労働委員会関係裁判例データベース

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概要情報
事件名  渡島信用金庫 
事件番号  札幌地裁平成24年(行ウ)第43号 
原告  渡島信用金庫 
被告  北海道(処分行政庁・北海道労働委員会) 
被告補助参加人  渡島信用金庫労働組合 
判決年月日  平成26年5月16日 
判決区分  棄却 
重要度   
事件概要  1 組合は、会社が、平成9年4月以降、 組合代表者である組合員X1を一般職員・事務職C級の職位・資格のまま昇進・昇格させなかったこと、X1への賞与支給に当たり、その査定支給率を毎回低く定め、平均支給率から大きく下回る支給率としてきたこと、その結果、X1は不当に低い給与及び賞与しか支給されなかったことが不当労働行為に当たるとして救済を申し立てた。
2 北海道労働委員会(「道労委」)は、組合の請求を一部認容し、会社に対して、①X1を、平成21年4月1日付けでその資格を「事務職C級」から「管理事務職D級」に昇格させ、かつ、昇格後の資格に対応する職位を付与したものとして取り扱うこと、②同取扱いをするまでの間にX1委員長が受け取るはずの給料及び賞与の額が、既に受け取った額を超過する場合は、その超過分に相当する額を支払うこと、③支配介入の禁止を命じ、その余の申立てを却下または棄却した。
3 会社は、これを不服として札幌地裁に行政訴訟を提起したが、同地裁は、会社の請求を棄却した。 
判決主文  1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。 
判決の要旨  1 争点(1)(昇格差別による不当労働行為の成否)について
(1) 本件の背景には、会社と組合との間の長年にわたる労使紛争がある。X1は、その一方当事者である組合の執行委員長を務め、他方、会社及び会社代表者は、この間、組合活動への強い嫌悪を露わにし続けており、会社代表者のX1に対する評価が変更されたことをうかがわせる証拠はない。X1を含めた組合員の昇進・昇格の判断においても、会社及び会社代表者の組合員への差別的取扱い及び支配介入の意思があるものと推認できる。
 そして、会社表者は、部店長の最終査定者であり、一般職の人事考課表にも目を通すのであるから、会社代表者の意向は、X1の処遇にも大きく影響しているものと推認するのが自然である。会社における人事考課は、人事考課規定上、理事長である会社代表者が人事考課表の提出を受け、最終的には会社代表者自身が考課結果を決定するとされており、また、会社代表者自身が昇進・昇格の判断に当って考慮する要素は「やる気が50パーセント」であると供述していることからすれば、会社代表者の意向が人事考課の評価及び職員の昇進・昇格の判断に反映され得ることは否定できない。
(2) 会社の規程上、事務職C級から管理事務職D級に昇格するための最低在位年数は設けられていないが、会社の全職員のうち約半数程度を管理職が占めており、管理事務職D級が管理職の中でも最低位の資格であって、組合員を兼ねることができ、残業手当も支給されること、勤続10年以上の職員のうち1名を除く全員が管理事務職D級以上になっていることなどに照らすと、事務職C級から管理事務職D級への昇格については、一般職と同様ではないにしても、ある程度の年功的な取扱いがされていたと認めるのが相当である。
 X1が、本件申立て時に勤続37年であったにもかかわらず管理事務職D級に昇格していないことは、他の職員との間に格差があることを意味するというべきである。会社における管理事務職D級の位置づけからすれば、能力や勤務成績等が劣っていることなどの合理的な理由がないにもかかわらず勤続年数が長い職員が管理事務職D級に昇格できない場合にあっては、他の職員との間で格差があり、差別に当たるものといわざるを得ない。
(3) X1は、大きな業務上のミスを犯したり、就業規則上の懲戒処分を受けたりしたことはなく、会社が実施する業績コンテストにおいては上位の成績を収めている。X1は、X1と同程度の役職に就いている職員の能力や勤務成績等と比較して、同程度の能力・実績を有していることが推認できる。
 会社作成の書面には、X1の人事考課表に基づく得点が低いことを示す記載があるが、会社は、X1に係る人事考課表それ自体を提出しておらず、いかなる事実に基づき、いかなる評価がされたことによりX1に対する人事考課が低いものであるのかは不明である。かえって、管理事務職D級に昇格した職員の中には、人事考課の得点がX1の得点よりも低い者がいる。また、X1に関する「あなたを5点とするならば…?」と題する書面等の記載内容は、抽象的な印象にすぎないし、他の職員についての書面の記載内容と比べて特に低評価であるわけでもない。X1と同様に融資業務を不得意の業務として挙げられている職員が管理事務職D級に昇格しており、他の職員との間で差異があるということはできない。
(4) 会社は、将来支店長や理事になり得る有能でやる気のある職員を積極的に管理事務職D級に登用していると主張する。X1は、支店長から融資担当をしないかと誘われた際、組合活動のため夜遅くまで残業することができない場合がある旨伝えたり、会社代表者から「支店長にならないか」等と言われた際、段階的に上げてもらいたいと述べたりしたが、会社と組合との間の労使紛争の経過に照らし、その対応にはそれぞれ理由があると解され、X1が、 組合員を兼ねることのできる管理職への昇進・昇格への意欲を有していなかったと認めることには飛躍がある。X1の昇進・昇格への意欲、会社の主張する「やる気」が他の職員に比して低いものであるとは認め難い。
(5) 以上によれば、X1の本件申立て時の職位・資格について、他の職員と比べて格差があることが認められ、また、その格差には能力や勤務成績等が劣っていること等の合理的な理由があるとは認められない。本件に至る経緯を踏まえると、平成21年4月1日に至ってもX1を管理事務職D級に昇格させない行為は、組合の弱体化を図ることにその目的があると推認する他はなく、組合を嫌悪した不利益取扱い及び支配介入であると認めるべきである。
(6) 会社は、管理職に昇格させることにつき会社に広い人事裁量権が認められると主張するが、管理職であるという一事をもって使用者に広い人事裁量権が認められるということはできず、前記のとおりの管理事務職D級の位置づけからすれば、会社の人事裁量権を踏まえてもなお不当労働行為の成立が否定されるものではない。また、X1が現在に至るまで管理事務職D級に昇格できなかったことにつき合理的な理由が認められない以上、X1の年齢が高いことは他の職員との格差を説明する合理的な理由にはならないというべきである。
2 争点(2)(救済方法の相当性)について
本件において、道労委は、平成21年4月1日付けでX1を管理事務職D級に昇格させなかった行為が不当労働行為に該当すると判断し、その回復手段として、X1の資格を事務職C級から不当労働行為がなければ昇格していたであろう管理事務職D級に昇格させること及び管理事務職D級に対応する職位を付与したものとして取り扱うことなどの本件命令を発したものである。これが是認される範囲を超え又は著しく不合理であって濫用にわたるとは認められない。 
その他   

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顛末情報
事件番号/行訴番号 命令区分/判決区分 命令年月日/判決年月日
平成22年道委(不)第28号 一部救済 平成24年10月12日
札幌地裁平成25年(行ク)第8号 認容 平成26年5月16日
 
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