労働委員会命令データベース

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概要情報
事件名  渡島信用金庫  
事件番号  平成22年道委(不)第28号  
申立人  渡島信用金庫労働組合  
被申立人  渡島信用金庫  
命令年月日  平成24年10月12日  
命令区分  一部救済  
重要度   
事件概要   被申立人金庫が①平成9年4月以降、申立人組合の執行委員長X1を一般職員・事務職C級の職位・資格のまま昇進・昇格させなかったこと、②同人への賞与支給に当たり、その査定支給率を毎回低く定め、平均支給率から大きく下回る支給率としてきたことは不当労働行為であるとして、救済申立てがあった事件である。
 北海道労委は、金庫に対し、1 X1を平成21年4月1日付けで管理事務職D級に昇格させること等、2 同日から上記1の取扱いをするまでの間にX1が受け取るはずの給料及び賞与の額と既に受け取ったそれらの額との差額の支払、3 X1を昇格させないこと等による支配介入の禁止、4 文書掲示を命じるとともに、X1の同年3月31日以前の昇進・昇格等に関する申立てを却下し、その余の申立てを棄却した。  
命令主文  1 被申立人は、申立人の執行委員長であるX1を、平成21年4月1日付けでその資格を「事務職C級」から「管理事務職D級」に昇格させ、かつ、昇格後の資格に対応する職位を付与したものとして取り扱わなければならない。
2 被申立人は、前項で命じた取扱いにより、平成21年4月1日から同取扱いをするまでの間にX1が受け取るはずの給料及び賞与の額が、既に受け取った給料及び賞与の額を超過することとなる場合は、同人に対し、その超過分に相当する額を支払わなければならない。
3 被申立人は、X1を平成21年4月1日付けで「管理事務職D級」に昇格させず、かつ、その資格に対応する職位を付与しないことにより、申立人の運営に支配介入してはならない。
4 被申立人は、次の内容の文書を縦1メートル、横1.5メートルの大きさの白紙にかい書で明瞭に記載し、被申立人本店及び各支店の正面玄関の見やすい場所に、本命令書写しの交付日から7日以内に掲示し、10日間掲示を継続しなければならない。
   当金庫が行った次の行為は、北海道労働委員会において、労働組合法第7条第1号及び第3号に該当する不当労働行為であると認定されました。
   今後、このような行為を繰り返さないようにします。
  1 当金庫が、貴組合の執行委員長であるX1を、平成21年4月1日付けでその資格を「事務職C級」から「管理事務職D級」に昇格させず、かつ、その資格に対応する職位を付与しなかったこと。
  2 当金庫が、X1を平成21年4月1日付けで「管理事務職D級」に昇格させず、かつ、その資格に対応する職位を付与しないことにより、貴組合の運営に支配介入したこと。
  平成 年 月 日 (掲示する初日を記載すること)
  渡島信用金庫労働組合
   執行委員長 X1 様
渡島信用金庫
理事長 Y1

