労働委員会命令データベース

(この事件の全文情報は、このページの最後でご覧いただけます。)

[命令一覧に戻る]  [顛末情報]
概要情報
事件名  トクヤマエムテック・トクヤマ 
事件番号  中労委平成23年(不再)第66号 
再審査申立人  全日本建設運輸連帯労働組合関西地区生コン支部(以下「組合」) 
再審査被申立人  株式会社トクヤマエムテック(以下「A社」) 
再審査被申立人  株式会社トクヤマ(以下「B社」) 
命令年月日  平成25年7月17日 
命令区分  棄却 
重要度   
事件概要  1 本件は、B社(A社の親会社)が、A社のX組合員(A社のパートタイム従業員)に対する不当労働行為の謝罪等に関して指導するよう組合が申し入れた団交に応じなかったこと、A社が、①X組合員に組合加入の事実を確認等したこと、②誠実に団交に応じなかったこと、③X組合員に対する勤務割当てを不均等に行ったこと、④X組合員を雇止めしたことが不当労働行為に当たるとして、組合から大阪府労委に救済申立てがあった事件である。
2 初審大阪府労委は、B社に対する申立てを、労組法上の使用者に当たらないとして却下し、A社に対する申立てを、いずれも不当労働行為に当たらないとして棄却する旨の初審命令書を交付したところ、組合は、これを不服として、再審査を申し立てたものである。 
命令主文  本件再審査申立てを棄却する。 
判断の要旨  1 争点1(B社はX組合員の労組法第7条の使用者であり、団交拒否に当たるか。)
ア 労組法第7条の使用者は、団交を中心とした集団的労使関係の一方当事者としての使用者を意味し、労働契約上の雇用主が基本的にこれに該当するものの、必ずしも同雇用主に限定されない。これを親子会社についてみるに、当該労働者の基本的な労働条件等に対して、雇用主と同視できる程度に現実的かつ具体的な支配力を有する者は、その限りにおいて労組法第7条の使用者と解すべきである。なお、組合は、「労働関係に対して不当労働行為法の適用を必要とするほどの実質的な支配力ないし影響力を及ぼし得る地位にある者」が含まれると主張するが、使用者の定義としては不明確かつ広範すぎ採用できない。
イ (ア) B社は、資本関係及び派遣役員等を通じ、親会社としてA社の経営に一定の支配力を有しているが、そこから直ちにA社従業員の基本的な労働条件等について、雇用主と同視できる程度に現実的かつ具体的な支配力を有する地位にあるとはいえない。
  (イ) A社は、①主原料のセメントをB社から仕入れ、②本件雇止めの決定に当たりB社に相談し、B社Y課長は、③A社に休業手当不支給問題の早期解消を指導し、④「雇止めができるかはそう簡単でない」旨発言し、⑤通常はA社のみが行う出荷依頼を、出荷停止後はB社も行っており、B社は親会社としてA社の経営に一定の支配力を有しているが、その具体的な態様・程度をみると、B社によるA社従業員の基本的な労働条件等に対する現実的かつ具体的な支配力を推認させるものとはいえない。かえって、A社は、パートタイム従業員の就業規則を作成し、X組合員を含め採用、配置、労働時間、休暇の取得、賃金等の額・支給、雇止め等を決定しており、B社がこれに関与した事実を認める証拠はない。
ウ また、A社の法人格が形骸化してB社の一部門にすぎないとか、両社が実質的に一体化しているということもできない。
エ 以上のとおり、B社は、X組合員に対する関係で労組法第7条の使用者に該当しない。
2 争点2(Z工場長が、X組合員に組合加入の事実を確認等したことは、支配介入に当たるか。)
 A社のZ工場長の「これで間違いないか。これほんまか。」等の発言は、X組合員に対する具体的不利益が生じることをうかがわせるような状況下で、同組合員に動揺を与えることなどを目的として行われたものと認めることはできず、発言の内容や態様に照らしても組合活動に対する干渉に当たるとはいえない。
