労働委員会命令データベース

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概要情報
事件名  兵庫県労委平成21年(不)第14号 
事件番号  兵庫県労委平成21年(不)第14号 
申立人  X労働組合、X2(個人) 
被申立人  Y株式会社 
命令年月日  平成24年1月26日 
命令区分  一部救済 
重要度   
事件概要   被申立人会社が①平成20年度冬季賞与について、申立人組合の組合員に対する「収益改善協力金」の支給額を別組合の組合員や未組織従業員よりも低額としたこと等、②平成21年度夏季賞与を別組合の組合員等よりも低額で支給したこと及び③作業中に事故を発生させた申立人X2に対し、譴責処分を行ったこと、並びに④平成21年度春闘等に係る団交における会社の対応は不当労働行為であるとして、救済申立てがあった事件である。
 兵庫県労委は、会社に対し文書手交を命じ、その余の申立てを棄却した。  
命令主文  1 被申立人Y株式会社は、本命令書写し交付の日から7日以内に、下記文言を記載した文書を申立人X労働組合に手交しなければならない。
年 月 日
 X労働組合
  執行委員長 X1 様
Y株式会社
代表取締役 Y1
  Y株式会社が、X労働組合との平成21年度の春闘及び夏季賞与に係る団体交渉に誠実に応じなかった行為は、兵庫県労働委員会において、労働組合法第7条第2号に該当する不当労働行為であると認定されました。
  今後、このような行為を繰り返さないことを誓約します。

