとおり、本件確認書は、有効期間の定めのない労働協約であって、労組法15条3項所定の解約の手続がとられない限りは有効に存続するものであり、また、少なくとも、A1が本件確認書中の合意の対象者に含まれることは、本件確認書の文面上から明らかであったから、会社が組合との事前協議をせずにA1の労働条件を変更したことは、明白な労働協約違反行為であったという外ない。使用者との間で団体交渉を経て労働協約を締結し、その内容を使用者に遵守させることは、労働組合に期待される重要な役割の一つであるといえるところ、会社は、労組法所定の労働協約の解約手続を何らとっていないにもかかわらず、従前の経緯から、労働協約の効力が消滅したものと安易に判断し、労働協約の内容を無視する行動に出たのであって、上記の会社の態度は、組合の存在を無視ないし軽視するものに当たるといえる。
  また、賃上げを行う前に組合と協議をする時間に乏しかったということのみをもって、上記の労働協約違反行為が正当化されるものではないし、そもそも、組合は、平成24年度賃上げに先立ち、同年3月14日付けで、A1及びA2の労働条件の改善を要求する「要求書」を発しているところであって、会社としては、これを契機として、組合との間で、賃上げの可否及びその幅等について協議を行うことも不可能ではなかったといえる。
(ウ)以上のとおりであって、本件における会社の行為は、組合の無視ないし軽視に当たるものであり、これによる組合に対する影響力の程度は、決して軽微なものと評価することはできないのであって、このような行為に安易に及んだ会社について、組合に対する不当労働行為意思が認められるというべきである。
ウ 組合の救済利益の有無について
(ア) 会社は、平成24年度賃上げに際して組合との事前協議をしなかった事情やその後の団体交渉の経緯等からすれば、会社が同種の労働協約違反行為を繰り返すおそれはなく、組合の救済利益は本件救済命令発令時点において既に消滅していた旨主張するので、これについて検討する。
(イ) 会社は、平成24年度賃上げの後、組合から、団体交渉の場等において、事前協議をせずに賃上げを行ったことについて非難を受け、平成24年度第2回団交及び平成24年度第3回団交において、本件確認書の有効性等について検討した後、平成24年度第4回団交において、組合に対し、本件確認書を破棄する意思がない旨を伝えた。そして、その後、会社は、組合との団体交渉に必ず応じており、後記(2)及び(3)においても検討するとおり、平成24年度第4回団交以後の会社の対応には、特段不適切な点はみられない。
  しかし、会社は、本件確認書に関し、平成24年度第4回団交の場において、「破棄する意思はない。」という趣旨の発言を口頭でしたにすぎず、本件確認書に反して事前協議をせずに平成24年度賃上げを行ったことについての謝罪、同種の行為を繰り返さない旨の誓約、以後に組合員の労働条件を変更する必要性が生じた際に会社がとるべき手続等につき、組合との間で改めて書面を作成するなどして、同種の行為が繰り返されるおそれがないことが客観的に明白となるような形式による不当労働行為解消措置を講じたものではない。また、本件確認書は、会社がA1の労働条件を変更する際、当該変更内容がA1に有利なものであるか不利なものであるかにかかわらず、組合との事前協議を要求するものであるところ、会社は、平成24年度第4回団交において、本件確認書の適用範囲はA1の労働条件を不利益に変更する場合に限定される旨の発言をしており、このことからしても、会社が本件と同種の労働協約違反行為を繰り返すおそれが完全に消滅していたとまではいい難い。
(ウ) 以上のとおりであって、本件事実関係の下では、会社による自主的な不当労働行為解消措置が講じられたことにより、本件救済命令発令時点において、会社と組合との集団的労使関係が完全に正常化され、会社が本件と同種の労働協約違反行為を繰り返すおそれが完全に消滅していたとまでいうことはできず、同時点において、組合が救済を受けることを正当とする利益又は労働委員会が救済を与えることの必要性が何ら存在しなかったとはいえないから、救済利益の有無に関する上記の会社の主張を採用することはできない。
エ 以上によれば、会社が組合との事前協議をせずに平成24年度賃上げを行ったことは、労組法7条3号の不当労働行為に該当し、本件救済命令発令時点において、組合には救済利益が存在したものというべきである。
  なお、本件全証拠及び弁論の全趣旨によるも、本件救済命令第1項の内容は、上記不当労働行為の救済方法として、労働委員会に付与された裁量権の範囲を逸脱し、又はこれを濫用したものということはできない。
(2) 争点(2)(本件春闘要求に対する会社の対応の不当労働行為(労組法7条2号又は3号)該当性等)について
