労働委員会命令データベース

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概要情報
事件名  平成タクシー 
事件番号  広労委平成23年(不)第1号 
申立人  スクラムユニオン・ひろしま 
被申立人  有限会社平成タクシー 
命令年月日  平成24年4月3日 
命令区分  一部救済 
重要度   
事件概要   ①被申立人会社が組合員らに対し、3か所の商業施設内でビラ配布をしたことを理由として乗務停止等の懲戒処分を行ったこと、②会社が組合員X2をB班に異動させたこと等、③会社の統括管理部長Y2が組合員らに対し、不当労働行為の救済申立てを取り下げるよう求めたこと、④会社の社長Y1が組合員X3に対し、公休日であることを理由に乗務させなかったこと、⑤会社がX3を乗務させない状態が続いていること等、⑥会社が組合員X4を乗務させない状態が続いていること、⑦Y1が団交に出席せず、また、団交における申立人組合と会社との間の合意事項を会社が文書化していないこと等は不当労働行為であるとして、救済申立てがあった事件である。
 広島県労委は、会社に対し、1 上記①の懲戒処分の取消し及び処分による不利益相当分の給与相当額の支払い、2 組合員であること等を理由とした不利益取扱い及び組合活動の妨害等の支配介入の禁止、3 X3及びX4に対する乗務拒否によって同人らが被った不利益相当分の給与相当額の支払い、4 文書の交付及び掲示を命じ、その余の申立てを棄却した。  
命令主文  1 被申立人は、平成22年11月4日に発令した申立人組合員7人に対する懲戒処分を取り消し、この処分によって被った同人らの不利益相当分の給与相当額(平成22年8月から同年10月までの合計給与を実乗務日数で除し算出した1実乗務日当たりの平均額に、乗務停止分の処分日数を乗じたもの及びその1実乗務日当たりの平均額の5割に無線配車停止分の処分日数を乗じたものを加えた額)及びこれに対する平成22年12月25日から命令交付日まで年6分の割合による金員を支払わなければならない。
2 被申立人は、申立人組合員に対し、組合員であること又は正当な組合活動を行ったことを理由とした懲戒処分等の不利益取扱いを行ってはならない。また、申立人組合の正当な組合活動を妨害したり、申立人組合員に対し、脱退慫慂などの支配介入を行ってはならない。
3 被申立人は、本件申立てまでに行った申立人組合員X3及び申立人組合員X4に対する乗務拒否によって、同人らが被った不利益相当分の給与相当額(組合員X3は平成23年1月15日から同年5月11日まで、組合員X4は平成23年1月4日から同年5月11日までの金額)及びこれに対する給与支払期限から命令交付日まで年6分の割合による金員を、また本件命令交付の翌日から組合員X4が乗務できるまでについては、同人が受け取るはずであった給与相当額を支払わなければならない。
4 被申立人は、本命令書受領の日から1週間以内に、下記の文書を申立人組合に交付するとともに、縦1メートル、横1メートルの大きさの白紙に明瞭に記載し、会社事務所正面玄関の従業員が見えやすい場所に30日間掲示しなければならない。
平成 年 月 日
  スクラムユニオン・ひろしま
   委員長 X1 様
有限会社平成タクシー
代表取締役 Y1
   貴組合高陽分会所属の組合員に対し正当な組合活動を理由として懲戒処分を行ったことや、組合員に対し不当労働行為救済申立ての取下げを求める文書を示したこと、組合員2名の乗務を拒否したことが、広島県労働委員会において、労働組合法第7条第1号及び第3号に該当する不当労働行為であると認定されました。
  今後、このような行為を繰り返さないようにします。
  (注 : 年月日は文書を交付した日を記載すること。)