2 その余の申立ては棄却する。  
判断の要旨  1 平成20年度冬季賞与の支給について
(1)収益改善協力金について
 申立人組合は、被申立人会社が収益改善協力金の制度を組合に十分に説明することなく導入した上、恣意的な評価を行い、組合員に対する協力金の支給額を別組合の組合員及び未組織従業員よりも低い額とした旨主張する。しかし、認定した事実によれば、協力金に係る従業員の業務上の成果等の評価方法は全体として適正なものと認められ、また、評価項目や評価方法等について会社と組合が協議を行うとの合意があったとは認められない。さらに、実際の業績評価の結果をみても、会社が組合員を恣意的に低く評価しているとまでは認められず、最高額を支給された者の比率が組合員のほうが低くなっていることは、個々の従業員に対する評価を反映した結果であるといえる。
 次に、組合は、組合を脱退した従業員2名が最高額の支給を受けたのは会社が組合脱退を働きかけたことを示すものであると主張するが、両人は脱退の理由として、組合の方針が自分の主張と異なる、組合費が高いなどと述べており、会社の勧奨により脱退したことを認めるに足る疎明はないといわざるを得ない。
 以上のことを総合的に考慮すると、会社が協力金の制度を導入し、業績評価を実施した結果、賞与の支給額について組合員と別組合の組合員及び未組織従業員との間に差を設けたことは、当該業績評価の結果によるものであり、会社が組合の弱体化を意図して制度を導入したとも、組合員に対し差別的取扱いを行ったとも認めることはできず、労組法7条1号及び3号には該当しない。
(2)ワンマン運行協定の改定を条件とした増額支給について
 組合は、会社がワンマン運行協定の改定(一人で乗車し業務を行う車両に係る使用年数・走行距離についての制限を緩和しようとするもの)と引換えに別組合の組合員に対する賞与の支給額を上乗せし、組合員との間に10万円の差を設けたことは、不利益取扱い及び組合の弱体化を企図した支配介入であると主張する。しかし、同協定の改定は、会社の収益改善に資するものであり、その受諾を条件に10万円を上乗せすると提案したことは、冬季賞与と全く関連性のない不合理な条件を付したものとはいえない。また、会社が組合にとって同提案を受諾することが困難であることを見越した上で提案したものであると認めることもできない。したがって、同協定の改定案の受諾を賞与の追加支給の条件としたこと及びこれを受諾した別組合の組合員との間で支給額に差を設けたことは、労組法7条1号及び3号には該当しない。
2 平成21年度夏季賞与について
 組合は、平成21年9月1日、会社と別組合との間の妥結内容を記載した文書が会社から組合事務所にファックス送信されたことについて、会社から賞与についての提案を受けたものではないと主張する。しかし、仮にそれが正式な条件提示ではないとしても、組合は会社と別組合との妥結内容を知り得たのであるから、それに準じて妥結するなり、あるいは独自の提案をするなりして会社に団交を申し入れることもできた状況にあったといえるが、そうしなかったものである。結局、会社が組合員と別組合の組合員との支給額について差を設けたことは、それぞれの労組と会社との交渉要求による差異というべきであり、労組法7条1号には該当しない。
3 組合員X2に対する譴責処分について
 X2は、病院のタンクに液化ガスを充填する際、作業の指示書に加圧弁を閉めるよう明示されていることを認識していながら、弁を閉めなかった。これは会社の業務上の指示に反するものとして非難されるべき所為である。他方、同人が作業を終えた2時間後にタンク内圧力が上昇したが、同人の所為との因果関係は必ずしも明確であるとはいえず、また、実際の被害は発生していない。こうしてみると、X2の所為に対して懲戒処分である譴責処分が相当であるか否かについてはにわかに判断しがたい。
 また、会社は、別組合の組合員が作業手順の失念によって液化ガスの充填作業の際にタンク内圧力が低下する事故を発生させた時には同人に対して懲戒処分を行わなかった。このことは、本件事故への対応と比較して、均衡を失するものと思料される。
 会社は、上記の点について、別組合の組合員による事故は不注意によるものであるのに対し、本件事故はX2の故意によるものであるので、両者を同一には扱えないと主張する。確かに、どちらも重大な事故につながる可能性があったことは否めないものの、非難の度合いに差があるというべきであって、会社の主張も理由なしとしない。
 ところで、会社においては、夏季・冬季賞与等をめぐって会社と組合との間に厳しい主張の対立があり、平成20年10月には組合が当委員会に不当労働行為救済申立てを行っている。しかし、一般に、労使関係が厳しい対立状況にあるとしても、それは会社の経営状況等様々な原因によるものであって、このことをもって直ちに会社が組合に対して嫌悪の情を有しているとはいえない。結局のところ、会社が組合やX2の行う組合活動に対して反感を持ち、そのことを理由に本件処分を行ったと認定するに足りる疎明はないといわざるを得ない。
 以上のことから、本件譴責処分は、会社がX2に対し、組合員であるが故に行った不利益取扱いであるとは認められない。
4 平成21年度春闘以降の団交について
 会社は団交において、会社の財務諸表自体は開示しているものの、その内容を理解するのに必要と思料されるそれ以外の説明資料は示していない。また、親会社の連結貸借対照表等は交渉後1年近く経過してから開示している。
 交渉における会社の説明状況についてみると、春闘に係る団交においては、無理であるとか、できないとかの回答に終始し、夏季賞与に係る団交においても、お金がないからとか、仕事が暇だからといった回答をしているでけである。
 他方、組合の対応については、会社がたとえいくつかの条件を付けたとしても一応経営資料の開示に応じるとしているのに、開示を拒否したものとみなし、結局開示を受けなかったこと等が認められる。
 以上のことから、組合の交渉態度にも問題はあるものの、会社の対応は全体として不誠実な団体交渉態度であると評価せざるを得ず、労組法7条2号に該当すると判断する。  
掲載文献   

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顛末情報
事件番号/行訴番号 命令区分/判決区分 命令年月日/判決年月日
神戸地裁平成24年(行ウ)第54号 棄却 平成26年11月17日
大阪高裁平成26年(行コ)第189号 原判決一部取消 平成27年7月10日
最高裁平成27年(行ツ)第416号・417号、平成27年(行ヒ)第453号・454号 上告棄却・却下・上告不受理 平成28年7月5日
 
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