5 申立人のX1に係る平成21年3月31日以前の昇進・昇格に関する申立て及び同委員長に対して支給された平成21年度上期以前の賞与に関する申立てを却下する。
6 申立人のその余の申立てを棄却する。  
判断の要旨  1 申立人組合の執行委員長X1を昇進・昇格させなかったことについて
 昇格・昇進という人事上の差別が問題になる場合には、他の者に対する取扱いとの比較によって不利益取扱いであるかどうかを決せざるを得ないことから、組合において、被申立人金庫が組合を嫌悪していることのほかに、X1の勤務の実績ないし成績が管理事務職D級に昇格・昇進した職員のそれとの間に隔たりのないこと等を立証しなければならないのが原則である。他方、不当労働行為救済手続における判断に際しては、人事考課に関する資料等については法人側が所有しており、組合が入手することは困難なことなど立証の難易を踏まえて、その判断に関し合理的な推認を働かせるなど、当事者間の実質的公平を考慮した取扱いをすることも認められるといえる。
 本件申立てまでの金庫と組合との労使関係については、金庫が組合に対し強い嫌悪感を有し、それが累次にわたる不当労働行為事件として表れたことが認められる。また、金庫は、過去において、組合の副委員長X2を19年間にわたってA支店に配属してきたが、このような長期にわたる北部檜山地方の同一支店への配属は異例であると認められる。そして、X1に対しても、同地方のB支店とA支店のみに約34年間にわたり配属してきた。
 このような、組合及び組合活動に対する金庫の強い嫌悪感や、極めて不自然な組合役員の店舗配属に関する取扱い等が認められる本件においては、X1に対する評価の低位性及び昇進・昇格に関する取扱いは、金庫のX1の組合活動に対する嫌悪によるものと強く推認されるといわざるを得ず、そうすると、そのような取扱いや評価の合理性については使用者である金庫の立証事項とすることが相当である。
 そこで、金庫が、X1が能力考課等に関して劣っていると評価している事実について検討すると、以下のとおりである。
(1)金庫は、X1が複雑な融資業務について十分な知識を有しておらず取り扱うことができないとし、また、同人が長年融資業務に関する知識等を身につける努力を行ってこなかったとする。しかし、X1は前記の2支店に約34年間も配属され、担当業務も大半の期間が渉外業務であったのだから、同人に複雑な融資業務の知識がないなどという金庫の評価は一方的な評価であるといわざるを得ない。また、そもそも金庫の主張は具体的な内容が乏しく、渉外担当であるX1にどのような行為をさせ、どのような問題があったのかなどの指摘もなく、曖昧であるといわざるを得ない。
(2)金庫は、X1は自己中心的な面があり、協調性に欠けると指摘する。しかし、この点に関しては、管理職側が組合員に対して時間外勤務等を指示するのをあえて避けているという実態を協調性に欠けるといっているにすぎないなどの指摘もある。X1の支店配属状況や担当業務の実際を踏まえて考えると、こうした指摘もうなずけるところがあり、金庫の立証は不十分である。
(3)金庫は、理事長面談等において、X1から管理職への昇進・昇格の積極的な意欲の表明は全くなかったとする。しかし、自己アピールがないからといって管理職への昇進・昇格の意欲がないということはできないし、X1において管理事務職D級への昇格や係長等への昇進の意思がなかったと認めることはできない。
 以上のとおり、金庫が指摘するX1が能力等において劣っており、このため人事考課の評価が低いとする理由は、いずれも証明されたとはいい難い。したがって、既に管理事務職D級に昇格した者と比較して、同人が能力考課等において劣っていると評価することはできないことから、同人が平成21年4月1日付け及び22年4月1日付け定例人事において管理事務職D級に昇格できなかったのは、同人が組合執行委員長であることや、組合活動を行っていることを理由に金庫が昇格させなかったものと認めるのが相当である。
2 X1に対する賞与の支給率を低く定めたことについて
 賞与査定差別が不利益取扱いに当たるかどうかが問題になる場合にも、他の者に対する取扱いとの比較によって決せざるを得ないところ、組合が問題としているのは、全職員について算定された本給総額に対する「本給査定配分」の額の割合と、X1についての本給総額に対する「本給査定配分」の額の割合との差である。しかし、前者の総体としての支給割合は、個々の職員の具体的な支給率ではないことから、これを比較の対象とすることは相当ではない。
 本給査定配分の内容についてみると、平成21年下期のX1の外務実績査定は総体としての支給割合を大きく上回っており、22年度上期においてはA支店の職員全員が店舗業績査定がゼロと査定されていることなどが認められる。組合からは、このような本給査定分の具体的内容や、特定の者との対比で不利益取扱いを受けているという点についての主張や立証がないといわざるを得ない。
 よって、X1の21年度下期賞与及び22年度上期賞与に関する金庫の措置を不利益取扱いに該当すると判断することはできない。  
掲載文献   

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顛末情報
事件番号/行訴番号 命令区分/判決区分 命令年月日/判決年月日
札幌地裁平成24年(行ウ)第43号 棄却 平成26年5月16日
札幌地裁平成25年(行ク)第8号 緊急命令申立ての認容 平成26年5月16日
 
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