5 申立人のその余の申立てを棄却する。  
判断の要旨  1 平成22年11月4日に発令された懲戒処分について
 申立人組合は、本件懲戒処分は組合が同年10月に行ったストライキに対する報復であり、不利益取扱い及び支配介入に該当する旨、被申立人会社は、本件ビラ配布行為により会社や商業施設の業務を妨害したこと及び会社の名誉・信用を著しく損ねたことが処分理由である旨それぞれ主張する。
 本件ビラ配布に組合活動としての正当性が認められるならば、本件懲戒処分は反組合的意図をもって行われたものと解するのが相当であるところ、ビラ配布の目的、態様やビラの記載内容等からは社会通念上許容される範囲で行われたものと評価され、正当な組合活動であると認められる。そして、本件懲戒処分は、上記ビラ配布行為のみならず、その後に行われたストライキに対する報復的意図も認められることから、反組合的意図をもって行われた不利益取扱いであると解するのが相当である。
 本件懲戒処分は、不利益取扱いであることに加え、処分理由であるビラ配布の直後ではなく、ストライキの直後に発令されたことその他いくつかの事実から、ビラ配布行為及びその後に行われたストライキに対し、報復する意図をもって行われたことが強く推認される。これに鑑みると、会社は組合活動に対する支配介入の意思を有していたことが認められるから、本件懲戒処分は支配介入に該当する。
2 組合員X2の異動等について
 会社がX2をB班に異動させたのは、前記のストライキが行われた際にタクシーの配車に支障が出たことから、今後そのような事態を回避するためであることが認められ、直ちに不当労働行為意思が推認されるとまではいえない。また、会社が同人の家庭生活等を困難な状態に陥れ、乗務できない状況に追い込もうとする不当な動機又は悪意があったとまでは認められない。したがって、不利益取扱いに該当する不当労働行為とはいえない。
3 組合員との話合いにおける会社部長Y2の言動について
 Y2が組合員らに対し、「不当労働行為の救済申立てを取り下げてもらえませんか?」などと記載された文書を示したことは、会社側からの今後の労使関係の構築に向けた歩み寄りと考えられなくもない。しかし、その後そのような趣旨での話合いや譲歩が行われたことを窺わせる事情もないこと等からすれば、当該文書の提示は専ら救済申立てを取り下げさせ、組合を排除することを目的に行われたものと認めるのが相当であり、組合活動への介入に当たることが明らかである。
4 組合員X3に対する公休日の乗務拒否について
 会社では、以前は公休日でも申し出があれば乗務させるという実態があったものの、労基署等からの指導を受け、公休日は事前に届出をしなければ乗務させないとの取扱いに変更したことが認められる。よって、X3を乗務させなかったことは不利益取扱いとは認められない。
5 平成23年1月15日以降、組合員X3を乗務させなかったことについて
 X3が1月15日に乗務することができなかった原因は、同人が制帽を着用していなかったことについての始末書の提出を拒否したことであるが、同人がそれを拒否したのはY1から1か月後に辞めてもらうといわれたためであり、会社は制帽の不着用に藉口して乗務させなかったと認めるのが相当である。また、同月17日については、Y1が損害保険免責額の自己負担額の引上げへの同意と引換えに乗務を認めようとしたことに起因するものであり、X3に原因があるとはいえない。以上に加え、同月21日にX3が始末書を提出したにもかかわらず、乗務させなかったこと等に照らせば、1月15日以降の乗務拒否に正当な理由は認められず、会社による不利益取扱いであると認められる。
 また、会社は、X3が組合の分会の副分会長であることに着目して不利益を被らせる目的で乗務拒否を行ったと認めるのが相当である。
 したがって、会社がX3を乗務させなかったことは不利益取扱い及び支配介入に該当する不当労働行為である。
6 平成23年1月4日以降の組合員X4に対する乗務拒否について
 会社は、X4が入社後51回にわたり売上金を無断で持ち帰ったこと等を理由に乗務を拒否した旨主張する。しかし、会社は売上金の持帰りを理由に懲戒処分をしたことはなく、また、持ち帰った金額に相当する額を後日同人の給与から天引きして回収していたのであるから、こうした処理方法を黙認していたといえる。他方、Y1がX4に対し、ユニオンを辞めると言えば乗せてやる旨の発言をしていること等に照らせば、本件乗務拒否は同人が組合員であることを理由としてなされたものと認めるのが相当である。したがって、不利益取扱い及び支配介入に該当する不当労働行為である。
7 会社社長Y1の団交欠席及び団交における合意事項の不履行について
 Y1は第1回団交に出席したが途中退席し、第2回以降の団交には出席していない。しかし、団交に出席していたY2に交渉権限が委任されていたことが認められる。
 また、組合は、第9回団交において組合が提示した「有給休暇取得に関する協定書」について後日の協議により合意が成立したにもかかわらず、協定書が締結されていないのは団交に出席していないY1の意向で反故にされるためである旨主張するが、認定した事実によれば、労使双方で協議が尽くされ、合意内容を書面化するだけの状態に至っていたとまでは認められない。
 以上のことから、Y1が団交に出席していないこと等については、不誠実な団交とは認められない。  
掲載文献   

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顛末情報
事件番号/行訴番号 命令区分/判決区分 命令年月日/判決年月日
広島地裁平成24年(行ク)第18号 緊急命令申立の一部認容 平成25年9月4日
広島地裁平成24年(行ウ)第20号 一部取消・却下・棄却 平成25年9月4日
広島高裁平成25年(行コ)第26号 原判決一部取消 平成26年9月10日
広島高裁平成26年(行サ)10号 上告却下 平成26年11月28日
 
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