ア 会社側は、平成25年度第1回団交においては、同年度の賃上げの可否について、同年4月末日までに回答することはできないと考えられるが、平成25年度第2回団交までには回答するよう努力すると述べていたにすぎず、平成25年度第2回団交までに賃上げの可否について回答することを確約していたものではなかった。また、会社が、本件回答書1、平成25年度第1回団交及び平成25年度第2回団交において、賃上げの可否についての結論を明らかにしなかったのは、会社の社内においても、賃上げの可否についての結論が出ていなかったからであるにすぎないといえる。さらに、会社は、組合からの団体交渉の申入れがあれば、必ずこれに応じて団体交渉を行っているところであり、団体交渉の場においては、組合からの人件費開示要求、最低賃金開示要求、昇級試験受験者数及び合格者数開示要求等の多岐にわたる情報開示要求に応じて、口頭でこれを開示し、また、組合の活動に資するものとして、貸借対照表及び損益計算書等の会社の経営状況分析に必要な資料等も開示するなど、組合の要望に誠実に対処しているといえる。そして、会社は、同年度の賃上げの可否について決するのに先だって、組合との間で、複数回にわたる団体交渉を行い、これを踏まえて、会社の業績予測や会社を取り巻く経済状況等も総合的に考慮した上で、同年度においては賃上げをしないとの最終決定を行い、平成25年度第1回団交及び平成25年度第2回団交における組合との約束に従って、上記の最終決定を、同年4月末日までに、本件回答書2として、組合に文書で通知している。このような会社の各対応は、組合に対して不誠実なものであったとはいえない。
イ 団体交渉の権限を有する交渉担当者を誰にするかは、使用者たる会社が自由に決定することのできるものである。また、組合との団体交渉にB1及びB2らのみが出席し、会社の取締役等が出席しなかったことが原因となって、会社と組合との団体交渉に支障が生じたとも認められない。
ウ 以上によれば、本件春闘要求に対する会社の各対応は、労組法7条2号又は3号の不当労働行為には該当しないというべきである。
(3) 争点(3) (会社がA1の疾病を業務災害として取り扱わなかったことの不当労働行為(労組法7条1号又は3号)該当性)について
ア 会社の定期健康診断において測定されていたA1の空腹時血糖値は、平成15年から平成24年までの間、糖尿病のコントロールに関して「不可」と判断される160mg/dlを大幅に上回っており、A1の主治医であるC1医師は、A1が重度の糖尿病であると判断していた。そして、A1の疾病について、C1医師が最初に作成した本件診断書1にも、A1の疾病の病名が糖尿病である旨の記載があった。なお、本件診断書2には、A1の疾病の病名について、糖尿病に加えて、凍傷の疑いがある旨の記載も付け加えられていたが、本件診断書2は、C1医師が、本件診断書1の作成後に、A1及びその他の組合員らの要請を受けて、当該疾病についてのA1らの説明を記載したものにすぎず、本件診断書2の記載内容は、C1医師の医学的見解とは異なるものである。
イ 会社は、A1の業務内容及び前記アのA1の既往症等の諸事情を考慮した上で、A1の疾病の原因は糖尿病であると判断し、そのために、A1の疾病を業務災害として取り扱わないこととした。C1医師も指摘するとおり、上記の会社の判断は、医学的に合理的なものである。また、上記の会社の判断過程において、A1が組合の組合員であることが考慮されていたとはいえない。
(4) 組合の義務付けの訴えについて
  組合の訴えのうち、処分行政庁に対する命令の義務付けを求める部分は、行政事件訴訟法3条6項2号の義務付けの訴えであって、この訴えは、処分行政庁の命令が取り消されるべきものであり、又は無効若しくは不存在であるときに限り、提起することができるとされているところ(同法37条の3第1項2号)、前記(1)ないし(3)のとおり、本件救済命令は適法であって取り消されるべきものではなく、また、無効若しくは不存在であるともいえない。
  したがって、組合の訴えのうち、処分行政庁に対する命令の義務付けを求める部分は、訴訟要件を欠く不適法なものであるから、これを却下すべきである。  
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顛末情報
事件番号/行訴番号 命令区分/判決区分 命令年月日/判決年月日
福岡労委平成25年(不)第5号 一部救済 平成26年4月11日
福岡高裁平成27年(行コ)第40号 棄却 平成28年1月26日
 
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