3 争点3(団交におけるA社の対応は、不誠実団交に当たるか。)
 ①A社のW取締役の虚偽発言は休業手当支払に関する回答に関するものでなく、A社は回答どおりに休業手当を支払ったことに照らせば、A社の対応が不誠実団交に当たるとはいえず、②団交担当者は交渉権限を有していれば足り、妥結権限までは必要とされないところ、W取締役が休業手当支給を「社長決裁で決める。」と発言したからといって交渉権限を有していなかったとはいえず、③休業手当について、A社と組合の主張は平行線のままであり、A社が合意事項の協定化を拒否した事実は認められず、④A社は、組合の要求書等の各条項毎に受け入れられない理由や対案を示す等しているから、協定書調印決裂の原因をA社のみに帰せしめることはできず、A社の対応が不誠実団交に当たるとはいえない。
4 争点4(A社のX組合員に対する勤務割当が不利益取扱いに当たるか。)
 確かに、X組合員の組合加入公然化後の勤務日数は非組合員乙と比較して月単位でみれば1.9日少ない。しかし、作業内容が異なり、月間勤務日数に差異があって勤務日数が異なる勤務体制の下では、勤務日数が均等になるよう勤務割当てが行われなかったとしても、組合活動を萎縮させ、組合活動一般に制約的効果が及ぶとの従業員の一般的認識があったとは認められないから、労組法第7条第1号の「不利益な取扱い」に当たるとはいえない。
5 争点5(A社がX組合員を雇止めした理由とする組合及びX組合員の行為は、労働組合の正当な行為であり、本件雇止めは不利益取扱いに当たるか。)
ア 有期雇用契約関係が存在し、業務内容が臨時的なものといえず、契約更新に当たり面談を行わず雇入通知書を交付して4回更新し、最終の雇入通知書に最後の更新である旨の記載がないから、X組合員が更新されると考えたことは合理的であり、本件雇止めは不利益性がある。しかるに、本件雇止めは、X組合員と組合がA社に業務妨害行為を行っているために行われたから、X組合員及び組合の行為の正当性の有無を検討する。
(ア) 組合員は、B社大阪支店やA社本社、A社枚方工場に短期間に多人数で押しかけ、両社従業員に大声をあげ、怒鳴り、問い詰めたりする行為を繰り返して業務を妨害し、また、両社を非難する街宣活動を繰り返した。また、E運送にA社の枚方工場へのセメント運送業務を中止するよう要請し、組合員を動員して約2か月半にわたって、通常の状態での業務遂行を事実上困難にした。その結果、A社及びB社の両社の営業活動が妨害され、両社からの損害賠償請求訴訟が大阪地裁及び大阪高裁で認容されている。以上を総合すると、組合らの抗議活動、街宣活動、出荷妨害等の活動は、業務妨害を意図した一連の行為と推認され、使用者の自由意思の抑圧及び財産に対する支配を阻止する行為に当たり、正当性は認められない。なお、X組合員は、組合の一連の抗議行動や出荷妨害等に関して、重要な立場にある者として参加していたことが推認される。
(イ) 以上から、組合らの行為は、労働組合の正当な行為に当たらない。
イ そうすると、本件雇止めは労働組合の正当な行為の故の不利益取扱いに該当しないから、労組法第7条第1号の不当労働行為の成立は認められない。 
掲載文献   

[先頭に戻る]

顛末情報
事件番号/行訴番号 命令区分/判決区分 命令年月日/判決年月日
大阪府労委平成22年(不)第17号 棄却 平成23年9月16日
東京地裁平成26年(行ウ)81号 棄却 平成27年2月27日
 
[全文情報] この事件の全文情報は約725KByteあります。 また、PDF形式になっていますので、ご覧になるにはAdobe Reader(無料)のダウンロードが必要です。